おたんじょうびおめでとう
新規の評価、ブックマークありがとうございます。
お読み下さっている方々に感謝。
あの後組み手は中断した。もうそんな気分じゃないし、精神的に不安定な状態でやって怪我したくないし。
なんだか気まずくて、あまり話すことができないまま宿に帰宅。夕食はなんだか苦い味がしました。レシピ通りに作ったのにねおかしいね。
「事故なんすよね?」
「…ああ」
「わざとじゃないんすよね?」
「ああ」
「柔らかかったっすか?」
「ああ…………っ!?」
「…」
レイナこの野郎! 謀りおったな!
夕食が終わって食休みしてる間にレイナから話しかけられ、というより詰め寄られて適当に相づちうってたらこの有様である。
そのやりとりを聞いていたアルマは昼の事故を思い出したのかまた顔を赤くして俯いてしまった。あかん、急いでフォローしないと。
「…昼間は本当にごめん」
「……別にいい……」
そう言いながらも胸に手を当てて俯いたままの状態で一瞥すらしてくれない。……もしかして内心すごく怒ってるんだろうか。
…もう今日は寝よう。これ以上はなんか言っても余計に雰囲気が悪くなるだけだ。
レイナへのお仕置きもまた後日にしよう。
「な、なんか悪寒がするっす……風邪かな……」
翌朝には多少ギクシャクしながらもなんとか会話くらいはまともにできるようになったが。事故には気を付けようホント。
朝食を食べているうちに気まずさも大分和らいできたな、良かった。
「か、カジカワさん! なんか自分のスープだけボコボコ沸騰してるんすけど!? 器に入ってるのに!」
「アツアツを召し上がれ」
「無理っす!!」
器の中のスープに魔力をとどめて魔力を熱エネルギーに変換しただけだが、こうしてみるとなかなか禍々しいな。
ちなみに魔力だけだと俺の体から離れた時点ですぐに拡散を始めてしまうのだが、このお仕置きの際に気力と生命力を接続するように一緒に放つと拡散するスピードがかなり遅くなることに気付いた。
こんな些細なことで新しい発見をしてしまうとは、なんでもやってみるもんだな。
「このままじゃ飲みたくても飲めないっすよー!」
「はいはい、ちょっと待て…………あ、やりすぎた」
「今度はカッチカチに凍り付いてるじゃないっすか! どうなってんすかこれ!?」
遠隔操作やエネルギー変換も可能だが、慣れないうちは加減が難しいな。
だがこれをうまく制御できるようになれば、絶対に大きな力になるはずだ。今後も訓練していこう。
それからさらに一週間が経過した。
魔力操作はまだおぼつかないが、気力操作の方はかなり実用的な運用ができるようになってきた。
いまならゴブリンくらいなら楽に仕留めることができるだろう。
そしていよいよ今夜日付が変わったら、レイナは15歳になり晴れて成人となる。
「い、いよいよっすね…」
「不安か?」
「なんかドキドキするっすけど、不安って感じじゃないっす」
「…ワクワク?」
「多分そんな感じっす」
期待している気持ちが大きいのか。
前向きなのはいいことだが、あの職業がどんなものなのかはちゃんと理解してるのかな。いや俺も漫画やゲームなんかのイメージしかないけど。
おっと、あと1分ほどで日付が変わるな。
てかこの世界にも時計があるのが驚きだよホント。しかも一日が24時間なのも同じだし。
「レイナ、テンパって別の職業選んだりしないようにな」
「大丈夫っすよ!…多分」
「多分って」
「いや、だって頭の中に選択肢が浮かぶって言われてもどんな感じかイメージできないんすもん。手元が狂ってうっかり見習いシーフなんか選んじゃったら目も当てられないっす」
「アルマ、職業選ぶときに手元が狂うことなんかあるのか?」
「二回ほど選んだことあるけど、まず無いと思う」
「そ、そうっすか。良かったっす」
「…あと10秒だ。もうなにも思い残すことはないか?」
「なんすかそのまるで今から死ぬような言い方は!? ないっすよなにも!」
そして深夜0時を過ぎ、日付が変わった。
「…………」
「レイナ、どうだ?」
「ちゃんと選べた?」
「……本当に、選択肢があったっす! 本当になれたっす……!」
感無量といった表情で、笑顔を浮かべながら歓喜の言葉を呟いている。
この様子だと、無事職業を選ぶことができたようだ。
レイナミウレ
Lv1
年齢:15
種族:人間
職業:見習い忍者
状態:正常
【能力値】
HP(生命力) :60/60
MP(魔力) :50/50
SP(スタミナ):25/40
STR(筋力) :53
ATK(攻撃力):53
DEF(防御力):50
AGI(素早さ):78
INT(知能) :52
DEX(器用さ):79
PER(感知) :80
RES(抵抗値):45
LUK(幸運値):45
【スキル】
短剣術Lv1 体術Lv1 隠密Lv2 忍術Lv1
新しい職業の選択肢、それは見習い忍者。フジヤマーゲイシャー。
短剣術、隠密、攻撃魔法のスキルを持った未成年だけが選ぶことができるレア職業だ。誰がこんな組み合わせに気付くんだよ。いやまあ魔法使いに憧れてる短剣使いとかだったらワンチャンあるかもしれんが。
あれ? 攻撃魔法スキルが無くなってる? 代わりに忍術ってスキルが追加されとるんだが。
≪【見習い忍者】:自然の力と一体化し、忍び、如何なるものからも認識されずに目的を果たすための職業。レベルが上がるにつれ、忍者固有のパッシブ効果を得ることができる。あくまで自然の力を操る準備のためのスキルのため、見習い忍者を選んだ時点で攻撃魔法スキルは消去される≫
……その理屈はちょっと苦しくないですかね? いや別にいいけどさ。
能力値もLv1にしては随分と高めだな。特に感知と器用さと素早さがずば抜けて高い。
「攻撃魔法スキルが無くなっちゃったのがなんとなく分かったっすけど、代わりに別のスキルを獲得したのを感じとれたっす」
「【忍術】スキルだな。忍者にしか使えないすごく珍しいスキルみたいだ。なんでも自然と一体化するためのスキルだとかなんとか」
「早く試してみたいっす!」
「今日はもう遅いから、いや早すぎるから一回寝てからにしなさい」
「むぅ、残念っす」
「ああ、そうそう。…………誕生日、おめでとうレイナ」
「おめでとう、レイナ」
「あ、ありがとう、っす。……お二人には命を助けられて、綺麗な服や美味しい食べ物を与えてもらって、職業の選択肢まで新たに選べるようになって、感謝の気持ちでいっぱいっす……! うぅ……ふえぇ……!」
「…苦労してきて、それが報われると嬉しいよね。その気持ち、よく分かる」
アルマも見習いパラディンだったころは不遇職とか言われてたしなぁ。
感極まって泣き出してしまったレイナの頭を撫でながら慈愛に満ちた表情で優しく語りかけている。尊みがやばい…。
明日、いや今日の晩御飯は誕生日と成人祝いにできる限り豪華にしてあげようか。
レイナのこれからの活躍に期待しよう。
そして、朝。
緊急避難警報だかなんだかの音で叩き起こされました。何が起きたし。
お読み頂きありがとうございます。




