Π touch!
気が付けばブックマーク数が200件を突破しておりました。誠に感謝です。
どうかこれからも暇つぶしにでもお読み頂ければ幸いです。
今回、最初はレイナ視点でコロコロ視点が変わっていきます。
ズガガガガガガッ!
キュインッ! ギンッ! ガギィン! ズギャッ!
火花を散らす剣撃の音が洞窟の中に絶え間なく響いている。
……なんすかこれは。いやなにこれ。
物凄い速さで、というかもう目で追えないスピードで剣を振るうアルマさん。普通の人がこんなの相手にしたらとっくにバラバラ通り越してミンチになってそうっす。これ組み手なんすけど。殺し合いじゃないんすけど。もうちょっと容赦と言うか手心とかあってもいいと思うんすけど。
そしてその攻撃を当たり前のように防ぎきるカジカワさん。しかも素手で。なんで怪我しないのか、というか剣を防ぐ度に金属音が鳴ってるんすけど、カジカワさんってゴーレムかなんかっすか?
どっちも自分と同じ人間とは思えないっす。
「おいおい! しょっぱなから魔法剣は勘弁してくれ! 最初から本気出し過ぎだろ!」
「そんなこと言って、軽々と防いでる! まだ余裕そうだから速度を上げる!」
「待て待て待て! もういっぱいいっぱいだって!」
…そう言うとアルマさんの身体が淡い光を放ち始めて、さらに速度が上がった。
目で追えないどころかもう動きがほとんど見えないっす。剣を振るっているのかどうかも分からないくらいに。
…で、いっぱいいっぱいとか言いながらその速さにすら対応できてるカジカワさんは本当になんなんすか。スキルが使えないとか言ってたけど、そうはとても思えないっす。というかスキルが使えたとしてもあんな速さに対応できる人そうそういないと思うっす。
自分は、本当にこの二人のように強くなれるんすかね? 正直自信がないんすけど…。
~~~~~アルマ視点~~~~~
ヒカルが常識破りなのは充分に分かっているつもりだった。
空を飛んだり、スキルもなくハイケイブベアの頭を自己流の技で粉々に砕いたり、気力を使って弾いただけで石を粉に変えるほどの威力まで指の力を強化したりとか。
言葉にするだけじゃ意味が分からないことばかりしてる。実際に見ても訳が分からないけど…。
それでも、今の私が本気を出せば一撃入れるくらいはできると思っていたけど、強化している暴風剣と気功纏の合わせ技すらものともせず防いでいる。
もう近接戦闘じゃ明らかにヒカルに劣ってしまっている。こっちは小さいころから稽古をしてもらっているのに、戦いを始めたのが2カ月前のヒカルに負けている。
能力値はわずかにヒカルの方が上だったけど、スキルを使えば十二分に埋められる差。そのはずなのに、スキルで強化してようやく5分、ううん、ややこっちが不利。
やっぱりステータスに表示されている数値にヒカル本来の力が加えられているんだ。おそらく能力値にして100くらい向こうの方が強い。
悔しいと感じる気持ちより、どんどん強くなっていくヒカルに置いていかれてしまうのが怖い。
このままじゃ、駄目。ヒカルの足手まといになりたくない。もっと、もっと強く剣を振るわないと。
「アルマ、何を焦ってるんだ?」
「…!」
こちらの速さにもう慣れたのか、余裕を感じさせる声でヒカルが話しかけてきた。
「今のアルマは、さっき愚直にアルマを追いかけ回していたレイナとやっていることが同じだぞ。いくら速さや攻撃力を上げてもその分こっちも強化すれば問題なくさばける」
こちらの思考を見透かすように言葉を続けている。
「アルマの武器は、魔法剣と剣術と体術だけか? 攻め方は他にいくらでもあるだろ、いいから試してみなよ。……あ、別に疲れてきたからこんなこと言ってるわけじゃないからな? ホントホント。…………あーしんどい…」
…よく見ると息が上がってきてるみたいに見えるのは気のせいだろうか。
それはともかく、ヒカルの言っていることは確かにその通りだと思う。
能力値やスキルのレベルの高さだけが強さじゃない。それは目安の一つに過ぎない。
それをどう活かすことができるのか、というのが強さの基準なのかもしれない。
…もう自分とヒカルをステータスとかいう単純な物差しで測るのはやめよう。私には私にしかできないことがあるはずだ。
そのことに気付かせてくれたヒカルに感謝を込めて、私なりに精一杯の『強さ』で応えよう。
いくよ、ヒカル。
~~~~~ヒカル視点~~~~~
アカンアカンアカン!!
なんでこんな本気で襲い掛かってきてるのこの子!? 死んじゃう! 死んじゃうから!
滅茶苦茶な速さで剣をこっちに振るってきたアルマを止めるために、適当なこと言って別の攻め方をさせようとしたらもっとしんどくなったでござる。どうしてこうなった!
でもあのままやりあってたらこっちの方が先にバテてただろうし、何かしらのアクションを起こす必要があったんだよなー。ホントこの子強すぎでしょ。
で、その結果こちらが動くたびに精霊魔法による地形操作で的確に動きを妨害してくるようになった。
後ろに下がろうとすれば壁を作って行き止まり。側面に回り込もうとしたら泥状になった足場に滑ってうまく踏み込めない。
剣による攻撃を待ち構えていると地面から岩の槍が飛び出してきて、避けた所にファイアーボールをマシンガンのように撃ってくる始末。容赦がまるでねえ!
ってファイアーボールを魔力を纏った両手でさばいてる最中に斬り込んできたよ! このコンボ極悪すぎだろ! このままじゃモロに喰らっちまう。……仕方ない、切り札の新技使うか!
ダァンッ!! ギィンッ!!
「っ!?」
アルマが袈裟斬りコースで斬りかかってきて、避け切れず刃が俺に触れる直前に甲高い金属音を立てて剣が弾かれた。
剣を弾かれたアルマは目を見開いて驚いている。確実に捉えたと思ったのに剣が弾かれて困惑しているようだ。
タネは簡単。攻撃に合わせて魔力パイルバンカーの要領で硬質化した魔力を勢いよく突き出しただけだ。
今まではイメージしやすいから掌からパイルや魔刃改やドリルなんかを使っていたが、よく考えたら別に掌に拘る必要はない。
そのため、どんな方向から体のどこに攻撃されてもそれを認識できていれば、こんな風にカウンター気味に相手の攻撃を弾いて相手に大きな隙を作ることができる。
イメージとしては格ゲーのブロッキングとかに近いかな。あるいは某悪魔も泣き出す赤い悪魔の防御主体スタイルとか。…元ネタ知らん人からするとこの例えかえって分かり辛いか。
弾かれた剣はアルマの手から離れて壁に突き刺さってしまった。最近剣がよくすっぽ抜けるね君。
って危ない、体勢を崩してさっき避けた岩の槍の方に倒れそうになってる!
咄嗟に手で体を支えて倒れるのを止めたが
ムニッ
「?!!!?!」
「あ、カジカワさんパイタッチしたっす!」
…はい、やらかしました。脳内ゴースト案件ですね。紛れもなく事案。通報も止む無し。
いやちょっと待ってほしいだってあの状態でセクハラになるとか考えてる余裕なんか無いしとにかく急いで身体を支えないといけなかったからであって決して故意に胸を触ったわけでは
よし、謝ろう。そして2、3発くらい大人しく殴られよう。
「ご、ごめん! いやわざとじゃないんだ! ただ支えようと咄嗟に!」
「う、うん。………大丈夫、気にして、ない」
弁明する俺に顔を真っ赤にして言葉を返してくれたが、言い方がなんかぎこちない。絶対気にしてるわこれ。
後ろの方ではレイナがなんか笑いを堪えるように顔を逸らして肩を震わせている。…今日の晩御飯は熊肉かな。
超気まずい。今日はもう組み手どころじゃなさそうだ。どうしてこうなった。どうしてこうなった!
お読み頂きありがとうございます。




