ようこそ、こっちの世界へ…
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今日のところは俺との組み手を数時間ほどやって終了。
合間に休憩がてら気力補給のために食事しながらやってたが、それでも気力操作を交えて組み手をしているのでSPの最大値が低いレイナはすぐにスタミナ切れになってしまう。
「ううう……お腹が空いてるのにお腹が張ってて気持ち悪いっす……はっ、これが食べづわりという奴っすか!?」
「タチの悪い冗談はやめろ。ふむ、スタミナが減ってて胃の中が満タンだったらそうなるのか。ある程度時間が経過したら胃の中のモノが消化吸収されてじわじわ回復するみたいだから我慢しなさい」
……あれ? そうなると俺の腹ってどうなってんだ?
こないだ30皿以上飯を食っても腹が膨らんだりしなかったし、なにより食った直後にSPが回復してたんだが。まるで飲み込んだ瞬間に飯を消化吸収したみたいに。…なんか某グルメマンガの青髪の主人公みたいだな。あんな人間離れしてないつもりだけど。
…異次元胃袋ってのは案外的を射た表現かも知れない。我ながら自分の胃が怖くなってきた…。
で、次の日。
午前中は気力操作で何ができるかを三人それぞれで試してみる。
レイナは少ないスタミナを燃費良く運用するために、瞬間的に必要な時だけ気力による強化をすることで消費を最小限に、効果は最大限に活かすようにしている。
うんうん、その使い方は俺も見習うべきだな。あんまスタミナ消費すると食費がバカにならんし。
アルマは基本的な使い方は習得できたようなので、今度は気力操作によるスキルのアレンジを試しているようだ。俺、スキル使えないから参考にならないんですけど。
アレンジするのはSPを消費する【体術】スキルのようだ。
Lv1【ハイジャンプ】そのまんま。普通に飛ぶより高く跳ぶことができる技能で、着地するまで足の強度が強化されてるから骨折したりもしない。強化すればより高く飛べる。極めてシンプルだな。
Lv2【順風耳】聴力を強化する技能。俺の使う聴力強化とほぼ同じ。強化しすぎると周りのあらゆる音が大音量で聞こえるようになってかえって何も聞こえなくなるから注意が必要らしい。……耳大丈夫? あ、やっぱ痛いよねうん。その気持ち分かるよ。
Lv3【クイックステップ】短距離を高速で移動し、攻撃を回避したりするための技能。縮地ほど速くないし、移動できる距離もそんなにないけどアレンジすれば問題なし。ただ距離と速度を両方強化するとかなり気力消費が激しいので注意が必要。
Lv4【気功纏】幸運値以外の能力値を底上げする技能。スタンピードの際にラスフィーンやウェアウルフが使っていたな、ちょっと懐かしい。気力操作による強化と違って抵抗値まで上昇してるのはなんでだろう。身体のどこをどう強化すればいいのかアルマにもイマイチ分からないようだ。残念。
Lv5【エアステップ】跳躍した後、気力と魔力を消費して空中に足場を作って跳ぶ技能で、いわゆる二段ジャンプ。空中で使えるのは一度の跳躍に一回が限度。何回も空中で跳べるようにアレンジしようとしたが、2回目の足場を作ることがどうしてもできないらしい。やっぱ高レベルの技能はアレンジの難易度も上がっていくのかね。
体術スキルを使えるアルマとレイナには大きな力になるだろう。俺は使えないけど。俺は使えないけど。大事なことなので2回言いました。
俺の方は気力を使って集中的に身体を強化するのを試してみることに。
全身を強化するイメージから、右腕にその力を集中、さらに掌に範囲を縮め、最終的に中指にその全気力を集中させて強化。
もう何がどう強化されているかよく分からんが、右手の中指に凄まじい力が集中されているのが分かる。
試しに洞窟の壁を中指でなぞってみると、まるでショートケーキの上のホイップクリームを指ですくうように簡単にめり込んだ。
ちょっと書き辛いけどそのまま壁に落書きとかできるくらい容易く引っ搔けるな。戦闘時には相手の装備の破壊とかに便利そうだ。
あと、なんとなくその辺に落ちてた拳大の石を拾い、軽く上に放ったあと強化した指でデコピンしてみた。
パンッ!
………デコピンが当たった石はサラサラと粉状になって消えてしまった。
遠くに飛ぶか、あるいは砕けるかのどっちかかと思ったら粉になった。なにこれこわい。最近こればっかや。
それを見ていたレイナが顔を青くし、アルマはいつものように顔を引きつらせていた。
「すいませんもう急所は狙わないからそれを自分の頭に向かって使うのは勘弁してください死んじゃう絶対死んじゃうっすごめんなさいごめんなさいゴメンナサイ」
「……ヒカル、それ絶対人に使っちゃダメ。首から上が無くなる」
「使う予定はないよ。………きっと」
「「きっと!?」」
相手が悪くて、イラっとしたらつい使ってしまうかもしれない。…いやさすがに冗談だ。
俺だって目の前でそんなスプラッタな光景展開したくない。え? 熊公の頭はどうなんだって? アーアーキコエナーイ。
二人にも試してみるよう促したがすごく嫌そうな顔で拒否された。…何故だ。
「さすがカジカワさん、こっちの予想や発想を軽足で超えてくるっすね…」
「ヒカルが常識を無視するのはいつものこと。そのうち慣れる」
「君達言いたい放題言ってるけど、二人も普通の人から見たらもう充分常識から外れてるからな」
「そ、そんなこと…」
「……否定できない自分が怖い」
「ようこそ、こっち側へ」
「こっち側ってなんすか!? 人を勝手に変態の道に引きずり込まないでくださいっす!」
強化した指で空中をデコピンしてみるとバチィン! バチィンッ! と派手な音が鳴った。
こんな銃声みたいなスナップ聞いたことない。
「誰が変態だって?」
「すいません言葉のあやっす」
よろしい。
さて、気力操作の修行も一段落着いたし昼食にするか。
昼食が済んだ後、今日はアルマとレイナで組み手をすることに。
アルマは木剣、レイナは木短剣を装備させている。ステータスに差があるとはいえさすがに普段使いのナイフを使うのは危ない。俺なら魔力で防御できるから問題ないんだが。
レイナはとにかく懐に入ってリーチの不利をなくし、逆に剣が有効に使えないように立ち回ろうとしている。
それに対してアルマはレイナが踏み込んだ分だけ引いて剣が届いて短剣が届かない距離を維持し続けている。
「むがーっ! なかなか踏み込めないっすー!」
「焦らないで。直線的に距離を詰めようとしてもその分後ろに引かれてイタチごっこになるだけ。相手を壁際に追い詰めるように立ち回ったり、逆に自分から引いてみて様子を見たりするのも手のひとつ」
「あと相手を挑発して攻撃を誘発させて、全力でその攻撃を避けて隙を作って攻撃するとか」
「口で言うのは簡単っすけど、やってみるのは超難しいんすけど!」
「ええと例えば、レイナどこもかしこもちっちゃいし、明日の昼食はお子様ランチでいいかなー」
「だ・れ・が・挑発のレクチャーをしてほしいなんて言ったっすか!! 普通に失礼なだけっすよそれ!」
「うわ、短剣投げんなよ! 危ないだろ! てかこれ熊牙の方の短剣じゃねーか!」
などと愉快なやりとりをしながら今日も今日とて修業中。え、レイナにとっては不愉快だって? せやな。
で、レイナがダウンしたところでお開きにしようとしたが、アルマがこちらを見ながら口を開いた。
「まだ余裕があるし、ヒカルとも組み手をしてみたい」
「……いいよ。普段使ってる方の剣を使いなよ」
「怪我しない? 成人前のレイナ相手とは違うから危ないよ」
「全力で防御するさ。でも生命力がごっそり減ったりしたらそこでやめておいてくれ。正直防ぎきれるか自信が無い」
…………そういえば、アルマと戦り合うのは初めてだな。
手加減できる相手じゃないな。もしかしたら今までで一番の強敵かも知れない。
さーて、怪我しないように、させないように全力で挑みますかね。
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