急所はやめろとあれほど(ry
あれから数分ばかし走り続け、レイナが追いつかれる前に熊公を撃退して一息ついたところで昼食タイム。
レイナは泣きながら昼食のカツサンドを食べている。そんなに美味いかー嬉しいなー。
「グスッ、いや、めっちゃ美味しいっすけど! 泣いてる理由はそれじゃないっすよ!」
「…ヒカル、いくらなんでも酷過ぎる」
「すみませんでした…」
即土下座。プライド? ない。そんなものはない。
それよりアルマがキレかかってるのがヤバい。ちょっと意地悪し過ぎた。
いや、アルマも骨は拾ってやるとか言ってたけど、本当にハイケイブベアと鬼ごっこさせるとはおもっていなかったみたいだな。まあ普通に考えて当たり前か…。
「大体、なんすか!? 必死に逃げて、でも気力が尽きかかってもう駄目だーって思ったらいきなりズガァンって音がして熊の頭が弾け飛んだんすけど!」
「落ち着け。こないだまで火力不足で正攻法じゃ倒せなかったけど、新技編み出したら割とヤバい威力に仕上がって、そいつを使っただけだ」
「割とヤバいってなんすか!?………もういいっす、意地悪のお詫びにお代わりを要求するっす」
「はいどうぞ。パンの中の肉は揚げたてだから火傷しないようにな」
「わあ美味しそう、っていやなんで調理もしてないのに揚げたてのお肉があるんすか? てか今どっから出したんすか!? 手の中に突然現れたように見えたんすけど!」
「そういえば前に俺の胃はアイテムバッグかなんかかって言ってたっけな。胃じゃなくて俺自身がアイテムバッグみたいな機能を使えるんだ。しかも収納無制限で、中に入れたものは時間が経過しない。便利だろ?」
「………もうそれだけで反則級にすごいんすけど、それってスキルじゃないんすか?」
「違うっぽい。ステータスのスキル欄は未だに取得不可って表示されてるし」
「…はっ、もしかして大食い大会の時にその機能を使って優勝したんすか?」
「そんな卑怯な真似はしません。ちゃんと全部自分で食べました」
「ああそれなら、ってそっちの方がおかしいっすよ………いったい何人前食べたんすかあの時」
「レイナ、ヒカルはもうなんでもありだって思えば大体納得できる気がしないでもないから、そう考えたほうが気が楽。深く考えても疲れるだけ」
「もうそれ完全に理解すること諦めてるじゃないっすか…」
理解しがたい技や機能ばかり持ってるのは自覚してるけど、そこまで言わんでも。
「まあそれはさておき」
「あ、露骨に話題逸らしたっす」
ジト目でツッコミを入れてくるレイナ。
だってあのままダラダラ話してたら俺がいかに非常識かって話題で軽く数時間くらい話しそうだったやん…。
「…気力操作を習得して、次は魔力操作といきたいところだが今日のところは軽く組み手をして一旦やめておこう」
「え、なんで?」
「まずは気力操作に実戦で使えるぐらいまで慣れてもらう。魔力操作は実戦で使えるようになるまでには少し時間がかかるだろうし、気力操作なら短期間でも護身術程度の運用はできるようになると思う」
「逃げられなかった時の最終手段ということなの?」
「まあな。戦闘職の人間相手じゃ心もとないだろうけど、ないよりましだろ?」
「最終手段を使う日が来なけりゃいいっすけど…」
俺もそう思う。少なくとも成人した後、見習い卒業するぐらいまでは対人戦は控えてほしい。
弱い魔獣相手ならともかく、人間相手は勝手が違う。魔族なんて論外だ。
まあ俺も言うほど対人戦なんかしたことないけど。ダなんとかの仲間とかデブ貴族の護衛のスキルの育ってない二人くらいしかない。…あれ? 俺じゃ対人戦で教えられることなんかなくね?
…まともな護身術を身に着けたいならギルドのベテラン辺りに頼むべきだろうが、それじゃあ常人並みの護身術しか習得できない。ある程度成長したら習ってみるのもアリだとは思うが。
仮に対人戦になった場合に格上相手に使える手札が欲しいし。現時点でレイナが持っている手札はレベルの低いスキルと気力操作くらいだ。
あとハイケイブベアの牙で作った短剣。攻撃力がアルマのミスリル刃の鋼鉄の剣と同等って強すぎでしょ。そろそろアルマの武器もアップグレードするべきなのかねぇ。でも資金がなー。
食休みが済んだ後、手始めに俺と組み手をしてみることに。
組み手と言っても、技を一つ一つ確認するような本格的なものではなく、ほとんど喧嘩ごっこみたいなもんだが。
レイナには短剣を装備させて、俺は素手。正直怖いが、全身に魔力の緩衝材を纏わせてる上に外付けHPがあるから怪我はしないだろうけど。
あと俺がレイナに攻撃する時も柔らかめの魔力を纏わせておくので痛みやダメージはほとんどないはず。
アルマとの組み手の際は木剣を使ってお互い傷付かないようにしてもらう予定だ。万が一怪我しても俺が治せるから多分大丈夫だろう。
ぺしっ ぱしっ
「カジカワさん、なんかアドバイスとかないんすか?」
「アドバイスって言ってもな、俺拳法家でも短剣術使いでもないし、習うより慣れろとしか」
びしっ ばしっ
「さっきからこっちが攻撃当てても手応えないし、むしろ時々何故か弾かれてるような気がするんすけど」
「あまりにも分かりやすすぎる攻撃は魔力で弾き返すようにしてる。チャンスだと思っても愚直に攻撃するだけじゃ防がれるだけだと思うし、フェイントを混ぜたりここぞという時に気力操作で素早く強力な一撃を当てるとかなんなりと工夫しないと」
「そうっすか早速スキありぃっ!」
ゴスッ!! ビシィッ!!
「あいたあああああっ!!?」
「あと、魔力で守られてて効かないからって金的を狙ってきたら問答無用で魔力のクッション無しのデコピンを喰らわせます。………てかマジでやめろ、怖いから。多分まともに喰らったらHPごっそり無くなっちまうから」
「い、痛いっす……デコピンの威力じゃないっすよこれ…」
「これでも大分手加減した。金的狙う度に威力上げていくからそう思え」
「今後は控えるっす……」
基本的に痛くないし、怪我もしないし大分甘々な修業だが最初はこんなもんでいいでしょ。
…まあそのうち痛みを伴う修業も必要になってくるだろうが。レイナも、アルマも、俺も。
やだなぁ。でも実戦だと痛いのが当たり前だしなぁ。我慢するかー。あーやだやだ。
お読み頂きありがとうございます。




