カジカワ先生の愉快な気力操作講座
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レイナに俺たちのことをかいつまんで話した。
ダイジェルでしばらく活動していて、スタンピードに巻き込まれたりしたとかデブ貴族ぶん殴って面倒なことになる前にこの街に逃げてきたこととか。
あと俺が異世界から来た人間だということ、スキルが一切使えないこと、でも代わりに魔力、生命力、気力を直接操れることなんかも全て話した。
「…正直信じられない話ばっかりなのに、カジカワさんのことだと言われるとなんか真実味があるっすね」
「あと、さっき話したスタンピードの時の飛行士って言うのは俺だ。魔力操作やってるうちになんか空飛べるようになったから正体隠して参加させられました」
「なんか空飛べるようになったってなんすか!? さすがにそれは信じられな………!?」
レイナの目の前で、寝そべったまま宙に浮いてみせた。
胡坐かいた状態だったらどっかの尊師みたいに見えるだろうな。
「…まぁこんな有様だ。まだ信じられないならどっか広くて人目のない場所で飛び回ろうか?」
「えええええ……………どうなってるんすかそれ、カジカワさんが常識破りなのはもう嫌と言うほど分かってるつもりっすけどさすがにそれはちょっと…」
「うん、もう意味が分からないよね。私も初めて見た時はもう笑うしかなかった」
アルマの初笑いってその時だったのか。パーティ結成時の時とばかり思ってた。
…なんだこの絶妙に残念な気持ちは。
「ブレイドウィング倒した時だっけ、懐かしいなぁ。今ならあの状況になってもスパークウルフの角無しでも楽勝だろうな。いや思い出話はまた今度だ。で、空飛べるようになれとまでは言わんから、レイナには自衛ができるように魔力と気力の直接操作を習得してもらう」
「…へ?」
「修業はまだ終わっていないってことだ。職業を選ぶためのスキルはもう十分だが、肝心の戦闘能力が弱すぎる。成人前だから仕方ないんだろうけど今のままトラブルに巻き込まれたりしたら危ない。成人しても始めのころのステータスは今と大差ないしな。なら多少反則をしてでも自衛のための力を早く身に着けてもらわなきゃならん」
「ヒカル、実戦経験のないまま大きな力を身に着けても、本当に強くなったとは言えない」
「だな。だからそれらの修業に加えて俺やアルマと組み手の修業もしてもらう。今までの修業よりずっとハードだが、耐えられるか?」
「耐えられないと、生きていけないんすよね。なら選択肢は『はい』としか言えないっすよ」
「よく分かってるじゃないか。というわけで、明日から死なない気で頑張りましょーおー」
「おー」
「なんすかそのテンションは。てか死なない気って、死ぬ気でじゃないんすか?」
「死ぬ気でやりたいなら別にかまわんが、気力操作の方は加減を間違えるとマジで死ぬからほどほどにしといたほうがいいと思うぞ」
「思ったより死が身近な修業なんすね!? なんか急に怖くなってきたっす!」
魔力操作はMPがゼロになっても意識を失うだけで済むし、魔力を補充してやればすぐに回復する。
だが気力操作は気力が尽きた時から飢餓状態に陥り、徐々にHPが減少していき長時間その状態が続くと死に至る。
まあそう簡単に気力は尽きるようなもんじゃないけどな。気力が10以下になると自然に減少するスピードが極端に遅くなるのでそうそう簡単に餓死したりはしない。
ただ気力を使うスキルのコストは変わらないから、気力が少ない状態でのスキルの使用は慎重にしなければならないらしいが。
まあその辺の注意も修業中にすればいいか。今日はもう休もう。
で、次の日。
現在、魔獣洞窟の比較的魔獣が少ないエリアで、アルマとレイナの手を繋いで二人の気力操作の修業を手伝っています。見た目円陣組んでるみたいでなんかシュール。
魔力操作に比べて気力操作の方は比較的習得が容易だと思う。
魔力操作は割とシビアな、というか身体を動かすように明確に操作をするイメージが必要だが、気力操作は割となあなあな操作で大丈夫みたいだ。
いやまあ魔力や生命力の操作も割といい加減な運用してるけどさ。深く考えすぎるとかえって操作がおぼつかなくなるからこれでいいんだろうけど。
「ん、大体操作の仕方分かった」
「はやっ! まだ自分全然上手く操れないんすけど!?」
「アルマは魔力操作を習得済みだからな。気力操作も近い要領でできるから、レイナに比べて早くできてもおかしくないさ」
「この調子で、生命力の操作も習得したい」
「ダメ。あれ俺以外の人が使うと寿命が縮むらしいから」
「!?…何度か使ってるみたいだけどヒカルは大丈夫なの!?」
「ああ。俺はステータスに表示されてる生命力が体と連動してないからHPが減っても痛くもかゆくもないよ。でも仮に俺以外の人が生命力を操作して傷を治したりしたら、痛みを感じない刃物で体中の肉を抉ってその分傷を治すようなもんだから、絶対どこかで体にガタが来る」
「HPが減っても問題ないって、やっぱカジカワさんはおかしなことばっかりっすねー……」
まあ生命探知に使うぐらいなら問題ないだろうが、それでも教えるにはリスクが高すぎるしやめておこう。
アルマの方は回復魔法を覚えることができたら、生命力操作なんか無理に覚える必要ないだろうしな。
「魔力操作より気力操作を優先して覚えたほうがいいのはなんでっすか?」
「あー、魔力操作は気力操作に比べてちょっと難しいんだ。あと今のレイナの魔力量じゃできることがちょっと少ないし、それに比べて気力操作は一時的にとはいえ少ないコストでかなり能力値を上昇させることができるから、ヤバそうな相手から逃げるのには有効だと思うからだよ」
「逃げること前提っすか…」
「少なくとも成人するまではまともに戦おうとなんて思うな。正直に言って今のレイナじゃLv1のゴブリンといい勝負だ。複数のゴブリンに囲まれたらそれだけでもうヤバいぞ。めっちゃ怖いんだぞマジで」
「カジカワさん、囲まれたことあるんすか?」
「うん、超怖かった。今でもトラウマだわあれ。アルマが助けてくれなきゃあん時死んでただろうな、あの時点だと能力値全部ゼロだったし」
「それでどうしてゴブリンを殴り倒せるのか、あの時は物凄く不思議だった」
「自分はカジカワさんの今が不思議でたまらないっす……」
「人を化け物か変人みたいに言うのはやめなさい」
「違うんすか?」
「あー、奥の方にハイケイブベアが3頭ばかしいるみたいだが、気力操作の修業の一環でそいつらから逃げてみるか? 危機的状況に陥れば習得も早くできるだろ多分」
「ごめんなさいごめんなさい!!」
益体のない会話をしながら修業…修業?を進めているが、習得できるのはいつごろなのかね。
魔力操作はまだしも、気力操作は早めに習得させておくべきだろう。習得があまりにも遅い場合はちょっとスパルタでいくことも考えよう。
「あ、ハイケイブベアが一体こっちに近付いてるっぽい。こりゃ気力操作習得しないと逃げ切れないだろうなーどうしようかなー」
「ひいぃ!? もう熊と追いかけっこは嫌っすー!!」
絶叫しながら全速力、否、それすら超えた勢いで爆走するレイナ。はっや。
っておお? 悲鳴を上げながらも気力で身体強化できてるじゃないか。この子も中々見どころあるな。
「そうそう、そのまま強化を維持して走り続けろー途中で足止めたら死ぬぞー食われて死ぬぞー」
「嫌あああああ!! そうなる前に助けてくださいっすー!!」
「レイナ頑張って、力尽きても骨は拾う」
「アルマさんまで悪ノリしないでくださいっす!!」
「ハハハ愉快だなー平和だなー」
よしよし、思ったより早く気力操作は習得できたな。
あとは魔力操作か。まあこっちはぼちぼち教えればいいか。
さて、気力を消費して腹減っただろうし熊公をなんとかしたらお昼ご飯にしますか。
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