Congratulations…!
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お読み下さっている方々に感謝。
「ヒカル、お腹大丈夫…?」
「だから、大丈夫だって。あと2、3皿は食べる余裕があるくらいだよ」
「なんすかその異次元胃袋は…………カジカワさんのお腹はアイテムバッグかなんかっすか?」
なんかさっきの大会のせいで無駄に大食い属性が追加されちまったな。
まあ普段の食事は普通の量で問題ないんだが。
さて、後は晩御飯の材料を買って帰るだけだがまだ大分時間に余裕があるな。
買い物が済んだらちょっと腹ごなしでもするかな。
ヴィンフィートの冒険者ギルドの訓練場に来て、ちょっと気力操作の練習をしてみることに。
筋力強化のためのダンベルみたいな重りや剣術や弓術の的、魔法を使うためのスペースなど戦闘職の人間が訓練するための設備が用意されている。
ビギナーや駆け出しの人間が訓練するための施設で、本来俺やアルマもここで訓練するべきなんだろうが魔力操作を交えての修業はここじゃちょっとな。
まあ今日はあまり人が居ないし、魔力操作みたいに派手な修業するわけじゃないから問題ないだろう。わざわざ魔獣のテリトリーまで今から行くのメンドイし。
まず筋力強化。これはイメージしやすいし効果が分かりやすい。
素の状態だと結構重く感じるダンベルも気力を腕の筋肉に集中させるだけで軽々持ち上げられるようになった。それでも重量はあるから持ち上げてる間ちょっと体のバランスを崩しかけたが。
腕だけじゃなくて全身の筋肉に気力を集中させると、バランスよく力が扱えるようになりよろめいたりすることはなくなった。まあその分気力の消費も激しいようだが。
あと、その間能力値を確認してみると筋力、攻撃力、防御力、素早さ、器用さにプラス補正がかかっていた。どの能力が強化されているのか確認できるのはいいね。
頭の中、つまり脳に集中すると魔力や生命力同様周りの人間の気力を感じとれるようになったが、正直他二つの反応が分かれば気力感知はあまり意味がない気がする。
体術スキルみたいにスタミナを消費する技能の前兆なんかを感じとることができるかもしれないから、まったく無駄と言うわけじゃないけど。
気力を頭に集中している間、能力値の知能と感知の値にプラス補正がかかっていた。筋力とかと違って何がどう変わったのかイマイチ分かり辛いが。
抵抗値と幸運値は身体のどこに集中すれば上げられるのかよく分からなかった。要検証。
魔力や生命力同様、他人への譲渡も試してみたがどうも気力そのものを譲渡するのは無理っぽい。
まあカロリーとか栄養素をそのまま分け与えるようなもんだし、どうしても物理的な問題があるんだろう。ぼくのあたまをおたべよ的なことをしないと無理だなこりゃ。なにそれグロい。
ただ、気力操作で他人の筋力を強化することは一応できるみたいだ。気力そのものを与えるのは無理でも気力由来の力は別ってことか。
ちょっとアルマの筋力を強化してから30kgくらいのダンベルを持ち上げてもらった。
「……軽い。まるで細い木の枝でも持ってるみたい」
「片手で軽々持ち上げてるな、成功だ………危ないから振り回すのはやめなさい」
「ブンブン振り回してるっすけどそれホントに重いんすか? ちょっと持ってみても……って重っ!? こ、こんなのどうやったら片手で振り回せるんすか!?」
「レイナも強化してみようか? ちょっと手に触れるぞ」
「え? う、うわわわわ?! なんか体に流れ込んできてるっす! なんすかこれ!?……ってあれ?さっきまであんなに重かったのに、今じゃ楽チンっす! すっごい軽いっす!」
ふむ、成人前の人間も問題なく強化できるようだ。
こうしてアルマやレイナみたいな少女が軽々と重いダンベルを振り回してるのを見るとなんだかシュールだ。
まあそんなに他人の強化は長続きしないんだが。徐々に強化は弱まっていくし、SPを10~20程度使ったぐらいじゃ数分で効果が切れる。
現段階じゃ基本的に自分の強化にだけ使うのがベストかな。でないとすぐにSPが切れちまう。
「これって、補助魔法ってやつなんすか? 強化されるとこんな感じなんすねー」
「まあそんなところだ」
レイナが成人した時ぐらいに本当のことを伝えよう。
ここで下手なこと言うのも危険だし。
「…コツを掴めば私にもできるかな?」
「多分な。使い過ぎるとすぐバテるからそこは気を付けてね」
気力操作の検証はとりあえずこんなところかな。
能力値の強化以外にも使い道があるかもしれないけど、現状じゃ検証する方法が無いし。
なんとなくどんなことができるのかは察しがついてるんだが、身内に試すにはちと、な。
せっかくなので、ついでにレイナの魔法の試し撃ちもやらせてみることに。
いつも穴の中に撃たせてばっかだし、たまには別のものを撃たせるのもいいだろう。
魔法使用スペースに的代わりに小瓶を置いて遠くから撃たせてみることに。
「いつもこういう修業なら楽しいのに、なんで普段は穴の中に撃たせてるんすか。しかも中に熊いるし……」
「命中させる対象が生物じゃないと熟練度の増加具合がよくないんだよ。実戦で使う方が熟練度が上がりやすいってことだな」
「でもひたすら穴の中に向かって撃ち続けるのは正直気が滅入るっすよー」
「我慢しろ。もうすぐスキルを獲得できるはずだから」
雑談しながらストーンバレットを小瓶に向かって撃つレイナ。
何発か撃ち続けているが、当たってない。…まあ普段撃ってる先が穴の中だしな。
「なかなか当たんないっす…」
「最初っから上手くいくわけないだろ。こういうのは繰り返ししていくうちに上手くなっていくもんなんだよ」
「そうっすねー。その結果スキルを獲得すれば簡単に当たるようになるんすよねー。頑張るっす」
スキルねぇ。
俺は一切持ってないけど、言うほど重要なもんなのかね?いやもらえるなら欲しいけどさ。
地球の人間はスキルなんか無くてもとんでもない神業を使える人間だっている。ダーツの達人とかありえないぐらいに正確に的に当てるし。まあそんなことができるのはほんの一握りの人だけど。
地球なら努力は必要だがその気になれば生産も戦闘も両方こなせるようになるけど、こっちの世界だと職業ごとにできることの幅が狭い。
みんなが戦闘も生産もできるようになるのがコトワリにとっては不都合なのかね。どうでもいいけど。
「あ、今の惜しいっす!」
「だんだん上手くなってるんじゃないか? スキルが無くても努力次第で当てられるようになるもんだな」
「次は当てるっす!」
楽しそうだな。時々気分転換にこういったカタチで修業させておくべきだったかな。
…なんだか娘の遊びに付き合ってる休日のお父さんみたいな気分だ。おかんじゃなくて。
「おいおい、ここはギルドの訓練場だぞ? なんでそんな子供が魔法の練習やってるんだ?」
魔法の練習中にそんな声が後ろから聞こえてきた。
後ろを振り向くと、杖を持った銀髪の青年がしかめっ面でこちらを見ていた。
「あ、すみません。この子、もうすぐ成人するのでその前に少し訓練させようと思いましてね。お邪魔しております」
「…もうすぐ成人する? そんなに幼く見えるのに?」
「グハッ…………これでもあと半月で15歳なんすよ……」
ちょっと驚いたような顔をする銀髪青年。そしてその言葉に思わぬダメージを受けてるレイナ。
……これまであんまり栄養のあるもの食べてなかったせいか、子供体型なんだよな。華奢なアルマよりさらに小さい。見た目多く見積もってもパッと見11~12歳くらいに見えるしな。
「そろそろこちらも訓練したいところでね、もう少ししたらスペースを空けてくれないか?」
「分かりました。レイナ、次ので最後にしておけ」
「了解っす。んー……てぃっ!」
最後の一発がレイナの指先から放たれ、パリンッと命中し小瓶を砕いた。
「や、やっと当たったっす!………おおお!?」
「どうした?」
「す、スキルを獲得したみたいっす!」
マジっすか。このタイミングで?
確認してみると、攻撃魔法スキルLv1が手持ちのスキルに追加されていた。
「おめでとう、やっと獲得できたな」
「おめでとうレイナ」
「めっちゃ嬉しいっす!これもカジカワさんとアルマさんのお陰っすよ!」
「……微笑ましいな」
やっとスキルを獲得したレイナを祝福。コングラチュレイション…! Congratulations…! いや黒服か俺らは。
青年まで和やかな目でレイナを見ている。
「これで穴の中の熊に向かって魔法を撃ち続ける修業も終わりっす……! くぅっ……!」
「……泣くほど辛かったのか?」
「君たち普段どんな訓練してるんだ」
ジト目で青年がツッコミを入れてきた。お気になさらず。
さて、これで成人前の準備は整った。
後は職業を選択して、ある程度実力を身に付けさせたら大丈夫だな。
……パーティに入ってくれれば一番いいんだが、無理強いするつもりはない。
もしも一人で生きてくって言うなら寂しいがその意思を尊重しよう。ホントに寂しいが。…なんか独り立ちする子を見送る親みたいな気分だ。
お読みいただきありがとうございます。




