流れ始める日常。燃え始める厨二心。
感想やコメントの返信ですが、恐れながら前書きやあとがきの方でまとめてお礼の挨拶をさせて頂きます。
一つ一つ丁寧に挨拶が出来ない投稿者の無精をどうか大目に見て頂ければ幸いです。申し訳ない。
はい、おはようございます。
異世界生活2日目の朝。
現在、アルマの案内で街の北側にある草原にピクニック、もとい薬草採取に来ております。
で、メニュー画面頼りでスコップ片手にひたすら薬草を掘り返しております。
…地味だ。
因みにアルマは案内が済んだ後、ひたすら剣を素振りしている。修業熱心だな。
あれ、時々振るときに剣が光ってないか? 気のせい?
で、大体掘った数が60本を超えたあたりでアルマからストップがかかった。
ヒルカの草を掘り過ぎると土の力が弱くなって、また再び生えてくるのが遅くなるから程々にしとかないとまずい、とのこと。
そもそも似通った草が周りにたくさん生えているのに、的確にヒルカの草のみを採取するのは鑑定持ちでもないと難しいらしい。ベテランでも何本か違う草が混じるのはよくあるとか。
なのに的確にヒルカの草ばかり、それも手早く採取してて気付いた時には結構な数が集まってて慌てて止めたらしい。すまぬ。
で、一段落したところで昼食。半熟タマゴサンドと生姜焼きサンド。
また生姜焼きか、とか言わないで。材料とレパートリーに限りがあるんで。
昨日の少し早めの夕食がいたく気に入ったらしく、作っている間また食べたそうな雰囲気だったため、アルマの分も準備しておいた。
二人でモフモフと食べてる間に、今後、良かったら材料費さえ払ってくれればアルマの食事も作るけどどうか、と持ちかけてみた。
本当にいいのか、是非お願いしたい、と返事をしてくれた。
アルマへの恩返しの気持ちが主な理由のつもりだが、同時に今後この街、この世界での生き方や常識を学ぶのに、彼女の手助けが必要だと思ったからという打算的なことも考えてたり。
餌付けして助けを得てるようなもんだ。…割と最低だな俺。
でも、それを迷惑だと感じるなら、俺のことなんか気にせず今まで通りに過ごしてほしい。互いに協力しあうならともかく、足を引っ張るようなことはしたくない。
で、ギルドに戻ってヒルカの草を納品したわけですが。
「え、えーと、これアルマさんの分も含まれてますよね?」
「違う。全部ヒカル一人で掘ってた」
「こ、この量を一人で? というか私一人でこれ全部鑑定するんですかー?」
「頑張ってください」
「そ、そんなー」
受付嬢がひぃひぃ言いながら一本一本鑑定している。MP足りるのか?
≪鑑定Lv1技能:鑑定表示はMPを消費しない。しかし対象の情報を分析するのに若干の疲労を感じる≫
…この数一度に鑑定してたら過労で倒れないか? 大丈夫?
無茶な納期で仕事とってくる営業の気分。ちょっと罪悪感。
しばらく待ってたら、受付嬢が死にそうな顔で結果を告げた。
「ひ、ヒルカの草62本で6200エンになりますぅ…」
「ありがとうございます。あ、あとまた薬草採取の依頼用のカードをお願いします」
「ま、またですかー? もう勘弁してー…」
泣きそうな顔でカードを渡してくる受付嬢。…次からはもう少し控えめにしとこう。
「あ、あと、ギルドのメンバーカードができましたので、こちらもお渡ししますねー」
「メンバーカード? 身分証明書みたいなものですか?」
「そうですね。冒険者ごとのランクの識別もできるようになっておりますー」
「ランクについてお尋ねしても?」
「あ、説明しておりませんでしたねー、すみませんー。冒険者ギルドにはギルドランクという制度が設けられておりまして、S~Gの8段階に分けられてますー。依頼をこなせばこなすほどランクは上がっていきまして、上位のランクほど高額のお金や有用なアイテムが報酬としてお渡しされますー。その分難易度や危険度も上がりますけどねー」
「薬草採取はGランクですかね?」
「そうですねー。薬草採取だけでランクを上げようとするなら、総額にして80000エンくらいの実績が必要ですねー…………はっ!?」
「そうですか! では早くランクを上げるためにも、明日から今日の倍くらいの量を取ってきますね!」
「や、やめてー!!」
冗談だよ冗談。泣くなよ。
その後、食料と調理用の油なんかを買いに寄り道。
食料の買い出しが終わった後、装備品を購入しに武具屋に向かった。
本当はもう少し早く装備を整えるべきだったが、安定して稼げないようではその日の宿代も払えなくなる可能性があったから、一日の収入を見て問題なさそうなら購入しようと考えていたからだ。
で、武具屋に到着。
強力な武器とかあったら欲しい、が、今必要なのは安価で最低限の自衛のための装備だ。
で、モノの方ですが
鉄剣 10000エン
ATK+30
熊革の胸当て 12000エン
DEF+15
とりあえずこれだけ購入。
剣はアルマと同じく小振りの鉄剣にしておいた。腕力に合わない重さの武器なんか使えないし。
一見高そうに思えるが、日本でこれだけのモノを買おうとすると軽く5倍から10倍くらいするんじゃないか? 剣は銃刀法違反だけども。
砂糖が日本の10倍近い値段だったり、金銭感覚にどうもズレがある気がする
エフィの実なんか1個10000エンだったしな。…本当に、もっと数を確保しておけば良かったと思う。
夕方までまだ時間があるな。どうしようか。
「夕方まで暇だけど、アルマはなにか予定あるかい?」
「今日は依頼受けなかったし、剣の素振り」
真面目だねぇ。宿でゴロゴロしてても誰も文句言わないだろうに。
「あ、ちょっと見学させてもらってもいいか?」
「いいけど、なんで?」
「剣の振り方とか足運びとか参考にしたくてさ。あと、時々振ってる剣が光ってるように見えたけど気のせいか?」
「あれは【魔刃】を使った時の光」
「魔刃?」
剣術Lv1技能【魔刃】
≪MPを消費し、切れ味を増した斬撃を繰り出す技能。通常の斬撃に比べ攻撃力が高い≫
あれか、剣に魔力を纏わせた斬撃ってことか。いいねシンプルに強そうで。
街の外で素振りを見学しつつ、真似して素振りをしてみたが、小中学校時代の授業でちょっとだけ習った剣道とはまた違った剣の扱いが必要みたいだ。
足運び、剣の振り方、動作のリズムまでできるだけよく観察しないと。…え? 変質者じゃないよ? 自衛のための学習だよ?
短めの剣だからその分リーチがないし、一応片手でもなんとか扱える程度の軽さなので、状況により手の使い方を考えるのも課題だな。
アルマも片手で剣を振る練習をしているあたり、もう片方の手で魔法を必要に応じて使うだろうし、俺も俺なりに工夫しないと。
で、夕方。腕が痛い。足が痛い。なんか腹筋とか背筋まで痛い。これまで存在すら認知していなかった部分の筋肉が抗議の声を上げておる。
普段使ってない筋肉を急に酷使したせいか全身が痛いです。
それでも何とか夕食の準備をするぐらいの気力は残っているので、宿に戻ったあとすぐ調理にとりかかった。
自分から言い出したことを初日から反故にするわけにもいかんし、頑張らねば。
で、今日は親子丼。簡単な料理が続くけど、一人暮らしの自炊なんてこんなもんだと思う。
あとホウレンソウに似た野菜(スピナというらしい)のおひたしを追加。野菜もまともに食べないと健康と発育に悪いし。
因みに火種と水の準備はアルマにしてもらった。食器を片付けた後の水洗いと乾燥もやってくれると言った。
そこまでしてもらうのは悪いと思ったが、どうしてもやると言われ、お言葉に甘えることに。なんてええ子なんや。
親子丼の評価も上々。二日連続でこんなに美味しい料理を食べられるなんてとても贅沢だと言われた。俺を褒め殺す気かな? ありがとう。
で、寝る前に昨日MP切れてできなかった実験を開始したいと思います。
なんの実験かというと、指輪なしで魔法を使ってみる実験です。
俺、スキルが一切使えないのですが、補助道具もスキルもなく魔力の操作をしたことがあるんですよ。
そう、エフィの実を食べた後の魔力暴走未遂事件の時に、魔力を吐き出して事なきを得た経験が。
昨日、着火や流水を発動した時に体内の『なにか』が指輪によって操作されて、魔法を発動させた感覚が、その時のものによく似ていた。
そして、その何かが俺の全身に張り巡らされているのが今なら分かる。
異物感はなく、当たり前のものとして。
筋肉のように、骨のように、全身を循環する血のように、俺の中にある。これがMP、魔力なんだと。
腕のように、足のように、目玉や舌を動かすように自由自在に操ることができる。
で、体の中にある魔力を空気と一緒に吐いた時のように、体の外に放出して操作できないか試してみようと今実験しております。
まず着火。指先から可燃性のガスのイメージで魔力を放出。それを火打石のように固めた魔力を擦り合わせ、引火させる。
ライターのイメージを強く思い描き、いざ、発動。
チッ
チッ
お、なんか音が鳴った! いや、火がついてないがな。ガスが切れたライターかな?
うーむ、指先一つに魔力の放出と着火の火花の発動を同時に行うのは難しそうだ。
両手を使って、片方から可燃性の魔力を放出。待てよ、可燃性の魔力ってなんだ?…深く考えちゃダメだ。イメージでゴリ押せ。
さっきは魔力放出が弱かった可能性もあるし、もっと多く魔力を放出するように意識して。
で、もう片方の指で火花を作り、着火!
バチッ! ボボゥッ! ゴオォォ!
瞬間、俺の目の前に火が、否、炎が吹き出てきた。
あわわわ! ストップ! スタァァァップ!
あ、危なー! もう少しで火事になるとこだった! 何もない空間に向かってやってたからどこにも引火はしてないけど、本気で焦った。
ボヤ騒ぎなんか起こしたら、宿どころか街から追い出されるか、最悪牢屋行きだ。…もう少し考えて実験するべきだった。反省。
でも、でも!
やった! 魔法、使えた! スキルもなく、指輪にも頼らず俺の手で!
魔力の制御はまだまだ甘いし、MPも今ので0になってしまったけど、それでも達成感は大きい。
割とあっさり使えちゃったけど、これもしかして魔法系スキル無い人でも普通にできるのかな?
≪この世界で魔力はスキルや生活魔法などを使うためのいわば燃料として認識されている。スキルもなく魔力を直接操作して魔法を発動させようとする者はほぼ皆無。また、発動しようとしても魔力の直接操作は至難。元々魔力を持たない異世界人だからこそ体内の魔力を敏感に感じ取り、操作することが可能だったのだと推測≫
スキルがあればそもそも魔力の操作なんかしなくても全部自動で発動できるからなー。その方が楽だし、こんな面倒なことする必要もないか。
火種や水が欲しければ生活魔法の指輪があるし、まるで、自力で努力して魔力操作を覚えてほしくないからスキルや指輪があるように感じられるが、どうなんだ?
≪世界の理につき、詳細不明≫
はいはいコトワリコトワリ。まぁどうでもいいわそんなもん。
俺は俺の都合で生きられればいいし。誰がなんの目的でこんなコトワリ作ったか知らんが俺が何か言ったところで何も変わらんし。
それより魔法が使えるようになったのは、正直滅茶苦茶嬉しい。ひゃっほい!
MP尽きたし、寝よ。おやすみ。
明日の朝食と昼食、何にしようかな。
それからしばらくの間、比較的安定した日々が続いた。
アルマは魔獣討伐に森へ行く日は、俺から朝食と弁当を受け取り依頼をこなしに行くようになった。
俺は薬草採取をしつつ自己流魔法と剣術もどきの特訓を街から少し離れた修業場でするのが日課になった。
魔法は割とあっさりイメージ通りに使えるようになった。
あの小型火炎放射器みたいな炎からライターくらいの火まで指先から調整して出してみたり、自由自在だ。
魔力の遠隔操作みたいなこともできるようになってきた。まだ5m程度までしか放出した魔力を操作できないし、数秒程度で霧散してしまうのであまり実用性はないが。
そのうちアルマが使ってたような火球なんかを放つこともできるようになるかもしれない。
まあすぐに魔力が切れるんですけどね。MPが、MPが足りないぃぃ…。
剣術の方は再現が難しい。
魔刃の再現はまるで上手くいっていない。
最初、剣に魔力を纏わせて斬り付ければいいと思って、剣術用の木の的に向かって剣を振ってみたが、
ボフッ!
……ぼふっ? え、なにこの手応え。
まるで剣に厚めの布でも巻いて殴ったような感触。っていうか全然斬れてないやん。
魔力を籠め過ぎたせいで切れ味鈍くなったか? 次はもうちょっと弱めに。
バスッ!
駄目だ、もう少し弱く。
ガンッ!
もっと、うんと弱く!
ザクッ!
よし、斬れた! 魔力籠めるのやめたら斬れた!
アホか! 意味ないじゃん! 普通に斬っただけだろこれ!
あれー? 魔力を消費して、切れ味を増して攻撃力を高めるって表示されてたけど、上手くいかん。
剣に纏わせてる魔力を感じとってみると、ふわふわしてちょっと不安定な感じがした。
剣に魔力を纏わせるだけじゃかえって緩衝材みたいになって切れ味が悪くなるのか?
なら、魔力を固めて、鉄のように固く、刃のように鋭く纏わせたらいいのか?
早速実行。
うむむ、固めた魔力を刃全体に纏わせるのが案外難しい。
もうちょっと、もうちょっと鋭く…。こんなもんか。
カミソリのように鋭い魔力を刃に纏わせて、維持。そして、斬る!
ザクッ!
あ、あれ? あんまり変わらないような…。どうなってんだ?
その後、魔力の刃に反りを加えてみたり、ノコギリみたいにギザギザにしてみたりしたが大して切れ味は良くならなかった。
MPが切れて、その日の魔刃再現は終了。チクショウ、魔法と違って再現がむずい。ぐぬぬ。
次の日も、その次の日も、毎日試行錯誤をしているが、駄目だ。やっぱ上手くいかん。
魔刃を再現しようとかれこれ一週間くらい練習してるが、未だ進歩せず。
そもそもなんで俺こんなことやってるんだっけ? 的を真っ二つにでもしたいの? してどうなるの? なんで斬りたいの? モノを斬るってどういうこと?
と、イラつきながら無駄に哲学的なことまで考え始める始末。
…気分転換に魔法の練習でもしよう。このままじゃストレスが溜まる一方だ。
あ、そうだ。魔法が使えるならアレ、できるんじゃね?
思い付きで、刀身に可燃性の魔力を纏わせ、維持。そして着火!
ボボオォォッ!
着火した瞬間、俺の手には刀身が燃える剣が握られていた。
ふははははー! 魔法剣! ファイアーソードじゃー!
……いい歳こいてなにやってんだ俺。
思い付きで試してみたけど、MPを無駄に消費するだけで実用性はあまりないと思う。
こんな弱い火じゃ斬ったものが即燃えるなんてことはないだろうし、精々嫌がらせや威嚇程度だろう。
剣と魔法を別々に繰り出した方が効果的じゃないかこれ。
ぶっちゃけ剣に油を塗って火ぃ点けたようなもんだし。CCOかな?
試した後で色々恥ずかしくなってきて軽く賢者タイム入ってたところで―――
「いまの、な、に?」
後ろから、目を見開いて驚ている様子のアルマに声をかけられた。
え? 見てたの? 今の厨二全開な姿見られてたの? 今日討伐行ってたんじゃなかったの?
「あ、いや、これは………いつから見てたんだ? 今日の討伐は?」
「最近、ヒカル、悩みがあるみたいだから、様子を見ようと思って」
あー、余計な心配かけないように表情や態度には気を付けてたつもりだが、知らず知らず感づかれるようなことでもしてたか。
めっちゃ恥ずかしい。
やめて! 見ないで! こんなアホなオッサンの姿を見ないでええぇぇ!
…ってあれ? なんかアルマかつてないほど真剣な表情でこっちを見つめてないか? どうしたの?
「おし、えて」
「え? な、何を?」
「今の燃える剣! どうやってあんなことできたのか教えて!」
「は、はい!?」
え、えええええ!?
あの厨二ファイヤーソードに興味津々だと!?
というかこんなグイグイくるアルマ初めて見るんだけど! どうした、何があった!
厨二病か、厨二病が今更になって発症したのか!? 俺のせいで? なんてこった!
…その後、お互いに一旦落ち着いてからじっくり話し合うことに。
どうしてこうなった。
俺のせいか。
お読み頂きありがとうございます。