おかん、自重を捨てる
あれから数時間食べ歩きをしているが、脚が疲れてきたので屋外カフェで一息つくことに。
結論から言うと、最初の店で食ったターキーレッグが一番美味かった。
いや他の店の飯も美味いよ? 美味いんだけど、何千エン単位の値段に釣り合った味かと言われると、うーん?と首を捻りたくなる。
決して味に大きな不満があるわけじゃない。粉物のお好み焼きっぽい料理とかベビーカステラなんかも普通に美味いんだが、値段の高さがなぁ。
「やっぱどの店も高いなぁ。もうじき上限に達しそうだ」
「大体どこの店もこんなもんっすよ。最初に食べた店が安すぎで美味しすぎだっただけっす」
「それでも冒険者たちにとっては手軽に美味しいものを食べられるし、どの店も人気があるみたいだけど」
料理のスキルを持っている人が売っている店が大半で、平均スキルレベルは大体3~4くらい。
簡単な料理くらいなら作れる、と言ったレベルらしい。俺の料理の腕もスキル換算するとこれくらいかな。
…いや、普段スマホのレシピ帳を参考にしてる料理が大半だしもっと下か。スマホが充電できて良かったよホントに。
万が一スマホが壊れたりした時のことを考えて少しずつレシピを紙に写したりしているが、数百種類もの料理を書き写すのにどれだけ時間がかかるやら……。
「二人とも俺の選んだものばっか食ってたけど、あれでよかったのか? 食べたいものがあったら遠慮せず言ってくれればいいのに」
「正直、出店が多すぎてどれを選んだらいいか決められなかった。ヒカルが選んだのどれも美味しかったからこれでいい」
「カジカワさんの選んだのがちょうど目にとまるものばかりだったんで、満足っす」
気を使ってくれてるのか本心なのか分からないが、不満ではなさそうだ。
うーむ、この世界の食べ歩きってこんなもんなのかね? せめて値段がもっと安けりゃしっくりくると思うんだがな。
二人のステータスの現在の状態とSPを見てみると、満腹と表示されSPも最大まで回復している。
食べてて気付いたがレイナに比べてアルマのSPの増加具合が明らかに高かった。あのターキーレッグを食った時もレイナが4回復したのに対し、アルマは25くらい回復してた。
≪食事によってSPを回復する場合、最大値が高ければ高いほど増加する数値が増える。その代わり自然に消費するスタミナの割合も増加するので、スタミナの最大値が高くなっても何人前も食べられるわけではなく、また何日断食しても平気と言うわけでもない≫
え? それじゃSPの最大値が増える意味なくね?
≪スタミナを消費するスキル技能の負担が相対的に軽くなっていくため、無駄ではないとされている≫
あ、そういえばSPを消費する技があったな。体術スキルとか。
…因みに俺の現在のSPの数値が未だに0なのはなんで? 最大値はどんどん増えてるのに。
≪単に元の肉体が必要としている分を超える食事をしていないためと思われる。こちらの世界に転移して以来、一度も満腹になっていないので単に食事量を増やせばSPは増加すると推測≫
…こっちに来てから体を動かす機会が増えたから、カロリー消費が激しくなってるから食べられる量にまだ余裕があるのは自覚してる。
日本にいたころは不摂生な生活してたけどその分食べ過ぎないように注意してたんだが、その癖が残ってるのかどうも必要以上に食いまくるのに忌避感があるんだよなぁ。
下手したらあのデブ貴族みたいにブックブクになりそうだし、あとアルマとレイナより多く食うのはなんか悪い気がするし。
≪因みに梶川光流のSPはこの世界の生物と仕様が違い、元の肉体分とは別にSPを30ほど補給するのにおおよそ一人前分の食事量が必要。最大SPが増えても補給する食事量とSPの増加量の割合は変化しない≫
燃費悪いな! SP回復させる度にそんなに食わなきゃならんの!?
これまで結構食ったのにSP増えてないってことは、元の肉体分含めてフルに回復させるためには少なくとも4人前以上は食べなきゃいかんのか…。俺の食事だけで家計が火の車やん。
≪一度SPを増加させれば、スキルの使用などにより意図的に消費しない限りは減少しないので、食事の度に数人前食べる必要はない≫
スキルの使用ねぇ。俺スキル持ってないのにSPだけ増えても意味あんのか?
いや、魔力だけじゃなくて生命力も直接操作できたんだ。となれば…。
まあ機会があったらちょっと多めに食べて検証してみるか。
「そういや、そろそろレイナの攻撃魔法スキルの熟練度も大分上がってきてるし、多分次の修業で獲得できると思うぞ」
「や、やっとっすか………走り込みとかと違って別にしんどくはなかったっすけど、成果が目に見える形で分からないし、穴の中の声が気になるしで精神的にクるものがあったっす……てかあの声ホントなんなんすか…」
「ああ、穴の中に居たのはただのハイケイブベアだから、別にそんなに怯える心配は無いぞ」
「なーんだ、ただの……ってあのでっかい熊じゃないっすか! 普通に怖いっすよ! 自分アレに一回食べられかけてるんすよ!?」
「その憂さ晴らしとでも思ったらどうだ? 正体分かったことだしこの際楽しんどけ」
「全っ然楽しくないっすよ!」
「ヒカル、レイナをからかうのほどほどにしてあげて」
「ごめんなさいちょっと意地悪が過ぎました」
「アルマさんにはホント弱いっすね……尻に敷かれ過ぎじゃないっすか?」
アルマがキレたところを見たら誰でもこうなるわ。めっちゃ怖いんだぞ。
「さて、一段落したことだしあと少し買い物したら今日はもう帰るか」
「あとどっか寄りたいとこがあるんすか?」
「晩御飯の材料買ったりとか、新しいマイ調理器具の購入とか」
「…やっぱおかんみたいっす」
やかましい。これ以上言うとハイケイブベアの肉を食卓に並べるぞ。
…ん?なんか妙に賑やかなところがあるな、なんだろうか。
「はいはーい!ドワーフ食堂の大食い大会の受け付け、もうすぐ締め切りますよー!参加される方は急いでー!」
大食い大会ねぇ。
せっかくだし、ちょっと見物してみるか?
「優勝者の方には、焦げ付かない処理を施してあるフライパンが進呈されまーす! 料理好きの方は是非挑戦を!」
………
「ごめん、待たせるようで悪いがちょっと優勝してくる」
「参加じゃなくていきなり優勝宣言っすか!? どんだけそのフライパンが欲しいんすか!」
「ヒカル、これまで大分食べてたけどまだ食べられるの?」
「実はまだ結構余裕があったりする。普段は食べ過ぎないように注意してるけど、焦げ付かないフライパンのために自重を捨てます」
「調理器具のために本気出すとか、おかん通り越してただの料理バカっぽいっす……」
「レイナ、そんなに今日の晩御飯をハイケイブベアの肉にしてほしいのかな?」
「すいません! あの熊の肉とか怖いんで勘弁っす!」
すぐ謝ったから今回は許そう。俺も熊肉の調理法なんか知らんから正直遠慮したいし。
焦げ付かないフライパンってことはテフロン加工でもしてあるのかねぇ? 傷がつくとすぐにダメになりそうだから、手に入れられたら大事に使おう。
さて、果たして俺の外付けステータスのSP分の腹がどれだけ通用するやら、試してみますか。
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