(なにかに)厳しい修行開始
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「さてレイナ、君のこれからのことを話し合いたいと思うが、いいか?」
「…はい」
俺たち三人以外に誰もいなくなったキッチンで、レイナとの相談開始。
緊張した面持ちだが、そんな肩肘張らなくても。
「そう固くならなくていいよ。ちょっと相談と確認をしたいだけだから」
「な、なんのっすか?」
「将来どの職業を選びたいと思うのか、もう決めているのか?」
そう聞くと、少し俯きながら口を開いた。
「……正直、まだ悩んでるッス。自分、持ってるスキルがイマイチで、このまま成人してもロクな職業になれそうにないんすよ」
「短剣使い、アサシン、シーフの三つだな?」
「はい……って、え? な、なんで分かるんすか?」
「あまり大きな声じゃ言えないが、俺は他人のステータスが見えるんだ。鑑定みたいにな」
「ステータスが見えるって、鑑定じゃないんすか?」
「ああ。まあ詳しいことはもう少し日が経ってから話す。俺のことはどうでもいい」
正直メニュー機能関連のことを説明するにはまだ早い。
レイナのことを信じてあげたいとは思うが、今日会ったばかりの人間に告げるにはちと危険な情報だし、ある程度信頼関係を築けたら話すことにしよう。
「それでな、今持っているスキルに加えて、もう一つスキルを取得することで新たに職業の選択肢が増える、と言ったら?」
「え…?」
「君の将来は君のモノだ。だから強制するつもりはないが、攻撃魔法のスキルをあとひと月の間に獲得することができれば、極めてマイナーだが強力な職業になれるんだ。それを目指してみないか?」
「ええ? い、いったいどんな職業なんすか?」
メニューから告げられた、とある職業の名前を伝えるとレイナの顔つきが変わった。
なんというか興味津々といった表情だけど、名前だけでどんな職業か分かるのか?
「それ! その職業になりたいっす!」
「お、おう。……どんな職業なのか分かって言ってるのか?」
「正直全然分かんないっすけど、名前を聞いた時になんかこうビビッとくるものがあったっす」
「ビビッときたのか」
「きたっす」
単なる勘じゃねーか。
いやまあ、微妙な職業の選択肢ばっかの状況で聞き慣れない職業の名前を聞いたもんだからそれに縋りたい気持ちも分からんでもないけど。
「仮にそれになれなかったとしても、攻撃魔法スキルがあれば魔法使いの選択肢も増えるしスキル獲得に向けて努力して損は無いと思う」
「はいっす。でも、あとひと月でスキルを獲得するなんてできるんすかね? 正直時間が足りないような…」
「一応、最短で獲得できるように段取りは進めている。早くて明後日からスキル獲得のための修業にとりかかれるぞ。かなり荒っぽい方法になるがやむを得ん」
「え、ど、どんな厳しい修業なんすか……!?」
「怯えなくていいぞ。別にレイナは痛くも痒くもないから安心しなさい。修業の内容もひたすら単純作業で、頭はほぼ使わないしな」
「そ、そうっすか……」
まだちょっと不安げな顔してるな。
いやホントに簡単な修業だから。レイナは全然しんどくないから。レイナは。
二日後、全ての準備が整ったので修業場こと魔獣洞窟で修業を開始することになった。
攻撃魔法スキルの熟練度上昇の方法だが、魔道具屋に依頼しておいた攻撃魔法スキル付与の首飾りをレイナに装備させて、ひたすら魔法を使わせるというとってもシンプルな方法だ。
あのぺプルスライムのコアがどうやったらこんな小さな首飾りになるのやら。装備すればストーンバレットなどの地属性の攻撃魔法を使えるようになる便利な装備品だ。生産職の人間には使えないらしいが。
魔力が減ってきたら俺とアルマが魔力を供給するので、最大MPが低いレイナでも何発も使用できるから一日ごとにかなりの熟練度を稼ぐことができる。
供給する際には適当に指輪を装備して、これのお陰で供給できるんだよーと誤魔化しておく。
魔力の直接操作を使えるようになればそれで攻撃魔法を再現させることもできるが、魔力操作の習得まで時間がかかるしこれも教えるにはまだ早いので却下。
因みにスキルの熟練度は、魔法を何もない場所に向かって撃っても一応上がっていくらしいが、当てる対象のある実戦形式の方が断然上がり幅が大きいらしい。
で、レイナは現在地面に空いた直径15cmぐらいの穴の中に向かってひたすら魔法を撃ち続けている。
「あの、ちょっと聞きたいことがあるんすけど」
「なんだ?」
ばしゅっ
『………………ォ…………』
「この穴って、修業用にカジカワさんたちが掘ったんすか?」
「ああ。そこらに向かって魔法を撃つと人に当たったりするかもしれないから危ないしね。アルマに精霊魔法でとっても深い穴を掘ってもらったんだ」
ばすっ
『…………………………ォォ…………………』
「……すみません、もう一つ聞いていいっすか」
「なにかな?」
ばきゅーん
『………………ガッ…………ァァァ…………』
「その深い穴から魔法を撃つたびになんか鳴き声みたいなのが聞こえるんすけど、これ、なんすか…?」
「気のせい気のせい。あれだ、狭い所に隙間風が吹くとなんか声みたいに聞こえるとかそんなんだよ多分」
どんっ
『…………………ギャッ!………ガガッ………!』
「いやいやいや!これ絶対穴の中になんかいるっすよ! なんすか!? いったい何がいるんすか!?」
「気にしたら負けだ。あ、そろそろ魔力やばそうだから補給するぞ」
「めっちゃ気になるんすけど! 全然集中できないっすよ!」
レイナがしきりに穴の中を気にしているが、別に大したことじゃない。
標的に当てた方が熟練度が大きく稼げるので、昨日のうちにハイケイブベアを見つけておいて落とし穴にボッシュート。どうあがいても登ってこれないくらい深い穴に落としたので安全だ。
で、その出口が今レイナが魔法をぶち込んでる小さな穴というわけだ。穴の中のスペースはとても狭いので撃てば確実に当たる。熟練度稼ぎ放題というわけだ。我ながらえぐいなオイ。
因みにレイナに真相を教えないのには特に深い理由はない。単に反応が面白いから誤魔化してるだけだ。ワロス。
「…ヒカル、そろそろ魔力補給の役交代」
「ああ、任せた。中から出てこないように注意してくれ」
「やっぱなんかいるんじゃないっすか!! 怖いっす!! もう帰りたいっすー!!」
この子のリアクションを眺めてるだけでしばらく退屈せずに済みそうだ。
ガンバレイナ。ファイトー。
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