簡単か豪華か
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本当は今日もう一話くらい投稿したかったけど、時間が足りませんでした。
魔道具屋のドアを開け、中に入る。
魔道具屋と言うと、なんだか魔女の店みたいなのが頭に浮かんだが魔獣の素材と付呪済みの装備品が綺麗に並んでいる普通の店だった。
まあ怪しい内装にしたら客足遠のきそうだし当然か。
これならダイジェルの素材屋の方がよっぽど魔女の店っぽい。…いやあの店客が多く来るのが嫌でわざとあんな風にしてるらしいけど。
店の奥から店員と思しき金髪男性が出てきた。ダなんとかと違って見た目からして感じ良さそうなイケメンだな。
「いらっしゃいませ、当店にいらっしゃるのは初めてのお方ですか?」
「はい、ちょっと装備品に加工してほしい魔獣の素材がありまして」
「伺いましょう。どのようなものですか?」
手持ちのカバンをアイテムバッグに見せかけ、アイテム画面から例のモノを取り出す。
「ぺプルスライムのコアなのですが、これを使って攻撃魔法スキルが付与された装備品を作っていただきたいのです」
「おお、無傷のコアとは。これなら良質な装備品が作れそうですね。…と言っても今すぐは難しいのですが」
「え、何故?」
「ダイジェルにあるマルダニアの魔道具屋が、いったい何を作ろうとしているのかまでは言っておりませんでしたが地属性の魔石を大至急で大量に欲しいと言ってきたので売りに出したばかりでしてね。現在製作に必要な魔石が足りていないのですよ」
「ああ、そういえば少し前に魔石が欲しいってギルドに張り紙がありましたけど、結局こちらから買い取ったんですね」
「はい、なので申し訳ありませんが魔石の在庫が確保できてからの製作になりますが、宜しいですか?」
「どれくらいで在庫が入ってきそうでしょうか?」
「大体1カ月くらいでしょうかね。お待たせしてしまうことになって申し訳ありません」
レイナが成人するまでの期間もあとひと月だ。このままじゃ間に合わない。
ちょっと確認と交渉をしてみるか。
「すみません、仮に私の持ってきたコアを元に装備品を作るとしたら、必要な魔石のコストはどれぐらいでしょうか?」
「ぺプルスライムのコアを元に攻撃魔法スキルの付与をした装備品でしたら、物にもよりますがBランクの魔石が一つあれば充分かと」
「今、手持ちにBランクとCランクの魔石がいくつかあるのですが、それを使ってもらってすぐに作ってもらうことはできますか?」
「え、本当ですか? 因みにどれほどお持ちでしょうか」
「手持ちはBランクが3つにCランクが10個ほどですね」
「そうですか。…それらの魔石を売っていただければ、優先して作らせてもらいましょう。ストックの確保は少しでも早くしておきたいですから。これなら2日もあれば作れると思います」
早いな。いや、平時ならもっと時間がかかるんだろうけど足りない素材のストックの確保をスムーズにしたいから無理をして優先的に作ってくれるだけか。
それからまず魔石を全て売って、29000エンの収入。
で、攻撃魔法スキル付与効果のある首飾りを作るのに30000エンの出費。ちょっと赤字だ。ぐぬぬ。
次に素材屋に向かいハイケイブベアの解体を依頼。
解体費用に10000エンかかると言われて財布の中が心配だったが、これらを売りに出せば50000エンはかたいらしいので問題なし。たっけぇなあの熊公。
討伐報酬より素材の値段の方が高いのはこれまでなかったな。肉はともかく毛皮は装備品に使うとしよう。牙や爪、肉だけでも結構なお金になるらしいし。
最後にようやく宿に到着。もうすっかり暗くなっちまった。
初日から大分忙しかったなー、まあその分色々実入りも多かったが。
「やっと帰ってこれたか、あー腹減った。さっさと飯作るか」
「カジカワさんが作るんスか?」
「いつもご飯を作ってくれてるのはヒカル。とても美味しいから楽しみにしてていい」
「え、戦闘職なのに料理スキル持ってるんすか? ま、まさかLv50になると取得できるっていうギフトスキルってやつなんすか!?」
「いや、料理のスキルは持ってないよ。簡単な料理をいくつか作れるくらいなもんだ」
せめて初日くらいは豪華にしてやりたいが、スキルを持っていない俺にはお手軽な家庭料理くらいが限界だしなぁ。
期待外れにならないように、せめて失敗だけはしないように気を付けよう。
宿の受付でチェックインをする際に3人一部屋なら4000エンでさらにお得とか言われた。却下だっつってんだろ! 何を期待して一部屋にまとめようとしてんだ!
他のお客からの視線が痛い。アルマを連れているだけでも奇異の目で見られるのにそこにレイナが加わってさらに変な目で見られてる気がする。特に男性客から殺気交じりの視線が刺さるようにこちらに向いてる。勘弁してください。
さて、気を取り直してキッチンに入りますか。
まず鍋を弱火で熱してバターを投入し、半溶けになったら小麦粉を加えてよく混ぜる。
じっくりと熱し、ルーが泡立ってきたら火から離し、牛乳を少しずつ加えて溶かしていって途中で再び火にかけ、焦げ付かないように丁寧かつ迅速に混ぜてホワイトソース完成。
ガスコンロみたいに自動じゃなくて、手動で薪の数を調整しないといけないから火加減が難しいな。なんとか焦げ付かずに作れたが。
で、隣のコンロの鍋に水を入れて沸騰させ、塩コショウで下味をつけた鶏肉とジャガイモとニンジンに似た野菜を一口サイズに刻んだ物と薄切りしたロックオニオンを投入。
グツグツ煮込みながら灰汁をとり、具材に火が通ったらコンソメもどきの粉を入れて味を調節。最後にそれらをホワイトソースに混ぜてクリームシチューの出来上がり。
ホワイトソースが焦げなくてよかった。焦げたらそれだけで味が台無しになるからなぁ…。
そしてもう一品。ねんがんの さかなりょうりを つくるぞ!
鮭っぽい魚の切り身に塩と酒を振りかけ10分放置。
その間にあらかじめ作っておいたゆで卵とケルナ村でもらった野菜のピクルスと刻んで水に晒しておいて辛みをとばしたロックオニオンをみじん切りにする。
それらに酢と塩コショウと砂糖、そして売ってるとは思わなかったマヨネーズを混ぜる。
マヨネーズって生卵使うはずだけどサルモネラ菌とか大丈夫なんだろうかって不安に思ったが、【衛生士】という職業のスキルで殺菌・消毒・洗浄された卵を使っているから問題ないそうな。生産職の人のスキルも魔力操作で再現したいくらい便利だなぁ。
タルタルソースが完成したくらいに魚の切り身から水分と一緒に臭みが抜けてきてたので清潔な布でよくふき取る。この布も衛生士が(略
切り身に塩コショウで下味をつけ、小麦粉をまぶし粉をよく落とし、生卵につけたあとパン粉をまぶして、さらに数分放置。その間に油の入った鍋に火をかけ温度を上げておく。
衣部分が切り身になじんだら油に投入。
ジャァァァっと食べ物が揚がる音はいつ聞いてもいいなぁ。周りの視線が一気にこちらに集中して落ち着かないけど…。
中火で1~2分ほど揚げて一旦取り出し余熱で身に熱を通し、一分経ったら強火でさらに一分揚げて取り出し、タルタルソースをかけて鮭もどきフライ出来上がり。キャベツの千切りも添えておく。
最後にアロライスを盛って晩御飯の支度終了。ちょっと時間かかっちまったな。
「できたぞー。どうぞ召し上がれ」
「いただきます」
「か、簡単な料理どころかすっごい豪華じゃないっすか! こ、これ本当にいただいてもいいんすか!?」
「当たり前だろ。口に合わなきゃ無理に食わなくてもいいが、遠慮してるならその必要はないよ。それに言うほど豪華か?」
「どう見ても豪華ッスよ! 周りの人の目を見ても分かるッス!」
そう言われて周りをみると、他のお客たちがなんだか羨ましそうにこちらを見ている。
…ひょっとしてこれまで飯を食う時に感じてた視線はアルマや俺じゃなくて料理の方を見てたのか?
うーん、どう見てもただの一般家庭の夕食だと思うんだがなぁ。まあいいか。気にせず食べてしまおう。
「むぅ、魚のフライの方はもっと美味くできたな。衣にチーズを加えたかったんだが、買うの忘れてたんだよなー」
「それでもすごく美味しい。このすっぱいようなしょっぱいようなソースもよく合ってる」
「このシチュー、トロトロで濃厚で野菜もお肉もたっぷりで美味しすぎるんすけど! 自分今日死ぬんすか!? 幸せ過ぎて死ぬんすか!? ふ、ふぐぅっ…!」
「何言ってんの君は。つーか泣かんでも」
泣くほど美味いかこれ? 嬉しいけどちょっと大袈裟……でもないか? これまでの食生活がどんなもんか分からないけど、きっとロクなもん食べてなかったのかもしれないし。
これからは毎日栄養をしっかり摂ってもらおう。でないと鍛えるどころじゃないしな。
あ、シチューのおかわりあるよー。え? 他の人が食べたそうにしてるから分けてあげたらって? いや無理。他の人全員に行き渡るほどの量無いし。
夕食が済んで片付けが終わった後、いよいよレイナとの相談タイムだ。
さて、多分大丈夫だと思うけど了承してくれるかな?
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