初魔法、初料理
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これらを執筆の励みにして、執筆を続けていこうと思います。
前回のあらすじ
赤髪「ねぇねぇ今どんな気持ち?
青髪「半端者でぼろ宿止まりって罵られて今どんな気持ち?ねぇ?」
アルマ「くやしいです…(ビクンビクン」
※前回の内容と差異がある可能性がありますのでご注意ください
どうも、ただいま宿に向かう途中で寄り道の真っ最中です。
いやね? 疲れてるしさっさと寝床に入って寝たいんだけどね?
そろそろお腹が大分減ってきておりまして、なにかお腹に入れないとまともに眠れないと思ったので、現在店に並んでいる惣菜なんかを見てるわけですが。
高い。
このサンドイッチ、二個セットで1000エンだってさ。
こっちの魚の塩焼きも一切れ1500エンって、えええ?
調理済みの食材は、宿代に匹敵するかそれ以上の値段のものばかりが並んでいる。
高すぎへん?
「た、高いな…。こんな高いの普段から買ってるのか?」
「毎日は無理。時々、どうしても美味しいものが食べたくなった時に買ったりすることはある。普段は食材を買って、自分で焼いて塩とかふって食べてる」
焼いて、塩て。
冒険者の普段の食生活ってそんな感じなのか?
≪生産職の人間が戦闘用のスキルを取得できないように、戦闘職の人間も生産性のスキルを取得することは原則として不可能(例外あり)。そのため、料理スキルを取得している料理人等の作った料理は戦闘職の人間にとっては贅沢な食事であり、付加価値は大きいと認められている。料理スキルのない人間ができる調理は食材を雑に刻んで、焦がさず焼ければ上出来と言える程度≫
これまた不自然な…。まあそうでもしないと戦闘職の人間が有利すぎるか。
戦闘職がいなきゃ魔物から身を守れず、生産職がいなきゃ美味い料理や普段着、その他生活必需品を満足に揃えることも出来ない。だから互いに協力して生きていきましょうってか。
…この世界じゃ当たり前のことかもしれんが、地球側の人間である俺から見れば、この仕様良く出来過ぎてて逆にすごく不自然に見えるんだが。サボらなきゃ食うのに困らないのはとても羨ましいが。
俺、スキルも職業もねーからすごいアウェイだけどな! ちくせう。
「しゃーない、俺も自炊するか。食材と味付け用の調味料を少し買っていくかな」
「食材売り場はあっち。塩とかソースなら隣のお店」
食材売り場ね。肉屋やら野菜売りとか色々並んでるな。
【ラッシュピッグの肉】
≪豚型の魔獣の肉。栄養価に優れ安価で美味。極めてポピュラーな食材≫
【ロックオニオン】
≪地球の玉ねぎに似た風味、食感、栄養素を持った野菜。表皮を卵のように割ることが可能で、中身は皮を剥いた玉ねぎに酷似している≫
適当に食材売り場で、豚肉に近い魔獣の肉や玉ねぎ…玉ねぎ? だよな? 何か表面がまるで石みたいに固いんだけど。…玉ねぎっぽい何か、その他に鳥の卵とかを購入。
こっちの食材って地球のものに似てるもんが多いなぁ。いや、その方が抵抗なく食べられるんだけど。
それでいて無理に異世界らしさを出そうとしてる感じがなんとも言えない。うーん。
そして、肝心の主食だが、なんと
【アロライス】
≪地球の米のような穀物。程よい具合に炊き上げてある≫
意外なことに米があるんですわー。しかもお粥とかじゃなくて炊いたご飯が。
その他にもパンとかパスタに似た食材があるけど、これ、もしかして地球から持ち込まれたもんじゃないよね?
≪これらの食材の起源は不明。しかし地球由来と思われるものも多々存在する≫
俺がこっちに転移したみたいに、料理を作れる人とか植物の種や苗がこっちの世界に飛ばされてきたことがあるかもしれないってことか?
情報が少なすぎて何とも言えん。
あんまりまとめ買いしても保存に困るし、今日と明日の分だけ買ってくか。
…因みに調味料を置いてる店にも寄ったけど、ソース以外にも醤油や味噌に酷似したものが店に並んでた。絶対この世界、過去に日本人来たことありますわこれ。
醤油もどきと砂糖、あと塩と調理用の酒と小麦粉だけ買って、宿に向かうことにした。
…砂糖が1kgで1000エンもしたけど、料理の幅を広げるためにどうしても欲しかった。後悔はちょっとしかしていない。していないんだ。
木賃宿にようやく着いた。でかいな、4階建てとは。
利用する冒険者も多く、夜には3ケタ近い客が泊まるらしい。
年季の入った宿だが、掃除がよく行き届いてるからかボロいという印象はあまり感じられない。むしろ変に気取ってない分居心地よさそうだ。
中に入り、カウンターに立っている恰幅のいいおばちゃんにアルマが声をかけた。
「素泊まりで、お願い」
「あら、アルマちゃんいらっしゃい。今日は早いのね、まだ夕方まで時間あるわよ?」
「今日は早出したから、その分早く休む。こっちもクタクタみたいだし」
「こっち? あ、いらっしゃい。あなたもお泊り?」
アルマの後ろにいた俺に気付き、声をかけてきた。
「はい、一部屋お願いします。しばらくこちらのお世話になると思いますので、よろしくお願いします」
「あらあら嬉しいねぇ。どうぞごゆっくり。それで、一人一部屋? それとも、もしかして二人で一部屋?」
「一人一部屋でお願いします」
即答。そういうのは冗談でもやめてほしい。ちょっと前に会った三人娘じゃあるまいし。
「あはは冗談さね。じゃあ、チェックインのサインお願いね」
「あ、この後調理場お借りしていいですか?」
「どうぞどうぞ。薪の代金は宿代に含まれてるけど、使い過ぎないようにね」
「はい、ありがとうございます」
サインを済ませた後、すぐに調理場に向かった。いい加減空腹がきつくなってきたから早くがっつり食いたい。そして寝たい。
調理場の中を見ると、一通り道具はそろっているようだが、あれ、流し台はあるのに水道の蛇口とかがないぞ? いや、水道が通ってる程文化水準が高くないかも知れんが。
井戸から汲んでくるとか? 面倒だな。
「アルマ、水ってどこから汲んできたらいいかな?」
「水? 指輪で出せばいい」
「ゆ、指輪?」
なんのことかと思ったが、流し台の横に指輪が置いてあるのに気付いた。あれか?
【生活魔法の指輪】
≪着火、流水、乾燥風など、生活するのに必要な簡単な魔法の使用が可能になる指輪。魔法系のスキルがなくとも使用が可能で、一度使うのにMPを1消費する≫
お、おおお!
これがあれば俺も魔法を使えるってことか!?
すごい! コレ欲しい! 是非欲しい!
≪値段:100000エン≫
たっか!
いやまあ、この指輪一つで火種、水道、洗濯後の乾燥とかが全部賄えるとなるとむしろ安いか…。
俺、MPがたったの5しかないから使うのは必要最低限にしないと。
すぐに魔法を使いたい気持ちをこらえて、豚肉と玉ねぎもどき、あと調味料の準備をしよう。
森生姜、やっと出番だぞ! やったな!
…異世界くんだりまで来て、初のまともな料理が豚の生姜焼きか。しかも自炊。まあこういうのも悪くないか。
で、肉に切れ目を入れて軽く小麦粉振ったり、玉ねぎを刻んだりしてるわけですが、その間ずっと後ろから視線を感じるんだけど、アルマさん? 俺なんかまずいことでもしてるの?
「えっと、どうかしたのか?」
「料理、できるの?」
「ああ、まあ何年も一人暮らししてたから簡単なものなら」
「…そう」
そういえばアルマ、戦闘職だから切って焼いて塩ふるぐらいしかできないって言ってたな。
「良かったらアルマの分も作ろうか? 必要ないならいいけど」
「え?…いいの?」
「ここまで色々世話になったし、メシ奢るくらいさせてくれ。…口に合わなかったら無理に食べなくていいからな。ホントに」
「う、うん。ありがとう」
珍しくちょっと驚いた顔が見れた。簡単でも料理できるのがそんなに意外か。
というわけで二人前に量を増やすことに。それほどお金に余裕はないけど、まあこれくらいはね?
酒とか醤油やら調味料を混ぜてる最中、砂糖を混ぜた時にちょっと不安そうな顔してたな。まあ肉に砂糖っていうのは抵抗あるかもしれんがタレには必須です。できればみりんが欲しかった。
おろし金がないので、森生姜はみじん切りにした後すり鉢でペースト状にしてみた。うん、大丈夫そうだ。
で、下準備が終わったので、指輪をはめまして、コンロに焚き付け用の細めの薪と紙をセットしまして。
いざ、初魔法。着火!
カチッ ボッ
お、おおう。指先からマジで火が出てきた、出てきたんだけど、着火する時の『カチッ』って音のせいでライターとかチャッカマンのイメージが浮かんで思ったより感動が薄い……。これ、何の音?
≪生活魔法による着火は、指先から可燃性のガスの代わりに魔力を放出し、指先に火打ち石のように固めた魔力をすり合わせ、引火させる仕組みになっている≫
まんまライターの原理じゃないですかー。この指輪作ったのも地球側の人間じゃないよな?
まぁいいや。今の着火でちょっと試してみたいこともできたし、今は早くご飯作ろう。
少し太めの薪を入れて、火の勢いがある程度安定してきたところでフライパンに熱を通して、油を、あ、油買い忘れてた。豚の脂身で代用だ。…明日買いに行こう。
で、玉ねぎと肉の両面を温度が上がり過ぎないよう焼きまして、一旦お皿に取り出して、…アルマ、待って。まだ途中だから。味ついてないから。
調味料を投入して煮詰まってきたらペースト森生姜を投入しまして、肉と玉ねぎに調味料を絡ませて出来上がり。火加減とかちょっと心配だったけど上手くいって良かった。
ご飯を二杯盛りまして、生姜焼き定食(汁物なし)二人前完成。
「できたぞー。じゃあ、それぞれの部屋で食べるか。…不味かったらこっちに返してくれればいいぞ」
一応軽く味見してなかなかイケるとは思ったが、日本人の味覚基準の料理が異世界でウケがいいとは限らんからなー。
地球でも国によってはすき焼きとか甘すぎて食えたもんじゃないらしいし。あんなに美味いのに。
「初めての匂い…嗅いでるだけで、お腹空いてきた。パンじゃなくて、アロライス? 好きなの?」
「ああ、故郷じゃ主食として当たり前に食べられてたよ。この肉によく合うんだこれが」
「へぇ…」
…心なしか肉を見ているアルマの目がキラキラしてる気がする。どうか期待を裏切りませんように。
で、個室に入って実食。うめぇ。生姜焼きも米もどきも日本で食ってるものと大差ない、というかむしろ生姜の風味はこっちのほうが香りにキレがある気がする。
森生姜、お前なんで日本に生まれなかったんだよ。美味いじゃないか。こっちじゃ漢方薬の材料ってもったいなさすぎるだろ。
ものすごく腹が減ってたから夢中で食ってたら5分もかからず完食してしまった。日本と違って時間に余裕はあるし、もっと味わって食えばよかった。
で、流し台で食器と使った調理器具を洗いまして、乾燥させようとしたところでやらかしました。
MP切れた。
原因は水の出し過ぎ。生活魔法の【流水】だけど、発動すると目の前にまるで水道の蛇口を捻ったように水が10秒くらい発生し続ける魔法なんですが、その際の体内の魔力がどんな動きしてるか感じとろうとして何度も発動した結果MPが尽きました。アホかな俺? え、確認するまでもなくアホ? そうですね。
調理器具と食器、洗い終わったけど乾かさないと次に使う人の迷惑だよな。どうしよう。
「どうやって乾かそうかな…」
「ごちそうさまでした、ヒカル」
後ろからアルマの声が聞こえてきた。いつの間に居たんだ?
「ああ、アルマか。いきなり話しかけられたからびっくりした。口には合ったか?」
「美味しかった。すごく、すごく美味しかった」
「そ、そうか。お粗末様でした」
気を遣って言ってるわけじゃなさそうだな。完食してるし、表情も心なしか満足げだ。
こう言ってくれると作った甲斐があったというもんだ。
「どうかしたの?」
「あー、食器を乾かそうとしたんだが魔力が切れた。いま残り0なんだわ」
「え…平気なの? なんで、起きていられるの?」
「え?」
この言い分だと、魔力が切れると気絶でもするのか?
【魔力枯渇】
≪MPが0まで減少すると魔力枯渇状態となり、意識を失う。外部からの魔力供給を受けない限り、個人差はあるが最低24時間、場合によっては1週間意識が戻らないこともある、魔力枯渇状態から意識を回復すると最大MPが1増える。但し外部からの魔力供給による意識回復は1日1回が限度。それ以上は身体が魔力供給を拒むので自然回復を待つしかない≫
なにそれ怖い。
え、いや俺なんともないけど?
≪元々魔力がなくとも問題なく活動できる異世界の存在のためであると推測≫
そうですか。ステータスも状態:正常だし体の仕様が違うんだろうな。
「あー、俺、元々魔力なんてなくてさ。今日レベルアップして初めて魔力を持てるようになったみたいで、生活魔法使ったのもさっき火をつけたのが初めてなんだよ」
「魔力がなかった……ヒカルならなんか納得できそう。もう、なんでもありみたいだし」
実際はなんにもないんだけどな。
「で、今食器を乾かそうとしてるんだけどどうしようかなーって」
「それなら大丈夫。私が、自分の食器と一緒に乾かしておくから」
「アルマも魔力余り残ってないだろ? 平気なのか?」
「問題ない。自分で部屋まで戻って休むことぐらいは普通にできる」
「そうか、じゃあお願いしようかな。ありがとう」
「うん」
俺、この子に助けられてばっかだなー。ヒモになってるダメ男の気分。
そんなこんなで、簡易のシャワーを浴びた後、寝床に入り就寝した。
寝る前にやりたいことはまだあったけど、MP切れてるから試すことができん。寝てしまおう。おやすみ。
因みに朝起きたらMPが全快してたうえ、MPを使い切ってたからか最大値が1増えてた。毎日、寝る前に魔力空っぽにしとけばじわじわと上がっていくだろう。ふふふ。早く2ケタ以上になりたい。
お読み頂きありがとうございます。
明日、もう1、2話ほど投稿する予定です