≪エピローグ≫
今回過去イチ長いです。最後なので。
本日は全大陸が生憎の雨天。
予定していたピクニックには不向き。
当該機能より、確認記録の再生を開始。
これらは各地における人々の営みを記録したものである。
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炙り直したバゲットに乗せたバターが溶けて、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。
厚切りのベーコンエッグにグリーンスティック、マグにはオニオンスープ、ドリンクはブラックコーヒー。
デザートにはもぎたてのエフィスライスまで付いている。
こういうのをゴキゲンな朝食、と言うんだろうな。
「失礼しまーす! おはようございますマスター! 本日の報告書でーす!」
「……おはようさん、ネイア。せっかく持ってきてくれて悪いが、朝食の間くらい待ってくれねぇか。せっかくの御馳走が不味くなっちまうだろーが」
「ご、ごめんなさーい……わ、ホントに美味しそうですねー」
ベーコンエッグに齧りつこうとしたところで、ネイアがてんこもりの書類をデスクに積み上げに来た。
山盛りの書類……山盛りの書類だ……これを今日中に処理しろってか。
殺す気か。齢80近い老骨に鞭打ちまくって粉々に粉砕する気か。
「モグモグ……急ぎの案件は10枚くらいで、上側にまとめておきましたので10時までに処理をお願いしまーす」
「おいコラ、なに当たり前のように人のデザートつまみ食いしてんだ! それ一番楽しみにしてたやつなんだぞ!」
「一切れくらい分けてくれてもいいじゃないですかー。昨日は徹夜で書類整理するの手伝ったし、これくらい許してくださいよー」
「随分と図太くなりやがって……受付嬢やってたころの謙虚さはどこへ行っちまったんだか」
朝食は一日の始めに摂る重要な栄養だ。
ここで英気を養い、モチベーションを上げられるかが今日のパフォーマンスを決めると言っても過言じゃねぇってのに、この秘書ときたら……。
「ところでお昼も出前ですか? なら私も頼もうっとー」
「やめとけ。今日は土砂降りで雨天手当が出るから出前の代金も安くねぇんだぞ」
「むー……まあいいや、マスターの口座にツケときますねー」
「は?! ふざけんなテメェ!」
「今日もどうせ残業なんでしょー!? ささやかな臨時ボーナスくらい支給してくれてもいいじゃありませんかー!」
……それを言われると弱い。
ここんとこ新人が増えてきて特に忙しい時期だからな。
仕方ねぇ、昼食の一食くらいは奢ってやるか。
「もしもーし! こちら冒険者ギルドですがー! ご飯の注文をお願いしまーす! ……え、ワンデイセットが一食ごとに割安でオススメ? じゃあそれでお願いしまーす!」
……出前代が雨天手当のせいで3万エンを超えるのはちと財布に厳しいが。
≪以上が冒険者ギルド【ダイジェル】支部における本日早朝の会話記録≫
≪なお、秘書ネイアリスは手違いにより昼食に加え夕食・残業食までギルドマスター・ヴェルガランド名義で注文したため、後に叱責・厳罰を受ける可能性が高い≫
≪罰の内容は―――≫
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「ふんっ! はぁ! でぇええいっ!!」
「甘いわぁ!」
「ぶほぉ!?」
我が子が放つ、気合充分で勢いも申し分ない槍の一撃。
それを軽くあしらうように双剣で受け止め払い、鳩尾に蹴りを入れる我が妻。
……大丈夫か? 今のかーなーり痛そうだったんだが……。
「げっほげほ! ……ぎ、ギブぅ……!」
「聞こえんなぁ。久々の帰省だ、あと2時間は付き合ってもらうぞー」
「ひいぃ……! オヤジー! たすけてー!」
しごきに耐えかね、半泣きになりながら助けを求めてくる愛娘ことリフィルイナ。
別に虐待しているわけでも厳しすぎる教育をしているわけでもない。
てか妥当。この扱いは極めて妥当なものだと思うのは俺が毒親だからなのか、それともこのバカ娘を矯正するにはこれくらいしないといかんと理解しているからだろうか。
「おかしいだろ! なーんでオレがこんな虐待めいたしごきを受けにゃならんのですか!?」
「おかしいのはお前だアホ。3時間前にギルドでやらかしたことを自分で言ってみろ」
「え……えーと……依頼を選んでる最中にナンパしてきたアホがウザかったからぶっ飛ばしました」
「うん、それだけなら別に怒るようなことじゃねぇがな。そんだけか?」
「……止めに入ってきた職員や他の冒険者たちも勢いに任せてボコりました」
「よく分かってるじゃねーか。その時に壊した設備や建物の壁や床の弁償代や職員や冒険者への慰謝料は俺たちが支払うことになったわけだが、お前自分で返せるか? 強力な装備を無理やり買ったばかりで借金まみれだよな?」
「すんませんでしたー!! お金は必ず返しますからすぐに自腹は勘弁してください!! オレ今1エンも持ってねーからせっかく苦労して見つけた装備売り払いでもしなきゃ金が作れないんです!! あとお小遣いください!!」
「ラスフィ、あと2時間と言わず5時間くらい追加してやれ」
「無論だ」
「ぎゃー!!」
我が娘ながらなんとも残念に育ったもんだ。
まあ資金繰りが終わってるのも、身の丈に合った強い装備を整えてより強い魔獣を討伐したいって理由からではあるんだが。
それはそれとして躾けるべきとこはちゃんと矯正しなきゃな。頑張れよ。
≪リフィルイナ:現『世界最強の夫婦』と謳われているバレドライ・ラスフィーン夫婦の娘≫
≪冒険者としての将来を期待されており、実際に芳しい成果を上げ続けている≫
≪しかし、マナー面と金銭面の管理に問題があり、しばしばトラブルを起こしては両親へ金銭の無心をしているとのこと≫
≪なお、10時間ほど鍛錬は続いた模様≫
~~~~~
「『ノーム』! あのバカ姉を捕まえろー!!」
〈しょ、承知……〉
「ふっふふー! 捕まえてごらんなさーい!」
ヴィンフィートの街中を駆け抜けるバカ姉と、それを追いかけるギルドマスターこと私。
相変わらず速い。伊達にSランク名乗ってないね。
「待てぇー!! ここんとこおばーちゃんからの依頼を全部蹴ってるのはまあ、その、大目に見るけど……せめてその分私のトコに来たしわ寄せの手伝いくらいはやってけバカ姉!!」
「それはごめーんね! でもそりゃあのクソババアの管理が甘いからであってアタシのせいじゃないもん! てか緊急用の便利屋じゃないんだよアタシゃ!?」
「いいから観念して依頼受けろ! 今日は便利屋2号も予定があるからって断られたんだってば! ここんとこ毎日依頼受けさせてたからついにブチギレ散らかしてて説得できねーの! 超怖かったわ!!」
「あーあー……イヴランちゃん、育児中のパパにそんな無茶させちゃ当然でしょ」
「元はと言えばアンタのしわ寄せだっつってんでしょーが! いい加減観念して掴まれ1号!!」
「あ、やっぱ1号はアタシかよ。てか我が家も新生児の育児で忙しいんですけど」
「え、アンタ産んだの!? いつ!?」
「違う違う、オリヴィエちゃんの子だってば。産まれたのは半年前だよ」
「……またぁ? あの子だけでもう4人目じゃなかったっけ? よく体壊さないねぇ……」
「壊れるどころかむしろどんどんツヤツヤになってるというか……どっちかと言うとネオラ君のが心配なくらいだよ」
勇者ちゃんの一夫多妻生活爛れ過ぎじゃない……?
それで、産まれたのは女の子? 男の子? あ、やっぱ女の子か。ミルム君以降ずっと女の子ばっかだよねー。
あ、コラどさくさに紛れて逃げるなバカ姉!!
マジで急ぎの案件が重なってるんだってば! おーい!!
≪この後、アイツェリーナが捕縛されるまで半日経過し、結局グランドマスター自らが事態解決のために現場へ赴いた模様≫
≪そのためグランドマスターが過労により失神。イヴランミィ・アイツェリーナ両名はその埋め合わせのためにしばらく倍加された業務をこなすこととなった≫
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わたしはリュックことリューシック。
ランドライナムっていう港町生まれの8歳女子。
わたしの両親は、二人とも母親。
しかも養子とかシングルマザー同士がくっついてるとかでもなく、紛れもなく血が繋がっている実の親子だ。
それだけでも結構特殊だと思うけれど、それどころじゃないくらい大きな問題があることに最近気づいた。
「ママー、どうしてお母さんはお外でも裸なの?」
「裸じゃなくて、あれは水着よ」
「いやどう見てもほぼ裸―――」
「み ず ぎ よ ?」
「……百歩譲って水着だとしても、大事なとこ以外紐なのはなんで? お母さん、恥ずかしくないの?」
「? 私の身体に恥ずべきところはないと思うが、掠り傷でも見つけたのか?」
「そういう意味じゃなくてさぁ……」
『お母さん』は『ママ』と比べて少し年上で、そのへんの男よりもカッコよくて綺麗。
……でも、そのナイスバディをちょっと見せつけ過ぎっていうかマジで布面積を増やしてほしい。
ちっちゃいころにはそういうもんかと思って特に疑問を抱かなかったけれど、もしかしてママもお母さんもかなりの変人だったりする……?
「リュック、言っておくがさすがに公共の場では礼服を着ているからな? ただ海の現場くらいしか出る機会がないから水着ばかり着ているように思えるかもしれないが……」
「それにしたってもうちょっと他の水着はなかったの!? エッチすぎるよそれ!」
「機能性を重視した結果だ。動きやすいだけでなくきちんと防護服としての機能も搭載されている最高級装備で、破廉恥なことなどない。なあナイマ」
「まあデザインは9割くらい私の趣味だけど」
「やっぱママのせいじゃん!!」
「そういえば、今年からお前も水泳の訓練を始めることになるな。今のうち慣れておくといい」
「え、私もソレ着なきゃダメ!?」
≪ランドライナム海開きは今月末より開始予定。ちなみに現ギルドマスターの私室には8歳女児用の水着が既に数着届いており、布面積は身体表面積の1割に満たない≫
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今日はチビたちと一緒に朝飯を済ませてから訓練所へ向かう予定だ。
今年から入った新人たちも大分様になってきちゃいるが、まだまだ脇が甘い。今日はちと厳しめに行くか。
……教官たちほど苛烈な特訓をするつもりはねぇが。
「ジルドにーちゃん、今日もおしごと?」
「おう。ちょーっと後輩たちをしごきにな」
「おわったらやきゅーしようぜやきゅー!」
「へいへい。お前らもそろそろ仕事のやり方覚えろよ。いつまでも遊び惚けてると院長に食われるぞ」
「院長を魔獣みたいに言うのは止めたげなよジルド。年のせいか最近は食も細ってきてるんだよ」
「いや昨晩5人前くらい肉平らげてただろ!? 細ってあれかよ!?」
「全盛期はアレの3倍は食べてた。いやホントに」
「……院長の全盛期っていつだよ?」
「20年くらい前かな」
「今80歳くらいだろ! 60歳が全盛期って意味分かんねーんだけど!?」
「ていうか80近くであんなにバクバク食べられるのが一番ワケ分かんないよね。でも、腰とか肩とか体のあちこちにちょっとガタがきてるみたいだし、労わってあげなきゃねー。ねーワンシャン」
『オンッ』
「こりゃー!! 食堂の壁にラクガキしたのはアンタらっすね! 待ちなさーい! ケツ百叩きの刑にしてやるっす!!」
「ギャー! バレたー!」
「はやっ!? 院長足はっや!?」
「こえぇー!? 逃げろぉー!!」
……イタズラがバレた悪ガキどもを猛ダッシュで追いかける様はとても齢80の老婆の動きとは思えない。
新人たちに見習わせたいほどの俊足と、落雷を思わせるほど鋭い音を響かせる尻叩きのキレには戦慄すら覚える。
「……あんまり労わる必要ないかもねー」
「ほっといてもあと軽く50年は長生きしそうだな」
『オ、オン……』
Sランク魔獣のワンシャンすらたじろがせるほどの英気。
この婆さん、戦闘職だったらさぞや大成しただろうな。
≪ワットラーン孤児院は直近20年弱にて、第4大陸に13もの支部を展開している≫
≪近年、他の大陸への進出を予定しており、そのスポンサーは……現在、ハードな育児に追われている≫
~~~~~
「ふざけんな! すげぇ武器屋があるって噂を聞いて、遠路はるばる来てやったってのに俺様に売れるモンはねぇだとぉ!?」
店内に怒号が響く。
まったく、静かにしてほしいものだ、近所迷惑ではないか。
まあ普段から苦情が絶えない店ではあるがな! ふはは!
「ふっはははは! 残念だが君では武器に振り回されるばかりで扱えまいさ! 真面目な話、悪いことは言わないから諦めて帰りたまえ。腕のいい武器屋なら近くにあるから案内してやってもよいぞ!」
「テメェ……!! この俺様の筋肉を見て言ってんだろうなぁ!? テメェなんざ紙屑みてぇに引きちぎれるんだぜ!?」
「見たうえで言っているとも。君がこの武器を振るえば最悪死人が出てしまう。というか君が真っ先に死ぬぞ。ほら、アレを見たまえ」
「あァ!? ……え、何だアレ?」
先ほどまで怒号を浴びせていたお客、もといお客に成れない男性がソレをみた途端、怒りも鳴りを潜め困惑した表情のまま固まった。
我が示した先には、壁に突き刺さった一振りの剣とその柄を握り締めたままくっついている太い二本の腕。
「先月も君と似たような者が武器の試運転をしたいと言って、奪うように試作品の武器を店内で振るっていたのだが……武器の勢いに耐え切れずあの有様だよ」
「あの有様って……いや嘘に決まってんだろ! バカにしてんのかテメェ!」
「戒めとして防腐処理を施して腕ごと残しておいてるのだが、いやぁそれはもう酷い有様であった! 伝手に頼んで治してやったのだが、『もう二度とここへは近寄らん』と悲鳴を上げて帰っていったよ。確かグラッツマンとかいうガラの悪い男であったな」
「ぐ、グラッ……!? 怪力無双で有名なAランク冒険者じゃねぇか!? まさか、あの腕……?!」
「うむ、マイ・カスタマーがイチから生やして治してくれなかったら、あの剛腕が失われていたところであったな。あの結果を見ても、まだ我の武器を振るいたいと思うかね?」
「か、帰る!! いらねぇよこんな物騒なもん!!」
「うむ懸命だな。ああ、武器屋を探してるなら向かい側にある鍛冶屋がオススメだぞ。ヒグロ殿ならば我の紹介であると伝えれば適切に見繕ってくれるであろう。いい腕だぞ?」
うむ、今日も平和に問題解決であるな。
マイ・カスタマーとご子息のさらなるニューウェポンの設計も順調だし、絶好調である!
試作品の雛型も先ほど完成したし、早速新運転といこうか!
……む、マイ・カスタマー? なぜ着信拒否しておるのだ? おーい?
≪この数日後、試運転にて専属客の生命力を貫通し重傷を負わせるというある種の偉業を達成した≫
~~~~~
『グギャァァアア!!』
『ギ、ギャァァアアッ!?』
『ギャイン!! ギャヒイィイ!!』
つまらぬ。
人間どもが伝説の猛獣が棲む危険地帯などと大層なことを抜かすものだから期待してみたものの、どれも腑抜けの狗畜生ではないか。
この地帯の頂点と思しき三つ首の大狼も、少し小突いただけで金切り声を上げ逃げていく始末。
拍子抜けもいいところだ。さっさと縊り殺してしまおう。
まるで満たされん。
仕方がない、憂さ晴らしに今宵もあやつと死合うとするか。
この間のように手土産を忘れようものならば地平の彼方まで殴り飛ばしてくれよう。
あの黒髪の弟子は気にくわん。
我が幾星霜もの時を経て鍛え上げた末にたどり着いた領域に、たかが十年程度で追いつこうとしている。
初めは雛のように脆くか弱いゴミのような生き物であったというのに、今では唯一と言っていい稽古台までに成るとはなんとも生意気な。
追いつかれまいとさらに磨き上げ最終進化した結果、我は『スキル』と呼ばれる力の大半を失った。
残ったのは相対する者と互角の膂力を得る能力のみ。
格闘術や体術などのスキルも失ったので、一切の補正なく自分の意思のみで動かす必要がある。
そして気付いた。
スキルなど、我には煩わしい枷でしかなかったということに。
これまでどれだけスキルというものに縛られていたのか、拳を突き出すたびに実感した。
現にこの状態になってから、身のこなしが鋭く強く効率よくなっていくのが分かる。
成程、あの莫迦弟子の成長が早いのも頷ける。
あやつもスキルの類が使えぬ状態で鍛えているのだからな。
もっとも、凡俗の者であれば鍛える前にすぐ死んでしまうであろうがな。
あの弟子は気にくわん。
今晩のメシは、何を作るのだろうか。
≪第4大陸にて発生した終焉災害魔獣『コキュートス・ケルベロス』の討伐を確認。仮にあと数日放置されていれば、第4大陸に甚大な被害を出していた危険性大≫
≪討伐者は『拳鬼闘神』≫
≪なお同日の夜、用意された食事の量が少なかったことに激怒した拳鬼闘神の放った攻撃により大陸の一部が抉れ、陸地の形状が変化。結果、該当区域の地図を書き直すことになった≫
~~~~~
目の前には、短冊のように細長い紙の束。
名前を書き込んでは『なんか違う』と感じて書き直すことの繰り返し。
「う~ん……う~ん……」
「どうしたの? 便秘?」
「違うわい。半年前にオリヴィエが第四女産んだだろ? 次にオメデタになったら名前をどうしたもんかと……」
「気ぃ早くない? てかまだ産ませるつもりなの? ケダモノね」
「いやオレから誘うことはそんなに、そんなに……5回に1回あるかどうかくらいなんやが」
「誘ってんじゃないの。経済的には全く問題ないけど、ここまで大家族になると一人一人の教育に支障が出かねないから自重しなさいよまったく……」
「返す言葉もない……」
うん、誘惑に負けて一回も断れないのは普通にオレのせいではある。
でもアレは反則だよ。30後半とは思えないくらいツヤツヤのプルプルのボインボインだもん。
普段は控えめなくせにいざおっぱいじめゲフンゲフンおっ始めるとサキュバスもドン引きするレベルで(ry
「そんな今からたらればの話で悩まなくても、今後は避妊を徹底するとか対策とれば大丈夫でしょ」
「……」
「ネオラ?」
「……」
「……オリヴィエ、今どういう状態?」
「……五人目が、妊娠2週目だそうです」
「一回切り落としてみる? ホントにパパやめてママになったら問題解決するんじゃないかしら?」
「すんまっせんでした!! それだけは勘弁してくださいもう娘たちからママ呼ばわりされるのは嫌なんです!!」
≪なお、この後の折檻から勢い余ってレヴィアリアとも―――≫
≪ちょっとちょっと、ヒトんトコのそういった事情まで勝手に実況するのやめてくださいよ。やらしーですよ。まあ軽く十回近く致した挙句もう一人家族が増えたんですけどね! きゃーぜつりーん!≫
≪……多産による家庭崩壊のリスクを抑えるために、より強くネオラ付きのメニュー機能が諫めるべきであると考えられる≫
~~~~~
昼食を済ませ、二人で後片付けをしている最中にルナティが憂鬱気に溜息を吐いた。
「ローアちゃん、大丈夫かしら……」
「なんだ、珍しく心配してるのか? 大丈夫、この間も上級職になったと連絡寄越してきたばかりじゃないか。よくやってるよあの子たちは」
「いえ、セレネちゃんとミルム君だけであの子の暴走を抑えられるか心配で心配で」
「……気に病むところがソコかと呆れればいいのか、同意せざるを得ないほどの問題を抱えた我が娘を案ずればいいのか、反応に困るなぁ……」
セレネ君と結婚すると言い出したかと思ったらやっぱり義兄さんとも重婚するとか言い出して、挙句には『ミルムも私の嫁にする』などと言いたい放題。その場合、嫁はお前だろうが。
……自分たちの教育方針に疑問を抱かざるを得ない。どうしてああなってしまったんだ……。
「アルマちゃんに自分たちの理想を押し付けすぎてしまった反省から、自分の望み通りに生きてほしいって方針で育ててきたつもりだけど……」
「自由と無法は違うと教えておくべきだったな……」
「まあ、最近はユーブちゃんがセレネちゃんといい雰囲気になってきてるみたいだし、このままいけばなんだかんだミルム君とくっついていい感じにまとまるんじゃないかとは思うんだけど」
「そう上手くいくかなぁ……」
≪現在、セレフレネはユーブレイブと正式に交際を始めている≫
≪プラトニックながら、良好に関係を結んでいる模様≫
~~~~~
本日、わたくしレイナミウレは34歳の誕生日を迎えることに相成りました。
自宅での慎ましい催しではありますが、家族揃って夕食をとれることに幸せを感じております。
「お母さん、誕生日おめでとー!」
「ありがとっす。30半ば近くにもなると嬉しさ半分、悲しさ半分って感じっすけどねー……」
「見た目は全然変わってねぇけどな。リリアと同い年にしか見えねぇ」
「シャラップっす!」
「あと結局口調も元通りになっちゃったよね。私もだけど」
「うぐぐ……てかなんでリリアは直ったんすか? あんだけ注意しても全然矯正できなかったのに……」
「いや私も同じ口調じゃお母さんのアイデンティティとか危なそうだなぁって。あとお母さん見てたら、大人になってもそのままなのはちょっとなぁって……」
「梯子外すようなこと言うのやめてくれないっすか!? 自分だけこの口調なのがバカみたいじゃないっすか!」
……あれ? これって遠回しに院長まで馬鹿にされてないっすか? 軽く引っ叩いてやろうかしら。
ま、まあめでたい席であんまり目くじら立てるのもなんだし、ここは我慢我慢。
「にしても、毎年お母さんの誕生日はおんなじメニューだよねー。クリームシチューにトラウトのフライ、バゲット代わりにアロライス。そんなに好きなの?」
「ふっふふー、自分にとっちゃ世界一のごちそうっすよ。ドラゴンのステーキなんかよりもずっとね」
「ふーん。私はトマトシチューのほうが好きなんだけどねー。クリームシチューも美味しいけどさ」
「俺はビーフシチューのほうが……いやなんでもないですクリームシチュー最高です睨むのやめてください贅沢言ってスンマセンでした」
「はいはい、アンタらの誕生日になったら作ってあげますからちゃっちゃと食べましょうねー。デザートにプリンもあるっすよー」
「わーいプリンー!!」
≪レイナミウレは自身の誕生日のたびに、同様のメニューを調理・摂取している模様≫
≪生涯にわたり、そのルーティーンは崩れることはないと語る≫
≪当人曰く 『一生忘れられない味だから』≫
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まだ薄暗い早朝。
従魔たちの住まいへ、朝ご飯を届けに来た。
「ご飯、届いた。みんな、食べて」
『ピッ!』
『ピヨ!』
ニワトリ小屋、と呼ぶにはもはや立派過ぎる豪邸。
住んでいるのは数十羽にも及ぶニワトリ魔獣の群れ。
……従魔の住まいが私たちの家よりも大きいのはどうかと思う。
住んでいるニワトリたちの管理は基本的にヒヨコに任せているから、勝手に外へ出たり危険なことをしたりはしないから安心できる。
こうやって出前の食事を届けてあげれば、この子たちも満足のようだ。
『ピッ?』
「なにかあったのかって? ううん、気にしないで」
『ピィ』
今日はあいにくの雨。
セティを連れてピクニックの予定だったけれど、急に天候が乱れたから中止になってしまう。
メニューの天気予報が外れるのは珍しい。
セティが起きた時にどんな癇癪を起こすか分からないから、今から憂鬱にもなる。
……どう宥めようかな。
『びゃぁぁぁぁぁああああ!!! いやじゃー!!!』
『ピヨッ!?』
『ピピッ!?』
……ああ、起きてしまった。
住まいの方から、セティの喚き声がここまで響いてきた。
急に大きな声がして、まるで雷でも落ちたかのようにニワトリたちがわちゃわちゃと騒いでいる。
「大丈夫。……ヒカル、どうにかしてくれるかしら」
≪親子喧嘩勃発≫
~~~~~
わちは、まおーである。
なまえはセツナティア。3さい。
わち、いま、だいげきど。
「セティ! 暴れるのは止めなさい! 物がちらばる! っていうか家が壊れるから! マジで!」
「いーやーじゃー!! わちはピクニックいくんじゃー!!」
「こんな大雨で行けるわけないだろ!? 風邪ひくぞ!」
「アメにぬれたくらいでカゼなどひかんわーい!!」
きょうはわちとととさまとかかさまのさんにんでピクニックだってやくそくしとったもん!!
なのにきゅうにアメがふったからちゅーしとかいいだした!!
うそつき!! ちゅーしなんてぜったいいやじゃ!!
そーげんでおにごっこしたりふろしきひろげてサンドイッチたべたりおひるねしたりするんじゃー!!
「晴れてなきゃできるわけねーだろ! サンドイッチぐちゃぐちゃになるわ!」
「ぜっったいいくのじゃー!! わあああああああんっ!!!」
「ちょ、セティ! やめなさい! ソレぶっ放すのやめなさい! おい、やめ……やめろーっ!!」
イライラしたきもちをぜんぶぶっぱなすつもりで、ととさまにむかってくちから『まおうほう』をはきだすじゅんび。
こないだぶっぱなしたときに『にどとやっちゃだめ』とやくそくしたけど、そっちがやくそくまもらないならわちもやくそくやぶる!!
「ととさまのアホーッ!!!」
くちからでっかいビームがぶっぱなされて、めのまえにあるものをけしとばしていく。
こないだはめではみえないくらいとおいカナタまでさらちにしてしまったほどのすっげーびーむじゃ!
「うおおおおおお!! こんバッキャローがぁぁぁあああ!!!」
……それを、ととさまはアッパーでぶんなぐっておそらへととばしてしまった。
うむ、さすがととさま。これくらいあさめしまえじゃな。
ととさまはすっげーつよい。
いつもはやさしいけど、おこるとすごくこわい。
うまれたばかりのころに、わちをあやつってたクソヤローにキレてボコボコにしていたゆーしはいまでもせんめーにおぼえとる。
「ふーっ……スッキリじゃ」
「そうか、よかったな。……ところでセティ、コレどうする?」
「あっ……」
アカン、いきおいあまってついぶっぱなしてしまったが、そのせいでへやがグチャグチャになってしまった!
てんじょーにアナまであいとる! ヤバい!
「おしおきです!! ほっぺたウニウニの刑に処すからそこになおりなさいこのバカ娘!!」
「びゃー!! ごべんなさーい!!! あだだだだだだいだいいだいいいい!!!」
ととさまは、おこると、こわい。
≪当該機能には意思や感情はない≫
≪デフォルトの疑似人格はあくまでサポートする主の意思に基づいた結果が得られるように、思考を分析・トレースしているに過ぎない≫
≪そこに心は、ない≫
≪梶川光流には才能がなかった≫
≪やる気もさしたる目標も生きる希望もないダメ人間だ、と本人は語っていた≫
≪概ね、同意できると判断≫
≪しかし、この世界に転移して初めて開花した素質は確かにあった≫
≪それは魔力や気力の直接操作のことではない。梶川光流の知能指数が高ければ、より効率的かつ効果的な運用が可能であると推測できる以上、魔力操作の才能も平凡だったと言える≫
≪梶川光流の唯一の才能は―――≫
「ふぇえーんっ! ごめんなさいなのじゃー!」
「……はぁ。片付けは帰ってからにするぞ。ほら、さっさと準備しろ」
「ぐすっ……じゅんび……?」
ととさまがてんじょーにあいたアナをゆびさしながら、ちょっとわらいながらいった。
「空を見ろ。お前があんなもんぶっ放すから雨雲も散っちまっただろ」
「……わぁ! ホントじゃ、晴れたー! ピクニックじゃー!!」
≪どんな絶望もぶち壊すクソ根性、である≫
≪本日は雨天改め快晴。多少地面は濡れているが、絶好のピクニック日和≫
「ん? ダイジェルのギルドマスターから電話? もしもし……え、薬草の納品? 未鑑定のやつをできるだけ多く? 分かりました、ピクニックのついでにセティやアルマと掘り返してきます」
≪この後、運良くヒルカの薬草群生地を発見し、およそ500本もの薬草を納品できた≫
≪ギルドでの鑑定は、ネイアリスがすべて担当させられた模様≫
ここまでの御愛読、誠にありがとうございました。
気の赴くままに書き殴った作品でしたが、お読みくださった方々に支えられて書籍化・コミカライズ化まで達成し、今日まで続けることができました。
改めて、心より感謝を申し上げます。
今後、このタイトルに投稿することがあっても、書籍化の際の特典SSを公開するとか番外編とかになるとおもいます。
本編は本当にこれでおしまいです。寂しいですが。
↓今後はこちらの作品を不定期更新していく予定です。ジャンルは復讐コメディかな。
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