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神を裁き

 今回を含めあと4話。



 アースと呼ばれた子供が、凄まじいプレッシャーを放ち寄生虫野郎をガン詰めている。

 あまりの気迫に、地べたに這い蹲り、めり込んだまましばらく身動きが取れないようだったが、10秒ほどで収まり、顔を上げた。



「さて、何か言い訳はあるかな?」


「ま、待てアース! 元はと言えばお前の世界から抜け出たそいつが私の世界のリソースを盗み出したのが原因だろうが!」


「そうだね。だから君のところに『知道ともみち』を預けて、その分のリソースを補填に回したじゃないか」


「!! ……き、気付いていたのか……?」


「当たり前でしょ? 光流がプロフィールを得るきっかけとなった事件を起こした子だし、よぉく覚えてるとも」


「……トモミチ?」


「えーと、16年くらい前に光流の知り合いの『アイナ』って子を誘拐した子だよ。君が言うところの悪の秘密結社の総帥的なアレだった子。覚えてない?」



 あー、あの、魔王と魔帝を取り込んだけど、最後にはウルハ君に真っ二つにされたアイツか?

 てかアイツ知道って名前だったのか……なんつー普通な。部下に本名言われたらキレてそう。

 でも『子』ってほど若くなかったっつーか、普通にオッサンだった覚えが……。



「ああ、知道のリソースをネコババしたことについては、光流たちのプロフィール分のリソースと交換したということにしてあげるよ。ちょっとそちらが儲けることになるけど、それで目くじら立てたりはしないから安心してね」


「い、言ったな……!? いいんだな!? 吐いた唾は呑み込めんぞ!」


「別にいいってば。……それに、もう君と僕の間でリソースのやりとりをしてもあんまり意味ないからねぇ」


「え……?」



 まるでマルサに脱税がバレた社長みたいな怯えっぷりだが、子供のほうはのほほんとした態度のままにこやかに話を続けている。

 その笑顔が、怖い。

 アルマが怒ってる時に浮かべる笑みによく似ている。内心は般若みたいな形相(ry


 しかし、怒気とは違ってピリピリしていない。

 ただその笑みは決して友好的なものではないのが分かる。

 なんというか、例えるなら……屠殺場の豚、いや、これから裁かれようとしてる死刑囚を嗤っているようにも見えた。



「それに、僕が君を非難するのはお門違いだ。パラレシアで起きたことならば、彼女の判断にゆだねるべきだと思わないかい?」


「ぱ、パラレシアに告げればお前もただでは済まんぞ! どうせ今の今まで一部始終を愉悦に浸りながら眺めていたのだろう!? 即座に通報しなかったのがバレれば……」


「うん、バレてるよ」


「……は?」


「僕も君も、お仕置き決定さ。ご愁傷様~」





「随分と悠長に構えていますね、アース」





「Oh」


「ひぃっ……!?」




 突如、青白い光が地面を覆ったと思ったら、光の中から誰かが現れた。

 黒い長髪に高位の神官の如く豪奢なローブごしでも分かる女性らしいボディライン、眼鏡をかけていてもなお一切曇らないほどの超美人。


 それを見て、金髪の子供は肩をすくめ苦笑いし、寄生虫野郎は悲鳴を漏らし滝のように汗を流している。

 この女性も神様のようだが……あー、もしかして……。



「パラ、レシア……」


「『テラナザァ』。そちらのセツナティアさんをアバターとして操り、こちらの世界へ違法な干渉をしたとして、あなたを逮捕いたします」



 思った通り、女神パラレシア様だ。

 ネオラ君が『声だけで美人だって分かる』と言っていたのも頷けるほど、澄んだ優しい美声。

 人間離れした美貌で、見惚れるのを通り越してちょっと怖いくらいだ。


 この寄生虫野郎の名前まで教えてくれるとはありがた……いや別にどうでもいいか。



「……なぜ、気付いた! 梶川光流はもちろん、勇者やセレフレネとかいう小娘のメニュー機能の眼も私が封じていたはずだ! メニューを通さなければ、詳細な映像を見ることなど……!!」


「もう一人、協力してくださった方がいるのですよ。もっともご本人はそのつもりはなかったようで、梶川さんに挨拶しようとたまたま通りがかっただけだったようですが……おかげでメニューを通じてあなたの犯行を暴くことができました」



 『もう一人』……?

 メニューを使える人間は、俺とネオラ君とセフ ……セレネちゃんだけのはずだが、はて?



「既に『上』へは記録とともに報告済みです。あなたはテラナザァの管理権限と名を失い、今後は『エンド』の管理を任されることになるでしょう」


「い、嫌だぁああ!! 『エンド』なんて何億年経とうとも変化がない、とうに終わった星じゃないか!! たかがモブの一体を削除しようとしただけで、なぜそこまでされねばならんのだ!!」



 ……ああ、やっぱコイツにとっては現実世界の人間なんて、ゲームの中のNPCに過ぎないんだな。

 見た目も精神構造も俺たちと大差ないのに、ただ神か人かの違いが決定的な噛み合いのズレを生じているんだ。



「た、頼む! もうこんなことはしない! 許してくれ!!」


「『上』へ報告した以上、もう私にはどうすることもできません。それに……今回の件もそうですが、あなたはあまりにも世界に干渉しすぎる傾向が強い。例えば先ほどのウルハさん、でしたか。本当は勇者にするつもりはなかったのに、カーソルのミスによって選んでしまったのでしょう?」


「……っ」


「予定外の人間を勇者にしてしまって、速やかに勇者を選び直すために彼の周りの人間の悪感情を増幅し、孤立させ命を奪おうとした。もっとも、アルマティナさんによって勇者に相応しい強さまで鍛えられてからは自重したようですが」



 あー、なんかアルマから聞いたことあるわ。

 ウルハ君、元々は職業に恵まれなかったせいでものすごく弱いのになぜか勇者に選ばれてしまって、そのせいで周囲からバカにされたり悪意を向けられてたとかなんとか。

 なおアルマに滅茶苦茶キツい鍛錬をさせられている最中には同情されることのほうが多くなってた模様。……よく生きてたな。



「あと、急に謎の生物たちがテラナザァを侵略していたのもあなたのマッチポンプでしょう? それは増えすぎた人や魔族を減らすためでしょうか? 違う。ウルハさんに集中しすぎたリソースを回収し、自分の理想通りに配分し直すためでしょう」


「わ、私の世界だ! 私の思い通りに管理して何が悪い!?」


「その侵略者たちの行動も、あなたのアバターとしてある程度直接的に操作していたでしょう? 自らのアバターを用いて世界を操るのはルール違反。管理者として不適格です」



 喚く寄生虫野郎に淡々と問題点を指摘し続ける女神。

 まるで学校の先生と生徒みたいだぁ。

 ……いや、怒られてる方がキショ過ぎてあんまり生徒感はないが。

 どっちかというと無能な同僚か部下に指摘事項を告げているお局……ちょっと胃が痛くなってきたのでこれ以上はやめとこう。



「……マッチポンプならばお前もしているじゃないか、パラレシア……!」


「……」


「魔王と魔族、あれこそがまさにマッチポンプだろうが! 魔族に殺人衝動を備えたまま誕生させ人類共通の敵として呉越同舟を促し、さらには人口調整をも任せた挙句勇者によって倒されるまでが役目、という実によくできたシステムだよなぁ? 非人道的すぎて私でも引くほど倫理を逸しているお前の管理が認められて、なぜ私ばかりが咎められねばならん!!」


「だよねー酷いよねー女神っていうかもう悪鬼羅刹の所業だよねー」


「あなたは黙っていてくださいアース」



 それはそう。

 魔族にも人類に対しても倫理ガン無視のシステムは冷徹と呼ぶ他ない。

 実際、人類同士の大きな争いや過度な人口爆発を防いでいるという功績があるのもまた事実だが。



「確かに、倫理に反しているシステムであることは認めましょう。人を個人ではなく群で管理するため人道に反した管理をしていることも、魔族たちをそのための捨て駒にしていることも事実です」


「ならば、私の管理についても口添えしてくれてもいいだろう! お前と私は大差ないはずだ!」


「あっはっは、往生際が悪すぎてなんかもう逆に君のことがどんどん好きになってきたよ。こんなに無様で恥も外聞もなく情に訴えかけて、今この場を必死にしのごうとする様は実に人間らしくて魅力的だよ、テラナザァ」


「お前は黙っていろアース!!」



 喚き続ける寄生虫野郎を、煽ってるのかそれとも本音なのかよく分からない茶化しかたをするお子様。

 つーか、セティを抱えて来た時はこの子供が寄生虫野郎を裁く流れだっただろ。なにシレッと横から茶々入れる側に回ってんだ。



「あなたと私の違いはただ一つ、神としてのルールを守っているかいないか。それだけです」


「そのルールがどういう基準で―――」


「ルールを決めるのも考えるのも我々ではありません、全ては『上』が決めたことです」


「それに疑問すら抱かないのか!?」


「抱くのは個人の自由です。それに対し不満を抱く行動を伴っているかどうかが私とあなたの相違点だと告げているのです」



 神々のものとは思えないほど無駄に哲学的な会話だが、コレ全部寄生虫野郎が罪から逃れるための言い訳みたいなもんなんだよな。

 いい加減飽きてきたのか、金髪の子供があくびをしているし。



「はいはい、もういいかい? どっちにしろもう君は詰んでるし、これ以上は時間の無駄だ。まあ次に期待して、今は大人しくお縄に着いときなよ」


「……エンドに落とされて、次などあるものかぁ!! こんな、こんなことになったのも全部、全部貴様のせいだぁ!! くたばれ梶川ぁ!!!」


「なっ、止めなさい! テラナザァ!!」



 おっと、再びこっちに矛先を向けやがった。

 セティを抱えている状態なら抵抗できないと見てか、それとも俺じゃなくてセティを狙っているのか知らないが、死に物狂いの形相で突っ込んでくる。

 パラレシア様の制止も聞かず、ただただ俺への逆恨みを晴らすために。



 うん、アースっつったか? この野郎を好きになってきたという、この金髪君の気持ちが今ならちょっとだけ分かる。

 さっきまでコイツのことをただただ殺さなきゃならん害虫くらいにしか思っていなかったが、今は違う。



「ヘイ、パス」


「え? ……おっと!」



 金髪君にセティを預け、身一つで迎撃態勢をとる。

 これで、なんの憂いもなくなった。




「死ねぇえええ!!!」


「……ふうぅ……!」



 寄生虫野郎が繰り出してきた拳に対し、横から手首を掴みつつ受け流し。



「どおぉおらぁっ!!」


「ごがああぁっ!!?」



 突っ込んできた勢いを利用して、一本背負いで地面に叩きつけた。

 受け身も取れずモロに全身を強く打ち、悶絶して地面に倒れ込んでいるところに―――



「ふん! ふぅん!! ぬうぅうんっ!!!」


「ぎゃぁあ!! や、やめっ!!? アガァァアアヴォェッ!!!」



 顔面、胸、どてっ腹の順に全体重を乗せた踏みつけをお見舞い。

 鼻、あばらの骨が折れた感触の後に腹を踏んだところで何かが潰れるような踏み心地の直後、胃が破裂したのか勢いよく口から血を吐き出した。


 まだ終わらんぞ。



「オラオラオラオラオオラオラオラァアアアッ!!!」


「アガガガガガガボベババババババババッ?!!」



 マウントポジションをとり、ひたすらグーパンチで顔面を殴打。

 殴られるたびに左右に顔が向き、血反吐が撒き散らされていく。



「ッッオラァァァアアアッ!!!」


「ばっっふぇあっ!!!」



 トドメに渾身の力を籠めて、顔面をサッカーボールの如く思いっきり蹴り飛ばしてやった。

 アタマを吹っ飛ばす勢いで蹴ってやったが、随分と頑丈な体のようで気を失っちゃいるがまだ生きてるようだ。



 暴力はいけないことだし、人を傷つけることは気分が悪い。

 ……だが今だけはとても晴れやかな気分だ。


 俺や家族を殺そうとしやがったクソ野郎に対して、まだちょっと殴って首へし折る寸前程度のことしかやっていなかったのに、あの話の流れじゃそのまま後は神側の事情で裁いて終わり、なんてことになりかねなかったからな。

 コイツが俺に対して最後の最後まで敵意と害意を示してくれたおかげで、正当防衛という形でボコることができた。

 少し、ほんのすこぉーしだけ、そこだけは認めてやるよ。



 お前は害虫なんかじゃない、立派なサンドバッグだった、と。



「……御無事でなによりです。少々やりすぎですが……」


「あぶぅ~! きゃっきゃっ!」


「うわ、めっちゃ笑ってる。ちょっと光流、教育によくないんじゃないの?」



 顔を引き攣らせているパラレシア様の隣でセティを抱えてる金髪君が、俺を咎めるように呆れた声で声をかけてきた。

 いやまだ目ぇ開いてないから大丈夫……いや開いてるわ。いつの間に。

 赤ん坊ってのは比較的早く目が開くものらしいが、なにもこんなタイミングで開かんでも……。



「生まれて初めて見た光景がコレとか絶対に悪影響あるでしょ。これは将来立派な魔王になるわー怖いなー」


「やめろ。預かってくれてありがとうもういいから返せクソガキ」


「ドライだな~」


「だぅ~!」



 煽る金髪君からセティを奪いように受け取り、揺らしてあやしてやると本当に楽しそうに笑ってくれた。

 ……頼むから今の光景は忘れていてくれんかな。

 いやでもパパの勇姿を覚えていてほしい気持ちも……心が二つある~。



「さて、勢いでボコボコにしちまったが、コイツはどうするんですか? 女神サマ」


「テラナザァはこちらでしかるべき処罰を下します。今後、パラレシアや梶川さん方に干渉することはありません。口約束での保障で不安かもしれませんが、私の名に懸けて誓います」


「神の名に誓って、というやつですか。比喩でなく御本尊から直々に言われるのはなによりの保証でしょうが……しかし、その神が法を犯しこちらに害をなそうとしたこともまた事実なのですが」


「……返す言葉もありません」



 我ながら意地悪な返しだが、こればかりは譲れん。

 裁くなら、確実にこちらへ危害を加えられないような処罰をしてもらわなけりゃ安心できん。



「んー、光流。不安なのは分かるけどさ、例えばその子は? その子が魔王の因子を持ってるのは知ってるよね? その子が将来パラレシアを力で支配しようと大暴れしないって保証できる? できないなら処理しないといけないよね?」


「そんなことには絶対にならないように育んでいく。誰一人としてこの子には殺させないし、この子を殺そうとするってんならアンタらでも容赦しない」


「うんうん、僕もそう信じてるし、きっと大丈夫だと分かっているよ。だから、光流もどうか信じてほしい」



 ……疑わしいのはお互い様だってか。

 納得はしきれないが、これ以上ゴネても話は平行線だろう。



「大丈夫。万が一また同じようなことになった時には『今すぐ助けないとパラレシア滅ぼすぞ』って彼女を脅せばすぐに対応してくれるさ」


「あ、納得」


「納得しないでください」



 腕を組みながら睨みつけてくる女神様。ごめんて。

 だが、そういうことならまあ、ここを落としどころにしてもいいだろう。



「それじゃあ話が綺麗にまとまったところで、現実へ帰ってもらおうか。いい加減通知(メニュー)もうるさいし」


「通知?」


「こっちの話。それじゃあ後は頼んだよパラレ―――」




「待ちなさい。テラナザァによる事件を放置し通報を怠ったあなたへの処罰は私に一任されています。梶川さんが帰った後にお仕置きが待っていますので、逃げないように」




「……やっぱ忘れてなかったかー」




 これまでで最高にいい笑顔を作りながら、金髪君の肩を掴み止める女神様。

 まるで普段ムカついてる上司に反撃の機会が巡ってきた社畜みたいな笑顔だぁ……。

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
モールス信号の解読ができない_| ̄|○ il||li
更新乙 しっかし ふと思うのが鬼先生は神の領域に足突っ込んでんじゃね? もしくわ神のアバター説がwww セティは神様に抱かれた子として称号付きそうだな~
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