予定通り
最後に少々ショッキングな描写アリ。
世界中の猛者たち、そしてユーブとイツナの活躍により魔族騒ぎは解決した。
今回のような騒ぎは滅多に起きるようなもんじゃないだろうし、今後は大きな事件があっても俺がしゃしゃり出る必要はないだろう。
万が一があっても、後のことは託せる。
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魔族たちの大本を倒したことで、今度こそ魔族たちは地上から消え去った。少なくとも今の時代からは。
討伐が完了した直後、朝まで夜通し戦ってた疲労もあってぶっ倒れてしまい、気が付いたら次の日の朝になっちまってた。
魔族騒ぎの翌日。
ネオラさんや他の特級職たちはそれぞれ元居たところへ戻り、俺たちも第5大陸へ戻ることにした。
好きなトコに送ってもらえるって言ってたし、ホントなら第1大陸のギルド本部へ戻ったほうが楽なんだろうがあえて遠慮しておく。
「なんたって第5大陸にはアレがあるからねー。そのために王都を目指してたわけだし」
「アレ?」
「ついでだ、お前も付き合えよフォルト。王都に着いた後もどーせ行くアテねぇんだろ?」
「あー……まぁな。ぶっちゃけ観光目的で来たようなもんだったし、なんか名物でもあるなら一緒に楽しませてもらうわ」
もうすっかりパーティの一員のような扱いだが、いっそこのまま正式に登録させちまうか。
正直コイツとは気が合うし魔族相手にも随分助けられたし、イツナとも仲は良好だし。……男としてじゃなくて愛玩目的で接してる感はあるが。
「んふふ、報酬にもらったドラゴンチケットのおかげでタダ乗りできるぜー!」
「そいつがなけりゃまた依頼をこなして金稼ぎするハメになるトコだったな……」
「ドラゴンチケット? ……あ、まさか『竜翼便』に乗る気なのか?」
「イエース! しかもVIPだから白い竜に乗せてもらえるんだよ! さーらーに! もしかしたら、ドラゴンの飼い主がテイムしてる他の魔獣もモフらせてもらえるかもしれない……!」
「ドラゴンだけで我慢しろ。キリがねぇだろ」
竜翼便は第5大陸王都にしかない、ドラゴンに乗って移動できる交通便だ。
しかも乗れるのは貴族や高ランク冒険者のような金持ちくらいで、さらにその中でも白竜は極一部のVIPにしか乗ることを許されていない。
なんせ世界最大戦力の一角を担う第5大陸飛竜部隊のリーダーだしな。
俺は見かけなかったが、さっきまでの魔族との戦いでもかなりの活躍をしていたらしい。見たかったなぁ。
「翼竜便でどこへいくつもりなんだ?」
「第1大陸のギルド本部だけど、せっかくだしちょっと遠回りして色々と見て回ってもいいかもねー」
「そこまで融通利くもんなのか?」
「期間内ならよっぽどの無茶をさせない限りは自由に飛び回ってくれるらしいよ。国防の都合とかであまり長くは付き合ってくれないみたいだけど」
「そりゃいい。そんじゃご厚意に甘えてアチコチ寄り道するか」
そんな具合に王城までやってきて、チケットを門番に渡すと飛竜部隊の宿舎に案内された。
宿舎で俺たちを待っていたのは隊長の『ラーナイア・ソウマ』ってオッサン。
白竜ことホワイトドラゴンの主らしいが、なんだか心労で早死にしそうな……苦労が顔に滲み出てる印象だ。
「先日の騒ぎでは大いに活躍したそうだね。お礼といってもこれしきのことしかできぬ身だが、どうか楽しんでいってくれ」
「はーい!」
「あの、大丈夫っすか? 失礼かもしれねぇけど、目元のクマすごいんすけど……」
「……気にしないでいい。ウチのクソドラゴ……粗暴なボケどもが『暴れたりない』とか喚いてるのを諫めてきたばかりでね、少し疲れてしまったんだ」
「言い直した意味あるソレ?」
そんな気難しいドラゴンたちにちゃんと乗せてもらえるか心配だったが……。
『アッ……スミマセン、ドウゾお乗りください、ハイ』
「腰低っ」
意外にもすんなりと話が通った。
絶対『お前みたいなちっぽけな存在が我の背中に乗ろうなどと百年早いわ』とか言われるかと思ったのに。
「……気のせいか、お前を見て怯えてねぇかユーブ?」
『そ、そそそそんなコトナイデスヨアハハハアババババババ』
「バチクソ動揺してるじゃん……」
あの孤児院のある街にいたルナフェンリルと同じ顔で怯えている白竜。デジャヴ。
もしかして白竜も親父の知り合いで、その面影を見て怖がってるのか? 解せねぇ。
準備が整い出発する直前に、宿舎のほうから黒髪のイケメンオヤジが見送りに来た。
あれ? あの顔、まさか……。
「もう行くのか? 忙しねぇな」
「お、アイザワのイケオジじゃん! 昨日はありがとねー!」
「アイザワって……剣王の、アランシアン・アイザワか?」
「おう。……そっちはカジカワそっくりだ。白竜がビビるのも無理はねぇな」
『タスケテ』
やっぱ親父のせいか。クソが。
……今後、親父の息のかかってない有名人を探すのも悪くなさそうだ。
アンタのコネとは違うところで、俺も繋がりを持てたんだぞって言ってやるためにな。
怖がるドラゴンの背に乗って、寄り道しつつ第1大陸へ向かった。
寄り道といっても、これまでの道筋を逆戻りしながら眺めるくらいのもんだったが。
それでも、この景色を守ることができたということが、嬉しかった。
第1大陸のギルド本部に戻る前に、同じ大陸の実家へ顔を出しておこうかとチラッと思いそうになったがやめた。
まだSランクになってないし、親父や母さんと会うのが妙に気恥ずかしかったから。
どうせ会うならもっと立派になってから度肝を抜いてやろう。
そう誓って、実家を尻目にギルド本部へと帰還した。
「あ、おかえりー。早速だけど次の依頼きてるからいってらーがんばってー」
「えっ、ちょ!?」
「オイ待てコラふざけんなテメェ!!」
「あの、まだ自己紹介もしてな―――」
グランドマスターの執務室へ戻るなりそう言われて、また転移魔法で飛ばされた。
フォルトも当たり前のように巻き込まれてたが、俺らのあずかり知らねぇところで勝手にパーティへ加入されてる扱いになってたらしい。手間が省けたが不憫だ。
それはそうとあのアマいつか泣かす。
そんな具合に、魔族騒ぎが終わった後もグランドマスターの下でこき使われる日々が続いた。
報酬がデカいのがせめてもの救いだが、ぶっちゃけあんまり使う機会がない。生活費以外には食べ歩きにくらいしか使ってねぇし。
魔族騒ぎほどじゃないが、かなり危ない依頼も何度かあった。
特に第3大陸でヒュドラとかいうドでかい猛毒ヘビが出た時が最大の修羅場。
何が危なかったかって、毒を撒き散らしまくってるヒュドラをイツナがペットにしようと突っ込んだせいで危うく全滅するとこだった……。
あれから約1年弱。既にSランクへと昇格し特級職の『エンド・パラディン』にもジョブチェンジできた。
概ね事前に言われていた予定通りだったな。
そして昨日、『妹が生まれた』と一報が入ってきたので大慌てで実家へ戻ることになった。
妹の顔を拝んだ後に、イツナの蛮行をチクって説教してもらおう。
「やぁーめぇーてぇー!! 今度こそママに殺されるぅぅぅうう!!」
「やかましい!! テメェはいっぺん死ねボケ!!」
「ま、まあまあ。久しぶりの帰省なんだろ? そんな殺伐としたことわざわざ伝えなくても……」
『ピキ』『コケ』
実家へ向かいながら喚くイツナと、それを宥めるフォルトの肩で呆れた様子のウサタローとヒヨサブロー。
最初はイツナと二人だけだったのに随分と賑やかになったもんだ。
お、そろそろ実家が見えてきたな。
久々の我が家だ。やたら目立つ赤い屋根が懐かしい。
漂う空気の匂いすら、何もかもが俺たちの帰省を歓迎しているように思えた。
「いやぁぁぁぁあぁぁああああああっっ!!! あなたっ!! あなたぁああ!! ヒカルぅうううううっ!!!」
玄関を開けようとした時に、耳を劈く絶叫が聞こえるまでは。
「今の……ママ?」
「っ! 母さん!!」
母さんの叫び声を、生まれて初めて聞いた。
心音が跳ね上がる。嫌な汗が止まらない。
何があったのか、そんなこと考える余裕もなく玄関を開いて家の中へ駆けこんだ。
「あ、ああ、なん、で、なんでっ……」
声の聞こえた部屋へ向かうと、まず手で顔を覆ってうめき声を漏らす母さんの姿が目に入った。
涙を流しながらただ茫然としていて、俺たちが帰ってきたことにすら気が付いていない。
次に、真っ白で清潔そうなおくるみに包まれている、宙に浮かぶ赤ん坊。
この子が、俺たちの妹のようだ。まだ目も開いていない、真っ赤で小さな小さな可愛らしい顔だ。
そして
「え……おや、じ?」
「ぱ、パ、パ……」
首のない誰かの死体と
親父の頭が、血まみれになって床を転がっていた。
≪予定通りに、進行中≫




