決着の予感
「イツナ、無理しなくていい。だが、ほんの少しでいいから時間を稼いでくれ。その間にコレ食ってスタミナ回復するから」
「ふふん、時間を稼ぐのはいいけど、別にアレを倒してしまっても……待って待ってなにその紫色の弁当は。キモッ。腐ったモン食べる趣味にでも目覚めたの? お腹壊すよ?」
「違ぇんだよ! これしか一気にスタミナ回復する手段がねぇのマジで!」
例の暗黒弁当を取り出した俺を変質者でも見るかのような目で眺めるイツナ。
勘弁してくれ。俺だってこんなもん食いたくて食うわけじゃねぇんだよぉ……。
「さぁさぁ、かかってきなさい! 私とこの二羽の強さ、お披露目といこうじゃないの!」
『ピ、ピキッ!』
『随分と威勢のいいことだ……実力がそれに伴っているかは別の話だがな。さて、早速だがどう捌く』
魔族が空に両手を掲げると、上空から炎の弾が雨のように降ってきた。
上級攻撃魔法『フレアレイン』か! 他の変異した魔族たちと違って魔法もしっかり使ってきやがる!
「避けろ! まともに受けたら消し炭に―――」
「『コケコッコォォオオオオッッ!!!』」
警告したその時、イツナが気の抜けるような咆哮を上げた。
ニワトリのマネなんかしてる場合じゃ……えっ?
『! ……咆哮で、魔法をかき消しただと?』
「ふはーっはっはっは! ぬるいわぁー!」
確かに見た。
イツナが朝を告げるニワトリの如く叫んだ際、やたら羽毛の長いニワトリの姿がイツナにダブっているのを。
そしてその咆哮が炎の弾をかき消し、さらに魔族の体を後退りさせていた。
……なんだ、今の?
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ボクはニワトリである。名前はヒヨサブロー。
タマゴだった時に『ママ』に拾われて、温めてもらって孵ったのがボク。
毎日愛情たっぷりに育てられて、それに応えられる立派なニワトリになろうと、厳しい鍛錬を続けてここまで進化した。
ごめん嘘。
ホントは頑張りたくなんてなかったけど『隊長』に無理やり鍛え上げられた結果進化せざるを得なかったんだよねぇ……。
あんな地獄の特訓なんか二度とごめんだ。弱いままでいいよもう。
ある程度強くなって自堕落に過ごせればそれでいい思ってたけれど、ママがヤベェ親の元から自立した時からそうも言ってられなくなってしまった。
『魔族』というこれまたヤベェ連中と対立するようになって、そのたびに死にそうな思いで戦う羽目に。
こんな戦い、いつまでもついていけるようなもんじゃない。
それでも、自分の価値を示すために必死に喰らい付いていた。
少なくとも新参者のウサギ野郎には絶対に後れを取らないように、そう思ってたのに。
『いいから戻れ!!』
結果は後れを取るどころか、ちょっと魔族の魔法が掠っただけでズタボロにされる始末。
大怪我を負ったボクを厳しい顔で怒鳴って離脱させたママの顔が、怒鳴り声が頭から離れない。
それに対し、あのウサギ野郎はママの命を救う大活躍だってさ。
情けない。
生まれて初めて自分を恥ずかしく思った。
この悔しさに比べたら、この苦しみに比べたら隊長の特訓の苦痛なんか……いやアレはアレで地獄だけど今の苦しみのほうがギリ勝ってる……気がする。
なによりママの相棒ポジションをあのクサレウサギに取られたのが死ぬほどムカつく!!
許せねぇ! こうなったらどんな手を使ってでも返り咲いてやる!
そう心の中で固く誓ったところで、レベルアップとともに体の傷が全快するのと同時に『進化』の項目が脳裏に浮かんできた。
さっきの魔族をママが倒した際に、ボクにも膨大な経験値の一部が流れ込んだ結果Lv60を超えるほどのレベルアップをしたらしい。
久方ぶりの進化だ。でも、タダの進化じゃあのクソウサギには勝てない。
体格もレベルもあちらが上。しかも固有魔獣だからレア度も上。
……ならば、こちらも固有魔獣へ進化するのみ!
既に選択肢は解放済み。
なんせ隊長による地獄の訓練を経て『蛮勇者』や『終焉災害事前討伐勇士』といった固有進化に必要な称号はいくつも取得してるからな。半ば強制的にだけど。
かつての隊長と同じように大きくなれる『風船鳥』を選ぼうかと思ったけれど、よくよく考えたらあのボケカスウサギもデカくなるから能力が被る。
ヤツとは違う形でママの力になりたい。
ボクにしかない力で支えになりたい。
そしてあのゴミクズウ●コウサギの鼻を明かしてやりたい。
そう思って、ボクは――――
~~~~~
イケおじことアランおじ様と一緒に魔族たちとやり合っている最中、ヒヨサブローを呼び出した時には思わず目を見張った。
プラチナムコッコだった時とは明らかに毛色が違う。色んな意味で。
強い光沢を放っていた白銀の羽毛は淡く儚い純白に、しかしまるで天女が纏う羽衣を思わせる繊細な美しさがあった。
てか伸びてる。羽毛と脚が伸びてる。まるで白鳥だ。
……と、一瞬思ったけれど、顔つきなんかはさほど変わってないし赤い鬣が残ってるせいか、よくよく見るとやっぱニワトリだった。
本当に驚いたのは、急にヒヨサブローが私の肩に飛び乗ってきた直後。
ヒヨサブローの体が眩いくらいに光って、たまらず目を閉じてしまった。
光が収まり、目を開けた時には私の衣服が純白のドレスへと変わっていた。
まるで児童向けのベタな物語に出てくるお姫様みたいな、どこか現実離れした衣装。
頭にニワトリの鬣を思わせるヴェールが付いているのを見て、これはヒヨサブローがドレスへ変わったんだとすぐに分かった。
どうやらヒヨサブローは固有魔獣へと進化していて、その能力が『自分が従属している主の装備へと自身を変化させる』らしい。
従魔専用の固有進化。主なしでは並の魔獣にすら劣るリスクのある進化先のはずなのに。
それを、ヒヨサブローは私のために選んでくれたんだ。……怒鳴ったりして、ごめんね。
『……なるほど、その衣装は固有魔獣が変身した装備か。我らの結束の真似事としては上出来だ』
「今の私は、ヒヨサブローと一心同体! そんなグチャグチャな合体と一緒に思ってもらっちゃ困るわー!」
目の前の巨大な魔族は、おそらく夥しい数の魔族が合体したものだと思う。
見た目もキモいけど、感じられる魔力がものすごく気持ち悪い。
極彩色の絵の具を何百種類も無理やり混ぜようとしてるような、それでも混ざり切れないで絡まり合っているような……言葉にするのが難しい、名状しがたい印象。
「…………うえぇ……肉に霜降ってるのが逆に嫌だぁ……」
どれくらいキモいかというと、今まさにユーブが食べようとしてる紫色のローストビーフっぽい肉くらいキモい。
そんな苦虫噛み潰したような顔で嫌がるくらいならやめとけばいいのに……。
食べるのに苦戦しそうだから、もう少しヘイトを稼いであげよう。
「今度はこっちの番だー! とりゃー!!」
『っ!? 飛んっ……ぐぁっ!?』
魔力飛行で突進し、シールドバッシュをぶちかました。
まさか空を飛ぶとは思わなかったのか、面食らった様子で驚いている。
『奇妙な真似を……! 堕ちろハエめが!!』
「ざーんねーん、あーたりーませーん。ブンブンブーン!」
『鬱陶しいっ、なんという飛行能力だ……!』
魔族が攻撃魔法の弾幕を放ってきたけれど、余裕綽々で回避できる。
ヒヨサブローのドレスのおかげか、魔力飛行の制御が遥かにやりやすい。
このドレスは着用者の機動力補助効果もあるみたいで、魔力飛行と組み合わせると自由自在かつ超高速で飛べるようになった。超便利。
「おりゃぁあっ!!」
『ぐっ……! 効くか! いい加減にしろ!』
「おわっと?!」
しかし、何度シールドバッシュをぶち当てようともまるで効いていない様子。
魔族からしたらちょっと強めにビンタされたくらいにしか感じてなさそうだ。
質量差と能力値の差が大きすぎる。
私の魔力飛行の動きに早くも慣れ始めたのか、徐々に攻撃が当たりそうになってきてヒヤヒヤする。
てか、ユーブはまだ食べてるの!?
そろそろ避け切れなくなってきたんですけど! あっ、やべっ! 当たる!!
『死ね!』
「うぎゃっ!?」
魔族の振るう拳が、ついに私を捉えた。
空中で、しかも咄嗟に後方へ飛んで受け流したのにこの威力! 地上でまともに受けようもんなら即ミンチじゃないのこんなの!
うわ、しかも追撃の準備してる! 両手で圧し潰そうと手を広げてやがる! やめろー! 私はハエや蚊じゃないぞー!
『潰れろぉっ!!』
「させるかボケェッ!!」
両手が私を圧し潰そうとする寸前で、巨大な何かが魔族の手と手の間に刺しこまれた。
これは……剣? ママの『大地剣』にそっくりなでっかい剣が、私を守るように割り込んできたようだ。
「悪いイツナ、待たせたな」
「……え、このデッカい剣、ユーブが出したの? まさか魔法剣?」
「おう、ついにハイ・パラディンにジョブチェンジしたってわけよ。当然、魔法剣も使えるってこった。驚いたか?」
「うん。ママのに比べたらちょっとショボいけどビックリした」
「うるせぇ! アレと比べんなや!」
「あとハイ・パラディンってまだ中堅職なのにドヤ顔してるのにも驚いた」
「黙れ!」
「……でも、こんだけデカい質量ならアイツも斬れる。こっからが踏ん張りどころだよユーブ!」
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「大分時間が経ったし、そろそろ決着着くころかな」
『あの子たちだけで大丈夫そ?』
「無問題。気力操作も魔力操作も他人と協力することでさらに相乗効果で強力になるので、ちゃんと連携すれば勝てますよ」
『ならいいけど、そのちゃんとした連携ってのはアテになるのかな? ボケとツッコミの息は合ってたけど』
「俺を一度殺しかけたくらい息ピッタリですがなにか」
『最強の説得ワードやめろ』
「大元を倒して魔族を全滅させたら、一応の決着ということになりますね。いやぁ、長い仕事でした」
『……それで? 結局本当の原因はどうするつもりなのさ』
「それも多分大丈夫です。その件についてはこちらで対応しますので、どうかご容赦を」
『はいはい、分かったってば』
「だから第4大陸で暴れ散らかしてる鬼先生をどうにかするように手を回していただけると……あ、通信切りやがった! グラマスてめぇ薄情者ぉ!」




