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目覚めの時



『……よく戦った。人類にしておくには惜しい逸材だったな、お前は』


「はぁ、はぁ、はぁ……っ」



 魔族が何か喋ってるようだが、内容が頭に入ってこない。

 視界は揺れてるし、右耳は鼓膜が破れてるのか何も音が聞こえない。


 体中がいてぇ。

 肋骨にヒビが入ってるのか、息をするだけで胸が痛い。


 四肢がなんでまだ繋がってるのか不思議なくらいズタズタだ。あとちょっとで骨が見えそう。

 剣を構えることすら億劫。立っているだけで拷問みたいな苦痛。




 なんで、こんなズタボロになるまで頑張ってるんだっけ、俺。


 甘かったなぁ。

 俺やイツナなら楽勝でSランク冒険者として活躍できるって、小さいガキの頃から確信してたのに現実はこのザマだ。

 どれだけ強くなっても、ものすごく強くなったつもりでも、皆の期待一つにすら応えられない。


 イキッて突っ込んで、ボコボコにのされて。

 そんな無様を何度繰り返せば気が済むんだか。

 その挙句、悔しいとか情けないとか思う前に、俺は最低で甘ったれたことを考えてる。



 ……帰りたいなぁ。



 もしも今、家に帰ったら、母さんはなんて言うだろうか。

 依頼を途中で放棄して帰ったことを叱られるのかな。

 そんな情けない男に育てた覚えはないって、泣かせちまうかもしれない。

 それとも、よく頑張ったって、優しく言ってくれるのかな……。






『では、そろそろお前を殺して、再び大津波を起こすとしよう。それに対処できなくなった時が、貴様ら人類の最後である』



 人類の、最後?



『案ずるな。お前一人寂しく逝くことはない。お前の家族も隣人も友人も想い人も全て、すぐにお前と同じ所へ逝くさ』



 家族も……全て、逝く?



 イツナも親父も……母さんも?

 ローアも、セレネも……?



『じゃあな、宿敵よ』



 魔族が巨大な拳を空に挙げ、俺に向かって振り下ろした。

 受ければ潰されて死ぬ。

 避けることは不可能。速すぎるしデカすぎる。死ぬ。





 そんなことはどうでもいい










 ふざけたことぬかしてんじゃねぇぞカス






「死ぬのは」



 へし折る勢いで、剣の持ち手を万力の如く握り締めた。


 受けも避けもしねぇ。


 やることはただ一つ。



 ぶった斬る!!




「テメェだゴルァァアアアアッ!!!」


『なっ……ぐぉおっ!?』


 

 振り下ろされた拳を、残った全ての力を籠めて斬りつけた。

 啖呵を切ったはいいが、俺の全力なんざたかが知れてる。それでいい。それでもいい。


 そう思ってヤケクソのまま放たれた斬撃は、容易く魔族の拳を両断した。



『貴様……! なんだそれはっ……』



 なんだその力は、ってか?

 人間、追い詰められれば火事場の馬鹿力ってやつが使えんだよ! なめんじゃねぇ!!





『なんなんだその剣はっ!?』




 ……へ? 剣?





 魔族の言葉を聞いて、手に持った剣を見ると、血管みたいな紋様を浮かべて不気味だった剣がさらに悍ましく変化していた。

 青筋を思わせる紋様が剣身を覆い、そのうえ炎のようなオーラを纏っていて、見るからに禍々しい。

 まるでさっきまでの怒りを剣が投影しているかのように見える。



⦅ヴァァァァ……!!⦆


「ひいぃっ!!? なんだコレ気持ちわるぅっ!?」



 しかもなんか変な唸り声まで聞こえてくるし!?

 なんだこの剣!? 親父のヤツ、マジでなにを作らせやがったんだ!?



『不気味な……! そのような悍ましいモノに頼ってまで人類を存続させたいか!』


「俺だってこんなモン使いたくねぇわアホ! だがなぁ、使えるもんならなんだって使ってやる! いや不気味なのは全面的に同意するけどなホントキモい」


⦅ヴォェァァァ……!!⦆


「ごめんちょっと静かにしてくれ怖すぎるから唸るなマジでやめろ」


⦅ヴァァァ……(´・ω・`)⦆



 いきり立つように唸る剣に冷たく言い放つと、荒れ狂うように噴出していた赤いオーラが凪いだように緩やかになり、さらに青く色が変わり俺の全身を包み込んだ。

 それと同時に、体中の痛みが少しずつ引いていくのが分かる。おまけに剣への恐怖も幾分か和らいだ気がする。

 もしかして、これもこの剣の能力なのか?


 ……気味が悪いが、この剣の特性はなんとなく理解できた。

 おそらく、俺の感情を発露するように、精神状態に合わせて異なる能力が発揮される機能があるんだ。


 恐怖や傷の痛みへネガティブな感情なら、それを癒すように青いオーラを纏わせ心身の不調を軽減する。

 怒りや闘争心なら、炎を思わせる赤いオーラを剣身へ纏い爆発的に攻撃力を上げる。



 まるで、母さんの魔法剣のようだ。


 そう思った時、頭の中で聞き覚えのある音が鳴り響いた。

 新たなスキルを獲得した時の、あのなんとも言えない独特の音が。




≪【魔法剣】のスキルを獲得≫


≪【魔法剣】獲得につき【パラディン】の職業が解放。レベルアップ時にジョブチェンジ可能≫


≪いずれか選択せよ 【剣士】【魔法使い】【パラディン】≫



 頭の中に浮かぶ3つの職業。

 なぜ今になって、と疑問に思う前に、反射的にパラディンを選択。

 これまでずっと保留していたレベルアップを解禁することができたようだ。



≪パラディンへ転職完了。蓄積経験値により、Lv24まで解放≫



 これまで溜め込んだ膨大な経験値が、急激に俺をレベルアップさせていく。

 それに伴い、生命力と魔力が全快し全身の傷が治っていくのが感じられた。



『っ! 傷が……!? 回復魔法、いや、まさかこの場でレベルアップしたとでも!? バカな!』



 魔族が動揺したような声を上げている。

 そりゃボロボロになってた敵の傷がいきなり治ったらビビるわな。



 だが、これだけじゃ終わらない。




≪条件を満たしているためジョブチェンジ可能≫


≪いずれか選択せよ【剣豪】【魔導士】【ハイ・パラディン】≫



「ハイ・パラディンだ」



≪ハイ・パラディンへ転職完了。蓄積経験値により、Lv49まで解放≫



 そう選択すると、さらに力が漲っていくのが感じられた。

 膂力が上がっていくだけじゃない。

 既存のスキルレベルが上がって、さらに新たなスキルを獲得したのが分かる。



『さらに存在感が増しただと!? 貴様っ、まさかこれまで経験値を貯めこんで、レベルアップしていなかったというのか!? いったいなんのためにそんなことを……!?』



 パラディンが解放されてなかったからだよ。

 魔法剣スキルを獲得しなきゃパラディンにはなれねぇからな。

 見習いパラディンのスキル経験値の入りにくさで、剣術と攻撃魔法両方をLv4にしなきゃ獲得できねぇとか条件イカレてんぞホントに。

 

 あれ、待てよ?

 そもそもなんで急に魔法剣が使えるようになったんだ? まだ攻撃魔法も剣術もLv4に上がってなかったはずなのに……。



⦅ヴォァァ?⦆



 この剣の能力が魔法剣と誤認されたせいでスキル経験値を取得して、魔法剣のスキルを獲得できた、とか?

 ……もしかして親父はこれを狙ってこんな変態不気味兵器を作らせたのか……?


 クソッ。

 くそ、クッソ……!!


 そのおかげで助かった。それは認めるけど、何もかも親父の掌の上で踊らされてる気がするのが死ぬほど悔しい!

 この騒ぎが済んだらアホほど文句言ってやるからなクソ親父!!



『ふふふ……驚いたぞ。よもやこの土壇場になるまでそれほどの力を隠していたとはな。先ほどまでは少し力を付けただけの小僧と侮っていたが、認めよう。貴様こそ、我が最後の宿敵に相応しい!』


「……そりゃどうも」



 褒められても、あまりいい気分じゃねぇな。

 つーか、今はそれどころじゃない。ジョブチェンジして体力と魔力が回復できたのは僥倖だがスタミナがすっからかんだ。



「食いたくねぇなぁ……」



 ……この暗黒弁当をどうにか食ってスタミナを回復させなきゃ、膂力が足りずにやられる。

 いくらレベルアップしたとはいえ、気力強化が使えなきゃ誤差みたいなもんだ。

 どうにか隙を作って食えればいいが……。









「いやっほぉぉぉぉぉぉおおいっ!!!」


『ピギュィイイイイイッ!!』





 ……。


 は?




『な、なんだ……?』


「アレは……イツ ゴフゥエッ!?」




 朝日を背に、空から降ってきた一人分の人影。

 聞き慣れた底抜けに明るいバカっぽい声とともに、そいつは俺目掛けて降ってきて、下敷きにしやがった。



「例えるならば水面に立つ優雅な白鳥! ここに! パーフェクト美少女イツナ! 参・上!!」


『……ピキ』



 ……どっから調達してきたのか、白い鳥を思わせる妙にヒラヒラとしたディティールのドレスを纏ったイツナが、呆れ顔のウサタローを抱えたままポーズを決めていた。

 頭に付けてる赤いヴェールのせいで、白鳥というよりニワトリに見えるんだが。


 なんだそのウザいノリは。なんだその服は。どういう登場の仕方だ。つーかどっから出てきやがった。



「ほらほら! んなトコでノビてないで起きなよユーブ! あ、この姿が綺麗すぎて撃沈しちゃったのかな? いやーつらいわー美少女過ぎてつらいわー」


「黙れ。はよどけクソボケニワトリノータリン。……よくここが分かったな」


「パパが送ってくれたんだよー。さっき『一人じゃヤバそうだから、二人でぶちのめしてきなさい』って通信してきてさ、そのまま魔力操作でビューンッって飛ばされてきたの」


「……親父のやってることが人外過ぎて引くんだが。親父、今津波の対処で海の上にいるんだろ? なんで陸地に居るイツナを遠くから運べるんだよ……」


「私にはまず無理だね。パパは『豆を箸で摘まんで他の器に移すくらい難しい』って言ってたけど、そんなレベルじゃないでしょ絶対」



 あれか。まだ箸が上手く使えない時期に訓練させられたやつ。どういう例えだ。

 上手く箸が持てなくて、何度も失敗して。ようやく一粒移すことができたら親父が泣きながら喜んで……ああもう、チラチラと浮かぶ親父の顔が鬱陶しい。



『ふむ、一人増えたか。だがなんとも幼く頼りない。果たして、勇者たちが援護に来るまで耐えられるかな?』


「援軍なんかいらーんっ! アンタは私らがぶっ飛ばーす!!」



 いや要るわ。ホントならネオラさんや親父が討伐しなきゃならん案件だろコイツ。

 ……助けが来てくれたのはいいんだが、もうちょっと人選どうにかならなかったのかと思うのは贅沢でしょうかクソ親父。

 あ、でもイツナと一緒にヒヨコ隊長もいるって話だったし、これならどうにか……あれ?



「おい、ヒヨコ隊長は?」


「ん? 津波を止めに行っちゃったけど」



 クソが! むしろそっちを頼りにしてたのに!







 ~~~~~








『おい! カジカワ聞こえるか! お前のガキが急に空へ飛んでったんだが!?』


「あ、それ俺が魔力操作で運んだだけだから無問題。久しぶりだなアラン君、お子さん元気?」


『お、おう。死ぬほど元気だが……いや談笑してる場合じゃねぇだろ! あいつ、魔族の大元のほうに飛んでったんだぞ!? 殺す気か!』


「死なないよ。ユーブもだが、今のイツナは相当強い。それに……なんだか妙な装備を身に着けてるみたいだしな」


「あー、多分それニワトリだ。急に変なニワトリが出てきたかと思ったら、あのガキの服になった」


「……言ってる意味が分からんのだが。ニワトリが、服に? え?」


「自分でも何言ってるのか分からんけどそうとしか言いようがねぇんだわ。サブローだかなんだか言ってたけど、あのニワトリなんなんだよ……?」



 ちなみにユーブの使っている剣は持ち主の感情によって効果を発現しますが、今回のユーブのように死に物狂いのギリギリまで感情を爆発させないと魔法剣相当の力は発揮できません。

 要するにこの剣を使えば見習いパラディンなら誰でも魔法剣を獲得できる、というわけではないのです。

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
更新乙 いやいや それよりニワトリが服??? イツナ何してんの?
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