魔族の執念
今回ちょーっと長いです。
レイナ姉さんがフォルトを正気に戻してから、ちょっと休憩。
さすがにあのレベルのバケモンを無力化するのには姉さんでも結構スタミナを消耗するらしく、補給のためにバクバクと弁当を平らげている。
「蹴り飛ばした感触だと、多分能力値1万は超えてたんじゃないですかね。いやぁ危ない危ない、怖いっすわー」
「それを一撃で仕留めてる姉さんのが俺は怖ぇよ」
「右に同じデス」
「以下同文」
「……ところで、姉さんの後から出てきたこの人たちは?」
「ちょーっと昔に私らが鍛えてあげた教え子たちっすよ。あ、そっちのジジイは『子』なんてかわいいもんじゃないっすねあひゃひゃ!」
「うるせぇ!」
レイナ姉さんの教え子と呼ばれた5人の男女たちだが、どいつもこいつも並の使い手じゃないのが一目で分かる。
大体30~40歳くらいか? 一人やたら歳くってるように見えるのがいるけど、そのオッサンにだけやたら手厳しく対応してる気がする。
……おかしいな。俺含めてこの中で一番幼く見えるの姉さんなんだが。
「……ってことがあって、どうにか魔族への恨みも断ち切って立ち直れたと思ってたんですけど、いざ魔族を目の前にしたら『ぶっ殺してやる』って気持ちでいっぱいになっちまって、あんなことに……」
「うんうん、分かりマスよ。誰かを憎む気持ちを抱いてしまう、その苦しみは痛いほど分かりマス」
「オレ……16年前に魔王が倒されて魔族がいなくなった時、ホッとする反面どこかガッカリしてたんですよ。『ああ、もうあのクソ野郎どもはいないのか、この恨みをどうすればいいんだ』って」
「うんうん、それデ?」
「そんな感じで燻ってて、また魔族たちが復活していざ恨みが晴らせるのが、オレは嬉しかったんです。……スゲーろくでもないでしょ?」
意識を取り戻したフォルトだが、目を覚ました途端急に俺や姉さんに土下座しながら謝ってきた。
『一つ間違えば殺すところだった、本当に済まない』と、言われてるこっちが申し訳なくなってくるような悲痛な声で。
気にするなと言っても、ずっと暗い顔のままでいい加減鬱陶しくなってきたところで、レイナ姉さんの教え子の一人『ルルベル』さんがカウンセリングを買って出てくれた。
フォルトの身の上話や魔族への恨みつらみなんかの愚痴まで嫌な顔一つせず、むしろ共感すら覚えた様子で付き合ってくれている。
「全然フツーデスよ。アナタの話ヲ聞く限りじゃ魔族に憎しみを抱いて当然だと思いマスし、その恨みを晴らそうとするのはごく自然なことデス」
「今になって、復讐なんかしてもオレの自己満足にしかならないってのは分かってるんですけどね……」
「それも立派な理由デスよ。『復讐なんてやっても何も変わらない、何も生み出さない』なんてことを言う人もいマスが、私からしたら他人事の綺麗事デス。少なくとも、私は復讐を果たすことで未来へと目を向けて進むことができましタし、今は旦那様と幸せに暮らすことができていマス」
「アンタも、誰かを憎んでたのか?」
「ええ。冤罪をかけられたり色々あったのデスが、最終的に復讐相手の味覚をカイワレダイコンにしてから殴り飛ばシテ無事に復讐を遂げることができマシタ」
「カイワレ……?」
「……ソレはさておき、アナタも憎しみを我慢して燻らせているよりは、いっそのこと魔族相手に発散してやろうと吹っ切ってしまったほうがいいと思いマス。魔族相手ならば殺人の罪には問われまセン、それどころか人類の危機に立ち向かったとして表彰されることデショウ」
「で、でも、そのせいで危うくユーブたちまで……」
「あの子は教官の息子デスからちょっとやそっとじゃ死なないと思いマス。大丈夫デスよ」
サラッと雑な扱いするのやめろ。
この人が親父たちをどう思ってるのかよく分かるな……。
「……ただ、確かに周りを巻き込んでしまうのは考えものデスね」
「そうそう。というわけで、償いとしてこのお弁当を食べる罰を受けてもらうっす」
「罰ならなんでも受け……弁当? ……え、なにこの紫色の肉や魚は」
おいやめろ。
それさっきの暗黒極彩色ゲテモノ弁当だろ。フォルトに食わせて処分しようとすんな。
「ところで姉さん、この島型魔獣を操ってる魔族たちのいる場所って、もしかしてもう見当が付いてたりする?」
「大体の位置は。そこそこ範囲は絞り込めてきてるんですけど、いかんせん島中を闊歩してる魔族たちを無視することもできないからなかなか捗らないんすよねー」
「姉さんと教え子たちだけで対応してるわけじゃないだろ? 他の特級職たちは?」
「意外と苦戦してるみたいっす。私みたいに魔力や気力の直接操作が使えなきゃ、魔獣化薬で強化された魔族たちを相手どるのはきついんすよきっと」
「だろうな。俺も気力操作してなきゃ普通に負けるレベルだったし」
「え、使えるんすか? まさかカジカワさんに教わったとか? あンの子煩悩オヤジ、『この技術は失伝させなきゃいけないから誰にも教えるな』って言ってたくせに自分だけぇ……!」
「別に教わったわけじゃねぇよ。自力で使えるようになっただけだって」
「……それはそれで失伝させるのが難しいってことになるから問題なんですけど。いや、カジカワさんとアルマさんの子だしアンタらは例外とみていいんすかね……?」
なんとも言えない渋く微妙な顔で言ってるが、こっちだって必要に迫られてやむを得ず習得しただけだっての。
誰が死にかけてまでこんなモン使いたがるもんかね。
「話を戻すか。魔族の居場所……いわゆるアジト的なのを見つけるのに、大体どれくらいかかりそうなんだ?」
「んー、他のトコも並行して進めてますから、あと半日もあれば」
「つまり、明日の昼前後くらいか……」
現在、丁度日付が変わるくらいの深夜。
王都でのバカ騒ぎからそのままこんなトコまで来てるわけだが、正直ちょっと眠い。
見つかるころにゃ寝不足のフラフラで戦えません、なんて状況にならなきゃいいが……。
「ただ、それは何事もなければの話です。このままじゃジリ貧で勝ち目がないのは魔族たちだって分かってるはずですから、大人しくしてるとは思わない方がいいかも」
「つまり?」
「半日も待たず、向こうから打って出てくる可能性があるってことっすよ。『やられる前にやってやれ』ってね」
「……そりゃいい。探す手間が省けるってもんだ」
あちこちフラフラとアテもなく探し続けて体力を消耗するよか、そうしてくれたほうが手っ取り早い。
それにしちゃあ、やけに静かなのが気にかかるが。
「……うっぷ、一口食っただけで腹いっぱいなんでこれ以上はホント無理っす……!」
思考に耽っている間に、弁当を前にしてフォルトが腹を押さえて満腹アピールしながらギブアップしていた。
え、食ったのか? 確かに紫色の角煮みたいな肉がひと切れなくなってるけど、マジで食ったのか? うわぁ。
「おおっと、ホントに食べましたよこの子。ドン引きっすわー」
「勧めた本人が引くな。お前もヤバそうなら吐き出していいぞフォルト」
「いや、見た目はアレだけど別に不味かったわけじゃないし、むしろなんならかなり美味かった。ただどういうわけかホントにちょっと食べただけで腹いっぱいになるんだよ。なんだコレこわぁ……」
……親父はいったい何を調理したんだ……?
満腹中枢をイカレさせる毒でも入ってるのかと身構えたが、どこも具合は悪くないようだ。
むしろさっきまで疲れた様子だったのに顔色が良くなってる気がする。それはそれで逆に怖いが。
「! ……なんか、変な音が聞こえねぇか?」
「え、どうした急に神妙な顔して……ああ、簡易トイレはあっちだぞ」
「ちげぇよ! 腹なんか下してねぇわアホ! なんか地面から、何かがせり上がってくるような音が聞こえるんだよ!」
いつになくマジな顔してるあたり、どうやら本当になんらかの危機が差し迫ってるようだ。いや腹具合の話じゃなくて。
……? 確かに、ホントわずかにだが地面が揺れてる……?
「っ! ユー君!!」
「え、ぬぉあっ?!」
急にレイナ姉さんが叫び、俺に跳びついてきた。
不意打ちのタックルに反応できずぶっ飛ばされちまった。
い、いきなりなにしやが……っ!?
『ブァアぁアア……ッ! ああ゛アアァァアアァアああア゛ッ!!』
「な……なんだよ、コレっ……!?」
さっきまで俺が立っていた地面から、何かが突き出して……否。地面から生えてきている。
それは、ぱっと見の輪郭は盆栽のように見えた。
酷く不自然にうねって、しかし彩りのある葉や果実を実らせている。
……果実のように見えるそれが、人の、いや魔族の顔でなければなんて見事な樹木の芸術だろうと感心していたかもしれない。
幹に実る魔族たちの顔が、苦悶と怒りに歪んで悍ましい叫び声を上げている。
「な、な、なんすかこりゃ!? キモい! いくらなんでもキモすぎるっすよ!」
『ああっぁぁあ!! ごろじでやる!! にんげんめ!! じんるいめぇ!! みんなじねぇぇえぇぇえゴミどもぉおおおおっ!!!』
どう見ても正気じゃない。自我を保っているのが不思議なくらいに心身ともに捩じれ狂って喚き散らしている。
気が触れるほどの憎しみを抱えて、しかしそれをよすがに自分というものを保っているんだろう。
こうまでする理由がどこにあるんだよ……!?
こんなバケモンになってまで、人間を滅ぼしたいのかよ!
『じにやがれぇぇぇえぇぇぇえ!!!』
「!」
「ぼさっとしてんなユーブ! 避けろ!!」
木の幹をしならせて、鞭のように振り回して叩きつけてきた。
紙一重で避けたが、着弾した地面が爆発したように弾け、幹の形をしたクレーターができてしまっている。
あまりに異常な姿の魔族を見て、さすがにフォルトも憎しみよりも悍ましさが勝ったようで、脂汗をかきながら顔を引き攣らせている。
「おいおい、まさかこいつが島型魔獣に寄生して操ってるっていう魔族か? こんな姿になってまで……」
「……気配まで気持ちわりぃな。ただでさえ魔族はピリピリするってのに、こいつはさらにトゲトゲしてやがる」
「だが、こうなりゃ話は早ぇ。コイツをぶっ殺せば島型魔獣は解放されるってことだろ! こんなキモい木ぃ一本、さっさとぶった斬って―――」
『ぐぁぁおあおあおあぁおああっ!!!』
『がぁぁぁあうぁあぁあおっぁぁぁああっ!!』
『ぎぃぃいいいいいあああああ!!!』
「……はい?」
……うっそだろ?
周りの地面から、さらに何本も似たような木が生えてきやがった!
「おいおいおい! 魔獣に寄生してる魔族ってのは複数いるのかよ!?」
「知らねぇけど、どっちみち斬らなきゃいけねぇことくらいは分かる! 死ねやぁっ!!」
さっきのしなる鞭みたいな攻撃を見る限りじゃ、威力と速さは大したもんだが軌道が単純かつ大雑把で読みやすい。
今のところ魔族の強みの攻撃魔法なんかを使う気配もないし、地面に根を張ってるから回避することもできやしない。
距離を詰めて、根元からぶった斬れば楽に仕留められる!!
「おぉらぁっ!!」
『ぎゃぁぁあああっっ!!』
「……えっ?」
距離を詰め、気力強化した膂力で剣を振りぬくと容易く斬り落とすことができた。
切り落とされた魔族の木は炎上し、すぐに灰となって消えてしまった。
……おかしいな、これじゃ普通の魔族のほうがよっぽど強いぞ?
「おりゃー!」
『ぐぁぁぁあっ!!』
『ひぎぃいいいっ!!』
「こいつら、見た目は禍々しいがてんで大したことねぇぞ! ビビらず攻めろ!」
なんだ、見掛け倒しかよ。
内心拍子抜けしながら、周りの魔族たちを一掃しようと構えた。
その時
「っ……!?」
『く、くくく、ばか、めっ……!!』
炎上し、消えていく寸前に魔族の顔が愉悦に歪み、嗤っているのが見えた。
負け惜しみ、にしては不穏な表情だった。
むしろまるで勝ち誇ったような顔に見えたが―――
直後、地面が大きく揺れた。
「おぉわっ!!?」
「いぃっ?!」
「に゛ゃああぁああいっ!!? ちょっ、な、なんすか今の揺れは!?」
大型の地震を思わせる揺れだったが、すぐに治まった。
だが、さすがに今のは無視できるような揺れじゃない。何が起きてやがる……?
嫌な予感を覚えつつ思考を巡らせていると、レイナ姉さんのほうからピロピロと甲高い軽快な音が鳴り響いた。
通信魔具の着信音か? こんな時に誰が……。
「ああもう! もしもし! なんすかこのクソ忙しい時に!!」
『レイナ! 今お前、変な魔族を仕留めなかったか!?』
っ! 親父……!?
レイナ姉さんの持ってた通信魔具から、焦ったような声で問い詰めてくる親父の声が発せられたのが分かった。
「へ? さっきのキモい木みたいな魔族っすか? とりあえず周辺にいたのは仕留めましたけど……」
『そのキモい魔族は極力無視しろ! そいつは寄生してる島型魔獣と神経が繋がってて、倒すとその痛みが魔獣にまで伝わって暴れ出しちまうんだよ!』
「な、なんですって……!?」
『現に今のでちょっとした津波が起きてる! 倒した数が少なかったから大した被害は出ないだろうが、あまり多く倒すと抑えきれずに大津波が発生する危険性がある! 大元の魔族以外はなるべく放置しろ!』
「無茶言わないでくださいよ! 無視してたらあの鞭みたいな枝でビッターンってされちゃうっす! 痛いじゃ済みそうにないんすけど!?」
『我慢しろ! ファイト!』
「我慢できそうにないっつってんでしょーが! カジカワさんがもっと強めに縛れば済む話じゃないっすか!?」
『これ以上強くしたら島型魔獣が圧迫死するわ! これでもうっかり殺さないようにすっごい気ぃ使いながら拘束してんだよ!』
……『これ以上強く縛れない』じゃなくて『これ以上強くすると殺しちまう』ってあたり、親父のバケモン具合が察せられるな。
「じゃあどうやって大元の魔族を探したらいいんすか!? 広すぎるうえにこんなキモいのがあちこちに生えてちゃ探せないし、位置を知らせるにも時間がかかるっす!」
『大元はネオラ君がそろそろ見つけそうだ! その位置の伝達方法は、ネオラ君のメニューの『ライブ画面』で共有できる! ……あ、ちょっとヤバめの津波が起きそうだからそろそろ切るぞ。俺が対応しなきゃ全世界水浸しだから、こっちは任せてそっちはヨロシクー』
「え、ちょ、カジカワさん!? ……切られちゃったっす。ネオラさんが見つけそうとかライブ画面がどうとか言ってたっすけど、どうするつもりなんすかね?」
最低限の情報だけ伝えて、さっさと通信を切ってしまった。
……こっちにもなんか一言くらいあってもいいだろうが。クソ親父。
「言いたいことだけ言ってぶつ切りしやがって。……にしても、ネオラさんが位置情報を伝えるとかなんとか言ってたけど、どういうこと……うわっ!?」
悪態を吐いていると、目の前に妙な光る板のようなものが急に現れた。
その板の画面いっぱいに、金髪の可愛い女の子の顔が……いや、違う。女の子じゃない。
『あ~、あ~、マイクテスマイクテス。もしもーし! 皆さん聞こえるー!? 後ろの人聞こえてますかー!』
「……ね、ネオラさん?」
まるでこれから演説でもするかのようなノリで、勇者ことネオラさんが画面越しに大きな声を上げていた。
……これがライブ画面ってやつか? 珍妙な……。
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ライブ画面は便利な機能だ。
Lv100になった時点で解放されるメニュー機能の一種だが、欠点として使用中は他のメニュー機能が一切使えなくなってしまうことだ。
ファストトラべルやアイテム画面、マップ画面やチャット機能すら麻痺してしまう。
今の俺のように。
「……こりゃ相当頑張らないとまずそうだな」
ユーブたちが頑張ってる中、他の誰にも悟られないように目を閉じながら瞼の裏に極小のライブ画面を展開してその光景を見続けていた。
画面の向こうには、魔族とも魔獣ともつかない奇妙なバケモノによって壊されていく街の映像が流れている。
向こうも大変な状況のようだ。ガンバレ。
ライブ画面はこちらの状況を一度会った相手に、あるいは相手の状況をこちらに、まるで動画配信サイトのライブ映像のように見たり見せたりすることができる機能。
また、一度訪れた場所の映像も確認できるため、実質世界中の状況を確認できる……とまではいかないが、それに近い運用はできる。
この機能を使えば残った魔族の場所も簡単に見つけられるだろとか思いそうになるが、この機能は人間相手にしか使えない。
つまり一度対峙した魔族を介してスパイに使ったりはできないってこと。
要するにネオラ君が自力で直接魔族たちの大元を発見し、それをユーブたちにライブ画面を介して伝えるしかないというわけだ。
ファストトラベルが使えりゃ一番手っ取り早いんだが、全員が島型魔獣へ上陸した直後に妙な結界が張られたせいで転移系の術が使えなくなっちまってるから仕方ない。
あとこのライブ画面機能を使って女湯を覗いたりとかそういう邪なことを試みると問答無用で目を潰される機能も搭載されてるらしい(ネオラ君談
悪用厳禁ってことね。こわ。
「もういいよメニュー。戻ってくれ」
≪了解≫
ライブ画面機能をOFFにし、再びメニューへ『例の仕事』の続きを再開してもらう。
……1ヶ月近く続けてもらっているが、いまだに目立った反応はなし。
一応、長くてもどうにか1年以内には目途がつくらしいが、仮にそれが上手くいっても望む結果が得られるとは限らない。
案外、今見たライブ画面映像の情報のほうが決め手になったりしてな。
どのみち今は手が打てん。
アルマの中ですくすく育つ我が子が産まれてくるまで、覚悟を決めるくらいしかできない無力感よ。
……いずれ確実に訪れる修羅場ってのは悩ましいもんだな。
……修羅場といえば、さっきの地震あたりで全く関係のない第4大陸から妙な衝撃を感じ取ってたな。
どう考えてもどっかの鬼が暴れてるサインです。本当に(ry
…………やだなぁ、また死にかけなきゃならんのかなぁ……。




