終焉災害防衛開始
【緊急クエスト】
Sランク冒険者は直ちにグランドマスターの指示に従い、目標を討伐せよ。
他の依頼を進行中の場合は人命に関わるケースを除いて即中断し、緊急依頼を優先すべし。中断による損害の補償等は事後に各自受け付ける。
現地へは勇者の権能にて送迎するので、速やかに直近のギルドへと急行し指示を仰ぐように。
といった具合の緊急通信が各国のギルドに送信されて、早1時間。
既に十数人ものSランク冒険者に加え、腕利きの軍人やらなんやらまで集まってきた。
「魔族の位置なら魔力探知で把握できる。ただ、カジカワさんと違って長時間それほど広い範囲を感知できるわけじゃないから、しらみつぶしに探す手間があるってだけだ」
「親父に連絡して探知してもらうのは無理?」
「無理っぽい。魔獣を拘束するので手いっぱいらしいし、地道に手分けして探すしかないな」
現地から帰ってきたネオラさん……ネオラさんでいいんだよな? はそう言っていたが、随分とまあ骨の折れる依頼になりそうだ……。
……ところで、そろそろツッコんでいいだろうか。
「勇者様、なんか……おっぱいデカくね? 髪色カラフルになって伸びてね? てか美少女になってね? なにがあったの?」
「……勇天融合ってスキルがあってな、説明すると長くなるから今は放っておいてくれや……」
「やっぱ勇者様って女性だったんじゃないっすか! ホントはこんなボインなのに、なんであんなペッタンコな体型に偽ってたんすか!?」
「偽ってねぇんだよ!! あれがホントのオレだっつーんだよクソァ!!」
ネオラさんが帰ってきた時、なぜか女になってた。いや元々女みたいな顔だけど、なんか色々とデカくなってるし。
それを見てフォルトが目をハートにしながら迫っているが、マジでどうなってんだこの人……。
「少しでも早く移動しようとオリヴィエまで回復して融合したけど、やっぱ寝てもらってたほうがよかったのかな……」
「てかホントでけー、スイカじゃん。ちょっと揉んでみても……」
「やめろイツナ。手ぇワキワキさせんなバカ。……もう大分集まってきたみたいだし、そろそろ現地に行くべきじゃね?」
「あー……まだ何人か残ってるけど、集まった人員をこれ以上待たせるのもなんだしな。今いる戦力だけでも一旦現地に送るか」
まだ集まり切っていないが、ひとまず現時点での戦力を送ることに。
世界各国の超一流たちが文字通り手を繋ぎ、勇者とともに現地へと転移した。
転移した先の、超大型魔獣の体表はどう見ても自然の島にしか見えないほどで、普通に土壌が堆積しているうえに緑の樹木が茂っている。てか広い。端が見えねぇ。
大陸ってほどじゃないが、この広さの陸地を1日で探索して魔族を見つけろってか……? 無茶だろどう考えても。
「エリアごとに手分けして探せば無理な話でもねぇぞ。魔獣の体表を6つくらいに分割して探索してもらうから、それに合わせて班を分けよう」
「魔力探知が使える人材をリーダーにして、それに追従する形で他のメンバーを決めて……ん?」
班分けをしようとしたその時、急に周囲が青白く光った。
よく見ると巨大な魔方陣が地面に描かれていて、俺たち全員を取り囲んでいる。
「ちょ、なにコレ!?」
「ネオラ!?」
「オレはなんもしてねぇぞ!? この光は……転移魔法か!?」
「まずい! まさか罠っ―――」
一際強い光が瞼を貫き、視界が真っ白に染まった。
まるでスパークウルフの角を燃やしたような閃光だったが、10秒もするとどうにか視力が戻り始めてきた。
さっきまで比較的見晴らしのいい平地にいたはずだが、今は青々とした森の中に立っていた。
「い、イツナ、フォルト! どこだ!? 返事しろ!」
イツナたちを呼んでみたが、返事がねぇ。
転移魔法がどうとか言ってたが、まさか今ので分断されちまったのか……!?
「くそっ……! ネオラさんにファストトラベルで回収してもらうまで待つか……」
「それは無理だな」
「っ!! うぉあっ!?」
不意に誰かの声が聞こえるのと同時に、咄嗟に飛んで身を退けた。
直後、轟音とともにさっきまで立っていたところにクレーターができた。
「……不意打ちが好きだねぇ、魔族ってやつはよぉ」
「ふむ、避けたか。いい反応だ」
「奇襲するのにわざわざ声かける馬鹿な真似してくれたおかげでな」
「なぁに、あっさり終わっては甲斐がないだろう。殺し甲斐も死に甲斐もな」
襲いかかってきたのは、当然のように魔族だった。
ただ、牙が妙に鋭く長く、さらに目は切れ長で爬虫類を思わせる瞳孔。
比較的人に近い外見をしていたこれまでの魔族に比べて少し禍々しいというか、まるで魔獣が混じっているような印象だ。
「随分とまあ気色悪い顔してんなぁ。珍獣かよ、まだフォルトのほうがよっぽど可愛げがあるぜ」
「悍ましい姿であることは認めよう。貴様ら人間に褒められるよりは畏れられるほうがよほど気分がいいがな」
……多分、こいつも『魔獣化薬』を飲んでやがるな。
あの薬、魔族にも効くのかよ。
まずいな、魔族の高い能力値に魔獣の膂力がプラスされたら、今までの魔族たちよりもずっと脅威度は高い。
一人じゃ勝てるかどうか分からねぇ、早く合流しねぇと……!
「ああ、勇者の権能や転移魔法での合流は諦めろ。貴様らが訪れた時点で、この島全体は転移不可能なフィールドと化している」
「んだとぉ……!?」
「魔王様の遺された異世界の魔道具さ。つまり、貴様は誰の助けも得られず、自分の死を知られることもなく、死ぬのだぁ!!」
顔に真魔解放の紋様が浮かび、一際威圧感が強くして俺に突進してきた。
おそらく、能力値にして5000はかたいだろう。
普通に考えて、俺の能力値じゃ瞬殺だ。
ただ
「死ぬのはお前だけどな」
「は? ……なっ、がぁっ……!?」
何が起こったのかも分かっていないマヌケ面の頭が、宙をクルクルと舞って地面に堕ちた。
こっちが気力強化で瞬間的に膂力を数倍に引き上げてやれば、首を刎ねることなんか容易いっての。
そっちが5000ならこっちは10000の力でゴリ押し。……我ながらなんて頭悪い対応だ。
「……にしてもこの剣、なんか脈打ってねぇか……? こわ……」
出撃前に銀髪イケメン変態が持ってきた剣を使ったが、魔族を斬りつけようとしたところでなんか剣身に走ってる血管みたいなのがドクンドクン鳴ってる気がする。
……コイツのくわしい機能なんかはよく分かってねぇが、コレもしかして生きてる? どう見ても固有魔獣の装備よろしく自我がありそうなんだが。
できれば今すぐ投げ捨てたいくらいキモい。でも他に武器がねぇから捨てるに捨てられねぇ……。
……それはともかく、イツナやフォルトは強化された魔族相手に一人で勝てるかどうか分からねぇ。
早めに見つけてやらねぇと殺されちまうかもしれねぇ、急いで探さねぇと!
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「暇すぎワロタ。なんか転移してきたと思ったら、みーんなバラバラに散らばってやんの」
『割とやばい状況なのに随分と余裕そうじゃん。てかアンタの義両親が現場にいないみたいだけど連絡するんじゃなかったの?』
「向こうは向こうで相当危ない状況みたいで、手が離せないらしいです。まあお二人抜きでもどうにかなるでしょ」
『アンタの子供たちも孤立してるよ? 大丈夫?』
「……もしも本当に危ない状況になったら拘束解いて助けに行っていいですか?」
『やめてマジで止めて! 世界滅んじゃうからヤメロ!!』
「まあ大丈夫だと思いますけどね。……ユーブ、気力操作が使えるようになったのか。一瞬スゲー強くなってたな」
『まさかこっそり教えたんじゃないだろうね。その直接操作の技術は今世代で失伝させなきゃバランス崩れるんですけど』
「いいえ、自力で体得したっぽいです。こりゃイツナも使えるかもな……おっ、イツナ空飛んでるわ。やっぱ魔力操作できるみたいですねーさすが俺の子だー将来有望だわーはははー」
『笑ってんじゃねーよ親バカ! ったく、この調子じゃ3人目の子が今から心配だよまったく……』
「……ええ、まあ、そうですね」




