パーティ参加準備
……色々あったが、どうにか無事に炭鉱都市の危機を排除することができた。
勇者のネーちゃん、いやオッサン……オッサンでいいのかあれは……? ……ネオラさんが助けに来てくれなきゃ終わってたな。
〈かんしゃしろよ? おれらがネオラをみつけてなかったらいまごろしんでたぞ、ユーブ〉
「それに関しちゃマジでありがとよ」
〈れいをいうならまりょくくれ。できればアルマのネーちゃんもといカーちゃんのまりょくもひさしぶりにくいてーなー〉
〈さいきんはぜんぜんよんでくれねぇもんなー〉
〈めっちゃうまかったのにさみしいよなー〉
「あー……まあお前らに助けられたことは伝えとくよ」
リトルノームと契約する機会があってホントによかった。アイナさんありがとう。
そういう意味では前に戦った魔族にも感謝しとくべきか……いややっぱいいか。
魔族と言えば、俺が不意打ちで殺したデブハゲ魔族は元人間だったらしく、ついに俺も人殺しの仲間入りかと落ち込みそうになったがネオラさんから『気にしなくていい』と励まされてどうにか立ち直った。
「アレはもう人間じゃない。魔族化薬を飲んだ時点で人間としては死んでるんだ。言っちまえばアンデッド系の魔獣と変わんねぇよ」
「でも、こいつら元人間だったってことは家族がいたかもしれないんだろ? もしかしたら人間に戻すこともできたかもしれないのに、家族と再会させてやることもせずに俺は……」
「人間を魔族に変える効果は不可逆だ、戻す術はない。それにこいつらは生前の時点で死刑や終身刑の判決が出てるクズだ。血縁者たちからすりゃさっさと縁切って忘れたいくらいだろうさ」
「……アンタ、勇者ってわりに結構ドライなんだな」
「たりめーだ。オレぁ職業が勇者ってだけであって、価値観はふつーのオッサンなんよ。ムカつく奴が痛い目見りゃザマーミロって思うし、知ってる顔がしょげてたらそいつらを引き合いに出してでも元気付けてやるさ」
……なんだこのイケメンは。嫁さんが3人もいる理由が分かった気がするわ。
それに対して俺ときたら、自分のやったことへの罪悪感から頭を打ち付けて記憶を失くそうとするなんて女々しいにもほどがある。
結局なんも忘れてないし、ホント時間の無駄だったな。
「にしても、この首無し魔族すげぇ力だったけどあっさり倒せるなんてやっぱ勇者ってとんでもねぇ強さなんだな。気ぃ失ってたから助けてもらった時のことを見てないのが残念だぜ」
「そ、そうか……いや、忘れたんならそれでいいけどさ……」
?
顔を逸らしながらなんか呟いてるけどよく聞こえなかった。
……ところで、後ろのほうで頭から血ぃ流して倒れてるフォルトはいったいどうした。なにがあった。
炭鉱都市の危機を未然に防ぎ、ネオラさんの手助けアリとはいえ魔族の討伐まで達成したため特別報酬が支払われることになったが、できればもう少し早い段階で路銀がほしかった。
なんせウサタローのおやつを買っただけでまた軽く金欠に陥りそうになってたからな……。
ここまで来ればあとは王都へ向かうだけだったんだが、ネオラさんにファストトラベルってやつで王都まで送ってくれることになった。
何から何まで世話になりっぱなしで申し訳ない気がしたが、なにやら面倒な依頼があるとかで力を貸してほしいという話らしい。
「済まねぇな、君らも忙しいだろうに」
「いやいや、恩返しができるってんなら喜んで」
「でも、勇者様でも難しい依頼ってどんな仕事なの?」
「まさかネオラさんでも苦戦するようなとんでもなく強力な魔獣の討伐とか? ……生きて帰れっかな」
「いやまあ最終的に荒事にはなるかもしれねぇが、そこまでヤバい相手じゃない……と思う。多分」
「……なーんかハッキリしない言い方だけど?」
「詳しくは現地で話す。そろそろ暗くなってきたし、あまり遅くなると全部パーになりかねねぇから急いで戻るぞ」
そう言いながら指を鳴らすと、次の瞬間には周りの景色が炭鉱都市から賑やかな王都のそれへと切り替わっていた。
……何度体験しても慣れねぇな、この移動法。
「え、あれ!? ど、どこだここ!?」
「落ち着けフォルト。ファストトラベルっていう転移魔法みたいなヤツで移動するって言ってただろ」
「転移魔法と違ってすぐに景色が変わるから驚くのも無理ないけどねー」
「……なんでお前らはそんなに落ち着いてんだよ……?」
そりゃ何度か親父に体験させられてるからな。
説明が面倒だから言わんけど。
王都に着いて、向かった先は高級そうなブティックだった。
……いや、なんでこんなトコに? イツナはともかく俺やフォルトが入るにはちょっと敷居が……。
「今回の依頼は潜入捜査でな。近頃貴族の令嬢たちが食事会と称して夜にパーティを開いているってニュースは知ってるか?」
「あ、新聞で見たよ。私も気になってたヤツだわ」
「話が早いな。それの主催者だが、参加してる人間すら誰も知らないって話でな」
「はぁ? 誰が開催したかも分からないパーティへ足運んでるの? おかしくない?」
「参加してる令嬢たちに話を聞いても、パーティで何があったかイマイチ覚えてないらしい。なのに次に開催される時刻になると誰に言われるでもなく気が付いたら会場に向かってるらしい。それが昨今の魔族騒ぎとも何か関係があるんじゃないかって踏んで調べるように依頼がきたんだよ」
「わざわざ勇者様が受けるような依頼なのソレ?」
「ああ。他の女性冒険者とかにも依頼を出してたらしいが、全員が令嬢たちと同じように何も覚えてなくて、次に開催されるパーティへ足を運ぶようになっちまったらしい。ミイラ取りがミイラになった形だな」
「要するに半端な実力じゃ取り込まれちまうから、アンタらくらい強い人に頼むしかないってことか」
「女性だけじゃなくて男性は依頼を受けないの?」
「男は門前払いされるし、無理に入ろうとすると主催者が騒ぎを聞きつけてパーティを中止される恐れがある。だからオレの嫁たちに潜入してもらおうとしてたんだが……一人ちょっと体調を崩して寝込んじまったから、その分の補助としてイツナちゃんに手伝ってほしくてな」
「俺とフォルトはどうすんだ?」
「会場の外で待機。怪しいやつが逃げようとしてないか監視してくれ。イツナちゃんはここのブティックで服装を整えてからパーティに参加して、会場を捜索してもらうことになる」
……大丈夫かな。
一応、イツナもそんじょそこらの冒険者よか大分強くはあるんだが、ネオラさんたちと比べるとなると話は別だ。
「不安だなぁ……」
「だいじょーぶだいじょーぶ。無茶はしないし、危なくなったらタッパーに料理詰め込んでからさっさと逃げるよー」
「ちょっと待てや! んなセコい真似すんじゃねぇぞ!?」
「別の意味で不安になってきたっす……」
「まぁ念のためオレも会場入るし、それほど危ない状況にはならねぇと思うが気を付けてくれ」
「……え、ネオラさんも入るんすか?」
「ホントは入りたくないけど防犯上仕方なくな」
「その恰好で?」
「…………すっごい不本意だが、ここで着替えてから行く。できれば捜査が終わるまでオレのことは探さないでくれ……」
……いったいどんな格好する気なんだネオラさん。
うっ、想像しようとしたらなんか頭痛が……深く考えるのは止めとこう。そうしよう。うん。
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「陽動活動は順調のようだが、ここも嗅ぎ回られ始めている」
「おそらく近いうちにそれ相応の実力者が、下手したら勇者クラスの者が送られてくるかもしれん」
「そうなれば、この活動も終わりだな……」
「かまわん。仮にすべて台無しになって我々全員が破れたとしても、大筋に影響はない」
「……そうだな。他の大陸の同胞たちはほぼ全滅、この大陸も近日中に殲滅されるだろう。だが……」
「だが、それでいい」
「我々はあくまで礎だ。魔族の世のための、魔王様のための……」
「しかし、最後まで抵抗は続けさせてもらおう。みっともなくとも死ぬその間際まで足掻き続けようではないか、同志よ」
「……ああ、もちろんだ」
「…………ところで、あやつは何をしている?」
「ああ、化粧直しだそうだ」
「もう3時間もの間化粧室に閉じこもっているが、あれは必要なことなのか?」
「一応、魅了のために必要な儀式のようなものだと本人は言っているが、少し拘り過ぎな気もするな」
「やれやれ、同志とはいえ妙に癖の強い者もいたものだ……」




