飯より宿 いややっぱ飯も
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読み続けて下さる方々に感謝です。
今回ちょっと短い上に飯食ってる描写が大半です。
ロリマスに勧められた宿に到着。
でかいな、ダイジェルの木賃宿よりさらにでかい。この規模だと数百人単位の客を泊めることができるんじゃないか。
チリンチリンと呼び鈴を鳴らしながら宿に入ると、フロントには一般の客に混じって冒険者らしき客もちらほら見える。
ロリマスが勧めるだけあって、冒険者の客も多いみたいだな。ガラの悪そうな客も少ないみたいだし、居心地は良さそうだ。
早速チェックインしますか。え、一泊一人頭2000エンですか?…ま、まぁダイジェルの倍だがそれでも安い方だ。文句は言うまい。……こりゃ気合入れて稼がないとすぐに金欠になりそうだな。
ん? 二人一部屋なら3000エンで済むからお得? 却下。…どうして宿の受付は二人一部屋を推奨したがるのか。
で、晩御飯を作るためにキッチンへ移動。
他のお客も利用している人が多いが、キッチンの数もその分多いから空きはあるな。
今日はラッシュボアとジェットボアの肉団子鍋にしよう。食べ比べてみたり、合い挽きにしても面白そうだ。
じゃ、ちゃっちゃと作りますかね。
まずラッシュボアとジェットボアの肉をそれぞれみじん切りにした後、すり鉢でミンチ状態にする。
ラッシュボアの肉はともかく、ジェットボアの肉はミンチにするのに少し苦労した。結構噛み応えがありそうだなこりゃ。
一部の肉を混ぜて合い挽きにして、さらにそれぞれの肉にみじん切りにした玉ねぎと塩、コショウ、つなぎに玉子を加えて混ぜる。
出来上がった三種類の肉タネを丸めて一口サイズの団子状にして肉団子完成。
お次は昆布モドキと水を入れておいた鍋を火にかけて、出汁がある程度出たら昆布モドキを取り除き、刻んだキャベツや長ネギに似た野菜を投入。
野菜が少し柔らかくなってきたら肉団子を入れてしばらく煮込み、灰汁が出てきたら取り除き、味噌(こっちの世界でも名前がミソだった。これ最初に作った奴絶対日本人だ)、みりんモドキ、酒を入れてさらに煮込んで出来上がり。
イノシシ肉団子入り味噌鍋の出来上がりである。
鍋物はやっぱ簡単にできるから楽だわー。野菜もたっぷり摂れて栄養価もいいし。
鍋敷きをアルマがスタンバイしているテーブルに敷いて、鍋を移動。
「できたよー。肉団子はこっちがラッシュボアで、こっちがジェットボア、こっちがその合い挽きだ」
「わざわざ分けて入れたの?」
「ああ。食べ比べてみるのも面白そうだと思ってね」
「ん、今日はアロライスはないの?」
「それは後のお楽しみだ。まずは鍋の具を頂こうか」
「…? 分かった」
じゃ、早速実食しますか。
「お椀に分けないの?」
「ああ、食べる時に自分の好きな分だけお椀にとって食べていくんだ。こういうのも中々乙なもんだよ」
同じ釜の飯ならぬ同じ鍋の飯だな。いや別に距離を縮めたくてやったわけじゃないけど。
でもまあ同じパーティだしたまにはこういう食べ方も悪くないだろ。
「んー、ラッシュボアの肉はかなり柔らかいな。豚肉と大差ないくらいだ」
「んぐんぐ…ジェットボアは、ちょっと固いけど食べ応えがあるし、お肉の味がラッシュボアより強くて美味しい」
「おお、合い挽きにするとラッシュボアの柔らかさにジェットボアの肉が程よいアクセントになってるな。しまった、これなら全部合い挽きにしてもいいくらいだったなー」
「でも、それぞれ食感が違うから食べてて楽しい」
フォローしてくれるアルマの優しさがありがたい。ますます食が進むわー。
野菜の方も味がよく染みてて美味いな。あの村でもらった野菜だが、野菜そのものの甘みが強くて味噌によく合う。
肉団子に加えたコショウのお陰で臭みはほとんど感じないな。ん? コショウ入ってるならアレを加えてもいいんじゃね?
キッチンに移動し、アイテム画面から村でもらった柚子によく似た柑橘系の果実(リンカというらしい)を取り出し、皮を剥いて細かく刻む。
柚子なら灰汁抜きするところだが、この果実は灰汁抜き不要らしい。ほとんど柚子の上位互換だな。
「アルマ、肉団子を食べる時にこれも一緒に食べてみると合うかもよ。まあお好みに任せるけど」
「なにそれ?」
「リンカの皮を刻んだヤツ。単品だと俺もあんまり好きじゃないけど、コショウの入った肉団子にはよく合うんじゃないかと思ってな」
「果物と一緒に、お肉を?…まるで高級料理店のメニューみたいだね」
「いやそんな上等なもんでもないけどな」
確かにテレビなんかで高級レストランのメニューに果物を使ったソースを肉にかけた料理なんかを見たことあるけど、アレってどんな味がするのかな? 美味いの?
さて、思い付きだが試してみるか。正直柚子コショウ自体あんまり試したことないけど。
「……なんで合うんだろうな。果物に香辛料なのに、肉と一緒に食べるとこんなに合うのか」
「美味しい…!」
リンカの独特の風味がコショウの香りと肉の旨味に絶妙にマッチしている。これがマリアージュというものか。
あれだ、唐揚げにレモンかけるよりもさらに合ってるように思える。果物と肉類のマッチングって他にもあるのかねぇ?
食欲が増してハイペースで一気に食べ続けて、あっというまに鍋の中は汁だけになってしまった。
「さて、まだ物足りないかな?」
「…正直、もうちょっと食べたい」
「そうか、じゃあちょっと待っててくれ」
そう言って鍋をキッチンのコンロに戻し、再点火。
そこに水洗いしたアロライスを投入。炊いたご飯を水洗いっておかしい気がするかもしれないが、こうすると粘り気がとれてサラサラした食感になるらしい。
火がよく通ったら仕上げに溶き卵をかけて、味噌玉子雑炊完成。
「さて、シメはやっぱ雑炊だよな。麺を入れても美味いけどな」
「雑炊? お粥?」
「似たようなもんだが、肉や野菜の旨味がスープによく溶けてるから、お粥より食べ応えがあると思う」
「へぇ……」
実際食ってみるとその通りで、米を食っているのに肉や野菜の味が同時に口の中に広がっていく。
玉子の味も加わってさらに美味い。我ながらよくできたと思う。
すぐに米一粒残さず完食してしまった。
「御馳走様でした、ヒカル」
「おそまつさま。ちょっと食い過ぎたかな」
結構な量の飯を食ったが、腹具合の方にまだ余裕があるのが恐ろしい。
こっちの世界に来てから満腹になってもう食えない、ってくらい食ったことがなかったけど、こんだけ食ってもまだ食えるのか俺。…下手したらデブ一直線だな。
食器や鍋を片付けてると、周りの人がちらほらこちらを見ている気がする。なんかまずいことしたのか俺? 別に身に覚えがないんだけど。
きっと単に人が多いから視線が気になるだけだろう。ダイジェルじゃ滅多にキッチンで人にかち合うことなんかなかったし。
これからどうしようか、って街に着くまでは正直不安も多かったが、飯が食えて寝られる場所があれば案外人間ってどこでも生きていけそうだな。
飯食って複雑な思考ができなくなってるだけかもしれんが。
さて、明日はまず街の様子を見て回ってからギルドにいってみるとするか。この街のギルドはダイジェルに比べてどんな感じかな。
お読み頂きありがとうございます。
何人かの方からコメントをいただきましたが、柚子胡椒の胡椒はトウガラシらしいですね。




