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世界の影で蠢き始める者たち




 

 フォルトが毒で死にかけた翌日。

 薬屋さんの家に一泊させてもらって朝食までごちそうになっちまった。

 心が痛い。俺たちに対してめっちゃ親切なのが逆に申し訳なくなってくる。



「奥さん、おかわりー!」


「あらあら嬉しいわ。いっぱい食べてねぇ」


「いやー、無一文だからホントに助かったよーありがとーございまーす!」



 遠慮ゼロで朝食を貪りまくる妹を見ていると、この図太さが羨ましくも思う。

 そのトースト何枚目だよ。食い過ぎだっての。

 にもかかわらず『ユーブ君もフォルト君も遠慮しないでどんどん食べて』と言ってくれるあたり滅茶苦茶いい人だこの奥さん。ホントすみませんいただきます。……超うめぇ。


 どの料理も美味かったが、デザートに出されたフルーツが一際異彩を放つ味わいだった。

 噛み締めるたびに口の中でシュワシュワとした炭酸の刺激と、鮮烈な果物の風味と強い甘味が広がっていってクセになる。

 これは人工栽培されていないらしく、魔獣森林の中でしか採れない希少な果物らしいがこんなものまで気前よく出してくれるとは。



「これ、すごく高いフルーツじゃないっすか? いいんですかこんなにいただいて」


「いいわよ、どんどん食べて。時々カジ、……知り合いの冒険者さんがお裾分けしてくれるものだから、実質タダよ」


「へぇ、ちなみに普通に買うとどれくらいなのかな?」


「そのブドウ一粒で1000エンくらいかな」


「たっか!?」



 そんなもんまでポンポンお裾分けするヤツの気が知れねぇな。どんだけ儲けてるんだか。

 食後のお茶まで用意してもらって、イツナは新聞を読みながらくつろいでいる。だから少しは遠慮しろマジで。

 



「ユーブ、王都のほうでなんか妙な催しがあるってさ」


「ん、どうした?」


「ほら、新聞」



 見せてきた記事を見ると、確かに奇妙な内容だった。

 王都周辺に居を構えている令嬢たちが、定期的に夜会を開いているという内容だがちとおかしな点があるらしい。



「ん? 貴族の令嬢同士でパーティ開くのなんか別に珍しいことでもあんのか?」


「頻度と参加人数が妙に多いらしいよ。大体1週間に1回くらい開かれてて、しかも別にデビュタントとかの冠婚葬祭が絡んでるわけじゃなくてただ飲食を楽しみながら親交を深めようって会らしいけど」


「……数十人規模の宴会か。数人で集まって飲み食いするくらいならともかく、ここまで人数が多いパーティをそんなペースでやるのはちょっと金がかかりすぎる気がするがなぁ」



 横から覗きながらそう言うフォルトの言葉に頷いた。

 場末の定食屋で出されるメシですら一皿数千エンすることも珍しくないのに、お貴族様のパーティに出される料理なんか一品何万エンするのかも分からない。

 いくら金持ちとはいえ、貴族からしてみても決して無視できるような出費じゃないだろうに。主催者はよほどの大富豪なんだろうか。



「それがさぁ、貴族令嬢だけじゃなくて王都の学園に通ってる平民の生徒とか女性冒険者の人なんかも参加OKらしいんだよね。だから案外庶民向けの料理を楽しもうって会なのかもよ?」


「あー、それなら週に1回でもまあできなくもないか」


「ねぇユーブ、ちょっとコレ私も参加してみていいかな?」


「はぁ? やめとけよ、どう考えても見えてる地雷だろうが。余計なトラブルの元になるのが目に見えてんだろ」


「その地雷、放っておいたらどれだけの被害が出ると思う? コレどう考えてもまともな催しじゃないでしょ。貴族ってのは平民や冒険者と一緒に食事しようなんて殊勝なことアピールでやってるだけで、こんな高頻度でやったりしないでしょ。貴族令嬢全員が平民を見下してるとは言わないけどさ」


「……まだ怪しい催しと決まったわけじゃねぇだろ。そんなもんにいちいち首突っ込む必要ねぇって」


「怪しくないなら食事を楽しむために参加しても別にいいってことだよねー。じゃあそういうわけで王都に着いたら参加するからフォローよろ」


「はぁ~……」



 なんで普段はチャランポランのくせにこういう話になると頭と口が回るんだコイツは。

 確かに変な要素が見え隠れしてるけれど、わざわざ俺たちが介入する必要はないだろうに。



「なんにもなければタダでごちそうが食べれるってだけだし、なんかあったら力ずくで解決すればいいってだけでしょ? 大丈夫大丈夫」


「……まあお前ならちょっかいかけられてもどうにでもできるだろうが、まだ立場的にはイチ冒険者に過ぎねぇんだから貴族に絡まれるような事態は避けるべきだろ。セレネがボコボコにされた時のこと覚えてんだろ?」


「それを覚えてるからだよ。……もしも、もしもセレネと同じような目に遭う子がいたとしたら、放っておきたくないよ。お願いユーブ」



 …………本気で言ってるのか意識的に反論できない言い方をしているのか。

 くそ、そう言われたらなんも言えないだろうが。



「分かった分かった。そのかわり無茶すんじゃねーぞ」


「りょ。ありがと」


「……イツナさん、セレネって誰すか?」


「ユーブの彼女」


「ぶっ!? ち、違ぇよバカ!!」


「ほほーう、隅に置けねぇなぁユーブ君。でも彼女ほったらかして冒険に出るのはちょっとデリカシーにかけてねぇか?」


「テメェにだきゃ言われたかねぇよバカヤロウ!!」



 ウザ絡みしてくるフォルトを半ギレであしらいつつ、新聞に顔を寄せて誤魔化した。

 くそ、ニヤニヤしやがって。

 ……セレネは今どうしてるんだろうな。



 む? 新聞で顔を隠して気が付いたが、第2大陸王国軍の剣王『リンドブルム』元帥が1週間ほどの武者修業から帰ってきたらしい。

 たった1週間の鍛錬なのになんでこんなデカデカと書かれてるんだ? と思ったがその間だけでレベルが5も上がったとかで大きく話題になってるようだ。


 本人曰く『地獄を見てきた。これからどんな困難が訪れようともあの日々に比べればティーブレイクのようなものだろう』とコメントを残している。

 この元帥って20代半ばで剣王になったもんだから増長してるイメージだったが、こんなストイックな修業をするくらい向上心が高かったのか。見直したわ。



 剣王といえば、この第5大陸にも剣王がいたっけ。

 先代剣王の『スパディア』は丁度100歳になったその日に、王都を襲おうとした強大な魔獣に齧り千切られるのと同時に剣で真っ二つにしてやって相打ちになったとかいう伝説を遺した英雄らしいが、それに負けず劣らずの強さを誇っているらしい。

 確か名前はアランシアンなんとかとかいう、ちょっと怖い雰囲気のイケメンオヤジだった覚えがある。


 王都に着いたら、一目見てみてぇなぁ。

 ……でもなぁ、世界トップクラスの実力者たちってなぜか大体が親父と知り合いっぽいんだよなぁ。

 そう考えるとやっぱ会いたくなくなってきた……。




 解毒のためにエリクサーを買って、結局賞金がパーになっちまったから医療都市で普通に魔獣討伐の依頼をこなして路銀を調達し、炭鉱都市を経由してから王都『ペンドラゴン』へと向かうことにした。

 ミニマムなんとかが暴れてたせいで魔獣の数が少なくなってたからあまり稼げなかったが、どうにか次の都市で野宿することを避けられるくらいの金は確保した。



 馬車や獣車代を節約するために、結局ウサタロー便に頼ることになっちまったがな。



『ピキッ、ピキィッ、ピギィ……!!』


「が、頑張れウサタロー! 炭鉱都市に着けば美味しいご飯が待ってるぞ! 多分!」


「そこはせめて言い切ってやれよ……」



 滅茶苦茶しんどそうに走り続けるウサタローを見てると心が痛むが、耐えてもらうしかねぇ。



「美味しいご飯とか言ってるが、炭鉱に名物なんかあるのか?」


「仮に名物があったとしても食えるかどうかわかんねーっすよ。見たところそいつ草食系の魔獣じゃないっすか?」


「いやどうにもこの子、ウサギのくせに雑食っぽいんだよね。船の中で普通に魚や肉も食べてたし」



 イツナいわく、普段は草食な野生のウサギ魔獣も冬眠前には虫や鳥魔獣の肉を食べたりするらしいが、ウサタローは時期に関係なく完全な雑食らしい。

 雑草なんかに加えて人間用の食事も問題なく消化吸収できるあたり、相当頑強な胃袋してんなコイツ。











『ぺ、ペフゥ……』



 炭鉱都市へ辿り着いたところで再び力尽きるウサタロー。

 手のひらに乗るほど体躯が縮み、耳をタレ下げ舌を出しながら白目で倒れ込んでしまった。



「……よ、よくやったウサタロー。あっちの屋台で売ってたおやつ食わせてやるから元気出せ」


『ペフ……』


「あんまり無茶させるとテイム外して逃げそうで怖いんだけどねー。まあここまでくればもうすぐ王都に着くし、しばらくはゆっくりしてなよ」



 胸の谷間にウサタローを挟んで、顔だけ出した状態で鎮座させるイツナ。

 そのままベビーカステラっぽいおやつを2~3個食べさせると、満足したように眠っちまった。



「うーむ、こうしてるとモコモコしてあったかくて心地いいねぇかわいー」


「羨ましい……」



 プウプウと寝息を上げ撫でられているウサタローを眺めながら、なんかフォルトが呟いてるけど無視。懲りろお前は。

 ……にしても、炭鉱都市っていうだけあって鉱山を中心に都市が半円状に広がっていて、独特な匂いが漂ってるな。


 ウサタロー便を走らせ、着いた街は炭鉱都市【ダンジグレイド】。

 ここを抜ければすぐに王都へ辿り着けるが、そろそろ本格的に金策しておかないとまずい。

 ここまで金欠が酷くなるとは思わなかった。港町での歩き食いがやっぱキツかったか。



 さて、この街にもギルドがあるみたいだし、適当に依頼をこなして路銀を―――






 ズガァン と耳を劈くような爆発音が鉱山から街中へと響き渡った。

 ……おいおい、まさかこの街も工業都市よろしく近くにヤバい魔獣が暴れまわってたりすんのか?



≪ユーブ! オイユーブ! きこえるか!≫


「ぬぉっ!?」



 内心ウンザリしながら鉱山を眺めていると、急に足元から誰かの声が聞こえてきた。

 ……今の声は、リトルノームか? 精霊魔法を使ったわけでもないのに、こいつらから話しかけてくるとは珍しい。



≪こうざんのおくまでいますぐいそいでむかえ! はやく!≫


「は? いや、なんで? さっき爆発があったばっかだしあぶねぇだろ」





≪そのばくはつのげんいんがやばいんだっての! まぞく! まぞくがこうざんをくずしてこのまちをつぶそうとしてやがる!!≫


「……なんだって?」












~~~~~














「第2大陸の殲滅、完了いたしました。残るは第3と第5のみとなります」


『お、おう。さすがに仕事が早いねぇ、他の子たちはまだ全然駆除できてないのに』


「魔族の幹部クラスがまだ何千も残ってますからね。ここまで数が揃っていると時間がかかるのはやむを得ないでしょう」


『そろそろ魔族たちもちらほら活動し始めてるよ。準備は整えておいたから大きな混乱は起こっていないけれど、油断できない状況だね。特に第5大陸がきな臭い動きが増えてるみたいだよ』


「あー、まあ第5はまず大丈夫でしょう。『彼ら』がいますから」


『その彼ら、いや彼女らと言うべきか、も手こずってるみたいだけどね。まあそのうちなんとかなるでしょ。ところで、第2大陸王国軍の元帥に武者修行させたんだって?』


「ええ、今の彼なら魔族の幹部が数体同時に襲い掛かってきたとしても撃退できるでしょう。目を見張る成長ぶりでしたね、ものすごい才能だ」


『……君の鍛錬がヤバすぎたせいで目覚めちゃいけないような部分が覚醒したっぽく見えるけどね。髪真っ白になってたし』


「ちょっとやりすぎた感はありますが、若い子たちには今のうちに力をつけてもらいたいですから。それでは、これより第3大陸の駆除に向かいま――――」





『待て』





『気付いてないとても思ってるのか?』






「……なんのことでしょうか?」


『今、君を見逃しているのは魔族の殲滅が順調に進んでいることと、まだ被害がほとんど出ていないこと、加えて15年前に魔王討伐の功績があるからだ。けれど、もしも魔族によって甚大な被害が出るような事態になったら、私は迷わず『原因』を排除する』


「……」


『その原因のことを黙っていたことについては怒っちゃいない。けれど、それだけは伝えておく。いいな?』


「……承知いたしました。ああ、そうそう。こちらからも一つ」


『なんだ?』





「もしもそれをすれば、俺はこの世界をぶっ壊す。星ごと砕いて粉々にして老若男女問わず人類全員一切合切皆殺しにしてやるからそう思え」





『っ……できるのかい? まだ一人も殺したことがないくせに、そんなことが君に……』


「できないとでも思ってんのか? いいから余計な手ぇ出すな。アンタが世界のために手ぇ汚す覚悟ができてんのは知ってる。だからこっちも倫理を無視して動く覚悟が決まってることくらい理解しろ」


『………はぁ。やだやだ、ホントに世界を滅ぼせる相手に脅しなんかかけるもんじゃないね。ならせめて早く魔族をなんとかしてよー? 私にフォローできる範囲にも限界があるんだから』


「畏まりました。それでは」












「……あー、ビックリした。やっぱバレてたか。咄嗟に脅し返してやったけど、人類皆殺しとかするわけねーじゃん。こわいわー」

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
消すんじゃなくて異世界に追放程度ならキレなかっただろうに。
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