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そのモフモフは何事か


「だーかーら! イツナは彼女じゃなくて双子の妹だっつってんだろうが!」


「嘘つけぇ! どこが双子だ! 目の色も顔つきも性別も違うだろ!」


「二卵性だから当たり前だ! 双子の性別が必ず一緒だとは限らねぇだろうがボケェ!!」


「……はぁ、うるさ」


『ピキィ……』



 船に滑り込み乗船してきた挙句私をナンパしてきたアホとユーブが言い争っている。超うるさい。

 一緒に眺めてるウサタローも鬱陶しそうに目を細めているじゃん、まったく。


 ユーブも最初は無視してたけど、『彼女を見捨てて逃げるなんて最低な奴だな』とか『こっち向けよ腰抜け』とか煽られまくってだんだんムカついてきたらしい。

 それでも我慢してたけど『こんな根性なしに育てた親の顔が見てみたい』って言われた時にさすがにキレて言い争いが勃発。そいつの親は私の親でもあるんだけど……。

 まあ見た目があんま似てないのは分かるけど。



「よーし、表出ろ! テメェの根性叩き直してやる!!」


「ここが表だバカヤロウ! いいぜ、やってやろうじゃねぇかこのターバン野郎がぁ!!」



 あーあー、ユーブに喧嘩売るなんてホントにバカだなぁ。

 あのナンパ男、二十歳くらいに見えるけど年齢的にせいぜい中堅レベルかそこらでしょ? 勝負にならないって。


 うーん、それにしても……。



『ピキッ?』


「いや、どうでもいいけどあのターバン君なんかやたらケツがデカい気が……」



 コートで隠れてるけど、チラ見えするボディラインが尻の部分だけ大きい気がする。安産型だね。

 いや声も低いし体格もガッチリしてるから実は女でしたーってことはないだろうけど、なーんか気になるなぁ。






 船の甲板の広いところでやり合うつもりみたいだけど、迷惑になるだろうしほどほどにしといてほしいんだけどなー。

 普段は私にギャーギャー言ってるくせに、こういう時にはきっちり自分もトラブル起こしてるじゃん。まったく。



「お、喧嘩か?」


「血気盛んなのはいいが船を壊すなよー」


「いいぞ、やれー! あ、オレ黒髪のほうに1000エン!」


「オレはターバン巻いてるほうに3000エンだ!」



 ……船員さんやお客さんが二人の喧嘩を見物しながら賭け事を始めおった。止めろよ。

 あと多分喧嘩にはならないと思う。一方的にボコられるだけだっての。



「おらぁぁああっ!!」


「っ!」



 そう思っていたけど、いざ喧嘩が始まると思わず目を疑った。

 ターバン君がすごい勢いでユーブに殴りかかって、それを驚きながらもガードしたけど、踏ん張り切れずに2~3mも後ろに飛ばされた。

 ……今の動き、ユーブに匹敵する速さかも。



「お、耐えたか! 今のでかるーく決めてやるつもりだったのによぉ!」


「っ舐めんな! こんなヘナチョコパンチが効くかってんだ!」


「ならもう一度受けてみろやぁ!」



 再びユーブに殴りかかってきたのを、紙一重で避けた。

 それと同時にどてっ腹へモロにユーブのカウンターが突き刺さる。

 ちょ、今のパンチヤバくない? 下手すりゃ内臓破裂で死ぬかもしれないくらい強く殴り返してたけど……。



「っってぇな、コラァ!!」


「ぐあっ?!」



 盛大に顔を歪めながらも、すぐにお返しと言わんばかりにユーブの顔面を殴り返した。

 ……あのターバン君タフだなー。思ってたよりずっと強かったみたいだ。

 少なくとも上級職、下手したら特級職クラスかもしれない。



「チョーシ乗ってんじゃねぇぞゴルァ!!」


「ぐほぁっ!? なにすんだボケがぁ!!」



 そっからはもう避けも防ぎもせずただひたすら蹴るわ殴るわの泥試合。

 時間にして数十分もの間、殴り合いは続いた。

 ……今更だけどターバン君、アンタ私をナンパするために声をかけてきたんだよね?

 なんでそっちのけでユーブと殴り合ってんの?



「ぐふぅっ……!! さ、さっさと倒れろ、クソ野郎ぉ……!!」


「うるせぇ……! テメェこそ、いい加減にしろボケぇ……!!」



 うーわ、顔面ボコボコ足元プルプルで啖呵切り合ってる。暑苦しい。

 でも素手とはいえここまでユーブと互角にやり合えるとはね。ちょっと見直したかも。



「だぁっ!」


「でぃっ!」



 互いに顔面を殴り、大きく後ろに反ってよろめいた。

 直後



「がぁぁぁあああ゛っ!!」


「ぎぃぃいいいい゛っ!!」



 ターバン君が大口を開けて声を上げて頭突きをしかけ、ユーブが歯を食いしばりながらそれを額で迎撃。

 渾身の頭突きを互いにぶつけ合った。



「ぐふっ……!」


「ぐぅっ……!」



「ひ、引き分けー!! ダブルノックアウツ!!」



 そのまま二人ともぶっ倒れて終了。

 なんかレフェリーっぽい船員のオッサンがそう宣言して、喧嘩は終わった。仕事しろ。



「すげぇ迫力の喧嘩だったな……」


「あー、引き分けかー」


「賭けは無効だな。解散解散」



 喧嘩が終わると、野次馬たちが拍手してからさっさと散っていってしまった。せめて誰か介抱してやれよ。

 割と見ごたえあったけど、結局なにがしたかったんだろうこのバカ二人……。



 とりあえずポーションぶっかけて治療しとくか。

 うーわ、ユーブ顔面血まみれなんだけど。頭もたんこぶだらけだし。


 このターバン君も頭に何発かいいのをもらってたし、ターバン解いてポーションで治しとこう。

 では失礼しますよと。




「…………え?」



 ターバンを解いたところで、髪の間に妙な突起があるのに気付いた。

 髪の塊でもたんこぶでもない、なにかモフモフとしたものに覆われている奇妙なものが頭に付いている……否、違う。


 生えている。

 頭の頭頂部、中心から少し離れた部分に左右対称になにか犬か猫の耳のようなものが、確かに生えていた。

 よく見ると頭の皮膚が繋がっている。後付けのアクセサリのようなものではなく、これはターバン君の体の一部であることが分かる。



「な、なにこの、なに……?」



 目を疑った。

 なんでターバン君の頭にこんなものが生えているのか。


 訳が分からず困惑しているところで、ターバン君の腰のあたりが動いたのが見えた。

 コートの下で分かりづらいけど、なにかが蠢いている。

 え、なに? なんなの?


 コートをめくって中身を見てみると――――



「……おうっふ」



 思わず変な声が出た。

 ターバン君のズボンから、キツネを思わせるこれまたモフモフとした尻尾がはみ出ていて動いている。

 人肌くらいの温度であったかい。ていうか動いてるし、飾り物じゃないようだ。


 ……。



 とりあえずモフっとくか。

 あ、めっちゃ手触りがいい。この尻尾よく手入れされてるわー。

 モフモフモフモフ……ヤバい、クセになってきた。









 ~~~~~











『『魔獣化薬』は試作品のさらに通過点に過ぎない』


『例の薬、試作品運用を第五大陸にて準備』


『完成品の薬は一つで事足りる』






 魔族のアジトに残された紙片より


イツナ「十回くらい抜いてみようと試したけど、そのうち九回は血が出たね(マ並感」




 お読みいただきありがとうございます。

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
そりゃ、尻尾は皮膚と一体化してるんですから血が出るでしょうよ。 ただの被検体なのか協力者なのかで今後の関係が変わりそうですね。
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