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マママス

挿絵(By みてみん)

 スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~

 コミカライズ版第2巻、発売中です。

 いや9月の頭からですが。もう2か月前じゃねーか(;´Д`)



 ニューシーナで一泊してから、再び港町に向けて出発した。

 ……あのワン公に悲鳴上げて逃げられたことがなんか納得いかねぇが、もう気にするのは止めておこう。



「ふふーふ、街で売ってた酔い止めのおかげで馬車も快適だぜー!」


「あんまりはしゃぐとぶり返すぞ。そろそろ港町に着くから降りる準備しとけ」


「いやホントよく効くよこの薬。売り子のちっちゃい子が『前に料理長が作ってくれた』とか言ってたけど、マジで全然酔わないんだって」


「なんで料理人が酔い止め作ってんだよ……お、潮の匂いがしてきたな」



 数時間も馬車に揺られてたせいでバキバキに軋んだ体を伸ばして緩めながら、港町へと足を進めた。

 関所を抜けると、海岸の周りに漁師の船や市場が並んでいて、離れたところには海水浴にもってこいの砂浜が広がっていた。

 ……海ってホントに青く見えるんだな。何気に初めて見た……いや、親父に連れて行ってもらったことがあったようななかったような……もう朧気だな。



「船の予約をしてくるから、お前は宿の部屋をとっといてくれ」


「ほいほーい。部屋をとったら私は市場で買い物してるから、そっちも適当に楽しんどけば?」


「そうするよ」



 一旦役割分担のために別れて、船の予約をしに手続きへ。

 大陸間の交流船に乗るためのチケットを購入したが、明日の便が定員残り3名、これを逃すと次の便は一週間後という結構ギリギリのタイミングだった。


 ちなみに向かう先は第1大陸……ではなく第5大陸。

 第4から第1への直通便は無いし、なによりも第5大陸にしかない交通手段を利用して第1大陸へ帰りたいから。

 俺もイツナも珍しくその点に関しては意見が一致した。

 さっさと帰るならそのまま港から港へ進んだ方が早いのは理解しているが、どうしても乗ってみたい乗り物があったからだ。




 チケットも買ったし、しばらくは自由行動だがどうしたもんか。

 なんとなく砂浜に来てみたが水着があるわけじゃないし、砂浜に座ってしばらく海を眺めながらゆっくりするか。

 あー、なんだかとても落ち着く。馬車と違って揺れないし波の音が耳に心地いい。


 砂浜を歩く感触や潮の匂いに波の音、どこか懐かしさを感じるのはやっぱり小さなころに海へ来たことがあるからだろうな。

 つっても本当に朧気なんだよなぁ。

 なんつーか、ここによく似た砂浜で訳も分からず泣いてるところに赤い髪のネーちゃんに話しかけられて、一緒にメシ食ったりしたような気が……ダメだ、やっぱ思い出せねぇ。



 ……にしても、熱いっちゃ暑いけど微妙に海水浴には季節外れなせいか、周りに誰もいないからか本当に静かだ。

 こうして何も考えずにただボーっとしてるだけってのも、ある意味贅沢な時間の使い方かもしれねぇな。




「どうした、また迷子か?」




 しばらく黄昏ていたら、後ろから声をかけられた。

 誰が迷子だ。てか『また』ってなんだよ。



「迷子じゃねぇ、つーか誰………っ?!」


「? 口を開けたまま固まっているが、何か気になることでもあるのか?」



 ………………。

 振り向いた先にいたのは、赤い長髪の美人な女性だった。

 つり目でぱっと見ちょっと迫力があるけど、柔らかい笑みがなんとも優し気で怖くはない。


 だが問題はそこじゃない。

 それよりもスタイル抜群な美人がなんとも際どい水着を着ているもんだから、目のやり場に困るのを通り越してアタマが情報を処理しきれずに硬直しちまった。

 なんだその大事な部分以外一切隠す気がないっていうかほぼ紐な水着は。危ないの通り越してほぼアウトだろ。



「い、いや、なんでも、ない……っていうか、マジで誰……?」


「……覚えていないか。こちらは一目で分かったというのに、人から忘れられるというのは存外悲しいものだな」


「えっ……?」



 待て待て、このネーちゃん俺のこと知ってるのか?

 親戚とか? いやこんな美人の親戚がいたらまず忘れようがねぇし、年末年始の挨拶とかでも見たことねぇぞ。



「まあ無理もない。前はこんな、赤ん坊卒業したてくらいの小さな子供だったからな。随分と大きくなったものだ」


「いやあの、すんません、ホントに覚えてないんで。てか、もしかしたら人違いじゃ……」



 少なくともこんな露出狂の美人は知らねぇぞ。

 いくら綺麗なネーちゃんでも、覚えがないのに親し気に話しかけられるのはちょっと怖いんだが……。



「いいや、13年前の●月◆◇日にカジカワの一家がこの海岸を訪れていた時に面識があったはずだ」


「は!? いやなんでそんな具体的な日にちまで言えるんだよ怖ぇなオイ!?」


「人の顔と名前と過去のスケジュールくらいは忘れずに覚えていられるさ」



 今確信した! このネーちゃんヤベェ奴だ!

 なんで本人すら忘れてるようなことをそんな正確に覚えてんだよ!? 怖いの通り越してなんかもうキモい!

 ってちょっと待て、『カジカワの一家』?



「アンタ、親父のこと知ってんのか?」


「ああ。16年前から時々仕事の依頼をしたりされたりといった関係でな、お前と会ったのも旅行がてらこっちの用事を済ませてもらっていた時だった」


「へぇー……」


「カジカワとアルマが依頼をこなしている間にお前たち二人が手持ち無沙汰になってな。イツクティナは海の生き物に興味津々で遊んでいたが、目を離したすきにお前がどこかに飛び出して姿を消した時は肝が冷えたぞ」


「……そんなことあったっけ?」


「慌てて海岸を走り回って、迷子になって歩き疲れたのか一人で座り込んでグズっていたお前を見つけた後、あやしてやるのには苦労したものだ。もう歩けないからと背中を貸してやったり一緒に食事をしたり……といっても、もう忘れてしまったのなら仕方がないか」


「オイ待て!? 自分でも忘れてるような恥を語るのは勘弁してくれ!」



 嘘だろ!? 俺そんなことしてたのか!?

 13年前ってことは、2~3歳のクソガキだったころか。

 それならまあ無理のない話ではあるんだが……ホントにやめてくれ。恥ずかしくて死ぬ。死んじまう。



「つーかアンタなんなんだよ……。親父とは仕事のつき合いだって言うけど、冒険者か?」


「冒険者ギルドのマスターだ、この港町のな」


「ギルマスぅ!? アンタが!? ……いや、嘘だろ? そのギルマスがなんで昼間っからそんな際どいカッコしながら浜辺で散歩してんだよ」


「大量に繁殖したクラゲ型の魔獣の駆除だ。海の中まで入って依頼をこなしてくれる者は少なく手が足らんからやむなくな。この水着は水中での機動力を補助する効果が付いたもので、布の面積が狭いのは素材が貴重だからだがどこか変か?」


「いや、変っていうか……」



 ……この人には肌を見られて恥ずかしいとかそういった感情はねぇのか。

 いや、もうこの人の格好について何か言うのはやめておこう。

 正直目の保養ではあるが、あんまりジロジロ見るのもちょっと……。




「おかーさーん!!」




 ?

 話してる最中に、海岸沿いにある建物のほうから誰かがこっちに寄ってきてるのが見えた。

 手を振りながら歩み寄ってきているのは、5歳くらいで赤髪の小さな女の子だった。



「おかあさん! おなかすいたー! ごはんー!」


「む、すまん。もう少し思い出話を続けたいところだが、娘が呼んでいるのでここまでにしておこう」


「あー、あの子、アンタの?」


「ああ。そろそろ食事時だから呼びに来たのだろうが、よかったらお前もどうだ?」


「えーと……」



 どうしよう。

 目の前の美人は俺にとって朧気な思い出を語ってくる半分不審者みたいなもんなんだが。

 ぶっちゃけた気持ちを言うなら逃げたい。今すぐ逃げたい。


 でも一応この町のギルマスらしいし、厚意を無下にするのもなぁ。

 それに正直俺も腹が減ってるし、ここはごちそうになっておくか。

 ……断じて目の保養を続けたくて誘いに乗ったわけじゃねぇぞ。







 それで『海の家』とかいう海岸沿いの食堂でごちそうしてもらうことになった。

 しかも店の中に先に腹ごしらえしようとイツナが座っていたのを見て、ついでに奢ると言ってくれた。



「いやー、すんませんねーごちそうになっちゃってーいいんですかー」


「かまわんよ。遠慮せず好きなものを食べるといい」


「よっしゃー! それじゃあえーと、イカのタレ焼きにー海鮮セットにー海藻スープにー青魚の浜焼きにー」


「ちょっとは遠慮しろバカ!」


「かまわんと言っただろう。お前も食べられるだけ食べておけ」



 気前がいいなギルマス。

 たかが商売仲間の子供相手になんでこんなに親切にしてくれるんだか。

 それにしてもなーんかこの店も見覚えがあるような気がするな。

 もしかして小さいころにギルマスと一緒にメシ食ったのってこの店だったりするのかね。


 いや、それよりも……。



「? どうかしたのか?」


「……メシ食うのはいいけど着替えてからにしてくれよ。周りの目とか気になんねぇのか?」


「ここは元々海水浴の合間に飲食するための店だ。水着でもなんら問題ない」


「そうかもしれねぇけどさぁ……」



 周りの客の視線が痛い。

 特に男の客。見てる。めっちゃギルマスのこと見てる。

 気持ちは分かるがお前らももう少し遠慮しろよ。



「おかあさん、わたしやきそば!」


「そうか、私も同じものを頼むとしよう」


「え、焼きそばもあんのかこの店?」


「ああ。パスタなどが主流の他の街では珍しいかもしれんな」



 焼きそばなんか我が家以外で出してる店見たことねぇんだが。

 ……どうしよう。他に海鮮系のメニューがたくさんあるのに無性に焼きそばが食いたくなってきた。



「じゃあ俺も焼きそばで」


「いいなー私も焼きそば追加でー」


「おめぇはこれ以上頼むな! どんだけ食う気だよ!?」


「……カジカワの娘なだけあって大した健啖家ぶりのようだな」




 ちょっと顔を引き攣らせながらも笑みを崩さないギルマス。

 マジすんませんコイツの分は自分で払わせますんでホントごめんなさい。


 数分待って出された焼きそばはイカの輪切りとエビにホタテ、さらに豚バラ肉が混じった山海混在の具沢山だった。

 海の幸もしっかり楽しめるうえによく炙られた豚肉の香ばしさと旨味も加わって満足感が高く、なによりウチで食べてた焼きそばの味によく似ていて口に馴染む。

 なるほど、親父はこの店で食ったのを自分で再現したんだな。焼きそばを選んで正解だった。

 ……しっかし、旅先でなにか食べるたびに親父たちの手料理を思い出すのはホームシックなのか、それともかつての両親の旅をなぞっているからか?



「……しかめっ面で食べてるが、口に合わなかったか?」


「いや美味いよ。ただ親父の作った味によく似てるなぁって……なんつーか、男の作ったメシって感じの豪快さというか」


「おやじ? あなたのパパもやきそばすき?」


「ああ。嬢ちゃんのパパも好きだろ?」


「わたしパパいないよ?」



 ……やべぇ、地雷踏んだ!

 和やかな雰囲気で食べてたのに空気が悪くなっちまう!



「わ、悪い、悪気はなかったんだ……!」


「? なんであやまるの? パパがいなくても、わたしにはママが、お母さんがいるよ?」



 健気だ。すっごい健気だ。母親だけでも自分にとってはかけがえのない存在なんだってこの幼さで言えるなんて。

 早く大人らしく振舞おうとママ呼びをお母さんに訂正してるのがなんともいじらしい。



「そうか……この子、すごく優しくていい子だな、ギルマス」


「あ、ああ……」


「……」



 ? 気まずそうに顔を逸らして素っ気なく返事をされた。照れてるのか?

 あとイツナもなんで半目で苦笑いしながら女の子のほう向いてんだ?




 結局ギルマスは露出度高いこと以外は割と普通に親切な人っぽかった

 ちょっと距離感近い気もしたが、多分ギルマスから見た俺たちはまだ小さなガキだったころのイメージが残ってるせいだと思う。



 メシを食い終わったら礼を言ってそのまま別れて、イツナに確保してもらった部屋で一泊。

 明日の昼ごろに第5大陸行きの船が出るから、遅れないようにしねぇとな。








~~~~~









 あー、びっくらこいた。

 食堂で晩御飯食べようと思ったら、赤い髪の露出狂が子連れでユーブと一緒に歩いてるところを見た時は思考が凍り付いたわ。

 その露出狂がこの港町担当のギルマスだって聞いた時に、いつかパパが話してくれた人だってことに気付いた。


 そのギルマスだけど、ユーブと私がちっちゃいころにこの町で一時的に子守を任されてたらしいんだよね。

 自分で言うのもなんだけど、私ら滅茶苦茶元気なガキだったみたいで並のベビーシッターじゃ手に負えなかったんだとか。


 パパとママがこの町近くのテリトリーに出た魔獣だか怪獣だかの対処をしてる間だけ面倒を見てくれていたらしい。

 その時に初めての海にはしゃぎ過ぎたユーブが姿を消して、死ぬほど慌てながら探したとかなんとか。

 まあそんなことはまだいい思い出だったくらいで済む話なんだけどね。


 それで、このギルマスだけど、どうやらギルドの受付嬢と結婚して、連れていた女の子はその間に産まれた子供らしい。

 もう一度言う。あの子は受付嬢とギルマスの間に産まれた子供、らしい。


 ……まあ、同性同士で子供を作る方法なんていくつもあるし、他人の恋愛事情に口を出すつもりはないけどさー。

 それをパパから聞かされた時はもう訳が分からな過ぎて背景が宇宙みたいになってたわ。


 そりゃ親父いないわ。いるわけないわ。

 ユーブも『パパがいなくてもママがいるから平気だよ!』って言われたと思って絶対誤解してるわ。

 『ママ』と『お母さん』がいるならそりゃ寂しくないわ。両親揃ってるもん。

 ユーブがあの子に対してめっちゃ焦って謝ってたのは割と面白かったけどね。ワロス。


 https://39855.mitemin.net/i900952/ 

 ↑紐みたいなビキニのコワマス。ここに載せるにはちょっと肌色多すぎなのでURLだけ。

 こんな格好で魔獣討伐してたらそりゃ露出狂呼ばわりされるわ。


 16年前に比べて随分と丸くなっているコワマスですが、魔族にボコボコにされて凹んでいた時に受付嬢のナイマさんが甲斐甲斐しく世話をしてくれたのをきっかけになんか交際が始まったっぽいです。

 さらにユーブとイツナの世話をしているうちにこれまで眠っていた母性に火が付いたようで、子供に怖がられないように柔らかい雰囲気を出そうと努力した結果『つり目だけど優しそうな女性』に見えるくらいにまで雰囲気が丸くなった模様。

 それに伴い顔の険もなくなり、年齢よりずっと若く見えるようにもなったとか。

 歳のせいか体つきはちょっとムチムチになってきてるらしいけど、それでも充分グラマー。

 上のURLの画像、もう40超えてるんだぜ……。

 ちなみにこんなマイクロなビキニを発注したのはナイマさん。趣味全開。


 もしかしたらユーブがセレネに好感を抱いてるのはチビだったころに『この口調』で話してるコワマスと接したせいで性癖に影響が出たかもしれないし出てないかもしれないからだとかなんとか。





 ↓あと新作の宣伝も一応しておく。ステマ乙。

https://ncode.syosetu.com/n3166jr/

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