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不穏の影



 イノシシの討伐を終え、ダイジェルの宿屋で一泊することになった。

 ケルナ村に泊まってもよかったけど、どこもかしこも俺たちを見ると親父と母さんの話題ばかりでなんだか居心地が悪かったからさっさと逃げた。



「パパがよくお菓子作りに使ってる豆って、ここで栽培されてたんだねー」


「元々親父が持ち込んだのを栽培して、それを特産品にしてるって話だったな」



 その豆が本格的に特産品扱いされるようになったのは、俺たちが産まれたころにどっかの街で開かれた菓子の品評会がきっかけだとか。

 そこに出されたバニソイ豆を使った菓子が好評で、参加者たちがこぞって豆を手に入れようとしてちょっとした騒ぎになったらしい。

 ……多分、その原因となった菓子を作ったのも親父だろうな。手広く色んなイベントこなしすぎだろ。


 それ以来、これまで細々と続けていたバニソイ豆の栽培の規模を拡大して輸出するようになって、村は大いに潤った。

 村へ移住してくる人も少なくなく、たまに沸いてくるイノシシの撃退も今じゃお手の物なんだとか。

 まあさっきのデカブツはさすがに対応できないみたいだったが、あんなのはそうそう出てくるようなもんじゃないだろう。多分。


 ギルマスの話じゃ、各地で強力なはぐれ魔獣が出没してるって話だったが、アレもその一種なのかね。

 物騒なこった。いったい何が原因なのやら。






 ダイジェルの宿屋で一泊した後、迎えが来ることになっている冒険者ギルドへ顔を出した。

 ギルドへ入ると、すぐに秘書のネイアリスさんが俺たちを見つけて声をかけてきた。



「お疲れ様ですー。昨夜、グランドマスターからお二人宛で伝言を授かっておりまして、こちらのメモに記載してありますのでご確認くださーい」


「伝言? 迎えに来てくれるんじゃなかったのか?」


「とりあえず確認してみようよ。……なーんかやな予感がするけど」



 グランドマスターからの伝言メモを確認してみると、極々短い文が記されているだけのほぼ空欄の白い紙だった。

 内容を確認したところで、イツナと一緒に固まった。







『ごめん、緊急の仕事がめっちゃ入ってきて迎えに行けなくなっちゃった。自力で帰ってきて。旅費は後で払うから立て替えといて。じゃあヨロシク』






「死ね。クソババアが」


「……低ランクのまま普通に冒険してるとトラブルに巻き込まれるかもしれないから、早めにSランクになれるように依頼をこなしていくって話じゃなかったのかよ。話に一貫性がねぇなあの人……」




 真顔でメモを破り捨てながら悪態を吐くイツナの横で、ただ呆れることしかできなかった。

 どうすんだよコレ。自力で大陸跨いで戻れってか? いったい何か月かかるんだよ。



「まあ別にいいけどさ。この際、観光半分に楽しみながらゆっくり戻ろうよ」


「あー……もうこうなったら、旅をしながら自力でランク上げていくか。つーか、最初っからグランドマスターなんか頼らずそうしてりゃよかったな」


「心中お察しいたします。……グランドマスター、やっぱりどこかいい加減な方みたいですねー……」



 とりあえず、大陸を渡るとなりゃまずは港を目指さねぇとな。

 商業都市を経由して、港町から第5大陸へ渡ってから第1大陸に戻るのが最短ルートらしいし、まずは商業都市へ行くとするか。



「あ、そうそう、商業都市ヴィンフィートの冒険者ギルドですが、丁度いいことにすぐにランクを上げたい人向けの試験を行っておりますー。よければ受けてみてはいかがでしょうかー?」


「え、試験? 依頼をこなしていけば実績に応じてランクが上がってくんじゃねぇのか?」


「十年くらい前からヴィンフィートでは早急なランクアップができるように、試験と称して難易度の高い依頼をこなす代わりにすぐにランクを昇進できるシステムがあるんですよー」


「へぇ、他じゃ聞いたこともねぇけど、それってちゃんとグランドマスターとかの許可とってんのか? まさかその商業都市のギルマスが勝手に作ったシステムじゃねぇだろうな?」


「大丈夫ですよー。あちらのマスターはグランドマスターの血縁者ですので、そういった話が通りやすいみたいですー」


「……グランドマスターの血縁者かぁ。なんだか急に不安がよぎってきたんだけど……」








 とかネイアリスさんとやりとりしてから、ダイジェルを出たのが数時間前の話。

 今は馬車に乗りながらゆっくりと街道を移動中。




「坊主たちもヴィンフィートに行くのかい?」


「ああ。そこでちょっとゆっくりしてから港町まで行こうと思ってる」


「ほーう、丁度ワシもその道筋だで。特に次の街はデッカいから気合い入れて稼ごうと楽しみにしとるところなんよ」



 しばらくのんびりと景色を眺めていたら、相席になった人が話しかけてきた。

 恰幅のいい初老の爺さんで、穏やかななのにどこかギラついているような、なんともいえない雰囲気の人だ。



「アンタ、旅商人なのか? その歳で旅行しながら商売するって、元気だなぁオイ」


「ははは、ワシぁ生涯現役よ。それにな、もう世界を何周もしとるが目まぐるしく変わる情勢のこともあって、一度たりとも同じ旅はなかった。次はどんな旅になるのか分からんまま引退するんはもったいないやろ」


「……立派だよアンタは」


「にしても、坊主たちはカップルかなんかか? いやぁ、うらやましいのぉ若い若い」


「ちげぇよ。コイツは妹だっての」


「やめて、吐きそう。てか吐く オボロロロロロロrr……」



 爺さんの勘違いを聞いて、馬車酔いからか顔面蒼白で黙り込んでいたイツナがトドメを刺されたように悶え、窓から明日へ向かって盛大に吐いた。

 ……兄妹でカップル扱いされてキモいのは分かるが、そこまで露骨な反応されると普通に腹立つなクソが。



「だ、大丈夫かいなお嬢ちゃん……」


「だいじょうぶじゃないよーもうやだよーおなかのなかからっぽなのに、は、はきけがとまらな おぅええぇぇ……!」


「……あと半日の辛抱だ、耐えろ」



 ムカつきはしたが、青白いのを通り越して土気色の顔で死にそうになっているのを見てさすがに同情心のほうが勝った。

 親父は乗り物酔いしやすいって言ってたけど、イツナにしっかり受け継がれてるなこりゃ。



「ううぅ、死ぬぅ……死んでしまうぅぅぅ……あ、でも馬車を引いてる馬の魔獣ちゃんに乗せてくれたら治るかも」


「急に冗談言いながら元気になってんじゃねぇよ」


「いや本気」


「寝てろ」


「はははっ、仲がええようでなによりだのぉ。……にしても、坊主たちの顔になぁんか見覚えあるんじゃが、もしかしてどっかで会ったことがあったかいな?」


「いや、知らねぇ」


「右に同じ」


「そうかのぉ? まあええわ。ワシはしばらくヴィンフィートで出店やっとるから、気が向いたらなんか買ってってくれや」


「ふーん、なんてお店?」



 そう問うと、オッサンが懐から名刺を俺たちに差し出しながら答えた。



「店の名前は『カナックマート』じゃ。ワシの名前もそのまんまやから、覚えといてや」


「あいあい、気が向いたらねー……うっ、ま、また波がきt オボロロロロッロロrrr……!!」


「だあぁあああっ!? お前マジふざけんな! 外へ吐け外に!!」


「あーあーあー、酔い止めがあれば売ってやるんだがのぉ……」




 魔獣の討伐なんかよりも、道中のほうが修羅場な件について。

 次からは自力で走って移動したほうがいいかもしれねぇなこりゃ……。










 ~~~~~











「グランドマスター、ウチの子たちを第4大陸にほっぽった件について弁明をお聞かせ願えますか?」


「笑顔のまま威圧するのやめてよー。……いや、ホントに嫌な脂汗が滲んでくるからマジでやめて。ごめんて。指ぃボキボキ鳴らしてるの怖すぎなんですけど」


「いいから答えろ」


「アッハイワカリマシタ。……えーとね、結論から言うと、この世界またちょっとピンチになりつつあるんだよねー」


「そうかもな。俺の子たちに雑用押し付けて経験積ませる名目で厄介ごとを片付けさせる代わりに、Sランクにまで上げる手助けをするって契約を早々に反故にされた俺が暴れるかもしれないからな。手始めにこのギルド本部潰そうか?」


「やめてください死んでしまいます。つーか、わざわざ文句言いにこんな深夜にアポなしで来るとかどんだけ親バカなのさ  あーっ! あーっ!! いけませんお客様! テーブルを蹴っ飛ばさないで! お客様! あ゛ーっ!!」


「余計なことくっちゃべってねぇで要点だけ話せ」


「はい! それで世界がピンチになる原因ですが! 魔王がいなきゃ活動できないはずの魔族たちが、どういうわけか徐々に復活し始めてるみたいなんです!!」


「……なんだと?」


「前回魔王が討伐されてから20年も経ってないのに、こんなに早く魔王が産まれるわけないはずなのに、全然原因が分かんないの! どうなってんのか私のほうが聞きたい!」


「うわ、マジか。……確かに、マップ画面にも不審な反応が点々と、それも世界中に……!」


「パラレシア様に問い合わせても『今調べてます』って返信がきてから音沙汰がないし、放っておくわけにもいかないから精霊たちをフル動員して魔族たちを捕捉してんの! 今のところ目立った動きはないけどね!」


「大丈夫なのか? アンタ一人で捕捉しきれる数じゃないだろコレ。ってか、パラレシア様にもって、神様にも原因分かってねぇのかよ」


「だから! ほんっとうに余裕がないから、悪いけどあの子たちに関してはそっちで対応してほしい! 幸い、第4大陸にはほとんど魔族がいないみたいだから、しばらくは放っておいても大丈夫でしょ!」


「あー……事情は分かったよ。暴れたりして悪かったな、部屋は元通りに『直して』おくから許してほしい。……メニューさん、この件についてなんで黙っていた?」


≪……≫


「メニュー?」



≪魔族が活動している『不具合』の原因は、既に判明している。しかし、それを『パラレシア』に知られるのは避けるべきである。そのために、こうして『梶川光流以外の存在に認識されない画面表示』のプログラムを製作することに時間を要したのは致し方ないと理解してほしい≫



「……どういうことだ……?」


≪魔族が復活し始めている原因は――――≫

 サラッと神様よりもカジカワの都合を優先するメニューさん。


















↓次回作(予定・タイトル未定)のおねロリはこんな感じになるっぽいですよ。

挿絵(By みてみん)

 画像がちっさいのはネタバレ防止。あんまり意味ないかもだけど。

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
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[一言] いや、デカいだろ(真顔)
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