入場前の関門
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「ひ、ヒカルっ……! もっとゆっくり……!」
「ダメだ。少しでも早くダイジェルから離れないと、あのデブ男爵に追いつかれるかも知れない。我慢してくれ」
「ううぅ……速過ぎて怖い……」
現在、アルマを抱えて魔力飛行で空の旅の真っ最中。
なるべく人が通るようなルートは避けて、なおかつ街道を見失わないように注意しながら飛んでいる。
当然遠回りになるが、それでも普通に徒歩で進むよりずっと速く、負担も少なく移動できるだろう。
問題はあまりの速度にアルマが怖がってベッタリ抱き着いてきてるから俺が悶死しそうなことくらいだ。正直ちょっと嬉しいけど理性がどこまでもつやら…。
途中でイノシシ共に襲われてた村、ケルナ村が見えたがスルー。ホントは挨拶の一つでもしたいところだが、時間が惜しい。
……バニラの栽培、途中で中断することになってしまって本当に残念だ。さすがに手入れ無しで育ってくれるほど強い植物じゃなさそうだし、次に来る頃には駄目になってるだろうなぁ、くそぅ。
魔力が残り少なくなってきたころに、ようやく街の防壁のようなものが見えてきた。
徒歩なら軽く数日くらいかかるんじゃないかって距離だったが、魔力切れを起こす前に着いて良かった。
街の全体図はまだ見えないが、ダイジェルよりずっとデカい街だということは一目で分かる。
首都とか王都とか、そんな規模の街なのかね?
≪商業都市【ヴィンフィート】:この都市の周辺には優良な鉱山や栄養価の高い野菜や果実がよく採れる森林地帯など、資源が豊富にあるためそれらの流通のために商人などの出入りが頻繁にある都市。王都に匹敵するほどの規模の街で、商売人のメッカの一つに挙げられている≫
おお、そりゃいいな。
あの街ならこれまで見たことのない食材や資源や魔道具が売られているかもしれない。今から楽しみだ。
≪但し、規模が大きい分スラム街など治安の悪い地区も存在する模様。暗殺ギルドなどの裏の組織の人間の根城もあるため要注意≫
なにそれこわい。ダイジェルってやっぱ治安が良かったんだなぁ……。
だがまぁハイリスクハイリターンなのはダンジョンと同じだ。少しばかりベクトルが違うが今からビビっても仕方ない。男は度胸、さっさと街に向かおう。
少し街から離れたところで着陸し、街道に入り街に向かった。
降りた時にアルマが心底安心したような顔をしつつ、こちらに文句を言いたげな顔をしていた。…やっぱりもうちょっと加減して飛ぶべきだったかな。お詫びに今日の晩御飯はちょっと豪華にするから許してくださいな。
で、数十分ほど歩いてようやく街の門に到着。
入場前の確認のために順番待ちの列に並ぶ。人の出入りが思った以上に激しいな。
入場するためには鑑定証明書を受付に確認してもらうのはダイジェルと一緒みたいだ。受付の数はこっちの方が多いが。
そろそろ順番が回ってくるな。
「はい、次の方」
「どうぞ」
俺とアルマの鑑定証明書を手渡すと、受付の銀髪女性の顔が少し困惑したような表情になった。
「ええと、一応確認しますがこれは正式な物ですよね? 冗談で作った偽物とかではなくて」
「はい。ダイジェルのフィルスダイム鑑定師に写していただいたものですが」
「そちらのアルマティナさんは職業がパラディンとありますが、実在したのですね。驚きです」
まあ史上初のパラディンだし、珍しいわな。
「で、そちらのカジカワ様、は貴族の方ですか? 失礼ながら一見そうは見えませんが爵位は?」
「私の故郷では平民でも姓があるのが普通なんですよ。ですので貴族ではありません」
「そうですか、貴族ではないのに家名があるのはこの辺りでは珍しいですね。いえ、それよりも職業とスキルの方がおかしな表示をされていますが、呪術の類にでもかかっているのですか?」
「その表示で正しいです。恥ずかしながら産まれながらスキルを持っていない無能者の身でして」
「……そのような方は初めて見たのですが。失礼ですが、ステータスを改竄されていませんか? 街に入場する際にそのようなことをされると困るのですが……」
すっごい胡散臭いって顔してるな。改竄なんかしてないのに。こんなステータスじゃ疑うのも無理はないけどさ。
どうしよう、街に入る前に思わぬ関門が。ダイジェルでは比較的あっさり入れてくれたのに…。
このままじゃ俺、街に入れてもらえないかも。しかも下手したらアルマまで疑われかねない。
「おや、どうしたのかな? なにかトラブルかい?」
内心困っていると、受付の女性の後ろから他の女性の声が会話に割り込んできた。
ってちっさ。金髪ツインテールで十歳くらいの可愛らしい女の子だった。
ここのスタッフって子供も雇っているのか? ……って耳長いなこの子? 見た感じ作り物じゃなさそうだが。
こ、これはまさか……!
≪亜人種:【エルフ】であると判定≫
マジっすか!? やっぱエルフいるんだこの世界!
つーか某なんとか島とかゲームや漫画のイメージまんまやん。……まさかそういったものを基にデザインされてないよなこの世界……。
「あ、マスター。こちらの人が街への入場を求めているのですが、鑑定用紙に写されているステータス情報がどう見ても異常で、改竄されている疑いがあるのですが」
「んー? どれどれ…………へぇ、ヴェルガの言っていたことは本当だったのか。こりゃまた奇天烈なステータスだねぇハハハ」
マスターって、この子もしかしてお偉いさんなのか?
あれか? エルフだから実は見た目よりずっと歳食ってたりするのか?
いや、それよりヴェルガって誰だよ? 聞き覚えがない名前だ。
≪……ダイジェルのギルドマスターの名前が『ヴェルガランド』であると記録あり。おそらく愛称であると推測≫
え? ……あー、そういえばそんな名前だったような、気がしなくもない。
いつもギルマスギルマス言ってるから本名忘れてたわ。
……色々世話になっておいて名前忘れるとか最低だな俺。お詫びに今度美味い酒でも差し入れに行こう。マジごめんなさい。
「いかがしましょうか。他の街でも同じようにステータスを誤魔化して入場している疑いがあるなら、衛兵へ通報しましょうか?」
「いや、それには及ばない。ただちょっと確認したいことがあるから、この二人を応接室へ案内してあげて。あと、私が良いと言うまで中に誰も入れないように。いいね?」
「え、あ、はい?」
「二人を、応接室に、案内してね?」
「は、はいっ!」
俺を不審者か犯罪者と決めつけたような口ぶりだったが、ツインテエルフ少女に指示を出され一瞬困惑したような声を上げた後、二度言われた直後にはすぐに案内のための段取りに入った。
デカい街だと犯罪者が入る頻度も高いのかねぇ?怖いなー。
てか確認したいことってなんだ?
「あ、あの」
「心配しなくていいよ、〇〇〇〇君」
「!」
……なるほど、ギルマスから俺の事情を聞いているのか。
あの人が信用している人なら、ひとまずは大丈夫だとは思うが、さて。
……街の中へ入りたいだけなのに、なんでここまで時間を取られなきゃならんのかなぁ。めんどくせー。
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