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迫る別れの時


 今回の件で悟った。

 使ったこともない武器を無理に欲しがってもロクなことにならねぇ。



「というわけで、せっかく用意してくれたのに悪いけど、カタナは遠慮しとくよ」


「あー……まああんなことがあったのなら無理もない。気にするな」



 苦笑いしながらキサラギさんが肩を叩く。

 こうしてみると親戚のオッサンみたいな感じだなこの人。親戚なんかほとんどいねぇけど。



「今回の騒ぎは被害小さめでしたね」


「また組長の部屋が壊されないかヒヤヒヤしましたよ」


「……もしかして、しょっちゅうああいう騒ぎが起きてたりすんのか?」


「ああ。前回は光流と茶を飲んでいる時に他の組がカチコミにやってきたのを部屋ごとぶっ飛ばして、その前はどこぞの異世界からやってきたガキが手始めにこの組を潰すとか言ってきたのを撃退した時に屋敷の一部が粉々に……」


「そんなにしょっちゅうぶっ壊されてるのかよココ!? 普通に大事件じゃねぇか!」


「ちなみに大体、外部の敵よりも光流に壊されてる」


「いや親父のせいかよ!?」


「いや、どいつも下手に手加減できる相手じゃなかったし、一応弁償はしてるんだけどね……」



 んな危険地帯で誕生日プレゼント渡そうとすんじゃねぇよ!

 どいつもこいつも妙に落ち着いてるなぁと思ってたけど、普通に慣れっこになってやがったんじゃねぇか!



「……もしかして、今回の騒ぎも予想できてたんじゃねぇのか?」


「まあなんか事件が起こるかもしれないなぁくらいには」


「光流の子たちが来るのなら十中八九騒ぎになるとは思っていた」


「なら先に言っとけよ!」



 ……もういい。疲れた。

 あの変なカタナに乗っ取られてたせいか妙に体がだるいし、これ以上はカタナを見る必要もないし、そろそろお暇させてもらおう。



「もう行くのか。もっとゆっくりしていってもいいのだが……」


「また今度にしとくよ。この後に寄るところもあるし」


「ふむ、もしや池田さんのお宅か?」


「イケダ……ああ、そうそう……だよな? 親父」


「うん、俺の実家だな」



 この後に行くのは、こっちの世界にある親父の実家。

 そこには親父の祖父母、つまり俺やイツナのひいジイさんとひいバアさんが住んでいるらしい。

 顔見せ程度の寄り道らしいが、会うのは初めてだな。……なんか無駄に緊張してきた。



「それじゃあ、お世話になりました」


「またいつでも来い。今度は刀以外に興味を惹きそうなブツを用意しておいてやろう」


「ありがとな。……ん? そういえば、イツナとお袋は?」




「びゃぁぁあああ!! ごめんなさいゴメンナサイ! 分かった! ママ、分かりましたから! もう勝手にトラちゃん連れて行ったりしないからアタマを捩じるのはやめてくださ アギャババババ!!!」




「……」



 さっきから姿が見えないなぁと思ってたら、屋敷の外から変な声が聞こえてきた。

 ホントに懲りねぇなアイツ。学習能力ゼロか。







 その後、お袋に折檻されて気絶したイツナを引き摺りながらしばらく田舎町を歩いていると、一軒の古ぼけた小さな建物が見えてきた。

 赤いチョウチンが目印って言ってたけど、あそこが親父の実家か。



「おーい、来たぞー」



 親父がノックも無しに玄関の戸を開けてそう呼ぶと、奥のほうから誰かが駆け寄ってくるのが聞こえてきた。

 奥から顔を見せたのは、60代くらいのジイさんだった。

 この人が、俺たちのひいジイさんか。



「おお、来たか。……って、そっちの子たちは?」


「ユーブとイツナだよ。ちょっと前に顔見せただろ」


「は!? いやちょっと待たんかい! お前、こないだ見せた時ぁまだ赤ん坊だっただろ!?」


「日本とあっちの世界で時期が違うんだっての。日本じゃせいぜい2~3年前くらいだろうけど、パラレシアだともう15年経ってるぞ」


「じゅ、十五年かいな……。まあようもようも、子供がデッカくなるのは早いもんやのぉ……!」



 この間まで、赤ん坊だった?

 ……え、俺たち、まさかここに来たことあるのか?



「まだ生まれたばっかのころだから覚えてないだろうけど、一回だけここに来たことがあるぞ」


「ってことは、今日が初めてじゃなかったのか……イツナは、覚えてたか?」


「いや全然。まったく見覚えないんですけど」


「だよなぁ……」


「お久しぶりです、義祖父さん。ほら、二人も挨拶して」


「おっと、えーと……ゆ、ユーブレイブです。どうも」


「イツクティナでーす。よろしく、ひいジーちゃん」


「おうおう、ようきおったな。まあ上がりんさい。茶菓子用意してやっからな」


「ありがとう、ございます」



 お袋に促されて、慌てて挨拶すると顔の皺を深めてクシャクシャの笑顔を見せてくれた。

 ……なんつーか、普通にジイさんやバアさんとかよりも優しそうな人だな。





「くぉらジジイィッ!! あんた今日燃えるゴミ出すの忘れてんじゃないよこのアホンダラァ!!」


「ギャァアアッ!? 待て待て待て! 今、ひ孫来とる! ひ孫がおるから後にしてくれや あグホァッ!!」



 ……鬼の形相でひいジイさんをぶっ飛ばしながら奥から現れたひいバアさんは、親父やお袋にも負けないくらい怖そうだった。

 親父がカカア天下なのは遺伝なのかな……。




 その後、茶菓子をつまみながらしばらく他愛のない話を駄弁った。

 趣味はなんだとか将来はどうしたいとか、ちょっと辟易するほど根掘り葉掘り聞いてくるのでちょっとイツナも引き気味だったが。

 こうしてお年寄りの話し相手になることなんざ滅多にあるもんでもねぇし、どうでもいい話を本当に楽しそうな顔で聞いてくれるのは決して嫌じゃあなかった。



 結局、親父の実家には本当に顔見せ程度の滞在で終わった。

 もうすぐ夜の酒場を営業するから、その準備に入らないといけないと残念そうに言っていたが、忙しいのに無理させちまったみたいで申し訳ねぇ。



「ははは、気にすんな! 次はもっとゆっくりとできるように早めに来いや!」


「こうしてひ孫たちの顔が見れただけでも、あたしゃ満足だよ。それじゃあ、元気でねぇ」



 無理に引き留めもせず、笑顔で見送ってくれた。

 ここへ来るまでは、成人祝いにわざわざ親父の実家なんかに行く必要があるのかとちょっと面倒にも思っていたが、帰るころには少し名残惜しく感じていた。

 ……ほんの少し話しただけの曾祖父母との別れで、こんなに寂しい気持ちになるなんて、思ってもみなかった。



 


 一週間後、俺たちは今住んでいる家を離れて、第一大陸の冒険者ギルド本部へ向かうことになっている。

 いわく、俺たちは成人前から特級職並の力を持っているから、どっかのバカ貴族とかに目を付けられてちょっかいをかけられる危険性があるんだとか。

 

 親父やお袋の助けを借りれば簡単に追っ払えるだろうが、でも、成人したからにはもう自分たちの身は自分たちで守れるようになりたい。

 セレネをボコボコにしやがったクソ野郎みたいな悪徳貴族みたいなの自分たちで追っ払えるようになるには、腕っぷしだけじゃなくてそれ相応の立場や称号が必要になってくる。

 Sランクにまで上がれば、貴族の連中だろうと迂闊に手を出すことができなくなるらしいから、最短で昇進できるように本部から直接依頼を受ける段取りを進めてもらっているというわけだ。


 そしてそれは、親父とお袋の二人としばらくお別れすることを意味する。

 今になって、それが不安に思ってしまっている。

 ……情けねぇな、俺。




「いやまあ会おうと思えばファストトラベルとか転移魔法でいつでも会えるから、そんな悲観することないけどな」




 ………そうだった。

 くっそ! なんか深刻に考えてた自分がバカみてぇじゃねぇか!

 決めた、Sランクに昇進するまで親父たちには会わねぇ!

 でないと自立したことにゃならねぇからな!



「えええええ!! そ、そんな……これから俺はどう生きていけばいいんだぁ……」


「いやなんでアンタのほうがそんな落ち込んでんだよ!?」



 ……ああ、不安だ。情けねぇな親父。

 あと少しで、この物語も終わります。



 まあ終わった後にも閑話とか思いついたら投稿するかもだけど(未練たらたら

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