元恋人たちのデートの裏側
本年最後の投稿となります。今年も書籍化やらコミカライズ化やらでゴタゴタしておりましたが、皆様には大変お世話になりました。感謝いたします(`・ω・´)ゞ
それでは、よいお年を。
パラレシアとはまるで趣の異なるニホンの街並みを進む、セレネちゃんとかいう元日本人で転生者の女の子。
私は今、その子の影の中に潜んで護衛をしている。
まったくもう、久しぶりにカジカワさんから協力要請がきたと思ったら、こんなストーカー紛いの真似をやらされることになるなんて。
しかも報酬がニホンのお菓子って……子供じゃないんですから。
いや、既婚者の身なのにカジカワさんからオシャレなアクセとかもらっても困るんですけどね。
……既婚者、か。
思えば十五年前、カジカワさんたちと一緒に冒険していたころは、自分が結婚して家庭を持つことなんて想像もしていなかったなぁ……。
あのころは毎日ドタバタ大騒ぎで、平穏な日なんてほとんどなかった。
それでも、私の人生で一番充実していた時期だったと思う。
今では自分も一児の母。
髪と瞳の色以外は自分に瓜二つの娘『リリアンヌ』を立派なレディに育て上げるべく日々奮闘している。
口調だって院長譲りの訛りが感染らないように、丁寧な言葉遣いを心掛けたりしてるし。
まあ孤児院に顔出した時、リリアンヌが子供たちと一緒に遊んでいたら院長が混じってきて、そこから結局院長の口調が感染ってしまったんですけどね!
すぐに矯正しようとしたけれど、その際に旦那が『お前だって前はそんな感じだったろ』とか余計なことを言ったせいで文句も言えなくなってしまいましたし!
『そう落ち込むことないっすよ、涙拭けっす』とか慰めてきた日にゃホントに頭抱えた。アンタのことだっての。
ちなみに旦那様はラディアさん。
アルマさんがおめでたになったことでパーティ『希望の明日』が活動休止状態になり、単身での活動をしている間にラディアさんと仕事をする機会があって、そこから一緒になることが多くなって徐々に仲が深まっていった結果そのままゴールイン。
以前からどこか放っておけない雰囲気だったけれど一緒にいると安心できるし、いっそ結婚しちゃえばいいじゃんというノリでくっついちゃったけど、なんだかんだで家族の仲は良好で日々睦み合っております。
私の外見がいつまで経っても幼児体型なせいで、しばしば旦那がロリコン扱いされたりしてるけど。
……ホント、どうなってるんでしょうね……。
私のお母さんと私とリリアがそっくりすぎて、はたから見たら三つ子にしか思えないくらい親子孫三代全員がちっさいままなのは最早呪いかなんかかと疑いそうになる。
しばらく子育てに精を出しながら平和に暮らしていたけれど、魔獣の討伐依頼や時々グランドマスターさんやカジカワさんからの無茶ぶりにも対応している。
今回の依頼はかなり退屈というか、ぶっちゃけヒマ。
影の中でひたすら護衛対象に付きっきりのまま過ごすだけの簡単なお仕事です。
魔力自動回復が付呪されたアクセを着けているので魔力切れの心配もないし。
さすがにトイレとかセンシティブな用事の場までは同行していないけれど、ずっとこんな調子で張り付いていると罪悪感があるというか……。
早く終わってくんないかなーとか思いながらしばらく張り付いていると、セレネちゃんが階段で足を踏み外して危うく大怪我しそうになった。
慌てて影の中から体を支えようとしたら、近くにいた優し気な青年がセレネちゃんを助けてくれた。うーん、イケメン。
でもこのイケメン、なーんか陰があるというかぶっちゃけ胡散臭い。
笑顔の裏に悪意があるようなないような……なんというか、イタズラを仕掛けてくる時のカジカワさんを思わせる剽軽な不気味さが隠しきれてない。……変な例えかもしれないけれどマジでそんな感じ。
犯罪者っぽいというよりは、その一歩手前。予備軍って印象だ。
この子ガードが固そうな印象だったのに、まんまとその怪しい青年の誘いに乗ってしまったんですけど。
なに? ナンパ目的で日本に帰ったんですかこの子? 元恋人を探すって話はどこへ……いや、待てよ。
もしかして、この青年が前世の元恋人だったり? ……ウソでしょ、そんなことあります?
その後、夜になるまでお若い男女二人のデートを特等席で眺め続けることになってしまった。
いやーキツい。何がキツいって三十路過ぎてる私が若人たちの睦み合いを覗き見してるっていう事実がキツい。自己嫌悪でしばらく寝込みそう。
デートの最中、セレネちゃんは自分が恋人の生まれ変わりだっていうことを伝えたりはしていない。
そんな話信じてもらえるはずがないし、当然と言えば当然だろうけれど。
……まさか青年もそのことに勘付いて声をかけたんだろうか。
しばらく様子を見ていたけれど、一見二人ともデートを楽しんでいるように思えてどこか一歩引いているような態度に思える。
セレネちゃんは内心警戒しているようで、青年は後ろめたさを感じさせる苦笑いを浮かべることがあるのを見逃さなかった。
その苦い笑顔になんの意図があったのか、デートの終わりに知ることになった。
結論から言うと、青年は誘拐組織の一員だった。
彼からすれば顔がよくて一人で行動していたセレネちゃんは格好の獲物だったというだけで、特に彼女の正体に気が付いていたというわけでもなかったようだ。
……悲しい話ですね。
いつの間にやら彼女たちの周りには誘拐組織の連中が取り囲んでいて、このままだとセレネちゃんが連れ去られてしまう。
ここは私が助けるべきかと思ったところで、セレネちゃんが何やら妙なポーションを取り出して呷った。
と思ったら、セレネちゃんの腕を掴んできた誘拐犯を勢いよくぶん投げた。
……さっき飲んだのは能力値強化薬か何かだったのかな? どう考えても成人前の子供の膂力じゃないんですけど。
そのまま次々と男たちを殴り倒していく様はシュールにすら思えたけれど、4人目くらいで足を拘束された隙に離れたところから別の男がセレネちゃんに向かって『銃』とかいう武器を構えているのが見えた。
アレって、こっちの世界のボウガンみたいなもんでしたっけ? ってことはこのままじゃセレネちゃんが撃たれる……ああ、ここでようやく私の出番ってわけか。
影の中から手裏剣を投げて、セレネちゃんに向かって撃たれた弾を弾いた。
思ったより速い弾だったけれど、これくらいなら余裕で撃墜可能だ。
弾が弾かれたことに一瞬困惑していたけれど、すぐに切り替えて残りの誘拐犯たちも撃沈したようだ。状況判断早いですねこの子。
最後に、一緒にデートをしていた青年に愛憎混じった叫び声を上げながらボコボコにしている。
ちょちょちょ、やりすぎやりすぎ。そのままじゃホントに死んじゃいますって。
……あー、なんか十五年前にクソ親父をボコった時のことを思い出しますねー……。
気持ちは分かる。そりゃもう痛いほどに分かる。
大切な家族や恋人に裏切られた時の、あの怒りと絶望は言葉で表せるようなものじゃない。
でも、怒りに任せて殺してしまうのは違う。早く止めないと。
……つーか、私にこんなこと押し付けたカジカワさんはいったいどこ行ってるんですかね。
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20階層にて、セレフレネの前世『野山典子』さんの遺品を回収。
途中で『★開かれた傷跡』に絡まれたりもしたが、魔力操作で拘束してるうちに用件を済ませてさっさと脱出した。
21階層で魔力操作の修業しといてよかった。おかげで鬼先生の偽物くらいなら問題なく縛り付けられるようになってたし。本物は無理。
見つかったのはプリクラの貼ってある遺書と髪飾りくらいで、あとは何も残っていなかった。遺体とか残っていても困るが。
こんなものでもセレフレネが野山さんの生まれ変わりだっていうことの証明くらいにはなるかもしれないし、もしも元恋人と再会して自分が転生者だってことを明かすつもりなら、それを信じてもらうための助けくらいにはなるだろう。多分。
そう思っていたんだが、その元恋人が誘拐犯まがいの犯罪に手を染めそうになってて、しかもよりによってセレフレネを標的にして返り討ちにあっていた。
もうどっからツッコめばいいのやら。20階層くんだりまでわざわざ遺品回収に行った分の時間返せ。
セレフレネに散々ボコられた後に、同じくボコられてた誘拐犯たちにリンチされそうになっていたので介入。
別に放っておいてもいいけど、もしも殺されたりしたらそのことをセレフレネが引き摺るかもしれないし。
しかもこの誘拐犯ども、よりによって三佐組の威を借りてこの元恋人を脅していたらしい。今はもう三佐組じゃなくて一二三組だっての。
……全員ボコってから如月さんに押し付けておこう。その後は知らん。
野山さんの元恋人のガキにプリクラ付きの遺書と髪飾りを押し付けてさっさと退散。
もうこれ以上は俺たちがしゃしゃり出る必要はない。
元恋人のガキと別れた後の様子を見る限りじゃ、もうセレフレネに日本への未練はなさそうだ。
正直言って助かった。もしも元恋人のいる日本に帰るなんてことになったら親御さん方やユーブたちへの報告ががががが(ry
「それで珍しく日本へ帰ってきたというわけか。……父親になって、お前も色々と苦労をしているようだな」
「まあね。アンタは結婚しないんですか?」
「女になったお前が相手なら是非」
「では失礼します」
「待て待て、冗談半分で言ったことを真に受けて帰ろうとするな」
「半分は本気じゃねーか! ちょっとは口説く相手考えろ! こちとら四十路超えてるオッサンなんですよ!?」
「そう、か。そうだったな。お前は私たちに比べて随分と早く歳をとっているのだな……」
誘拐犯たちを如月さんへ押し付けるついでに、茶の席で愚痴の聞き相手になってもらった。
その際にいつもの求婚ムーブをかましてきたが、オッサンがオッサンに求愛してくる絵面はまさに地獄。アルコール入ってないのに吐きそう。
「……そのうち、いつの間にかお前のほうが年上になっているかもしれんな」
「かもしれませんね。こうしてアンタやジイさんたちと会うのもあと何回くらいでしょうか」
「何回でも会いに戻ってこい。池田さんたちに大きくなった孫の顔を見せてやれ。赤ん坊だったころに会わせて以来、ずっと会わせていないんだろう?」
「パラレシアの、俺たちの世界で生きるための教育に、日本うんぬんの事情は説明するとややこしくなるんですよ。まあ、今度成人祝いついでにこっちに連れてくる予定ではありますが」
「それはいい。実家へは当然顔を出すとして、どこか遊びに連れて行ってやってはどうだ?」
「下の子は動物園にでも連れて行こうかと思ってるんですが、上の子はどこがいいかなぁと悩んでます。最近になってユーブの趣味が武器鑑賞だってことを聞いたばかりなんですが、ぶっちゃけ日本よりもあっちの世界の武器のほうが立派なものが多いし」
「ならウチの事務所へ連れてこい。日本刀からチャカまでよりどりみどりだぞ!」
「子供にチャカなんか見せようとすんな! 教育に悪いだろーが!」
「いや、普通に剣やら魔法やらが蔓延ってるそっちの世界からしたらチャカなんか大した脅威にならんだろ……」
それはそう。……でもなんかイメージ悪いからやめろ!
……しかし、こっちの世界で目を引きそうな武器といったらそんぐらいしかなさそうだしなぁ……。
しばらく如月さんと談笑を楽しんだ後、レイナの報酬にお菓子を買ってから合流。
……なんだかとっても恨めし気な顔してるがどうした?
「ずっと放置されてりゃ怒るに決まってんでしょ! もう夜中なんすけど、今までどこほっつき歩いてたんすか!」
「悪い、ちょっと野暮用で。つーか口調が元に戻ってんぞ」
「そりゃ戻りもするっすよ! 自分にとっちゃここは異世界なんすよ!? 正直めっちゃ心細かったんすけど!」
「正直すまんかった。こっちの用事は済んだからもう戻っていいぞ、お疲れ。これ報酬な」
「むぐぅ……! 美味しいっすけど、こんなもんで自分の怒りが収まると思われちゃ困るっす!」
そこらの露店で売ってた今川焼を口に突っ込んでやったが、まだご不満な様子。
仕方ない、まだ開いてるデパ地下あたりで適当にお菓子を選ばせてやるか。
今度成人祝いに家族全員で日本旅行をする下見も兼ねて。
なお、その日本旅行でもやっぱ騒ぎが起きた模様。
……もう余計なことせずに引きこもっておいたほうがいいんじゃないかとも思う今日このごろ。
多分、2024年でこの小説の蛇足も終わりを迎えそうです。




