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化けの皮が剥がれる時


 セレフレネことセレネちゃんのメニュー機能へ、一週間後に喫茶店で待ち合わせの約束を伝言しておいた。

 ちょっと間が空くことになるが、あんなことがあった後だしきっちり心身を休めてからのほうがいいだろう。

 傷は綺麗サッパリ治したが、大人相手に暴力を振るわれたショックは小さくはないはずだしな。


 ユーブとイツナ、あとローアは事情聴取と(主にイツナの)過剰防衛に対する軽い注意を受けた後にすぐ解放された。

 聞けば、セレネちゃんはローアを庇ってあんな大怪我をさせられたらしく、そのことを気に病んでか解放された後はずっと彼女が目覚めるまで傍で待っているそうだ。

 傷は完治してるしすぐに目を覚ますとは思うが、本当に大切な友達なんだということが分かる。


 うーむ、身を挺して義妹を助けられたとあっては、こちらもそれに報いなきゃならんな。

 今後なにか助けてほしいことがあったら、惜しみなく力を貸してあげることにしよう。


 さて、セレネちゃんに関しては何をするにしてもとりあえず一週間後だ。

 それまではまあ気長に待つとしよう。他にやることは沢山あるし。



 例えば、ローアは今月末が誕生日でとうとう成人する。

 その記念に色々と準備中。ケーキとかプレゼントとか。

 ローアももう立派な大人か。月日が経つのは早いなぁ。しみじみ。

 ……いい加減に俺への恋慕を断ち切ってくれれば、それでもう言うことないんだが。



 その二か月半後にはユーブとイツナの誕生日も控えている。

 既に新人用の訓練なんか必要ないくらいの活動実績があるんだが、この子たちは成人したらすぐに第1大陸のグラマスのところへ預けることになっている。


 俺としては最初は近場での依頼をこなしてゆっくりしてからでもいいと思ってたんだが、さっさとSランクに上げてしまったほうが余計なトラブルを避けられるからだとか。

 グラマスが言うにはSランク冒険者は言うならば世界の宝で、その地位は貴族の公爵家にも引けを取らないらしく、貴族や王族と言えども迂闊に手を出せなくなる。

 まあ、若いころの義両親がどっかの侯爵に絡まれたみたいに、必ずトラブルが避けられるというわけでもないようだが。


 万が一そういった輩に絡まれたとしても、俺やアルマが介入すればすぐ解決することはできるだろうが、いつまでも俺たちがしゃしゃり出るのはよくない。

 この子たちの人生はこの子たちのものだ。いつまでも親が子を縛り付けていては前へ進めないからな。

 ……でもやっぱさみしーなー……。




「はぁ、一時はどうなるかと思ったけど、無事に済んでよかったー……」


「無事じゃねぇよ。セレネがボコボコにされてんだぞ……」


「……うん、そうだね。傷はもう治してもらったけど、あんなことになる前にどうにかできてればねぇ……」



 その二人だが、セレネちゃんが捕まってボコボコにされたことに対して珍しく落ち込んでいる。

 これまで大抵のことは腕力で解決できていたが、それが通じず友達を害されて手も足も出ない状況になってしまったことを悔やんでいるようだ。

 なんとか元気付けられないかと悩みながら眺めていると、アルマが二人の傍まで寄ってきて声をかけた。



「二人とも、気持ちは分かるけど落ち込むのはそのへんにしておきなさい。ユーブもイツナも、やらないといけないことがあるでしょう?」


「ママ……?」


「そのお友達、セレネちゃんが起きた時にあなたたちが落ち込んでたら、それを見てますますその子が気に病んでしまうわ。今するべきことはウジウジ落ち込むことじゃなくて、セレネちゃんが元気になった時のお祝いにプレゼントでも用意してあげることよ」


「母さん……そう、かもな」


「分かったらお買い物に行く準備をしなさい。あなたも一緒に行くわよ」


「お、おう」


「ほら、早く」


「ま、ママ、分かったから、自分で立つから……!」


「く、首、首絞まってるって、母さん……!」



 落ち込んでいる二人を、アルマが諭して奮起を促した。

 ……いや、無理やり叩き起こしたというべきか。首の後ろを掴んで引き摺り回すのは止めて差し上げろ。

 こういう時の接し方はアルマのほうがよっぽど分かってるみたいだなぁ……。





 そんなわけで、街でショッピングタイム。

 アルマはイツナと、俺はユーブと一緒にお買い物。

 イツナたちはアクセサリ関係の店を回っているが、ユーブはお菓子とか食い物に目がいっているあたり遺伝を感じる。



「ユーブ、お菓子もいいがたまには装飾品でも贈ってあげたらどうだ? きっと喜ぶぞ」


「……うるせ。女物の飾りなんか分かんねぇよ」


「深く考えなくていいんだよ。イヤリングでも指輪でも、その子に似合いそうなものを選べばいい」


「イヤリングはともかく、ゆ、指輪って……どういうことだよ……!」



 照れるな。別に結婚指輪ってわけじゃない。俺だって結婚前に指輪プレゼントしてたぞ。重力水晶の。

 この反応から見るに、セレネちゃんに対して脈ありっぽいかこれは。頑張れ。


 ……あのトラブルに介入した後、家に帰ってからユーブから気まずそうに『……助かったよ、親父』って言われて以降、少し対応が柔らかくなった。

 少なくともこうして一緒に買い物することを拒否しないくらいには、関係が回復しつつあるのを感じる。

 そのことを踏まえてもセレネちゃんには感謝してもし足りないな。いや本人は殴られたりしてたしたまったもんじゃないだろうけど。


 結局装飾品関係はスルーしてちょっとお高い菓子を買ってユーブのショッピングは終わった。そういうとこだぞ息子よ。

 まあいい、そろそろイツナたちと合流して、飯でも食って帰るか。


 イツナたちの寄っている装飾品店へ向かうと、店の前に二人の姿があった。



「……ん? なんだアレ?」


「なんか揉めてるみたいだが……」



 アルマとイツナに、大柄な男の二人組がヘラヘラと笑いながら話しかけている。



「だからぁ、ちょっと一緒にお茶でもどうかってだけですよぉ」


「その後よかったら楽しいとこ行きませんかぁ?」



 ……ナンパか?

 なんて命知らずな。お前らが声をかけてるの、Sランク上位の魔獣が尻尾を巻いて逃げるレベルの女傑やぞ。

 と思ったが、ナンパどものステータスを確認するとかなりの実力者だ。Lv60を超えてるとはなかなかやるな。



「お断りします。私には夫がいますし、この子をあなた方に預けるつもりもありません」


「おっほ! まさかの人妻!? やべぇ、逆にそそるわ」


「キモ。……近寄んないでくれる? そろそろ私ら帰るところだから、迷惑なんだけど」


「まあまあそう言わずにぃ」



 ……アルマが敬語塩対応モードで淡々と断って、イツナも拒否感マシマシで帰ろうとしてるのにしつこく誘おうとしている。

 そのへんにしとけ、これ以上は危ないぞ。主にお前らが。


 ……って、おい。



「っ!?」


「おお、人妻さん相当デカいと思ってたけど、娘さんもかなり発育いいねぇ」


「て、てめぇ……どこ触って……!!」



 ナンパの一人が、イツナの尻に手を回して掴んだのが見えた。

 イツナが怒りに顔を歪めているのが分かったが、それを見た時に、俺の思考が真っ赤に染まっていくのが感じられた。















 よし、死ね。




「テメェ! 人の妹になにしてやが――――」



 隣でユーブが何か叫ぼうとしたようだが、まるで意に介さず駆け出していた。





「なにしくさっとんだテメェゴルァぁぁああああっ!!!」


「おぎょべほぁっ!!?」


「グゲァツ!!?」



 イツナにセクハラしやがった野郎を蹴り上げ、さらにオーバーヘッドキックで追撃し、蹴り飛ばした先にいたナンパ男も撃沈した。

 蹴りを当てる直前で辛うじて手加減が間に合ったが、あのまま怒りに任せて蹴っていたら股間から頭にかけて真っ二つになっていただろう。



「イツナ、大丈夫か!? あの野郎、人の娘に……!!」


「え、あ、え……ぱ、パパ……?」


「……あなた、落ち着いて。深呼吸して頭を冷やしてから、自分が何をしたのか確認したほうがいいわ」


「え? ……あっ」




 顔を覆いながら呆れ半分に言うアルマの言葉に、我に返った。


 アカン。

 やっちまった。


 イツナがセクハラされたのを見て、怒りに任せてユーブとイツナの前でナンパ野郎どもをぶっ飛ばしちまった。

 ユーブには怒りに任せて暴力を振るうなとか言っといて、自分はこの有様じゃないか。十五年前からまるで成長していない……。



「お、おや、じ……? 今のは……?」


「……今のは、その……蜃気楼だ。忘れなさい」


「いやあなたその言い訳は無理があると思うわ……」



 ユーブとイツナが呆然としながら俺を眺めているのを見て、取り返しのつかないことをした実感が湧いてきた。

 どうしよう。マジでどうすればいいんだ。


 その後、家へ帰ってから家族会議で吊るし上げられることになった。

 せっかくユーブとの関係が修復できそうだったのに、これからどうなっちまうんだ……。

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