茶番劇の裏側視点
ひとまずこの状況を把握するために、あえて偉そうにふんぞり返っているハゲ貴族に話を聞いてみることに。
このハゲが言うには、ユーブとイツナがどっかから連れてきた翼竜型魔獣を街の中で暴れさせたせいで被害甚大だぞーお前らのせいだーと主張している。
ダウト。
そこで死んでる翼竜魔獣の生前テイム履歴を参照したところ、このハゲに一時テイムされた後に放棄された形跡がある。
どう考えてもこのハゲが翼竜を暴れさせてからユーブたちに冤罪を着せているとしか思えない。
つっても、テイムを解除した魔獣の履歴を調べることなんか普通は無理だ。
鑑定師のジイさん、あるいは俺かネオラ君ぐらいしかそれを知ることはできない。
犯人がユーブたちではなく、このハゲだと証明するためにはメニュー以外の証拠、あるいは証明が必要になる。
「ぱ、パパ、あの、ね……」
「……」
どう立ち回るべきか考えながらユーブたちに声をかけると、顔を真っ青にしながらどう話せばいいのか分からないといった様子だ。
……大丈夫。分かってるよ、お前たちは何も悪いことなんかしていないんだろ。
仕方ない、くっさい芝居をすることになるがユーブたちのためだ。ここはパパが一肌脱ぎますか。
「すみません、皆様! 本当にこの子たちがやったかどうかを確認する前に、一刻も早くこの虫下しのポーションを投与することをお許し願いたい!」
そう叫びながら、懐から液体の入った小瓶を取り出した。
なお中身はただのジュースである。虫下しのポーション? なにそれ知らん。
「この魔獣は『プテラノドン・ディザスター』という翼竜型の魔獣で、体表にとある『ダニ』に寄生されていることがあるのです!(嘘」
「何……ダニだと?」
「そのダニは人間にも寄生し、約、えーと……(テイム履歴の時間を確認中)……約20時間ほどで宿主の体を発症させて、最終的には命を奪うことすらあるほど重症化させてしまうのです!(嘘八百」
……キッツ。
何が悲しくてこんな三文芝居を繰り広げなきゃならんのか。
どれもこれもユーブとイツナをハメようとしたこのクソハゲが悪い。あんないい子たちを陥れようとした罪は重いぞハゲ!
「ちなみに症状としては、まず首の後ろが焼けるように熱くなります」
「うっ……!?」
魔力を遠隔操作してハゲの首の後ろに熱エネルギーを発生させて、発熱の症状を偽装。
「逆に背筋は凍るような悪寒を覚え……」
「う……!? ひ、ひぃ……!?」
同じくハゲに纏わせた魔力を冷気に変換して寒中水泳ばりの寒気を演出。
「さらには、頭が割れるほどの激痛が走るそうです」
「う、うあああ……!!」
そしてこめかみに魔力の拳をゴリゴリと押し付け、地味だが死ぬほど痛い頭痛を味わってもらった。
そのまましばらく悶えていてもらってもいいが、さっさとこの茶番を終わらせたいし話を進めるとしよう。
「発症するのは寄生してから20時間後。直接魔獣に触れなければ寄生されることはないほど感染力は脆弱ですので、昨日にでも魔獣に触れていない限りは今すぐ症状が出るということはありません。また発症してもすぐに虫下しポーションを飲めば、すぐに症状は治まるはずです」
まあその症状の原因全部俺だけどな。ワロス。
「し、症状が出て、ほ、放っておいたら、どう、なるんだ……?!」
「死にます」
息も絶え絶えに問いかけてくるハゲに無慈悲な回答をしてやった。あー溜飲が下がるわー。
おっと、危ない危ない。ちょっと笑いそうになっちまった。ポーカーフェイスを維持しないと。
「お、おれにも、ポーションを寄越せ! さっきから首が熱くて悪寒がする上に頭痛がするんだ! そのダニに寄生されているに違いない!」
「いえいえ、ダニに寄生されてから20時間が経過していなければ発症はしませんよ。きっと私の説明を聞いたために起きたプラシーボ効果でしょう。仮に今日感染したとしても、発症するのは明日のはずです(嘘八千」
「いいから、寄越せぇ! うがぁぁああ!!」
「つまり、昨日の時点でこの翼竜型の魔獣と接触していたと認めるということでよろしいのですかな?」
「そ、それは……!」
「ちなみに、発症してからすぐにポーションを投与しなければ頭部が破裂し、辺りにダニの卵が撒き散らされるそうです。と言っても人間に影響があるのはあくまで成虫なのですが(嘘八万」
「ひ、ひいぃ……!?」
そう脅しながら仕上げにハゲの頭を魔力操作で上方向へ引っ張って、あたかも頭の中から何かが出てきそうに見せかけてやった。
あー、髪がなくて掴みにくいわー。
「そ、そうだ!! おれは、おれは昨日、あの魔獣を捕らえてテイムしたんだ!!」
「なんと! ではその魔獣を街で暴れさせていたのは、あなただったというわけですか?」
「そうだ! み、認める! 認めるからポーションをくれ! 頼む! このままでは本当に頭が割れるぅぅうう!!」
「それだけ聞ければ充分だ」
「がぼぁっ!?」
手に持っていた虫下しポーション、に見せかけたジュース入りの小瓶をハゲの口に押し込んで中身を飲ませてやった。
お前に飲ませるにゃもったいないジュースなんだぞ。せいぜいよく味わって飲め。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
「さて、ここまでのお話をまとめると、あなたが昨日そこの魔獣をテイムして、今日になって街で暴れさせて、その罪をこの子たちに擦り付けようとした、ということでよろしいですね?」
「き、貴様……!!」
「周りにこれだけ目撃者がいる中で自白したのですから、もう言い逃れはできませんよ?」
ハゲに向かってそう言いながら、ユーブが目でイツナに合図を送ってる。
このハゲと話しているうちに、魔獣に拘束されている子を救出するように、と。
イツナが目立たないようにユーブが立ち位置を調整し、すかさずイツナが魔獣の蔦を引き千切り、拘束されていた子を解放した。
いい連携だ、さすが俺の子たちだな。天才。
そのことに気付かずハゲが魔獣に指示を出そうとするが、魔獣の手の中は既にからっぽ。
もうこれでなんの憂いもなく、このハゲを断罪できるということだ。
「その子は? ……酷いケガだな」
知らぬ間にイツナたちがいつの間にか助け出していた、というふうに見てるように見せかけながら、捕まっていた子供の傍まで駆け寄った。
「セレネだよ。そういえば、パパは会ったことなかったっけ?」
……おいローア、愛称セフレじゃなくてセレネじゃねーか!
呼ばなくてよかった! ホントに呼ばなくてよかった! あぶねー!
「そうか、その子が……治すから、こっちに預けなさい」
「……うん、お願い」
傷が酷く腫れているが、あの変な植物タコ魔獣から毒でももらってやしないだろうな。
ステータスの状態を確認しないと……あれ?
≪情報が遮断されているため、ステータスの表示が不可能≫
……情報が遮断、ねぇ。
そうだった、忙しすぎてすっかり忘れていたよ。
もう一人『メニュー機能』を扱える人間がこの世界にいるってことを、十数年前の時点で既に気付いていたはずなのに。
この子が、そうだったのか。
メニュー、この子のメニュー機能を説得してステータスを開示させろ。
詳しい状態が分からなけりゃ治せる傷も治せない。
適当に生命力操作で治すだけで済む傷なのか、それだけでも確認させてくれ。
≪……ステータスの開示を許可した。表示可能≫
よし、状態表示を見る限りじゃ打撲傷やそれに伴う小さな切創くらいで、命に別状はなさそうだ。
これならポーションをかけるふりをして生命力操作で治せば元通りだろう。
……ん? 称号欄になんか見慣れない表示が……いや、後でいいか。
それよりも、あのハゲが悪足掻きに魔獣を暴れさせて手が付けられなくなってる。
それに立ち向かおうとユーブが走り出そうとしたところで、声をかけてやった。
「ユーブ」
「っ……なんだよ」
「あのデブが、この子を傷つけたのか?」
「……ああ」
「よし、ぶっ飛ばしてこい」
「!」
「遠慮するな、死なない程度にボコボコにしてやれ。友達を傷付けた挙句全く反省しないような奴に、気を使う必要なんかない。相手が貴族だろうが王だろうが、絶対に許すんじゃない」
あの日、俺があのクソボンボンに絡まれた時に言えなかったことを、ようやく言ってやれた。
俺に対しては殴られようが罵られようがどうでもいい。効かないし。
でも、本当に大事な人を傷つけられたのならば、それを許してはいけない。
国境貴賎老若男女問わず、相手が誰だろうとぶちのめせ!
「言われなくても―――」
瞬時にハゲの前までユーブが跳びかかり、その顔面に向かって思いっきり拳を振りぬいた。
「テメェは、ぜってぇにぶっ飛ばす!!!」
「う、うわぁあああ ゴボベァアアアッ!!?!」
おー、飛んだなぁ。余波でタコ魔獣まで粉々だ。
さっすが俺の息子。最強。
「トドメじゃい!!」
「ブゴポボコボボベァぁアッ!!?」
「オラオラァッ!! 2~3発で許してもらえると思うなこのカスがァッ!! このハゲーッ!!!」
……さらに追撃でハゲの股間に蹴りを連発するイツナ。
なんて容赦のない追撃だ。さすがアルマの娘。最恐。
あ、すんませんアルマさん謝りますから遠方から念を送ってくるのやめてください怖いです。
……さ、さて、後はこの子、セレフレネと会話する場を設ける準備を整えておかないとな。
ユーブたちの大切な友達なんだ、ちゃんともてなしてあげないと。
レイナの子がバイトしてる喫茶店で一緒にお茶しながら話すとしようかな。
なんてのんきなことを考えていたこの時の俺は、まだ知らない。
この子と話をするまでの、これからの一週間がとんでもない激動の期間になるということを。




