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パパのお仕事


 ユーブとイツナが産まれてもうすぐ十五年、つまりそろそろ成人する歳だ。

 しかし子供たちの成長を見守る傍ら、こなさなければならない仕事は多くある。


 仕置き人ギルドとしてどっかのバカ貴族どもを制裁したり、鬼先生に料理を献上したり、孤児院の子供たちが開いた飲食店の宣伝をしたり、冒険者ギルドからの指名依頼を受けたり、21階層の遭難者を日本へ送り返したりその他もろもろ。

 ぶっちゃけ挙げればキリがないほどに多忙を極めていた。

 特に21階層の帰還希望者たちの引率が色々と面倒だったな。なんか同一人物が五人いたり、背後霊が何人も憑りついてるどっかの特殊部隊みたいなヤツとか。



「ちょっと色々と手を広げすぎたかな……」


「あなた、ルルベルの領地からまた野菜が届いたわよ」


「……余った分は孤児院にでも持っていくか。もう十五年近くになるのにまだ送ってくるなんて律儀だねぇ」


「今でもあなたへの感謝を忘れていないみたいね。たまには顔を出してあげたら?」


「出してるよ。こないだもあの領地の経理にあたってたギルザレアンさんの葬儀に行ってたろ」


「そうだったわね」



 国の宰相に比べたら、片田舎の経理作業なんてのは本当に気楽な仕事だと言いながら晩年まで働いていたらしい。

 ちなみにルルベルの領地に斡旋したのは俺。


 王族殺害未遂の罪であのままだと死刑か終身刑になるところだったが、結果として誰も殺していなかったし、こっそりファストトラベルで脱走させてからルルベルの領地再興のための手助けに働いてもらっていた。

 収監されていた牢屋にはダミーの死体を置いて誤魔化しておいたので、公式にはギルザレアンさんは獄中死したと公表された。



「あと、ランドライナムのギルドマスターからのお手紙も届いてるわ」


「あー……また子供の写真でも送ってきたのかねぇ」



 コワマスは十年くらい前に結婚していて、それ以来一年ごとにこうして近況の写真を送りつけてきている。

 予想通り、コワマスによく似た顔つきでなおかつ受付嬢のナイマさんを思わせる青色のクセ毛が特徴的な少女を抱いたコワマスの写真が便箋の中に入っていた。

 ……コワマス超いい笑顔だな、幸せそうでなにより。でもビキニ着てる写真を同封するのはヤメロ。ナイマさんお手製の水着を自慢したいのは分かったから。

 つーか、普通に同性同士で結婚できてさらに子供までできるこの世界の性事情よ……。



≪性転換ポーションおよび同性生殖用のポーションはどちらも極めて高価。そのため同性で結婚する例は稀で、そのうえで子供ができるのはさらに稀≫



 まあそうだろうね。

 ……ちょっとこれ以上この話題を掘り下げるのはやめておこうか。なんか色々と危ない気がしてきた。




「引継ぎの作業は順調そう?」


「ああ、大体のところは整った。冒険者ギルド関連以外の引継ぎはそろそろ終わりそうだ」


「お疲れ様。ここのところずっと疲れ切ってるみたいだから心配だったけれど、ようやくゆっくりできそうね」


「まあもうひと踏ん張りってとこだな。なんとかユーブとイツナの誕生日までには間に合いそうだ」


「そう、よかった。……? あなた、通信よ」



 会話の途中で、通信魔具からコール音。

 ……発信元はグラマスか、嫌~な予感。



「……もしもし」


『あ、カジカワ君!? ちょっと緊急! 緊急のお仕事!』


「はい?」


『第一大陸の魔獣森林の奥でクッソめんどくせー魔獣が爆誕して、それを駆除するのに人手がいるの! ネオラちゃんたちやアンタの義両親にも手伝ってもらってるけど、もう私らだけじゃ対処できねーからヘルプ! ヘールプ!!』


「……かしこまりました。すぐに向かいます」



 『強い』でも『危険』でもなく『めんどくせー』ときたか。

 義父さん義母さんやネオラ君たちがいるのに対処しきれないってことは単純な強さだけじゃダメっぽいな。



「まあこんな感じで、冒険者ギルド関連の仕事はしばらく尽きないみたいだけどな」


「私も手伝うから、あまり無理しないでね」


「うん、ありがとう。念のためレイナとヒヨ子にも声かけとくか」



 考えてみれば、俺って冒険者が本業なんだよな。

 ……なんだかここんとこワケ分からん事業に手ぇ出し過ぎてて忘れてたわ。

 ユーブ、イツナ、お父さんは頑張ってるぞー。まあそんなこと本人たちには言えないけどな。しくしく。




 ちなみに現地で発生していた魔獣は、スライム系の固有魔獣だった。

 能力値自体はさほど高くないが、プラナリアのようにほんの少しの肉片から分裂再生していく魔獣で、肉片一つ残さず死滅させなければすぐに復活するというクソ面倒くさい能力を持っていた。

 

 発見が遅れていたら広範囲に分裂しながらありとあらゆるものを食いつくしていく終焉災害となるところだったが、『天啓』スキルによる予知と早期の駆除決行によりどうにか殲滅に成功。

 魔獣森林はほぼ焼け野原と化してしまったが、土壌再生の作業はギルドや教会に任せればいいので俺たちの仕事はこれで終わりだ。



「いやぁ、久しぶりにお二人とヒヨ子ちゃんに会えて嬉しかったけれど、大変な仕事でしたねー」


『ピッ』


「おう、お疲れレイナ。……お前、ちょっと太った?」


「ギクッ……ちょっと、ウチの子がお菓子作りにハマってて、試食に付き合っているうちに……」


「あー、喫茶店のバイトの練習だっけ? 今度その店に寄ってみるか」



 前に会った時より少しふくよかになったレイナと久々に駄弁りながら、討伐後の休憩中。

 レイナももう三十路超えてるはずなんだが、ちょっと太った以外は十五年前と見た目がほとんど変わってねぇ。

 なに? フェリアンナさんの血筋は不老の秘術でも施されてるの?

 ネオラ君も若々しいままだけど、レイナはそれ以上に幼い印象が抜けてねぇ……。



「ははは、まあいい運動になっただろ。ここんトコ食っちゃ寝の生活ばっかりして グホェア!?」


「あ~な~た~、余計なことは言わないようにっていつも言ってますよね~?」


「す、すんませんでした……」


「まったく……すぐにダイエットして痩せてやりますからね!」



 同じく討伐に参加していたラディア君のほうは少年っぽさが鳴りを潜め、頼りになる兄貴分といった印象が前面に出ている。

 あの少年が、よくここまで立派になったもんだ。

 ……やりとりを見る限りじゃ、カカア天下みたいだが。


 アルマと同様、レイナも口調を丁寧なものへと切り替えているようだ。

 といっても、フェリアンナさんの口調に比べてどこかおしとやかさに欠ける気はするが、まあおしとやかなレイナってのもなんだか違和感があるし、これでいいんだろう。



 そんなやりとりをしているところで、他の方面を駆除していたアルマがこちらに戻ってきた。

 アルマの強力な魔法がなきゃスライムの駆除は難しかったかもな。



「あなた、お疲れ様。今回の依頼の魔獣は厄介だったわね」



 ああ、そっちもお疲れ。

 そう言おうとしたところで、急に目の前に青い画面が表示され、視界を覆いつくした。





≪緊急連絡:ユーブレイブおよびイツクティナがトラブルに巻き込まれている。本人たちのみでは対処が困難なため、梶川光流の介入を推奨する≫





「……どうしたの?」



 労いの言葉を返そうとしたところで、そんな表示を目の当たりにしてフリーズした俺を怪訝そうな顔で見つめている。

 ごめん、アルマ。帰ったらできる限りの労いはするから、今は待ってほしい。



「……悪い、討伐終わって早々だが、少し野暮用に行ってくる」


「何かあったの?」


「みたいだ。すぐに戻るから、先に帰っていてくれ」



 それだけ告げて、すぐにファストトラベルでユーブたちの傍まで転移。


 転移した直後、目に入ってきた光景がまたなんともカオスな状況だった。



 狼狽した様子のユーブとイツナ、その周りには多数の冒険者たちが二人を包囲するように集まっている。

 その中に、下品な笑みを浮かべてタコと樹木を混ぜたような魔獣を侍らせているどう見ても悪徳貴族っぽいハゲの姿。

 さらにその植物タコに拘束されている、ユーブたちと同い年くらいの少女が傷だらけの状態で気を失っている。

 そしてズタボロの状態で地面にめり込んで死んでいる翼竜型の魔獣。


 ……情報量が多すぎる。どういう状況なんだコレは。



「あ、どーもどーもこんにちは」



 とりあえず挨拶してから状況の確認しとくか。

 どう見ても面倒くさい状況なのは分かるが、詳細を聞かないことには対応できん。



「ふむ、なにやら皆さんお集まりのようで。今日はお祭りか何かでしょうか?」



 ジョークを交えつつ、なるべく穏やかなでバカっぽい印象を前面に出して警戒心を抱かせないようにしよう。

 え、普段からバカっぽいだろって? 知ってる。



「あ……ぱ、パパ……?」


「親父……!?」



 あ、ユーブが俺を呼んでくれた! 嬉しい! 超嬉しい!

 ……なんて言ってる場合じゃなさそうだ。とりま、この状況を片付けることを優先しますかね。

 一通りカジカワ視点でこれまでのお話を振り返ったら、ユーブたち視点でのお話を始めてそれで終了予定です。

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