面倒事
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「すみません、うっかり貴族を殴り飛ばしてしまったのでしばらく遠出することになりそうです」
「いきなり訪ねてきて何言ってんだお前は。いやマジで何言ってんだお前」
うん、自分でも何言ってんだと思う。むしろこの説明で何が起こったか分かったら怖いわ。
あの後冒険者ギルドに直行し、ギルマスルームで面会してもらうように頼むと、忙しいだろうにすぐに会ってくれるように取り計らってくれた。
たかだかEランクの2人組パーティに対してこの対応。ギルマスって器でかいなー。
単にスタンピードが過ぎて仕事が減ったから暇なだけかもしれんが。
あ、フィルスダイム鑑定師のおじいちゃんもいる。割と頻繁にギルマスに用があるのかな。
「言っとくが、1月前に起こったスタンピードでの実績があるからこうして時間を作ってやってるんだ。お前らじゃなかったらEランクのパーティ相手に面会なんかそう気軽にできないんだぞ」
「無理を言ってすみません」
「とりあえず経緯を詳しく話せ。さっきの説明じゃ訳が分からん。……面倒な事になってそうなのは分かるが」
はい、その通りです。
感情任せで行動すると、その分あとからツケが回ってくるのは異世界でも変わらないようです。
事情を話すと、ギルマスが呆れたような顔をしながら深く溜め息を吐いた。
「…呆れて言葉も出ないな」
「……すみません。我ながら軽率で短慮なことをしたと思っています」
「まあ、確かに他にやりようはあったと思うがな。俺が呆れたと言ってるのはその貴族、コーグップ男爵の方だよ」
あのデブ貴族、男爵だったのか。確か一番下の位だっけ?
まぁそれでも貴族は貴族だし、爵位だけで人格は測れないけどな。ただしデブ、てめーはダメだ。前歯と肋骨折れろ。あ、歯は俺が折ったっけ。
「あの豚男爵、私利私欲のために犯罪まがいのことを何度もしでかしておるが、貴族の権力を盾に罪から逃れておるどうしようもない小悪党だという噂じゃよ」
「しかも奴の言葉を聞いたものは徐々に奴に従いたくなるスキルを持っているらしく、事件や捜査に関わった人間に嘘の情報を言わせたりしてるとか。貴族を勝手に鑑定するのは法を犯すことになるから未だに何のスキルと職業か分からんらしいが」
「私が見た限りでは職業は詐欺師で、言霊と催眠のスキルを……あ」
やべ、つい言葉が漏れた!
「……ちょっと待て、何でそんなことが分かったんだ」
「お主、スキルは持っておらんはずじゃが………ああ、勇者が使えるというメニュー機能とやらの恩恵か」
「はぁ? 勇者? メニューって、どういうことだ」
「こやつ、勇者と同じく異世界から来た存在なのじゃよ。そういえば言っておらんかったのぉ」
「おいおいなんだそりゃ初耳だぞ!?」
あ、勝手にバラしおった。
いや口を滑らせた俺が悪いんだけども。こうなったら下手に隠すより正直に話した方が良さそうだ。
ギルマス相手なら、まぁ大丈夫だろう。
「……黙っていて申し訳ありません。下手に人に知れると、色々まずいことになると思って」
「まぁ、その判断は間違っていないから責める気はないが……お前、勇者だったのか?」
「いいえ………向こうの世界、つまり異世界での日常を送っていたある日、疲れていて仕事帰りに仮眠をとって、目が覚めたらこちらの世界に来ていました。能力値は全てゼロ、職業判定不能、スキルは一切無しでしたので、勇者ではありませんが」
「……フィルス、それ本当のことなのか?」
「本当じゃ。信じられんかもしれんがの」
「それから何があったら魔獣倒したり空飛んだりできるようになったんだか……魔力の直接操作だったか、あれのヤバさがお前の話を聞いてるとよく分かるよ。そんな悲惨なステータスでも魔獣と戦えるようになるぐらいだしな」
「魔力操作使う前から、ゴブリン殴り倒してたけど」
…アルマ、時々追い打ちかけるのはわざとやってるのか?
「…もういい。これ以上そのことに対して考えてると頭がパンクしそうだ。お前が常識から外れた存在だってのは嫌というほど充分に分かった」
「ま、詳しいことはあとで話すとして、お主らの今後についてじゃがひとまず他の街に避難しておいた方がよさそうじゃな」
「立場上、本当ならその男爵にお前たちを差し出すのが無難だろうが、さっきの話を聞いた後じゃあな。それにギルドのメンバーを売るようなことは避けたい」
「手を出したのはその男爵が先じゃし、無理やりアルマティナを手籠めにしようとした。それらの供述が嘘でないのは儂が保証する。だが万が一短絡的な手段、例えば暗殺者をお主らに送りだしたりする可能性もあるし、この騒動が収まるまで身を遠くへ隠すといい」
「面倒な相手だが、スタンピードに比べればどうということはない。対応は任せておけ。……これで貸し借り無しだぞ?」
「……貸し借り?」
「そのスタンピードの借りのことだ。お前の功績は、お前が思っている以上に高かったということだよ。あの程度の報酬じゃチャラにできないくらいにな」
「そ、そうですか……すみませんギルドマスター。面倒を、おかけします」
ううむ、報酬はたっぷりもらったし、ホブゴブリンの持ってたレアドロップっぽいアクセサリも補修して受け取ったし、十分すぎると思うんだがなぁ。
けどこの件で力を貸してくれるのは本当にありがたい。さすがに権力者相手に力だけで立ち向かうのは無理だ。どっかの格闘漫画の地上最強の生物じゃあるまいし。
……いや、二人ばかしそんなことできそうな人たちを知ってるが。あの二人は例外だから。
「分かったら荷物をまとめて早く行け。ここからなら街道を進んでいった先にケルナ村って村があって、さらに先に【ヴィンフィート】って街がある。ちと遠いがデカい街だし、身を潜めるには丁度いいだろう。行先分かるか?」
「ケルナ村の先ですか。この間依頼を受けたばかりですし、地図をその時にもらっていますので街の場所も分かると思います」
「ああ、ジェットボア倒したって話か。……単体でCランク相当の魔獣なのによく倒せたもんだ。なら問題なさそうだな」
「では、失礼します。…本当に、ありがとうございます」
「いいから行け、モタモタしてて豚男爵に見つかると面倒だ」
やだかっこいい、なにこの安心感。ギルマスがイケメンに見える。めっちゃ頼りになるなこの人たち。
貸し借り無しとは言ってたが、ほとぼりが冷めた頃に改めて礼に向かおう。
さて、とりあえず宿にある荷物をまとめて、装備屋でジェットボア素材の装備を受け取ったらさっさと街を出よう。
街を離れてから魔力飛行でアルマを抱えながら移動すれば、今日中に辿り着けるかな。…途中で魔力が尽きなければの話だが。
~~~~~ギルマス視点~~~~~
カジカワとアルマティナを見送った後、深く溜め息を吐いた。
溜め息の分だけ幸せが逃げる、とは誰が言った言葉だったか。逆だ、面倒事のせいで幸せが遠のくから溜め息が出るんだよまったく。
「……やれやれ、これまた面倒事を持ってきてくれたもんだ」
「だが、少し懐かしくもあるんじゃないかの?」
「全然だよ。あの二人の時もどれだけ問題解決のために駆けずり回る羽目になったと思ってんだ。今回は相手が豚男爵だからまだマシだが」
「ほっほ、それにしてもカジカワの運の良さは凄まじいのぉ」
「あ? 豚男爵に絡まれることのどこが運がいいって?」
「ほれ、これを見てみぃ」
フィルスが今日送られてきた手紙の内、一枚を手渡してきた。
いったいなんだってんだ?
え、…………マジかい。
「………カジカワの幸運値はいくらぐらいだったか?」
「さっき見た時には170もあったぞい。レベルも18まで上がっておった。討伐履歴を見るとダンジョンに潜ってレベリングしておるようじゃのぉ」
「ひ、170ぅ? 上級職でもそこまで高い奴はほとんどいないだろ、どうなってんだ」
「どうも、あやつの能力値はレベルの数値と同じだけ上がっていくようじゃなぁ。幸運値も例外ではないというのはちと反則気味じゃが。しかもアルマティナの幸運値もそれに引っ張られるように徐々に上がっていっておるのぉ」
「幸運値の高い人間と協力して魔獣を倒してレベルを上げると、幸運値の上昇幅が上がりやすくなるらしいがその所為か?…今はまだ能力値がそれほど高くなってはいないが、将来的にどれだけの怪物になるやら」
下手したら、あの二人を超えてしまうかもしれない。それもそれほど遠くないうちに。
…勇者じゃなくても、異世界人というのは常識外れのスペックを秘めているのかもしれないな。
バタバタバタバタ!
雑談していると、部屋の外から乱暴な足音が聞こえてきた。
「あ、あの! まだ許可が下りていないのでもう少し待って下さい!」
「うるさい! どいつもこいつもワシをコケにしおって! お前らよりワシの都合に合わせんか平民ごときが!」
…来たか。
さて、間に合うのは豚貴族とあの二人どちらだろうか。
内心ストレスからくる胃の痛みに悶えながら、扉を蹴破る招かねざる客を迎えることになった。
お読み頂きありがとうございます。
脚だけじゃなくて背中の筋肉までもがががが……(;;´Д`)




