きっちりオチをつけるのはおそらく遺伝
……私はニワトリである。名前はヒヨ子。
現在『お母さん』の肩に乗りながら病院の待合室にて待機中。
さっきから足元が微妙に揺れ続けていて非常に鬱陶しい。
「……ヒカル君、不安な気持ちは痛いほど分かるが貧乏ゆすりはほどほどにな」
「すみません、落ち着かなくてつい……」
「うふふ、アルマちゃんやこの子が産まれる前にはデュークも似たようなものだったらしいじゃないの。あまりに威圧感があるものだから周りのお医者様が引いてたらしいわよ? ねぇ、ローアちゃん?」
「あぅ?」
お母さんの隣の席にはアルマの父と母、そしてその手には二人の雛もとい赤ん坊『ローレシア』が抱えられている。
この赤ん坊が生まれたのは二か月半くらい前の話だ。
母親を思わせる茶髪と父親やアルマと同じ藤色の瞳。見た目はほぼちっさいアルマだ。
正直、このバケモン二人から生まれたとは思えないほど弱々しく見える。
やっぱ誰でも最初っから強いってわけじゃないんだな、うん。
お母さんとアルマの間の子、つまり私にとっては弟か妹みたいなもんが今日産まれるらしいが、そいつらもこの赤ん坊のように弱っちいやつらなんだろうか。
……仕方ない、私みたいに立派に大きく育つまではしっかり守ってやらないとな。レイナの御守りから解放されたと思ったらすぐコレだもんなまったく。
「っ!!」
『!』
そして、ついにその時がきたことにお母さんが気付き、一瞬遅れて私も察した。
泣き声が聞こえたわけでもない。アルマの出産に立ち会った人間から連絡があったわけでもない。
ただ、直感が『今、産まれた』と確信をもって告げていた。
その産まれた生き物たちの存在に、扉越しでも分かるほどの違和感を覚えたのは私だけだろうか。
だって、どっちも産まれたばかりだというのに明らかにローアより、いやそのへんの生産職の人間よりも気配が強い。
ただ一つ分かるのは、今産まれた二つの存在は確かにお母さんとアルマの間に生まれた者だということだ。
……あれ、私が守る必要なくね?
~~~~~
……二人が産まれた直後の記憶がどうにも曖昧だ。
つーか、正直泣きすぎて周りの状況がよく分からんかった。
双子の二人が産まれたのはほぼ同時。
どちらもつっかえたりすることもなく、スムーズに産まれてきてくれたらしい。
まあそもそも産まれるまではあくまでアルマの一部という判定で、ステータスやプロフィールの恩恵を受けているからまず死産や流産にはならない。
メニューいわく『世界一安全な出産』だったらしいが、んなこと言われても不安なもんは不安なんよ。
生まれた双子の真っ赤な顔を見せてもらった時に堰が切れて、嬉しすぎて号泣してしまった。
嬉しくて泣くなんてお袋との再会でしか体験したことがない。
その様子を見たアルマも泣きながら笑っていたことは覚えている。
さらに感極まった義母さんと義父さんも混じった結果、分娩室の中が軽く混沌と化していた。病院の先生方すみませんマジお騒がせしました。
生まれた双子は二卵性双生児の兄妹で、どちらもものっすごく元気だ。
出産後は母子ともに健康で、産後の肥立ちも一月程度で治まった。
そしてかわいい。やばい。超かわいい。生まれたばかりなのにアルマと俺両方の面影があるのが一目で分かる。
ぎこちなく手足を動かしたり、か細い声を漏らしたり、かと思ったら大泣きしたりするたびに顔が綻んでしまう。
二人の名前だが、父と母が提示した名を繋げて決める慣習通りに付けることに。
兄のほうは、『優』しく『勇気』のある子に育ってほしいと込めて『ユーブレイブ』。愛称ユーブ。パラレシアでは英語と同じく勇気は『ブレイブ』と発音するんだとか。多分勇者の影響かな。
妹は『慈』しむ心と『愛』をもてるように『イツクティナ』と名付けた。愛称はイツナ。『ティナ』はこの世界の古文で『愛』を意味するんだとか。
ちなみにアルマティナの『マティナ』は『永遠の愛』という意味になるように、ティナの前に何か一音加えると意味が違ってくるそうだが今回はイツクがそれの代わりだ。
毎日ちょっとずつ、ほんの少しずつだが確実に大きく立派に成長していく双子たち。
首が据わり、寝返りを自分でできるようになったり、ハイハイで動けるようになったり、遂には立てるようになったりするたびに記念日が増えた。
「……アルマ、そろそろ交代だ。目のクマが酷いぞ、ゆっくり休んでくれ」
「……うん、ありがと……ガクッ」
もちろんそんな嬉しいことばかりではなく、大変な思いも数えきれないくらいしてきたわけだが。
3時間ごとに起きて泣きまくったりしかも双子の夜泣きのタイミングが絶妙にズレててそれなのに片方が泣くともう片方が共鳴するように泣き出して(ry
二人で交代しながら子守をしていたが、正直これまでのどんな戦いよりも精神体力ともに削られる思いだった。
おむつでもミルクでもあやしてほしいわけでもなくただ泣きたいから泣く時も多々あって、俺もアルマも寝不足でグロッキーな状態に陥った時にはさすがにベビーシッターさんを雇ったりもした。
なおシッターさんも三日で音を上げてすぐ辞めた模様。ウチの子たち元気すぎワロタ。
「あぅ~!」
「あだぅ!」
『コ、コケ……』
一歳を過ぎたあたりで二人ともハイハイを卒業し、たどたどしく……いや普通にめっちゃ俊敏な二足歩行を披露してくれている。
ヒヨ子相手に追いかけっこをかれこれ1時間近く続けているが、まるでバテる気配がない。体力無限か。
まだ一歳児でもこんなに動けるものなのかと感心していたが、三日で辞めたシッターさんも『元気すぎるし素早すぎてむりですもうやだやめるだれかたすけて』と言っていたし、やっぱ並の赤ん坊と比べても明らかに身体能力が高いようだ。
この子たち、ステータス欄の能力値自体は全部一桁だし、おかしなところはまったくといっていいほどない。それでも転移直後の俺よりは高いが。
問題はもう一つのステータス、即ち『プロフィール』の存在だ。
俺もアルマも例の異世界でプロフィールを身に宿していて、両親ともにステータスとプロフィールを持っている。
その結果、その両方が子供たちにも受け継がれてしまったようだ。
ただ、メニューいわく両親ともにプロフィールを持っていることが条件なので、将来ユーブたちに子供ができてもステータスしか受け継がれないだろうとのこと。
そんなこの子たちのプロフィールだが、ステータスとは違い成人前の制限がないのでモリモリ成長している模様。
名前:ユーブレイブ
種族:人間
年齢:1
性別:男
職業:魔法剣士
職業レベル3
職業能力値:120
名前:イツクティナ
種族:人間
年齢:1
性別:女
職業:堅盾戦士
職業レベル4
職業能力値:151
……うん、多分あの異世界基準でも普通に成人した直後くらいのフィジカルはあるんじゃなかろうか。
既にこっちの世界の生産職じゃ歯が立たないくらいの能力値で、そりゃシッターさんも逃げ出すのも無理はない。
ただ、こんなのはあくまでプロフィールに書かれた数値や項目に過ぎない。
今はただ、この子たちが泣いたり笑ったり眠ったりして元気に成長してくれるのを見守ろう。それが一番大事なことだと思うから。
『コケェ……』
「あぃ!」
『ゴゲッ』
「あぶぅ……ぐぅ……」
ついに力尽きて倒れたヒヨ子へ追撃と言わんばかりに勢いよくダイブし、ベッド代わりにして寝そべりそのまま眠ってしまった。あーかわいい。
……下敷きにされてるヒヨ子は白目剥いてるが。大丈夫か? 生きてる?
「毎日大騒ぎだな。元気にすくすく育ってくれて嬉しいよハハハ」
「……あなた、そろそろ休んで。もうずっとまともに寝ていない、でしょう?」
「いやぁ、ずっとこの子たちを見ていると時間を忘れてしまうもんだからつい……」
「気持ちは分かるけれど、もう交代、よ。いくらあなたでも、あの子たちの相手は疲れる、でしょう?」
「うん、それじゃしばらく休ませてもらうかな。お前も無理はするなよ。ただその前にこの子たちをベッドで寝かせようか」
子供たちだけでなく、アルマも少しずつ変わろうと努力しているように感じる。
どこかぎこちない印象だった口調を、少しずつ義母さんのようなより女性らしいものへと切り替えようとしているんだ。
あと俺を『あなた』と呼んでくれた時の破壊力がヤバい。それに合わせて俺も『お前』と呼ぶようにしているが、呼ぶたびに笑顔を見せてくれるあたり反応は悪くない、と思う。
惚気に聞こえるかもしれないが、実際惚気だ。反省はしていない。
下敷きになってるヒヨ子からユーブとイツナを抱え上げ、ベッドへと向かっていく。
「あぶぅ……マァ……」
「寝言かな。そろそろ言葉を喋り始めるころだと思うんだけど、いつになるかな。楽しみだ」
「! あなた、ちょっと静かに」
「?」
「マぁ、……ママ……」
とか思ってたら、言った。
確かに今、アルマが抱えているイツナの口から、ママと発せられたのが聞こえた。
「~~~~~っっ!!」
それを聞いたアルマ氏、思わず渾身のガッツポーズ。
こんなにテンションが高いアルマを見たのはいつ以来だろうか。超嬉しそう。
「ウチの子天才。いい子、いい子」
「まぅぅ……」
「よかったな。……ユーブ、お前もパパとかお父さんとか呼んでくれてもいいんだぞー……?」
「あう……お……?」
「お父さん、だ。お父さん。ほら、呼んでみな?」
「お……」
「あなた、無理に呼ばせてはダメ、よ。気持ちは分かるけれど、焦ってはダメ。ユーブがどうすればいいか困っているわよ?」
ぬぅぅ……! 自分は先に呼んでもらったからって余裕ですねクソぅ!
あ、ユーブ、泣かないで。頼むから。今泣かれるとベッドで寝かせられないから。
「うぐ……はぁ、親父はつらいよ。ママは呼んでもらえたのに、いつになったら俺をパパと呼んでくれるのか……」
「お……おや、じ……?」
「……」
「……ほら、無理に呼ばせようとするから……」
……うん、呼んだ。確かに俺を呼んでくれた。でも第一声が親父て。
いや嬉しいけども! すごく嬉しいけども! でもできれば最初はパパかお父さんと呼んでほしかったなぁ……!




