兄として、そして一人の人間としてのケジメ
「さて、改めて話をしようか、イヴァラ」
「ぐっ……!」
まるで悪戯が失敗した兄弟を諭すかのように優しく、ジュリアンがイヴァラードに声をかけた。
対するイヴァラードは苦虫を2~3匹まとめて噛み潰したように顔を歪め、ジュリアンを睨んでいる。
「お前の興そうとしている事業は死霊術の商業化か。……我が言えた義理ではないが、著しく倫理を侵しているように思える。死者への冒涜と呼ぶ他にないぞ」
「黙れ! 魔族との戦争で数多くの実力者が戦死した今は絶好の機会なのだ! 死んだ者たちも世界の復興にその力を使えるのであれば本望だろうが!!」
「その世界のために死した者たちをこれ以上鞭打ち働かせるのは止せ。犠牲になった彼らに対してすべきことは、我々に精いっぱいできることを見せつけ、安らかに眠ってもらうことだろう」
……正論だが、ジュリアンがまともなこと言ってるとなんか違和感あるなぁ。
「我々にできること!? そう言う貴様は何をした!? 勇者の遺した狂った兵器を作ろうと公爵家の地位を捨てて今まで何をしていた! どうせろくな物も作れず日銭を稼ぐことすらままならないのだろうが!」
「……一応、それなりのものを作っているつもりなんだがな」
「いつまですまし面のままでいるつもりだ……!! 死んでしまえっ!!」
イヴァラードが懐から小さな箱のようなものを取り出し、ジュリアンに投げつけた。
いったい何を、ってアレはまさか『遠隔魔石爆弾』か……!?
「くたばれ!!」
ジュリアンが投げつけられた箱をキャッチした瞬間に、イヴァラードが起爆スイッチと思しきボタンを押した。
強い光を放ちながら爆弾が爆発するその瞬間、ジュリアンが爆弾を両手で押さえ込むと光が弱まっていき、何事もなかったように消えた。
「ふ、不発だと……!?」
「ふう、危ないところであった。旧型の魔石爆弾は爆発までわずかにラグがあるから、どうにか術式の書き換えが間に合ったな」
「バカな、あの一瞬で術式を書き換えただと!? 術式と構造を完璧に理解しなければできるわけがない! この希少な魔道具の術式を知っているはずが……!」
「理解しているさ。コレを設計したのは我だからな」
「なっ!?」
魔族との戦争の際に、ジュリアンは様々な兵器を作っていた。
属性付きの魔石を暴走・爆発させる爆弾系の兵器が主で、イヴァラードが投げた『遠隔魔石爆弾』もその一つ。
戦争後も余った爆弾が各地にいくつか残っているらしいが、どこから買い取ったのかそのうちの一つをイヴァラードが入手していたようだ。
……そのうち回収しとかないと、今みたいに悪用されかねないなこりゃ。
「さすがに特級職に肉薄するほどの実力を有する新世代の魔族相手には足止め程度の効果しかなかったようだが、それでも一定の効果があったと報告を受けている。自慢話になるが、我ながらそれなりに人類へ貢献できたと自負しているがね」
「なぜだっ……! なぜいつも貴様ばかり何もかも上手くいく!? 遊び半分に何もかも投げ出した貴様が成功して、公爵家のための、発展のための私の事業が邪魔されて頓挫するなどあってはならないだろうが!!」
「遊び半分ではないさ。我は自分の進んだ道に殉ずる覚悟があった。事実、マイ・カスタマーと出会った時点では無一文になった挙句、自ら作り上げた武器によって死ぬところだったしなハハハ」
ハハハじゃねーよ。自爆して黒焦げだったやろお前。
もしもあのまま死んでいたら爆裂大槌も魔石爆弾も、ジュリアンの開発した兵器は生まれなかったことになる。
今思うと、あの出会いは結構なターニングポイントだったわけだ。
「イヴァラ。お前はお前の事業に、自分の進む道に誇りを持つことができるか? 死霊術を商業化し、人の尊厳を侵すようなことを自分の功績だと胸を張って言えるのか? お前こそ、公爵家の跡取りとしての義務を果たすべきだったのではないのか」
「う、うるさい! 私は貴様の蹴った立場や役目などに乗るつもりはない! 私は私としての功績を残さねばならんのだ!!」
「ならばなぜその地位を捨てん。跡取りとなるのが嫌ならば我のように家を出ればいいだろう。家はいざとなれば養子にでも継がせればいい。お前としての功績がほしいのであれば、それを成せるようにお前自身が努力するべきだ。雇われの呪術士でも魔具士でもなく、お前自身の手で」
これまで見せたことのない真剣な表情で言うジュリアンからは、普段のコイツからは考えられないほどの威圧感、いや、存在そのもののデカさのようなものを感じさせる。
……コイツ、こんな顔できたのかよ。
「我も自分の力だけで功を成したとは思っておらん。しかし、家を出てからは決して何も恥ずべきことはしていないと誓って言える。だからこそ、手を取り合う同志と出会い、様々なものを作り上げることができたのだ」
「(大半は変態兵器だけどな)」
「(しっ、今真面目に話してるつもりなんすから茶々入れちゃダメっすよ。変なのばっか作ってるのは同意するっすけど)」
小声での会話に『聞こえてるぞ』と言いたげに苦笑いするジュリアン。ごめんて。
「……どうしろと言うのだ! どうすればよかったのだ! 私は、私にはお前のようにやりたいことなどなかった! ただお前の代替扱いなどまっぴらだということしか、私にはなかった!」
そんな中、もう恥もなにもあったもんじゃないといった様子で、ジュリアンに向かってヒステリックに喚いている。
恥も外聞もあったもんじゃない。だからこそ、本音であるということも伝わってくるわけだが。
「なんとか言えよ! お前の、お前のせいで、私は……!!」
「甘ったれるな!!」
「ぐはっ!?」
まるでガキのように喚いているイヴァラードをジュリアンが殴った。
変人だがこれまで温厚で大らかだったジュリアンが、今日ここで初めて怒りをあらわにしている。
「『どうすればよかった』!? 『お前のせいで』!? 自分のしたいことすら分からず他人に救いと責任を求めるな、選択を委ねるな! お前の人生はお前にしか歩めないだろうが! 自分で選んだ道のけじめくらい自分でつける覚悟を持て!!」
「う、うぅ……!」
イヴァラードの胸倉を掴みながら、真正面から向き合い睨みつけ怒鳴りつけている。
そこには武器職人でも変態でもない、紛れもない兄としての姿があった。
……いや、こっわ。普段マッドな奴が急に真面目になって怒ると妙な迫力があるな。
怒鳴られたイヴァラードのほうは言い返すこともできずにその場へ座り込み、呆然としたままジュリアンを見上げている。
それを一瞥した後、今度は俺に向き合い頭を下げながら言葉を発した。
「……マイ・カスタマー。どうかこの愚弟に今一度やり直すチャンスをくれないか。もちろん、罪を見逃せと言っているわけではない。償いを済ませてから、イヴァラには自分のなすべきことをやらせてやりたいのだ。だから、暗殺者ギルドへは……」
「俺は別にいいけどな。つーか暗殺者ギルドに売るつもりはハナからねぇよ。今回の件、暗殺対象のコイツよりももっと見ておかなきゃいけない奴らがいるし」
「? どういうことだね? イヴァラ以外の者というと、雇われの呪術士や魔具士のことか?」
「いいや、まずさっきから天井裏でずっと俺たちを眺めてる連中とか、他にも色々だよ」
「……え?」
「バレバレだからいい加減出てこいや。それとも全員引きずり降ろしてやろうかコラ」
『……ははっ、やはり気付いていましたか』
上を見上げながら低い声で脅すと、半笑いで答える声とともに複数の人影が天井から降ってきた。
全員が忍者を思わせる黒装束を身に纏っていて、その中の一人に見覚えのある顔が混じっていた。
「困りますよ、カジカワさん。仕事は依頼通りにこなしていただかなくては我々の立場がありません」
「誰に対してだ? グランドマスターか、それともクソ胡散臭い依頼人にか」
「……お答えいたしかねます」
降ってきたのは第5大陸担当の暗殺者ギルドマスター『グロシウス』とその部下と思しき連中だった。
どうやら俺たちが直々にここへ入り込むところを見られていた、というかずっと監視されていたっぽいなこりゃ。
好都合だ。
この際、今後暗殺者ギルドが俺たちに関わり合いになりたくないと思うような目に遭わせてやろう。
ついでに黒幕の情報も吐いてもらうとするか。
……この流れすら、あるいはこのキツネ野郎の目論見通りかもしれないが。そう考えるとなんかムカつくな。




