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貴様何様貴族様

新規のブックマークありがとうございます。

お読み下さっている方々に感謝です。

 どうしてこうなった。



 目の前には鼻血噴きながら気絶して倒れてる脂身たっぷりの成金デブ。

 こいつ家名持ちだし多分貴族かなんかだと思うんだけど、やっぱ貴族って碌でもない奴が多いのかね。いやこんな奴ばかりじゃないだろうけどさ。でもこいつは少女漫画に出てきそうなクッソキラキラしてるイケメンにはどう見ても見えん。

 その横には護衛と思われる剣士と槍使いが仲良く地面に突っ伏している。あとついでに毒味役も。

 この護衛たち、Lv20超えてるからてっきりもっと強いかと思ったけど、まだバレドやラスフィーンの方が強いくらいだった。スキルが大して育ってないし、パワーレベリングでもしてLv上げてたのかね?

 因みに倒れてる原因は俺。ええ、俺がブチのめしましたが何か。いや別に偉そうに言うことじゃないけど。


 事の発端はダンジョンから戻って、戦利品を素材屋と中古の装備屋に売りに出そうと街を歩いていた時だった。




「やっぱ四階層からはいいアイテムが手に入りやすいみたいだな。その分リスクもでかいが」


「うん。でも、罠は大体ヒカルが見つけてくれるし、魔獣に油断しなければ大丈夫」


「メニューが使えて良かったよ、ホント。あの偽ポータルも引っかかったらどこに飛ばされてたやら」



 雑談しながらまず中古装備屋へ。

 この店は多少年季が入ってたりしてもとにかく安い装備を求める人向けの店で、売るのはもちろん、買い取りもしている。

 並んでいる品々に高価な装備品はあまり見かけないが、値段が安く武器として最低限の性能はあるものが売っているので駆け出し冒険者からは割と重宝されているみたいだ。

 不要になった装備を売りに出す人もいて、その装備品を目当てに来る人も多い。

 俺たちはダンジョンで拾った装備品や不要になった物を売る側だ。さらば鉄剣。世話になったな。安全靴は地球側の物なので売るのはやめとく。


 で、今度は素材屋の婆さんの店に行こうとした時に、後ろから馬車が近付いてくるのが分かった。

 おいおい街中でそんなスピード出すなよ、危ないだろ。まぁ端に寄るけどさ。

 ん、スピードが段々遅く、いや停車した。この辺りに用事があったのか。


 馬車のドアが大きな音を立てながら乱暴に開かれ、中から派手な恰好をしてる太った中年男が出てきた。

 うわお、なんつー成金仕様の服装。刺繍やらアクセやら貴金属と宝石でゴテゴテですやん。

 そんでもってそれを着ている男の態度が、横柄が服着て歩いてますと言いたくなるような下品で乱暴なものだった。鼻ほじるなきたねぇ。

 馬車の御者に運転が下手糞だとか大声で喚いて文句を言っている。そりゃ馬車は揺れるものだろ。こっちの世界に揺れ防止の装置が取り付けられている馬車ってあるのかねぇ?

 ってうわ。なんかこっちに近付いてきてる。よし、目ぇ合わさないようにさっさと退散しよう。



「そこの黒髪の女ぁ! お前がパラディンとやらか!」



 うーわ話しかけてきたよ。シット。

 ってパラディン? アルマのことを知っているのか? こないだのスタンピードの時の噂話でも聞いたのかな?

 従者、護衛と思しき者たちとこちらに近付いてきた。



「毒味役! 鑑定しろ!」


「…ふむ、間違いないようですな。この女は見習いではなく、正式なパラディンのようです。魔法剣というスキルも確認できました」


「おおお、そうか! やはりワシのカンに狂いはないな! ハハハ!」



 なんか勝手に盛り上がってるけど、いきなり無許可で鑑定してきてなんなのこいつら。

 あれか? 異世界モノでありがちな自己中で横暴で小物臭溢れるアホ貴族かなんかか?

 ちょっとステータス確認。名前と職業とスキルその他を表示。先に無許可で鑑定してきたのはこいつらの方だし問題ないだろ。



 シュウダシュンシュー=コーグップ


 年齢:48


 種族:人間


 職業:詐欺師



【スキル】

 言霊Lv7 催眠Lv5




 うわぁ、職業詐欺師だって。しかも精神攻撃っぽいスキル持ってるよこいつ。

 どうみても関わっちゃいけない奴じゃん。



「…ヒカル、この人多分貴族だと思う」


「…ああ。しかも職業が詐欺師で言霊と催眠ってスキルを持ってる。もしかしたら知らず知らずのうちに洗脳される可能性があるかもしれない」



 小声で注意を促しておく。

 もしかしたら既になんらかの影響を受けている可能性があるかもしれないが。

 …メニューさん、俺かアルマの状態になんらかの異常があった時にはすぐに知らせてくれ。



≪了解≫



「さて、小娘! お前が少し前にこの街を襲ったスタンピードの際に魔法剣とやらを使い、低レベルながらウェアウルフを仕留めたことは分かっている!」


「はあ」



 強気な口調で煩く、アルマを指さしながら話す成金デブ。

 それに対して無表情のままやる気なさげな相槌を打つアルマ。



「その魔法剣とやらの習得方法を教えるがいい! そして、お前はワシに仕えるのだ! そうすれば今後パラディンの職業を獲得する者が増え、その功績がワシの物に…! お前もワシに仕えることができて光栄であろう? なぁ?」



 欲望まみれで吐き気がするような表情で舌なめずりしながらアルマに言葉を続けるデブ。

 最後の『なぁ』の部分がエコーがかかっているように聞こえたけど、まさか。



≪言霊スキルLv4:【賛同強制】言葉を問いかけ、抵抗に失敗した者に対して賛同を強制させる技能。及び催眠スキルLv4:【霧纏意識】自分の声を聞いた者の集中力を薄れさせる技能≫


≪アルマティナが言霊スキルに抵抗成功。梶川光流及びアルマティナに催眠スキルの影響が出始めている≫



 げ! マジか!

 確かにちょっと眠気に近いモノを感じる。やばい、このままじゃなにされるか分からんぞ!

 ……ってなんだ? 耳から妙な魔力が入り込んできてるような、うわ気持ち悪! 魔力操作で排出!



≪梶川光流による催眠スキルの無効化を確認≫



 今、入り込んできた魔力が催眠スキルに使われてる魔力か。粘っこくて気色悪い。まるで目の前にいるこのデブみたいだ。



「ぶふふ、よく見ればなかなか見た目は悪くないではないか。今夜、早速可愛がってやろうではないかぁ」



 うわキモぉ! なんだこいつホントキモイ!



≪アルマティナの催眠スキル無効化を確認≫



 お、アルマも無効化したか。

 体内での魔力操作はお手の物だし、当然か。



「…お断りします」


「…何?」


「私は冒険者を辞めるつもりも、誰かに仕える気もありません」


「貴様…! ワシの命令に歯向かうというのか! ワシを誰だと思っておる!」



 知らんわ、何様だ。あ、貴族様でしたか? ヘースゴイデスネー。

 っておい、なにして



 パンッ と乾いた音が響いた。



 このデブ、アルマの顔に、平手打ち、しやがった。



「…気は済まれましたか?」


「済むわけなかろう!! このガキが! 名誉な待遇に礼も言わず、挙句ワシに仕えたくないだと!?外見だけは悪くないから優しくしてれば図に乗りおって! 決めた、貴様は前戯なしでグチャグチャに犯して」




 おい


 てめぇ




「何してんだこのクソデブがあああああっ!!!」



 バァンッ!!



「グガビャッ!!?」



 デブの顔を平手で思いっきりぶっ叩くと、大きな風船が割れたような派手な音が響いた。

 汚い声を上げ歯と鼻血を撒き散らし、デブの身体がキリモミ回転しながら数メートルばかし吹っ飛んだ。

 辛うじて生きてはいるが、完全に気絶したようだ。

 クズが。死ねばいいのに。



「ひ、ヒカル! 駄目! 貴族相手に手を上げたりしたら、大変なことになる!」



 アルマが慌てて俺を諫めようとしているが、既に護衛の二人が武器を構えてこちらを睨んでいた。



「あーあ、やっちまったなぁ、どうするよこれ」


「この豚がどうなろうと知ったこっちゃねぇけど、立場上危害加えた奴は殺しておかにゃならんでしょ」


「だな。つーわけでそこのアンちゃん、ちょっくら死んでくれや。おとなしくしてりゃサクッと殺してや――」



 縮地モドキで急接近。その勢いでまず槍使いの顔面を肘打ち。



「がぶぁっ!?」


「な、て、てめぇ!」



 バキィンッ!



「な、す、素手で、剣を斬っただと…!?」




 剣士の方が斬りかかってきたが、魔刃改を纏った手刀で受け止めると、剣の方が真っ二つに斬れた。

 ……え? 剣を介さずに生身で魔刃改使うとこんなに切れ味いいの? なにこれこわい。

 ま、まあいいや。とりあえずお前も寝てろ。顔面に縮地パンチ!



「ぺばぁっ!!」


「あがぁっ!!」



 あ、吹っ飛んだ先に毒味役がいてぶつかっちまった。

 護衛と毒味役全員気絶。合唱。


 で、冒頭の状態に。



 …うん、どうしてこうなったも何も、俺の所為じゃん。

 アルマがビンタされたところを見て、逆上してつい手が出てしまった。

 …まずい、向こうが手を出す前にさっさと逃げれば良かった。



「あ、アルマ、ごめん! つい、頭に血がのぼって、こんなことを…」


「……せっかく叩かれたのを我慢してたのに。貴族を敵に回すとろくでもない目に遭うから、できるだけ刺激しないようにしないと駄目。ちょっとしたトラブルで、暗殺者を向けられることだってある」


「……ごめん、責任は俺一人がとるから、アルマは安全な所へ」

「それ以上言ったら本気で怒る」



 食い気味に言葉を重ねてきた。

 その顔は、これまで見たことない程に怒っているのが分かる顔だ。コワイ。



「私たちはパーティを組んでる仲間。行動の結果は常に連帯責任。私だけ逃げて助かるなんてことは許されないし、ヒカル一人が罰を受けて済む話でもない」


「う、うん……」


「だから、一人で感情任せな行動は避けて。良かれと思ってした行動が、取り返しのつかないことに繋がるかもしれないから」



 …ぐうの音も出ない。やっぱ、ダメだな俺。

 こっちの世界に来て、今まで割と上手くやってこれたと思ってたのに、すぐに調子に乗ってこの有様だ。

 アルマも自分を抑えてあのデブに対応してたってのに、年上の俺がこんなんでどうするって言うんだ。

 やっぱり、俺は、足手まといなのかな。



「……まぁ、もしもヒカルが殴られてたら、私もこいつを殴ってたと思うけど」


「おい」


「というか、あのままだったら何されるか分からなかったし、気持ちとしてもすごくスッキリした。そこは、ありがとう」



 気を遣われてるのか、あるいは本心なのか。



「どうしようか。こいつが起きたら絶対面倒なことになるよな」


「うん。目の届く所にいる限り、纏わりついてくると思う」


「…ギルマスに事情を話して、ほとぼりが冷めるまで他の街に逃げるのはどうだろうか」


「それが無難だと思う。こんなのでも貴族だから、裁判沙汰になったら勝てそうにないし」


「決まりだな。ごめんな、とんだ旅立ちになっちまった」


「もういい。それに、遠出も楽しそうだし、他の地域も見てみたかったし、丁度いい」



 はぁ……俺としてはダイジェルを旅立つのはもう少しレベルが上がってからにしたかったんだがなぁ……。

 過ぎた事をウジウジ言ってても仕方ない。反省はすべきだが後悔してても時間の無駄だ。

 今日から出発した方がよさそうかな。あのデブが起きたらすぐに俺たちを探そうとするだろうし。

 まぁ、支度品はアイテム画面があるからすぐに準備できるし、ギルマスに報告したらさっさと街を出よう。

 どの方向に行けばいいか、調べておかないと。


お読み頂きありがとうございます。


風呂前に走り込みするようになってから脚がずっと筋肉痛…(;´Д`)

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
ダンジョンに棄ててく(ry
[一言] ぶっちゃけ名乗って無いから不敬罪もクソも無いと思うんだけどな
[一言] こういうときにこそ両親ズにチクるべし!
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