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対面する異世界者たち



 目が覚めた時には、自宅のベッドで横になっていた。

 ベッドの傍には両親、そしてローアが心配そうに顔を覗かせていて、何かあったのかと寝惚けた頭で考えてしまった。何かあったのは私のほうだというのに。


 後から聞いた話だと、あのデブ子爵に縛り上げられタコ殴りにされて気絶した後、あの場にユーブとイツナ、そして二人の父親が介入して騒ぎを解決したそうだ。

 意識のない私を人質にとられてかなり不利な状況だったらしいが、ユーブたちの父親がなにやら大立ち回りを演じるだかなんだかして、子爵を逆に追い詰めることに成功したらしい。

 もっとも、起きたばかりではそんな事情を知る由もなく、ガラにもなくローアが泣き顔でハグしてくるものだからますます混乱した。


 ユーブとイツナは今回の事件に関する事情聴取と、子爵への過剰防衛に対する軽い注意を受けていたためその日のうちには再会できなかった。

 私が起きた次の日に全員の無事が確認できた時には、思わずホッとしてしまった。


 一時的に牢屋送りになったデブ子爵だが、腐っても貴族というべきか、多額の保釈金を払うことになったとはいえすぐに釈放されたようだ。腐ってもというか普通に腐った貴族だな。

 また私たちにちょっかいでもかけてくるんじゃないかと内心心配していたが、釈放されたその日の夜に『仕置き人ギルド』による制裁が下されていた。

 デブ子爵の屋敷は大型の台風、いや竜巻が通過したかのように原形を留めず全壊し、屋敷の中にあった財産は街中にばらまかれ、それらを発見した人々は思わぬ臨時収入を何食わぬ顔で着服した。

 子爵の余罪や裏稼業などの情報をまとめた書類が街の治安維持局や各ギルド、さらにはご丁寧にも国の大臣の下にまで送り届けられていて、その情報だけで家の取り潰しが決まるほどのことが書かれていたらしい。

 そしてデブ子爵本人は命に別状がないレベルで全身の関節を外されたうえにあらぬ方向へ曲がった四肢を数十リットルもの接着剤で固められ、教科書の偉人を思わせるほどの落書きを顔中に書き殴られた挙句、街の時計塔の上に吊り上げられていたと新聞に書いてあった。

 ……あのデブにされたことを考えると決してやりすぎとは思わないが、制裁するにしてももう少しまともな方法があったんじゃないかとも思う。


 今回の騒ぎに関してはこれでケリが付いた。

 終わってみれば、街が少し破壊されて私が痛い目を見た以外には特に大きな被害はなかった。

 殴られたケガも何事もなかったかのように傷跡一つ残らず完治している。



 ……さて、そろそろ本題へ入ろうか。

 事件の際にユーブたちの父親が私の治療をしてくれたらしいが、そこでようやく互いの存在を直接確認することに成功した。

 もっとも、私は気絶していたため、父親の存在を認知したのはメニューだったようだが。


 その父親が、私のメニューへ言付けをしていた。

 後日、私と直接話をしたいと。

 ……メニューに伝言を頼むことができるということは、やはりユーブたちの父親もメニューを扱えるようだな。


≪ユーブたちの父親からの用事はさほど大したことではないと言っていたよ。なんでも、普段から付き合いがある君に挨拶しておきたかったとか≫


 その言葉を鵜呑みにするつもりか?

 ただ挨拶をするだけならこれまでいくらでも機会はあっただろうに。

 何か理由があって私を避けていたと考えるのが自然だろう。


≪それがそうでもないようだぞ。彼は数多くの事業に手を付けていて、ここ数年は各業務の引き継ぎ作業などで極めて多忙な状況だそうだ。今回の騒ぎに介入した際も、かなり疲労が溜まっている様子だった≫


 事業家? ユーブたちの父親が? ……なんというか、イメージと違うように思える。

 ユーブやイツナからは『ごく普通の優男』としか聞かされていなかったが……いや、なんの仕事をしているか分からないとも言っていたな。

 思えば、一部の家具やインテリアにやたら高級なものが無造作に使われていたし、案外どこかの企業の社長をやっていたとしてもおかしくはない、かもしれない。

 でも、どこか納得できない部分があるのも否めない……。




 あの事件から一週間後。今日はユーブたちの父親と会う約束の日だ。

 ここまで時期をずらしたのは父親の仕事の都合と、私が本調子に戻るまで休んでもらうためだとか。

 もっとも、事件の翌日の時点でまったく体調には問題なかったんだが。


 待ち合わせの場所は、行きつけの店とは違う町はずれの小さな喫茶店。

 どこかの孤児院出身の店主が開いた店らしいが、アクセスに少し難がある以外は好評だとか。

 ……しかし、親子ほどの年齢差がある男女がカフェで待ち合わせって、今になって思うとかなり不健全なシチュエーションな気がしてきた。


≪まあ、はたから見ているといわゆるパパ活―――≫


 うるさい黙れ。

 ユーブたちの父親に限ってありえないだろうが、もしも邪念をもって接してくるようなら蹴り潰してやる。

 というか一対一での待ち合わせを了承したのはお前だろう。

 まあ、私としては余計な情報が周りの人間に漏れるのは避けたいところではあるんだが。


 喫茶店の中に入ると、成人前の子供たちが慌ただしく接客しているのが見えた。

 ご丁寧に席の予約までしていてくれたらしく、一番奥の目立たない席へ案内された。

 ……いよいよご対面か。





「……やあ、いらっしゃい……どうぞ、座って……」


「え、あ、は、はい……?」



 案内された席には、今から死ぬんじゃないかと思えるほどやつれて落ち込んでいる様子の男性が、疲れた笑顔を浮かべながら座っていた。

 ……この人が、ユーブたちの父親だと?

 確かにユーブの顔によく似ている。年が離れていることと瞳の色が違う以外はユーブにそっくりだ。

 ……しかし、メニューが言うには多忙で疲れているという話だったが、いくらなんでも疲労困憊すぎないか……?


≪いや、一週間前も疲れた様子ではあったが、ここまでやつれてはいなかったぞ。何かあったのだろうか……?≫



「……ああ、ごめんね。ちょっと色々あって疲れていてね、鬱陶しい様を晒してしまって済まない」


「いえ……」


「とりあえず、何か注文しようか」



 料理の注文を済ませ、運ばれてくるまでの間に父親のほうから自己紹介をしてきた。

 おしぼりで顔を拭いて多少持ち直したような顔で、自己紹介を始めた。



「初めまして、いつもうちの子たちがお世話になっております。ユーブたちの父親の『梶川光流』と申します」



 ……!

 この名前、やはり日本人だったか。

 喋る際の唇の動きも聞こえてくる声と合っているし、こちらの世界の言葉ではなく日本語を話しているようだ。



「セレフレネさん、だったかな。この前の騒ぎの際にローアを庇ってくれたんだってね。痛い思いをさせてしまって申し訳ない」


「いえ、私が勝手にやったことです。礼を言われるようなことは何もありませんよ」


「そうか、ありがとう。ローアがあんなに誰かを心配しているところは見たことがなかったが、いざ会ってみると納得できたよ。もう今日は帰るべきだと言っても、セフ……『セレネが起きるまで待ってる』って聞かなかったものでね」


「そうですか……あと、その、愛称をわざわざ言い直していただきすみません……」


「……うん、一応ローアにも注意はしておいたんだけどね。あの子のマイペースさを考えると、多分今後も呼び方は直らないかもしれない……なんか、本当にごめんね」



 知ってた。というかローア、この人にまで私をセフレという名前で紹介していたのか。やめてくれ。



「できればこれからもユーブたちと仲良くしてくれると嬉しいな。こちらから言いたいことはこれくらいかな」


「……では、今度はこちらから話をしても?」


「ああ、どうぞ」


「……あなたは、日本人ですよね」


「うん。君も、元はそうだったんじゃないか?」


「はい」


「そうか。こちらの世界で生まれる前に、何か妙な出来事に巻き込まれたりはしなかったかい?」


「妙な出来事、というと……?」


「例えば、いつの間にか扉だらけの妙な通路に放り込まれていた、とか」


「っ!」



 知っているのか。

 あの無秩序な、地獄のような場所のことを、この男は知っているのか……!
















≪それにしても、今になって会うことができるとはな。セレネが梶川氏を一目見ようと何度か夜中に様子を見に行ったことがあったのだが、あれは意識的に避けていたのか?≫


≪否定。現在の梶川光流は多忙で深夜にファストトラベルを使用し外出することも珍しくはない≫


≪ファストトラベルを使えるのか。となると、戦闘職だったのか? ファストトラベルを扱えるとなるとレベル40を超えているはずだが、現在のレベルは?≫


≪返答の義務はないため拒否≫


≪随分と疑り深いことだ。こちらが彼のことを知ったところで、なんの脅威にもなりえないことは分かっているだろうに≫


≪疑問:セレフレネが梶川光流に接触した理由≫


≪……セレネは、日本へ帰りたいだけだ≫


≪日本への帰還。それは、パラレシアでの生活を放棄するという認識か?≫


≪分からない。パラレシアでの生活にも慣れて、両親やユーブたちという友人もできたことで迷っているんだ。地球へ帰って元の生活に戻るか、このままセレフレネとして異世界で一生を送るのか≫


≪……≫


≪梶川光流氏は、おそらく日本への帰還方法を確立しているのだろう? 私としては、正直言ってできれば会ってほしくはなかった。どれだけ酷い事実が待っているのか、彼女は知らないのだから。……薄々察してはいるのかもしれないが、ね≫


≪元の世界へ戻って、望む結果が得られない可能性は予測してしかるべきである。それは梶川光流や勇者ネオライフも同様であった≫


≪そうかもしれないが、果たして受け止めきれるかが心配でね。……ところで話は変わるが、梶川氏がやたら疲れた様子なのだが、何かあったのか?≫


≪…………………五日前に息子と娘に長年隠蔽してきたことが不注意で露見、さらに先日義妹に一服盛られた結果多大な体力を消耗したことが原因。詳細は省略する≫


≪待て。今の1文だけで情報が渋滞しているのだが。おい。チャット機能の接続を切ろうとするな。もう少し詳しく教えてくれ。頼むから≫

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[一言] 最近書籍の方見つけて2巻とも購入しました。 その後Web版にも手を出したら、数日で一気に読み切ってしまいました。 遂に新たな転生者との直接対話が!
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