暴力を超えたゴリ押し
本日2話目の投稿です。
前のお話を見逃していないかご注意くださいませ(`・ω・´)ゞ
もうどうしようもなくなったと思ったところで、そいつは現れた。
親父が、俺たちを守るように前へ出て、デブと冒険者たちに向かって立ち塞がっていた。
「……誰だ? まさかそのガキどもの、父親か……?」
「はい、私がこの子たちの保護者です。失礼ですが、何が起こったのか説明していただけますか?」
「はん、今更ノコノコと出てきおって! よかろう、教えてやる! 貴様のガキどもがその魔獣を街へ招き入れて、多大な被害をもたらしたのよ! どう責任を取るつもりだ!」
「なんと、それはそれは。件の魔獣というのはそこに倒れている鳥、いや翼竜の魔獣ですか?」
「そうだ! ブレスや魔法によって街はボロボロだぞ!」
「ふむふむ、なるほど」
激高、したふりをしながら俺たちのせいだと主張するデブに対し、親父は落ち着いた様子で俺たちのほうへ向き直った。
「それは、本当のことか?」
「ぱ、パパ、あの、ね……」
「……」
話せない。本当のことを話せば、セレネが……!
……?
返答を聞く前に、親父が近付いてきて懐からなにかを取り出した。
……え、なんだ? なんか、液体の入った小瓶を突きつけてきたんだが。
「すみません、皆様! 本当にこの子たちがやったかどうかを確認する前に、一刻も早くこの虫下しのポーションを投与することをお許し願いたい!」
「虫下しの、ポーション……?」
「この魔獣は『プテラノドン・ディザスター』という翼竜型の魔獣で、体表にとある『ダニ』に寄生されていることがあるのです!」
「何……ダニだと?」
「そのダニは人間にも寄生し、約、えーと……約20時間ほどで宿主の体を発症させて、最終的には命を奪うことすらあるほど重症化させてしまうのです!」
な、なんだって……?
そんなダニなんかどこにもついてるようには見えなかったが、小さすぎて分からなかったのか……?
「ちなみに症状としては、まず首の後ろが焼けるように熱くなります」
「うっ……!?」
親父がそう言ったところで、デブが急に後頭部へ手を当てた。
「逆に背筋は凍るような悪寒を覚え……」
「う……!? ひ、ひぃ……!?」
かと思ったら、まるで寒中水泳から上がったばかりかのように、急にガタガタと震えている。
「頭が割れるほどの激痛が走るそうです」
「う、うあああ……!!」
ついには頭を抱えて蹲ってしまった。
……これ、もしかしなくても親父が言ってる症状が全部出てねぇか……?
「発症するのは寄生してから20時間後。直接魔獣に触れなければ寄生されることはないほど感染力は脆弱ですので、昨日にでも魔獣に触れていない限りは今すぐ症状が出るということはありません。また発症してもすぐに虫下しポーションを飲めば、すぐに症状は治まるはずです」
「し、症状が出て、ほ、放っておいたら、どう、なるんだ……?!」
「死にます」
脂汗を滝のように流しながら土気色の顔色で問いかけるデブに、口元を抑えながら無慈悲な回答をする親父。
親父の顔を近くでよく見ると、笑いを堪えているようにも見える。
「ところで、先ほどから顔色が優れないようですが、体調でも崩されているので?」
「お、おれにも、ポーションを寄越せ! さっきから首が熱くて悪寒がする上に頭痛がするんだ! そのダニに寄生されているに違いない!」
「いえいえ、ダニに寄生されてから20時間が経過していなければ発症はしませんよ。きっと私の説明を聞いたために起きたプラシーボ効果でしょう。仮に今日感染したとしても、発症するのは明日のはずです」
「いいから、寄越せぇ! うがぁぁああ!!」
「つまり、昨日の時点でこの翼竜型の魔獣と接触していたと認めるということでよろしいのですかな?」
「そ、それは……!」
「ちなみに、発症してからすぐにポーションを投与しなければ頭部が破裂し、辺りにダニの卵が撒き散らされるそうです。と言っても人間に影響があるのはあくまで成虫なので、寄生主以外には無害ですが寄生主は確実に死にます」
「ひ、ひいぃ……!?」
デブの頭をよく見ると、頭のてっぺんが何かに引っ張られているかのように少し変形していってる。
まさか、もう破裂しそうになってるってのか……!?
「そ、そうだ!! おれは、おれは昨日、あの魔獣を、魔獣大森林で、薬を使って捕らえてテイムしたんだ!!」
「なんと! ではその魔獣を街で暴れさせていたのは、あなただったというわけですか?」
「そうだ! み、認める! 認めるからポーションをくれ! 頼む! このままでは本当に頭が割れるぅぅうう!!」
「それだけ聞ければ充分だ」
「がぼぁっ!?」
そう言いながら小瓶をデブの口に突っ込んで中身を飲ませた。
ポーションを飲み終わると、症状が治まったのかさっきまで喚いていたのが嘘のように静かになった。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
「さて、ここまでのお話をまとめると、あなたが昨日そこの魔獣をテイムして、今日になって街で暴れさせて、その罪をこの子たちに擦り付けようとした、ということでよろしいですね?」
「き、貴様……!!」
「周りにこれだけ目撃者がいる中で自白したのですから、もう言い逃れはできませんよ?」
……詰んだと思った状況を、一気にひっくり返しやがった。
というか、ホントにダニなんか付いてたのかよ……?
まるで親父が嘘八百を並べて、その通りに見えるように何かインチキでもしていたようにすら思えてくるんだが。
「……ファッティーボルド子爵殿。魔獣を街へ放ち、暴れさせて多大な被害をもたらした罪により、あなたを連行いたします」
「触るな!!」
厳しい表情でそう告げる冒険者に対し、もはやこれまでといった様子で開き直り怒鳴った。
悪足掻きをする気なのか、タコ魔獣のほうへ逃げて啖呵を切った。
セレネを人質に、この場を切り抜ける気か。
「動くな! 動けばこのガキが縊り殺され……え?」
「ユーブ、セレネ回収してきたよ」
「よくやった、イツナ」
「ぐっ……!? い、いつの間に、貴様ぁ……!!」
アイツが蹲ってるうちに、イツナがこっそりとタコ魔獣からセレネを引き剥がしていた。
これでもう、あのデブはセレネに手が出せない。
「その子は? ……酷いケガだな」
「セレネだよ。そういえば、パパは会ったことなかったっけ?」
「そうか、その子が……治すから、こっちに預けなさい」
「……うん、お願い」
イツナからセレネを預かり抱える親父。
心配そうに傷の具合を確かめながら、ポーションを顔にかけている。
「くそ、クソっ!! こうなれば……やれっ! 全員叩きのめしてしまえ!」
『シュオァァアア……!!』
そうしている間に、デブがタコ魔獣に指示を出して暴れさせ始めた。
まだ諦めてねぇのかよ、しつこい野郎だ!
「ユーブ」
「っ……なんだよ」
デブに立ち向かおうとしたところで、親父に声をかけられた。
まさか、また暴力はダメだとか言って止める気か?
「あのデブが、この子を傷つけたのか?」
「……ああ」
「よし、ぶっ飛ばしてこい」
「!」
「遠慮するな、死なない程度にボコボコにしてやれ。友達を傷付けた挙句全く反省しないような奴に、気を使う必要なんかない。相手が貴族だろうが王だろうが、絶対に許すんじゃない」
意外なことに、親父は止めるどころか背中を押してきた。
……自分が殴られてた時にはへらへら笑ってやがったくせに、俺のダチのことになると手のひら返しやがって。
「言われなくても―――」
「っ!? な、何ィ!?」
『隠された能力』の一つ、『瞬発駆動』で一気にデブ貴族へと距離を詰め、思いっきり拳を振りぬいてやった。
「テメェは、ぜってぇにぶっ飛ばす!!!」
「う、うわぁあああ ゴボベァアアアッ!!?!」
『ゲギャァァアアッ!!』
デブの顔面を、渾身の力で殴り飛ばした。
吹っ飛ぶデブにタコ魔獣も巻き込まれ、バキバキと音を立てて砕け散った。
そのままデブは噴水に溜まってる水の中へ墜落し、最後にはプカプカと浮かんで気を失ったようだ。
「地獄に落ちろ、カス!」
中指を立てながらそう吐き散らした後に、酷く虚しい気分になってきた。
……はぁ~~……。
俺、かっこ悪いなぁ……。
結局、俺たちだけじゃセレネを助けられなくて、最後には親父に尻ぬぐいさせちまった。
……助かったよ、親父。
「トドメじゃい!!」
「ブゴポボコボボベァぁアッ!!?」
「オラオラァッ!! 2~3発で許してもらえると思うなカスがァッ!! このハゲーッ!!!」
「お、おい! お嬢ちゃん落ち着けって! やりすぎだっての! おいっ!!」
……水面に浮かんでいるデブの股間をイツナが蹴りまくっているのを横目に、親父のほうへ向かおうとした。
だが、いつの間にか姿が見えなくなっていることに気が付いた。
あれ、どこへ行ったんだ……?
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「なるほど、君がそうだったのか。……つーか、セフレじゃなくてセレネじゃねーか。ローアもなんつー愛称つけとんねん」
≪……≫
「それで? いつまで知らんぷりしてるつもりだ? メニュー君」
≪……気付いていたか≫
「視認すれば、対象がメニュー機能を扱えるかどうかは一目でわかる。この子、セレネちゃんは、転生者ってことでいいのか?」
≪ああ≫
「なるほどね。……この子の目が覚めたら、少しお話をしようか」
≪そうしていただけると助かる。こちらも君に用があるのでね≫
「そうか」
≪それにしても、なんとも強引な解決方法だったな。寄生するダニだの頭がはじけ飛ぶだの、よくもまあ即興であんな設定が思い浮かぶものだ≫
「言い訳のアイデアなんかすぐに思いつくさ。それに説得力をもたせるための準備が面倒だったけど」
≪……君を敵には回したくないものだな≫




