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力及ばず、そして……

 本日、一度目の更新です。

 二度目は20時に投稿予定。



『キョェアアアアッ!!』


「こんのクソ鳥が! 降りてこい!」


「ヒヨサブロー! 遠当ての弾幕薄いよ! もっと撃てー!」


『コ、コケェ……』



 セレネたちを逃がしてからこのデカ鳥とやり合ってるが、思った以上に戦いにくい。

 空から攻撃魔法や遠当てを撃ってきて、ここぞというところで急降下してまたすぐ離脱しやがる。

 さらに竜族スキルのブレスは絶対に街に向かって撃たせちゃいけねぇから、攻撃を逸らすタイミングを掴むために一瞬たりとも目を逸らせない。



『コケェ……』


「あれ、どしたのヒヨサブロー? ……もしかしてもうダメっぽい?」


「あんだけバンバン遠当て撃たせてりゃバテるに決まってんだろ、あんまり無茶させんな」


「えー、こっからはこの子抜きでやり合わなきゃいけないのー……? はー、だるいわー」


『コケ……』


「お前はよくやったよヒヨサブロー。後で美味い飯食わせてやっからな。ここからは俺らに任せて休んでろ」



 もう限界らしいヒヨサブローを退かせて労っておく。

 ……のはいいとして、実際どうしたもんかねこりゃ。


 遠当てによる援護射撃がなくなったのは正直キツい。

 ヒヨサブローがすげー頑張ってアイツの行動を制限してくれていたんだが、ここからはガチでやり合う必要がある。

 戦力が一羽離脱したことで、戦況はやや不利。

 だが、あのデカ鳥も何度かブレスを吐いたり攻撃魔法を使ったりして消耗しているはずだ。

 少なくとも冒険者たちの援軍が来るまで防衛線を維持することくらいはできるだろう。


 なんて、今後の立ち回りを考えているところに、誰かがこっちに近付いてきてるのが見えた。

 冒険者による援軍かと思ったが、違った。

 セレネと一緒に逃げたはずのローアが、息を切らせながら戻ってきていた。



「はぁ、はぁ……ユーブ、イツナ……!」


「え、ちょ、ローア!?」


「お、おい! なんで戻ってきてんだ! ギルドへ行けって言っただろうが!」


「……って、セレネはどこ行ったの?」


「セ……セフ、レ……は……!」



 息切れでうまく喋れない状態で、それでもなんとか息を大きく吸い込み、ローアが声を上げた。



「セフレが、捕まった! あの魔獣を呼び寄せた犯人に、捕まった!」


「……え?」


「……は?」


「一緒に逃げようとした時に、私を庇って、私が逃がすために捕まったの……! お願い、助けて! ギルドまで行くには時間がかかりすぎる! 今も何されてるか、分からない!」



 滅多に見せない泣き顔でローアがそう言ったのを聞いたところで、頭に血が上るような感覚とともに、背筋に悪寒が走るような焦燥感を覚えた。

 隣で聞いてるイツナもふざけた表情から一変し、無表情のまま三白眼を見開いている。



「ローア、セレネがどこにいるか分かるか」


「せ、セフレが捕まったのは、ギルドに向かう途中の噴水前。移動してないなら、そこにいると思う……」


「そうか。……イツナ、あのデカ鳥を足に使うぞ」


「分かった」


『ギョェェアアアアッ!!』 



 それだけのやりとりの後、おあつらえ向きにうるさい鳴き声を上げながら攻撃魔法を撒き散らしつつ突進してきた。

 いい子だ、そのままこっちに来い。



「イツナ!」


「分かってるっての!」



 こちらに放たれる攻撃魔法を、イツナが展開した『魔力の盾』で受け止めていく。

 堅盾術スキルの『魔造盾』に似てるが、盾術Lv2のイツナじゃ本来そんな技能は使えない。

 だが、イツナの『隠れた能力』は盾を扱う能力らしく、デカ鳥が放つ魔法を全て防ぎきっている。

 もっとも、少しでも防ぐ角度を誤ればそのまま盾ごと貫かれる危険性があるらしいから、これまではリスクを避けていたようだ。

 だが、セレネが危ない時にそんなこと言ってられないと、イツナも覚悟を決めてくれた。


 まっすぐにこちらへ突っ込んでくる魔獣に向かって、『隠された能力』の魔法を発動した。



「『エレキ・バインド』!」


「ギョギョベベバババ!!?」



 それは、稲妻で編まれた網を展開する魔法。

 この網に捕らえられた相手は強力な電撃により麻痺し、うまく身動きが取れなくなる。

 動きが止まった怪鳥の背にイツナと一緒に乗りこみ、準備は整った。



「さあ、ぶっ飛べぇぇえっ!!」


『ギョギャァァアアアッ!!?』



 デカ鳥に乗ったままイツナがケツをぶっ叩くと、勢いよく斜め上に射出された。

 イツナの使う魔力の盾はただ攻撃を防ぐだけのものじゃない。

 防いだ分の攻撃の威力を、自分の一撃に上乗せすることができる。

 さっきまで防いでいた攻撃魔法の分の攻撃力を全部乗せた一撃は、俺たちごとデカ鳥をぶっ飛ばすのには十分な威力だった。


 この勢いのまま噴水広場まで飛んでいけば、セレネのところまですぐ辿り着く。

 変な方向へ行かないようにデカ鳥の翼を剣でもぎ取って、噴水広場が見えた時点でデカ鳥の顔面をイツナと同時にぶん殴って仕留める!



「だらっしゃぁぁあああ!!」


『ゴケキャァァアアアアッ!!?』


「くたばれやぁぁあああっ!!」



 怪鳥を殴り倒しつつ、そのまま噴水広場に不時着することに成功した。

 広場には太った禿げ頭のオッサンがいて、驚いた顔でこちらを見ていた。


 そしてその傍には、顔中に殴られた痕を浮かべて血まみれになりながら、樹でできたタコみたいな魔獣に縛り上げられているセレネの姿があった。

 もう意識もないのか、目を瞑ったまま微動だにしていない。


 頭の中が熱くなるのを通り越して、急速に冷えていく。



「くそ、使えん鳥め。ガキどもすら殺すことができんのか、無能が!」



 俺たちの下敷きになって動かなくなっているデカ鳥を見て、デブが何か喚いている。

 どうやらこいつがローアの言っていた、この騒ぎを起こした元凶のようだ。



「……セレネに、何してやがる」


「今すぐ放せ、クズ……!」


「ふん、相変わらず生意気なガキだ。隣にいるガキも随分と―――」


「セレネを放しやがれ!!」



 厭らしい濁声を垂れ流すデブの言葉を遮り怒鳴った。

 あんなにボロボロになって、これまでどれだけ痛めつけられたのか想像もできない。

 早くセレネを治療してやらないと、下手したら命に係わるかもしれねぇ。



「人の言葉を遮ってはいけないと親から教わらなかったのか? 教育をした者の程度が知れるな」


「コイツ……!」


「おっと、動くなよ? 今、このガキの命はおれが握っている。合図一つで縊り殺せるということを忘れるな」



 ……くそ、ハッタリじゃなさそうだな。

 見たところセレネに絡みついてるタコ魔獣はさっきのデカ鳥ほどじゃないにしろ、かなりの高レベルみたいだ。

 その気になれば瞬きする間にセレネを殺せるだろう。迂闊に動けねぇ……!



「そう焦るな。おそらくもうじき騒ぎを聞きつけた冒険者たちがここへ駆けつけてくる、それまでの辛抱だ」


「? 何言ってんの、そうなったらアンタが犯人だってバレるだけでしょ」


「いいや、そうはならないさ。お前たちが黙っておれの言うことを肯定していればな」



 このデブ、いったい何を……。

 っ! まさかこのクソ野郎……!?



 このデブが何をしようとしているのか察したところで、冒険者ギルドの方向から大人数で大人たちが駆けつけてきた。

 すぐに俺たちを包囲する形で広がり、デブと俺たちの様子を見ながら冒険者の一人が声をかけてきた。



「……どういう状況なんだ、これは」


「やっと来てくれたか。私はパインダ・ファッティーボルド子爵。この騒ぎを収束させたものだ」


「これは、どういうことだ。大型の鳥型魔獣が侵入してきて街を襲っていると通報を受けてきたのだが……その子供は? なぜ縛り上げられている?」


「あの鳥型魔獣は、そこにいるガキどもとこのガキが連れてきたものだ」


「なっ……!? 何言って……!」



 イツナが反論しようとしたところで、デブが睨んできた。

 それの意味するところは『余計な口を挟めばセレネを殺す』ということだろう。

 セレネを人質に、今回の騒ぎの罪を俺たちにかぶせるつもりなんだ……!!



「そのガキは以前にも魔獣を飼おうとして連れて来た挙句放置して、あわや人死にが出かねないほどの事態を引き起こしたことがあるのだろう? 懲りずにまた同じことを繰り返しおって、目も当てられんな」


「その子供を縛っている魔獣は?」


「私が使役している魔獣だよ。この子供もそいつらの共犯らしく、どうしようもなくなって無責任に逃げようとしたので、少々灸を据えてやったのさ」



 自分の都合のいいように嘘八百を並べるデブに、はらわたが煮えくり返るような憎悪を覚えた。

 だが、動けない。セレネを人質にとられている状況で、何も言い返すわけにはいかない。

 仮にこの場でセレネを殺せば、奴も言い訳が利かなくなって破滅するだろうが、自棄になって最悪の選択をとる危険性はゼロじゃない。

 このままだとあのデブに逃げられるどころか、冤罪で牢屋に叩き込まれちまう!



「こちらのファッティーボルド子爵はこう言っているが、それは本当のことなのか?」


「っ……」


「正直に答えてくれ。虚偽の報告は、互いのためにならないぞ」



 ……ちくしょう、くそ、くそったれが!!

 あんな奴、喧嘩になればワケねぇのに、手が出せねぇ!

 俺は、俺は、なんてバカなんだ。

 この状況をどうにか切り抜ける手段が、何も浮かばねぇ……!!



「……ユーブ、私が一人でやったことにするから、すぐに家へ帰ってママたちに今回のことを伝えて」


「な、お前、何言ってやがる!? そんなことしたら……」


「もう駄目だよ。……悔しいけれど、私たちの負けだ。私たちの腕っぷしだけでどうにかできる状況じゃないよ」


「そんな……」



 そんなこと、できるわけないだろう!

 そう言ってやりたかった。兄なら、そう言ってやるべきなのに、言える状況じゃないことが嫌でも分かってしまう。

 それは最悪の結末だが、今の俺たちにできる最良の選択だから。

 ……どうして、こうなっちまったんだよ……!















「あ、どーもどーもこんにちは」



 ……。


 は?



「ふむ、なにやら皆さんお集まりのようで。今日はお祭りか何かでしょうか?」



 いつの間にか、俺とイツナの傍に、誰かが入り込んできた。

 どこからか、本当にどこから現れたのか、まるで分からなかった。



「あ……ぱ、パパ……?」


「親父……!?」



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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
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