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罪の意識と罰の意識の狭間の声

 前話に出てきた勇者ちゃんの息子ちゃんは父親同様かそれ以上に生まれる性別を間違えてるレベルで外見が美少女です。

 え、間違えなかったらどうなってたって? ……あとがきの一番下あたりにイメージ図を載せときます。TS表現注意。

 ……この世界に生まれ落ちて、14年が過ぎてしまった。

 成人するまで、あと一年もない。

 だからどうしたということもないが……日本へ帰るための手掛かりは、いまだに掴めていない。


 最近は焦りとは違う、真綿で首を締められるような、じわじわと追い詰められていく感覚がある。

 望郷の念を抑えて少しずつ、少しずつだが徐々に諦観を覚えるようになってきている。

 諦めの心は日に日に強く、私を苛むようになった。

 もう無理だ、もう諦めれば楽になる、この世界で頑張ればきっと幸せになれる。

 だから忘れてしまえと、日本のことなど、『彼』のことまで忘れてしまえば―――



「……どうした? 顔色が悪いぞ」


「……なんでもない、少し疲れているだけだ」


「無理すんなよ、最近なんか元気ねぇみたいだし」


「バカ、デリカシーがないぞ! 女の子にはそういうのが一定周期であるもんなのよー!」


「……そういうことでもない」



 現状を悲観しながら思考に耽っていたら、辛気臭い面になっていたのかユーブたちに心配されてしまった。

 ……生理じゃないし、周期がきても私はさほど重くないからやめてくれ。



「それともなんかトラブルでもあったの? ちなみに私はこないだ臭そうで脂ぎったデブのナントカ子爵にナンパされて、速攻逃げ出したりしてました」


「聞いてない。……それ、大丈夫だったのか?」


「んー、逃げるときになんか『どこまでも追い詰めておれのモノにしてやるー』とかほざいてたけど、まあ大丈夫でしょ」


「いや、そういう面倒くさくなりそうなトラブルはちゃんと言えよ。もしも誘拐でもされたらどうすんだよ」


「私を誘拐とか、できるもんならやってみろって気もするけどねー」



 だろうな。……今のユーブとイツナは既に特級職に迫るほどの膂力がある。

 『ステータス』の能力値やスキルこそ成人前の子供相応にしか育っていないが、『プロフィール』に表示されている数値は桁が違う。

 だが、それでもまだ成人前の子供には変わりない。

 面倒ごとに巻き込まれて、腕っぷしで解決できない問題に直面したらこの子たちだけではまだ心配だ。

 まあ、大抵のことは力任せのゴリ押しでどうにかなるだろうが。




 今日は街へショッピングに来ていて、小休憩にベンチで休んで駄弁りながらふと自分の現状を考えていた。


 日本へ帰る手段の模索のために彼らに近付いたが、思えばその前提が間違っていたのかもしれない。

 ユーブたちと親密になろうと接するたびに望郷の念が薄れていき、一緒に訓練をしたり遊んだりバカやったりする時間があまりにも充実しているから。

 日本にいたころですら、こんなに楽しい時間が果たしてあっただろうか。

 ……仲良くする演技をしていたつもりが、いつしか本当にこの子たちのことを友だと認識するようになってしまったようだ。


 もしかして、私は義務感だけで帰ろうとしているのではないだろうか。

 『彼』を置いてこの世界に生まれ変わってしまったことへの贖罪、いや、ただの言い訳のために、できるわけがない帰還の方法を探しているふりをしているだけなのではないだろうか。

 そんなことのために、命を助けてもらったユーブたちへ擦り寄って、利用しようと友達になったふりをして、挙句そのための理由すら投げ出しそうになっている。

 ……分かっていたつもりだが、最低だな私は。


 ……終わりにしよう。

 ユーブたちは本当にいいやつらなんだ。

 私の都合で、これ以上彼らの貴重な時間を奪うわけにはいかない。


 もう遠回しに外堀を埋めるような、まどろっこしい真似は止めにしよう。

 



「……ユーブ、イツナ、ローア。少し、いいか?」


「んあ? どしたの?」


「?」


「なんだ? そんな改まって」


「……私は―――」





「ま、魔獣だ! 魔獣が飛んでるぞ!!」


「逃げろ! 早く!!」


「な、なんであんなところに……!?」



 望郷を諦める前の、最後のけじめとして彼らの父親に直接会わせてもらうように頼もうとしたところで、私の声を遮るようにどこからか叫び声が聞こえてきた。

 声がしたほうへ振り向くと、思わず絶句した。


 巨大な鳥、いや、鳥型の恐竜ともいうべき怪鳥が、街の真上を飛んでいるのが見えたから。

 なんだあの魔獣は、どうやってこんなところまで侵入してきたんだ……!?



「……イツナ、まさか」


「またお前か」


「ちげーよ! 私じゃねーよ! いやあの子飼いたいくらい可愛いとは思うけどさ!」


「思ってんじゃねーか! ……んー、でもあんなのを家に連れ帰ったことはなかったし、イツナが原因じゃないってのは嘘じゃなさそうだな」



 とりあえず真っ先に前科のあるイツナが疑われてたが、今回は犯人ではないようだ。今回は。

 となると、天然物のはぐれ魔獣か? アレ一体だけならばスタンピードの前兆ではないと思うが……。


 というか、あんな魔獣はこのあたりのテリトリーでは見たことがないんだが。

 いったいどこから出てきたんだ?


≪ここから北東約513kmに位置する魔獣大森林では、恐竜型の魔獣が数多く生息しているらしい。この街からは大分離れてはいるが、おそらくそこに生息しているプテラノドン型の魔獣ではないだろうか≫


 そんな遠方の魔獣がどうしてこんなところまで来たんだ!

 テリトリーを追われて食料を得るために人間の街を襲うにしても、もっと近くの集落を襲うのが自然だろう!?


≪あるいは、人為的に連れてこられたのかもしれないがな。推測はここまでにして、そろそろどうするべきか判断するべきではないか?≫


 くそ、原因云々の話は後だ。

 あの魔獣のステータスを表示しろ! それを見て逃げるべきかユーブたちに仕留めてもらうか判断する!


≪了解した≫






魔獣:プテラノドン・ディザスター

Lv51

状態:空腹

【能力値】

HP(生命力) :2001/2001

MP(魔力)  :1828/1888

SP(スタミナ):1735/2146


STR(筋力) :1812

ATK(攻撃力):1812

DEF(防御力):1588

AGI(素早さ):2136

INT(知能) :1669

DEX(器用さ):1241

PER(感知) :1278

RES(抵抗値):1998

LUK(幸運値):104

【スキル】

魔獣Lv6 竜族Lv3 体術Lv10 極体術Lv1 牙術Lv10 貫牙術Lv2 爪術Lv10 鋭爪術Lv3 攻撃魔法Lv10 中級攻撃魔法Lv5

【マスタースキル】

オーラ・ミティゲイション

マギ・ミティゲイション

シールド・クロウ

スピア・ビーク





 ……まずいな、これは逃げるべきだ。

 恐竜型というだけあって、同レベル帯の魔獣よりも能力値が高い。

 さらに竜族スキルまで取得している。ブレスを一発でも吐かれたら大惨事だろう。



「セレネ! ローアを連れて、冒険者ギルドまで逃げろ!」


「!? お前はどうするんだ!」


「あのデカい鳥を叩き落とす!」


「そしてゆくゆくはペットにする!」


「しねーよバカ! ふざけてる場合じゃねーぞ! 急げ!」


「待て! あの魔獣はレベル50を超えていて主要な能力値も2000近い! さらに竜族スキルやマスタースキルを複数持っている、いくらお前やイツナでも……!」


「ならなおさら止めねぇといけねぇだろうが! 辺りにゃまだ生産職の人も大勢いる! 冒険者ギルドまで援軍を呼んできてくれ!」


「戦力が揃うまで私たちが足止めして、冒険者たちが集まったらフクロにする作戦ってわけ! だからギルドまで逃げて、冒険者たちに私たちが戦ってる場所を教えてあげて!」



 ……この短い時間で、そこまで頭が回るのか。

 そうするように、弱い者たちを守るように教育を受けているのか、それとも純粋にこの子たちの善性からくる判断なのか。

 いや、それどころじゃないな。足手まといになる前に、ギルドへ向かわなければ。



「……分かった。無理してケガするなよ」


「おう、そっちも気をつけろよ」


「さぁて、そんじゃあダックハントといきますか! 来い! ヒヨサブロー!!」


『コケェェエッ!!』



 臨戦態勢に入るのと同時に、イツナがテイムスキル技能『隷獣召喚』を発動してニワトリ型の魔獣を呼び寄せた。

 このニワトリは、イツナの家の鶏小屋で飼っているプラチナムコッコか。

 怪鳥と比べて能力値こそ低いが、戦力としては充分な援護が期待できるだろう。



「ユーブたちならきっと大丈夫。行こう、セフレ」


「ああ。……セフレはやめろ」



 怪鳥に立ち向かうユーブとイツナを尻目に、ローアとともに冒険者ギルドへ走り出した。

 Aランク以上の冒険者パーティがいれば、ユーブたちの助けになるだろう。早く案内をしなければ。

 

 ユーブたちの強さは決してあの怪鳥に引けを取るようなものではないし、少なくともその辺にいる冒険者に任せるよりはよっぽど安心できるだろう。

 だから、この場は二人に任せるのが正解のはずだ。



 なのに、なぜか胸騒ぎがする。

 私は、ユーブたちを心配しているのか。私よりもあの兄妹のほうがよほど強いだろうに。

 ……それとも……。




「ほう、あのガキの連れなだけあって、ツラは悪くないな」




「……え?」


「っ! セフレ!」


≪セレネ!≫


「うわっ!?」


「あぅっ!」



 聞き覚えのない野太い男性の声が聞こえたと思った直後、全身に何かが絡みつく感覚。

 私とローアの体に、緑色の縄のようなものが巻き付いてきた。

 これは、植物の蔓……!?

 いつの間にかすぐ近くに、樹木でタコを模ったような奇妙な物体がいるのが分かった。


≪植物型の魔獣、オクトプラントの触腕だ! 拘束されているぞ!≫


 もう一体、魔獣がいたというのか!? なぜ気付かなかったんだ!


≪つい数秒前までここに魔獣などいなかったはずだ! ……! この魔獣は、あの男にテイムされている! おそらく先ほどのイツナと同じように、隷獣召喚で呼び寄せたんだ!≫


 あの男……?

 魔獣の傍に、肥えすぎた豚を思わせる脂ぎった顔の男がいる。

 いやに豪奢な衣装を着ているあたり、おそらく貴族か金持ちのボンボンといったところか。



「くくくっ、いい格好だな。美しい女が緑に捕らわれている様は、実に映える」


「……誰だ、お前は……!」


「おっと、自己紹介が遅れたな。おれの名はパインダ。パインダ・ファッティーボルド子爵という。これから生涯をかけて仕える相手の名だ、よぉく脳髄に刻み込んでおけ」



 ……どこからともなく出てくるなりいきなり何を言ってるんだ、このデブは。

 やってることも言っていることも、まるで意味が分からない。

 今はあの怪鳥が街で暴れている真っ最中なんだぞ。早く冒険者を呼んでこないと、ユーブたちが……!



「それにしても、あのデカい鳥は思ったよりも使えんな。とっくにあのガキどもぐらい消し炭にしているかと思ったが、何を手間取っているのやら」



 ……何?

 今、なんと言った……?



「あの怪鳥は、お前が呼び寄せたのか……!?」


「おっと、口が滑ったか……その通りだ。おれの誘いを断っておいて、のうのうと生き延びられると勘違いしているクソガキに、少々灸を据えてやろうと思ってな」


「誘い? コイツ、まさかイツナが言ってた臭そうなデブハゲアブラギッシュゴミクズハゲ貴族?」


「……ほほう、そのような言い草でおれのことを語っていたか。やはりあのガキは死ぬべきだな」



 貴族からナンパされていたというイツナの証言を思い出したローアの言葉に、男が青筋を立てながら怒りをあらわにしている。

 ……ローア、そこまで言ってなかっただろ。あとなんでハゲを二回言った。

 いやハゲてることは毛頭も否定するつもりはないが。


「さて、あのメスガキが焼かれ死ぬまでせいぜいお前たちで楽しませてもらうとするか。二人とも実におれの好みだ、せいぜいいい声で啼いてくれよ」


「……触るな、反吐が出る」


「きっしょ……」



 縛られて動けない私とローアの体を舐め回すような目でまじまじと見つめ、どちらから手を出そうか悩みながら手を動かす様はイソギンチャクを思わせる。

 ロリコンめ。まだ成人していない女子供相手にしか粋がれないようなクズが。



「はぁっ!」


「ぐおっ!?」


「せいっ!」


「がぁあぁあっ!!?」


『ギュイィ……!?』 



 ローアを標的と定め、手を伸ばしたところに私が攻撃魔法スキルのストーンバレットを飛ばし、怯んだ隙にローアが急所に蹴りを入れた。……すごい音がしたな。

 私の左手とローアの片足の拘束が不完全だったことが災いしたな。雑な指示を出しやがって。

 激痛に蹲る主に動揺したのか、私とローアを縛る蔦が緩んだ。

 逃げるなら、今しかない!



「ローア! 今のうちに!」


「うん……!」



「こ、この、クソガキどもがぁっ!!」


「うっ……!?」



 男が吠えると、再びタコ魔獣が蔓を伸ばしてきた。

 思ったよりも立ち直るのが早い……! このままだと、また二人とも捕まる!



「くそっ!」


「っ!? セフレ!?」



 ローアに向かって伸びる蔓を、あえて私に絡みつかせた。

 あの蔓の射程はさほど長くないし、扱える本数も限られている。

 どちらかが犠牲になって、ほんの少しだけ距離を稼げば逃げ切れるとみて庇ったが、予測通りにローアだけは拘束されずに済んだ。



「逃げろ! 早く助けを呼びに行くんだ!」


「でも、セフレが……!」


「いいから行けっ! モタモタしてるとまた捕まるぞ! あとセフレって呼ぶなぁっ!!」



 切羽詰まりすぎて思わず余計なツッコミまで入れてしまったが、喝を入れた甲斐あってすぐに走ってくれた。

 ……よかった、これで少なくともローアは大丈夫のはずだ。



「逃がしたか……! 覚悟しておけ、後で地獄の果てまで追い詰めてやる! メスガキぃ、貴様にはこれから逃げたガキの分までじっくりと報いを受けてもらうぞ……!」


「……フフッ」


「き、貴様ぁあ……! 何を笑っている!!」



 激高しながら、男が私の頬を張った。

 この男は魔獣使いで膂力は高くないとはいえ成人前の体に与えられるダメージは大きく、張られた頬が焼けるように痛い。

 何発も頬を張られて唇は切れ、鼻血がボタボタと垂れて口の周りが血まみれになっていく。

 ははっ……なんとも酷い有様だ。あの子たちを、ユーブたちを利用してまで日本に帰りたいだなんて思ったバチが当たったんだろうな。

 これも自分への罰だと思えば、ひたすら殴られながら罵られることに奇妙な安心感すら覚えるよ。



「貴様なんぞ!! おれのオモチャに過ぎないんだよ!! 黙ってなすがままにされていればいいんだ!!」


「……あ……?」




『……お前なんか……に……過ぎない……』




 殴られすぎて朦朧としてきた意識の中で聞こえた男の言葉につられ、ふと、何か別の声が聞こえた気がした。

 懐かしさすら覚える、誰かの声が、聞こえた、ような―――





「だらっしゃぁぁあああ!!」


『ゴケキャァァアアアアッ!!?』


「くたばれやぁぁあああっ!!」



「なっ……!?」




 意識を失う寸前に聞こえた声は、酷く騒がしいものだった。

 ぼやける視界に辛うじて映ったのは、翼をもがれて芋虫のようになった怪鳥と、それを殴りつけるイツナとユーブの姿だった。








 ~~~~~








「あなた、お疲れ様。今回の依頼の魔獣は厄介だったわね。……どうしたの?」


「……悪い、討伐終わって早々だが、少し野暮用に行ってくる」


「何かあったの?」


「みたいだ。すぐに戻るから、先に帰っていてくれ」



 ※一番下、TS表現注意













「AIさん、こんな感じの男の娘描いて」

『よし、この特徴は女の子やな!』

「いや男の娘」

『そうか、女の子やな!』

「だから男だっつってんだろ! 勝手におっぱい大きくすんな!」

『すまんすまん、これでどうや?』

「いやだからコレ女じゃねーkちょっと待てめっちゃかわいいいい」



 そんな感じでAIさんから出力されたのがコレ↓

 ※あくまでイメージです。387話でTSしたネオラちゃん(♀)も多分こんな感じ。


挿絵(By みてみん)

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
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