【速報】銭湯にて痴女、およびスイカが投下される
本日5/25より、web漫画サイト『よもんが』様にて
『スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~』
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「ふうぅ……」
魔獣討伐訓練の帰りに汗まみれの体を洗い流すために銭湯へ向かい、湯舟に浸かり一息ついた。
訓練の疲れが溶けてなくなっていくような、温かさと多幸感。
できることなら毎日でも通いたいところだが、さすがに一回1000エンの出費では少々無理がある。
田舎町に似つかわしくないほど立派な施設で、目玉はなんといっても温泉があることだ。
屋内浴場はもちろん露天風呂や、つぼ湯に打たれ湯、果てはジャグジーまであるという充実っぷり。
さらに入浴後にコーヒー牛乳やフルーツ牛乳などのドリンクを売っていて、マッサージ用魔道具機も完備。
さすがに卓球台まではないようだが、それでも充分すぎるほど快適ぶりだ。
どう見ても日本の銭湯を参考にしたとしか思えない設備のオンパレードだが、日本人らしき人間は店内にはいないようだ。
念のため誰がこの銭湯を建てたのかを調べたこともあったが、経営者は日本にはなんの関わりもない普通の人間だった。
たまたま似たような設備を肉付けしていった結果日本式になったのか、日本の知識のある誰かがアドバイスでもしたのか。
それに、こんな大掛かりな施設を建てるための資金をどこから手に入れたのか……。
≪10年前くらいに温泉を掘り当ててから施設を造ったようだが、徐々に拡張したのではなく最初からこの規模になるように建設されたようだ。少なくとも数億近い資金が必要になるはずだが、親かその前の世代が残した遺産でもあったのかもしれないな≫
あるいはアドバイスをした人間に資金援助までしてもらったのか、だな。
そこまでするお人よしがいるとは考えにくいが、異世界モノの小説に出てくる主人公みたいに建設にあたって何から何まで援助して建設させて、経営だけ丸投げして悠々と温泉を楽しんでいる日本人がいる可能性も否定できない。
≪……少々考えすぎだと思うがね。相変わらず日本への手掛かりと思われる情報には目がないな≫
雲を掴むような目標なんだ。
蜘蛛の糸ほどのか細い可能性でも手繰り寄せて調べなければ、それこそ日本へ帰ることなど夢のまた夢だろうに。
≪それは、人生を賭してまで叶えたい願望なのかね? もしも最期まで叶わなかったのならば、膨大な時間を無駄に費やすことになるのは分かっているだろう?≫
覚悟の上だ。
……たとえどこかで心が折れて諦めてしまったとしても、片手間に日本に関する情報は集め続けるだろうさ。もうライフワークのようなものだ。
≪どうか無理のない範囲でな。それより今は疲れた体を存分に癒すべきだろう。湯治に訪れたのに、そんなしかめ面で思考を回し続けていたらほぐれる凝りも固まったままだぞ≫
問題ない、これでも充分にリラックスしている。
ああ、いい湯だ……ん、なんだか上半身に少し浮力を感じるような……?
≪……順調に成長しているようで何よりだ。そろそろ下着もサイズを新調するべきかもな≫
下着? いったい何を……ああ、そういうことか。
女の身としては嬉しいことなのかもしれないが、いよいよ前世とは違う体型に育ちつつあることを実感するな……。
≪? 前世ではどのような……あっ≫
聞きたいか? なんの浮力も感じられなかったが? 何か文句があるのか? ん?
≪すみませんでした≫
……? 何やら男湯のほうが騒がしいな。
せっかく穏やかな気分で湯舟を堪能しているのに、水を差すような真似は控えてほしいものだ。
男湯だけでなく、こちらのほうも人が増えてきたな。
本当はもっとゆっくり浸かっていたいが、人混みは苦手だ。
もう少ししたら上がるとしよう―――
ドボンッ と何か大きなものが湯舟に落ちたような音が、後ろから聞こえてきた。
おいおい、温泉が楽しみだからって少し勢いよすぎると思うんだが………っっ!?
「……大迫力だったわね」
「あ、あう……ごめんなさい……」
「すげー、入ったときの波があんなに遠くまで……」
なんだあれは。
でかい、でかすぎる。
親し気な様子で三人の女性が湯舟に入ってきたが、そのうち銀髪の一人が群を抜いてでかい。
いや身長はむしろ低いのだが、圧倒的な存在感を放つものを二つ抱えて、いや浮かべていらっしゃる。
……ユーブたちの母親も大玉のメロンでも仕込んでいるのではないかと思うほどだったが、これはメロンどころではない。スイカだ、大玉のスイカだ。
「ほら、周りの人もこっちのほう見てるし」
「ご、ごめんなさいぃ……」
「いや、謝んなくてもいいと思うけどさ……」
いかん、思わずまじまじと眺めてしまった。
隣の赤髪と金髪の女性が苦笑いしながらフォローしているが、この二人も妙に存在感があるな。
おっと、あまりジロジロ見て不快感を与えては迷惑だろう。もう早く上がってしまうとするか。
湯船から上がり、体を拭いて髪を乾かしてから休憩スペースへ行くと、ユーブの姿が見えた。
……椅子に腰かけながら顔を手で覆っている。
落ち込んでいるように見えるが、何かあったのだろうか?
「上がったぞ。……何かあったのか」
「お、おう、セレネか。いや、その、なんでも、ない……」
「どう見ても何かあったようにしか見えないぞ。どうしたんだ?」
「……さっき、風呂に浸かってるところに女が二人入ってきた」
「……は?」
「金髪の美人姉妹だと思った。すげーかわいくて、見た瞬間に何が起きたのか分かんなくて、思わず硬直しちまった」
「痴女か? このあたりにもそんなのがいたのか……というかお前、普通に見ていたんだな。助平が」
「不可抗力だっての! ……ちなみに周りもすげぇ焦りながら女湯へ行くように促してたけど、みんなバッチリ見てた」
「お前も同類だろうが」
「……うん、もういいよ。それで、その二人、美少女かと思ったけど、違った」
「え?」
「男湯で合ってた。俺の目って節穴だったみたいだ。それで今さっき見たものを必死に忘れようとしてるところだから、ちょっとしばらくそっとしといてくれ……」
「そ、そうか……いや、どういうことだ……?」
よく見ると、ユーブの周りにも頭を抱えながら落ち込んでいるような男性の姿がちらほら見える。
いや、一部のぼせたように顔を赤くしながらぼーっとしているのもいるが。
……本当に何があったんだ……?
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「……もう銭湯行くのやだ」
「……ごめんな」
「お父さんが謝ることないけど、やっぱりつらいよぅ……」
「ごめん、ホントにごめん」
「いや、こればっかりは仕方ないわよ。容姿はどうしようもないし」
「……並んでいると、親子ではなく姉妹にしか見えませんからね」
「姉妹って……せめて兄弟って言ってよぅ……」
「無理があるでしょ。というか、年を取ったら男らしくかっこよくなるはずだとか言いながら10年以上経つけど、あなた全然歳をとってるように見えないし、むしろますます可愛くなってない……?」
「なんでや、なんでオレはこんな顔のままなんや……」
「そんなんだから娘たちにも『ママ』なんて言われるのよ」
「パパって呼んでほしいのになぁ……オレ、整形でもしたほうがいいのかな……」
「ダメです」
「自然に変わっていくならともかく、さすがに整形はちょっと」
「したら離婚するわよ」
「詰んでるじゃねーか! どうしろってんだよ!」
「……僕も、大人になってもこんな感じのままなのかな……」




