新たな力
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あの三角帽子の幽霊みたいなの、攻撃魔法のレベルが高いのも注意しないとだが、補助魔法と精霊魔法ってのはなんだ?
≪補助魔法は主に一時的なステータスアップや耐性付与の魔法等が主で、精霊魔法は各属性を司る精霊を召喚し一時的に使役・共闘の要請、あるいは周囲の精霊の力を借りて様々な現象を引き起こすことができるスキル≫
すみません、まずその精霊っていうのはなんですか? 大自然に宿る神秘の存在的な?
≪精霊は魔獣とも人類とも違う分類で、物質非物質の中間に位置する存在。属性ごとに対応した力を行使することが可能で、力の強い者の中には高位の存在として人類に崇められている者もいる≫
説明聞いても、分かったような分からんような…。まあ今はいいか。
で、その精霊を操る魔法をこいつは使えるわけね。
スピリットって名前からして、こいつも精霊に似た存在なのかね?
≪精霊魔法を使う以外は特に精霊との接点は皆無≫
あ、そう。まぁ見た目からして精霊っていうかゴーストって感じのイメージだしな。脳内のゴーストは関係ない。
さて、やっぱさっきみたいに奇襲を仕掛けて倒すのが安全だろうが、初めて戦うタイプの魔獣だし一体だけなら訓練も兼ねてまともに戦ってみるのもいいかもしれない。
「あいつ、魔法が得意なタイプみたいだ。攻撃魔法スキルはLv6、あと精霊魔法と補助魔法がLv2だ」
「攻撃魔法スキル、私より上なんだ…」
…あれ? なんか対抗心燃やしてる?
「えーと、ホントなら奇襲しかけるのが一番手っ取り早くて安全なんだが、ああいう魔法特化の相手と戦うの初めてだし、ちょっと正面から戦ってみないか? 訓練にもなるし」
「うん。やってみる。どっちの魔法が強いか比べてみたいし」
アルマってもしかしてホントは負けず嫌いなのかね。
見習いパラディンだった頃は周りへの劣等感ばかり感じてて、誰かと競おうとしても負けるのが目に見えているから自分を抑えていたんだろうけど、今は自信がついてきたみたいだし対抗心や向上心が表に出てきてるのは良い傾向かもな。
俺もスキルがないとかステータスがゴミだとか言ってたころに比べたらちょっとはマシに…いやむしろ調子に乗り過ぎて無茶ばかりしてるか。何事も程々にしないと。
「じゃあまず俺が接近してみて、問題なさそうならアルマに魔法で攻撃してもらう。ヤバそうなら即ポータルに向かって撤退だ」
「分かった。無理しないでね」
「もちろん」
じゃあ早速接近。
ゆっくりと、あえて向こうが感知できるように歩いて近付いていく。
はいはい、御機嫌いかが?
『!』
お、気付いたな。
警戒して、臨戦態勢に入ったのが分かる。杖を構えて、今にも魔法をぶっ放してきそうだ。
それでも近付いていくと、敵意と殺意を漲らせて、魔法を発動させた。
≪補助魔法スキルLv2:【スピードアップ】対象の素早さを一時的に向上させる魔法≫
まずは自分にバフをかけるか。ちょっとでも有利な状態にしてから戦おうとする辺り、結構戦いなれてるみたいだな。
で、距離をとりつつ複雑な軌道で飛んで自分の行動を予測させないようにしているようだ。
こいつの飛行能力って、スキルとは別のもんなのかね? 俺みたいに魔力操作で飛んでるとか。
≪身体そのものに飛行するための器官が存在。そのためスキルとも魔力操作とも別種の飛行方法と分類されている≫
飛行のための器官ねぇ。まあある意味ブレイドウィングとかの鳥型魔獣と似たようなもんかな。あいつらも飛行なんてスキル持ってなかったし。
≪【飛行】というスキルは存在しない。極体術スキルに【天駆】という空を歩行するための技能は存在するが、魔力操作による飛行ほど自由な軌道では移動できない≫
そんなスキルがあるのか。
ある程度レベルが上がれば、天駆ってヤツを使ってるふりをして大っぴらに魔力飛行もできるようになるのかねぇ。
っていかん、そんなこと考えてる間にあいつ攻撃魔法使おうとしてるやん。
火球が、こちらに向かって放たれた。
こんだけ距離が離れてれば避けるのは容易いけどな。ひょいっと。
!? え、ホーミングしてきただと!?
やべ、避けられん。魔力を纏わせた腕で防御!
ベシッ ボンッ!
『!?』
「…あれ?」
…ベシッ? なんだ今の感触。
魔力を固める余裕が無くて、柔らかい緩衝材みたいな状態のままで腕に纏わせて咄嗟に防いだけど、腕に当たっても爆発せずに弾いただけだった。
弾かれた後、着弾した壁を見ると砕けて焦げ付いている。あれが当たったらHPごっそり持ってかれてただろうな。
それを見た三角帽子は困惑したような様子でこちらを眺めている。俺も何が何やら。
ひょっとして、柔らかい魔力で接触するようにして、一定以上の衝撃を与えなければ攻撃魔法を炸裂させずに済むのか?
ちょっともう一回プリーズ。お、また撃ってきた。
さっきと同じように柔らかい魔力を緩衝材代わりにして腕に纏わせ、火球を弾いてみる。
ペシッ ボムッ!
もっかい。
バシッ ドムッ!
もう一回!
パシッ ドンッ!
うむうむ。やっぱり魔力の緩衝材なら着弾しても大丈夫みたいだな。
咄嗟にした行動から、魔法に対する思わぬ防御手段を習得できた。
って、炎の弾じゃ効果が薄いと判断したのか、今度は炎の槍みたいなの飛ばしてきた。さすがにアレは弾くのは無理っぽい。
いや、より分厚く柔らかい魔力を展開すれば受け止められるか?
ドゥッ! ブニョンッ
思った通り、炎の槍を炸裂させずに受け止めることができた。
ブニョンって、なんだか妙な感触だな。スライムみたいな。
受け止めたはいいけど、この炎の槍どうしよう。もう返却しようか、ぽーい。
ブンッ ズドォンッ!
『?!?!』
ちっ、避けたか。
自分の放った魔法が次々と弾かれたうえに、挙句に投げ返されて混乱していたようだが、辛うじて回避しおった。
後ろの方で「ええぇ…」とかアルマの困惑したような声が聞こえたけど、あの三角帽子も同じような心境だろうな。
『……っ!』
お、今度はなんだ。
三角帽子から地面に向かって魔法が放たれ、その直後地面が波打った。
そして所々高低差ができたり砂状になったりして足場が不安定な状態に。これ、もしかして精霊魔法ってやつか?
≪精霊魔法Lv2【リトルノーム】地属性の精霊を召喚・使役する魔法で、小規模な地形操作が可能≫
小規模って言っても、この部屋全体の地面くらいの範囲は影響あるみたいだな。
これが上位の精霊魔法ならどれだけの威力になるのやら。
てか、さっきから地面の下でウロチョロ移動してる魔力反応が精霊ってやつか?
あの三角帽子から放たれた魔法の魔力を使って地形操作をしているみたいだな。
ちょっと砂になってるとこから手ぇ突っ込んで捕まえたりできないか試してみる。
ズボッ スカッ
あらら、すり抜けちまった。やっぱり無理か?
ん?
〈なんか、てをつっこんできた〉
〈つかまえようとしたのかな? むりむり、ぼくたちまりょくのかたまりみたいなものだし〉
〈ぶっしつは、ぼくらのおりにはならないよ。ばかじゃねーの〉
〈ばーか、ぶわぁーか。やっぱにんげんってばかだなー〉
…ほほう。意志があるのか。
地面の下からこちらの行動を小馬鹿にしたような声が聞こえてきた。
そして、ヒントをありがとう。物質じゃなくて魔力なら、君たちに干渉できるんだね?
手に魔力装甲を纏わせ、再び地面の下の精霊を捕まえてみる。
ズボッ ガシィッ!
フィッシュ!
一体だけだが、精霊を捕まえることに成功した。
んー?姿は見えないけど、確かに魔力の反応が手の中にあるな。これが精霊か。
ノームっていうから、てっきりヒゲの生えた三角帽子の小さいオッサンみたいな感じかと思ったが、輪郭がよく分からんな。
〈おわわわわ!? なに!? なんなの!?〉
〈つかまったー!? なにしてんの!? いやこのにんげんなにしてんの!?〉
〈なにやってんだ! はやくすりぬけてにげろよ!〉
〈むり! こいつのて、まりょくでおおわれてるんだけど! なんだこいつ!?〉
大混乱だな。馬鹿にしていた相手に捕まる気分はどうかね?
〈はーなーせー!なにするきだー!〉
「ああ、ちょっとした実験?のようななにかだと思う」
〈ぎもんけい!? なにこいつこわい!〉
「あーせっかくだし、歩き辛いから地面戻してくれないか?」
〈せっかくだしってなんだよ! やだよまりょくもらってないし!〉
その回答を聞いた後、地面に落ちてた石を拾い上げて、同じく魔力装甲で覆った手で握りつぶしてみせた。
「お願い、聞いてくれるかな?」
〈〈〈〈さー、いえっさー!〉〉〉〉
説得が上手くいって、みるみる地面が元通りに戻っていく。
いやー、分かってくれたようでなにより。
≪今の行動は、一般的には説得ではなく脅しであると認識されている≫
あ、メニューさんからツッコミ入った。
最近ちょっとずつメニューさんに事務的な受け答え以外の意思表示が出始めてる気がする。
『……???』
あらら、精霊たちに寝返られてあの三角帽子呆然としてる。
他に特に見どころもなさそうだし、後はアルマと一緒に倒せばいいかな。
「アルマ、大丈夫そうだし出てきてもいいぞー」
「う、うん……もうなにがなんだか……もういいや……」
混乱を通り越してもう諦めの境地に入ってる状態でアルマがおずおずと近付いてきた。
『ッ!!!』
さすがに2対1は分が悪いと判断したらしく、別の部屋に向かってすごいスピードで飛んで逃げていく。
「あ、逃げようとしてる!」
「…逃がさないっ!」
そう言いながらアルマが強化ストーンバレットを三角帽子に向かって撃った。
必死に身を捩らせ、辛うじて避けたが、ストーンバレットの軌道が急に三角帽子の方にターンして追跡していった。
え、なに今の動き!? まさかさっきのホーミング火球を見て思いついたのか? 習得早すぎだろ!
ドシュッと頭部を貫かれて、撃墜。
装備していた杖を残して、霧のように霧散していき、消えた。
「す、すごいな。まさか放たれた弾丸の軌道を変化させるなんて」
「結構前から、軌道を変える訓練はしてた。実戦で使ったのは今のが初めてだけど」
初めてであれかい。この子すごすぎへん? もう俺いらなくない?
〈なにこいつらこわい。もうかえして、おうちにかえして…〉
なんだかぐったりしたような声が右手から聞こえてきた。そういや捕まえたままだったな、忘れてた。
そういえば、精霊魔法ってさっきの三角帽子の魔法を見る限り自分の魔力を精霊に与えて、その見返りに手助けしてもらってたように見えたけど、俺にも同じことできないかな?
≪その場に精霊が居れば恐らく可能。しかし精霊の召喚はスキルが無ければ不可能。スキルの習得には精霊との契約が条件となっている≫
んー、俺はスキル習得できないしなー。
契約って、どうすんの?
≪対象となる者と精霊が互いに契約に承諾すれば条件を満たし、スキルの獲得が可能。但し、その属性に対応した攻撃魔法が使える者でなければ契約は不可能≫
ほうほう、なるほど。
つまり、例えばここでアルマと契約することをこの手の中の精霊に提案して、それを承諾すればスキルを獲得できるのか?
≪肯定≫
「…なあ精霊君、ちょっと契約をお願いしたいんだけど、いいかな?」
〈ぜったいやだ! あんためっちゃこわいもん! もうかえして! おねがい!〉
「いや、俺じゃなくてそっちの女の子、アルマとだよ」
「え?」
いきなり話をふられて、少し驚いたような顔をするアルマ。
〈え? いや、まあ、あんたにくらべたらまだましだけどさぁ…〉
「ちなみにしてくれるまで帰す気は無い」
〈おどしじゃねーか! せんたくし、ないじゃん! わかったよもうちくしょー!!〉
ヤケクソ気味にだが承諾してくれた。なんて親切な精霊さんなんだ。
≪…≫
おや、メニューさんまたメンテかな? まあいいか。
「アルマ、見えないかもしれないけど、俺の手の中に精霊がいる。この精霊と契約すれば精霊魔法のスキルを獲得できるらしいんだが、どうかな?」
「え、ええ…!?……う、うん、是非お願いしたいけど…」
「じゃあ契約成立だな」
そう言うと、精霊とアルマを淡い光が覆った。
スキルを確認してみると、精霊魔法Lv1が追加されている。無事に契約できたみたいだな。
〈おい、ねえちゃん。けいやくしたからにはちからをかしてやる。でもこいつみたいにむちゃなことさせるのはやめてくれ。いやまじで〉
「う、うん…」
引き攣った顔で言葉を交わすアルマ。…まあ確かに馬鹿にされたとはいえちょっと意地悪すぎたかな。
今日はひとまずこの辺で帰るか。アイテムも経験値もスキルも充分獲得できた。
この調子でレベルアップしていけば、魔王の配下にも後れをとらないようになれるだろうか。
お読み頂きありがとうございます。




