何も解決していないのである
「うおぉお!?」
腕が二つ、宙を舞った。
一つは俺の右腕。
不思議なことに、腕が斬り飛ばされたっていうのにまるで痛みを感じなかった。
「ぐあぁっ!! っがぁぁああぁぁぁ………!!」
「吉良さん!?」
もう片方の腕は、俺の腕を斬り飛ばしたはずの吉良さんの右腕だった。
俺がまったく痛みを感じていないのに対し、吉良さんのほうは激痛からか顔を大きく歪めてうなり声を上げている。
な、何が起きたんだ!?
何をトチ狂ったのか、いきなり吉良さんが俺の腕を斬りつけてきやがった。
かと思ったら、なんか吉良さんの腕まで斬り飛ばされてるんだけど……!?
俺は何もしていない。
俺が見た限りじゃ、俺の腕が切断されるのと同時に吉良さんの腕がひとりでに斬れたように見えたんだが。
「ぐううぅぅ……!! ぱ、『パーフェクト・ケア』……!」
「っ! ……え?」
激痛に苦しみながらもなお、俺に向かって何らかの魔法のようなものを放ってきたが、俺に着弾した瞬間に右腕が再生した。
あらゆる回復魔法を受け付けないはずの俺の体を、吉良さんはあっさりと元通りに治してみせた。
そして、俺の腕を治したところで同じように吉良さんの腕も何事もなかったかのように治った
……えーと、なんだこれ。マジで何が起きた。
「梶川君、すまんかった!!」
「え、ちょ、え?」
何がなんやら分からんところに、さらに吉良さんが地面に頭をめり込ませるほどの勢いで土下座をして謝ってきた。
「いや、ホントにいきなり『体の一部をひと切れよこせ』とか言いながら腕を斬り飛ばしたりしてワケ分からんだろうけど、どうか許してほしい」
「……うん、正直言って過去一番にワケが分からないぞ吉良さん。つーか、なんで吉良さんの腕まで斬れたんだ?」
「さっき使った技は『絶対に命中する代わりに自分も相手と同じダメージを負う斬撃』でな。相手の右腕を斬ればオレの右腕も斬れるし、相手を殺しちまったらオレも死ぬ技なんだよ。そんくらいの技じゃなきゃ梶川君に傷一つ負わせられないだろ」
「なんだその自爆技……」
「それに加えてダメージを与える際に『相手に痛みを感じさせないようにするスキル』と、この『絶対切断剣』のおかげで頑丈な梶川君の腕を斬れたってわけだ」
「その黒い剣のことか? 名前ダサいなおい。それで、俺の腕なんかを欲しがった理由は?」
「……それは……」
そう問いかけると、土下座して突っ伏していた顔を上げて立ち上がり、ゆっくりと立ち上がった。
「……これが、必要なんだ。梶川君の力が宿ってるこの腕があれば、あるいは……」
斬り飛ばされた後に地面に転がっていた俺の腕のほうへと足を運び、それを拾い上げてバッグに詰め込みつつなにか意味深長な呟きを漏らしている。
つーか当たり前のようにヒトの腕を拾ってパクんなや吉良さん。グロし。
「こっちの状況を話すと死ぬほど長くなるから、また今度時間のある時にゆっくり言い訳させてもらう。悪いがそろそろ戻って色々やらないといけないことがあるんでな、それじゃ」
「待てや。まだなんの説明もしとらんだろうが。逃がすと思うか」
「あっ、泉谷●げる」
「え? ……あ、消えやがった!」
さっさと話を切り上げて逃げる気満々の吉良さんを逃がすまいと臨戦態勢に入ろうとしたときに、ものっすごく古いくだらん手で視線を逸らされた隙に転移で逃げられた。
くそ、一瞬でも隙があればほぼノータイムで転移できるのかよ。てか騙すための人選が意味分からん!
……メニューさん。結局のところ吉良さんは何がしたかったんだろうか。
≪不明。発言から異世界にて入手した金貨等の貨幣を日本にて換金し、それらを物資購入の資金として使用していたと推測≫
物資ってなんなんだろうな。 食料とか生活必需品とか?
吉良さんがラーメン屋の出店してたあの終末世界あたりで何かあったんだろうか。
いや、それはまだいい。そこまでならまだ資金調達のためにはた迷惑な転売行為をしてたってだけで済む。
俺の腕をわざわざ切り落として持っていったのは何の意味があるんだ?
≪不明。しかし、現在の梶川光流の肉体にはステータス及びプロフィールによる膨大なエネルギーが秘められており、その利用価値は計り知れない≫
……利用価値? 俺の腕の?
≪例を挙げれば、仮に小指一本分のエネルギーを単に解放するだけでも、小さな都市を壊滅させるほどの破壊力を発生させることが可能≫
こっわ!? なに? 俺の体は核燃料かなんかなの?
……もしも吉良さんが俺の腕を爆弾として悪用したら、どれだけの被害が出ることやら。さすがにんなバカなことはしないとは思いたいが……。
やっぱ逃がしたのまずかったかなー。つーか、吉良さんも前にあったときより随分と強くなってたみたいだけど、自分の体を使ってどうこうすることはできなかったのかねぇ。
まあいい、あの様子じゃこれ以上転売行為をする気はなさそうだし、また会った時にでも吐かせるとしよう。
それより今はミラームを攫った誘拐犯をブタ箱に放り込むとしよう。はい、撤収ー。
≪……吉良一也のパラレシアからの離脱を確認。これにより、現在パラレシアにてメニュー機能を使用している人間は3名となった≫




