いたずらにちょっかいをかけるな。そしてイタズラをするな。
書籍版、好評発売中です! いや好評かどうかはまだレビューがないから分からんけど!
ちなみに1巻の売り上げ次第で2巻が出るかが決まります。
実際、好評で2巻が発売されることが決まったら、アレだ、……ネオラ君のキャラグラを思いっきり可愛く描いてもらうようにイラストレーター様に依頼してもらおうと思います。
販促下手くそか。下手くそだったわ。
ご興味が御有りでしたら、是非どうぞー。
【速報】第1大陸王都、お偉いさん方によるコソコソ会議二次会にて、グラマス、キレる。
ぶっ叩かれて粉々に砕けた席の後ろに座ったまま、第一王女を睨みながら口を開いた。
「ほら、真面目に話してやるからもう一回さっきのジョークを言ってみろ。それともなにか、まさか本気であんな馬鹿な提案をしたわけじゃないだろうな?」
ロリマスやアイナさんを思わせるいつもの飄々とした口調はどこへやら、ヤクザ顔負けの迫力で威圧的な言葉を投げかけている。
……こっわ。アルマの御両親といい勝負、いやこっちのほうが怖いかもしれない。
「……ええ。話を聞く限りではあのカジカワヒカルという人物は、なんの対応策もなく放置しておくには目に余る」
キレたグラマスに対し、第一王女の顔が一瞬引きつったようにも見えたが、冷静な口調で真正面からグラマスに向き合っている。
この姫もスゲー胆力だな。アホな提案しようとしていなかったら普通に感心するところだわ。
「その対応策が、彼の親しい人を人質にとっての脅しだと? 気は確かか?」
「倫理に反することを言っているのは百も承知です。法を守り、また守らせる側である王族の言うことではないことも、分かっています」
「へぇ、それで?」
「しかし、彼の者は我々の定めた法で縛れる範疇の中にない。外法の術を用いなければ、彼の者からは国と民を守れないのです」
んー、手段はともかくとして、言ってること全部が間違ってるとは言わん。
ぶっちゃけ俺がその気になれば、五日で世界を滅ぼすことだってできる。大陸一つに一日計算。
海上で適当に大暴れするだけで津波を引き起こすこともできるし、都市部でほんの数分ほど飛び回りまくるだけで街を瓦礫の山と化すことだってできるし。
やんないけど。
「はぁ~~~~……」
毅然とした態度をとっているように見せている第一王女の言葉に、グラマスが深ぁく溜息を吐いた。
うーわ。もう『呆れてものも言えません』って顔に書いてあるような表情しとるわ。
「シオン、君が彼の危険性についてある程度理解しているつもりなのは分かった。君の言う通り、彼は人類の定めたルールを無視しなけりゃまともに対策なんかとれやしないってことも間違いじゃない」
「ご理解いただき、恐縮です」
「でもね、そもそも前提がなにもかも間違っているんだよ」
「なに……?」
グラマスが足を組んで背もたれに身体を預け、姿勢を崩した。
かなり行儀が悪い座り方だが、それを咎めるものは誰もいない。
つーか、さっきからグラマスと第一王女しか喋ってねぇ。
ネオラ君なんかコッソリ席の下でスマホ弄ってるし。ゲームしてんじゃねーよ。
「まず第一に、彼は自分自身に危害を加えようとする程度ならさほど怒らないし、せいぜい軽い報復程度で済ませることがほとんどだ。ちょっとやそっとのことじゃ、敵対なんかすることなんかにはならないよ」
「しかし、アフオ大臣が彼を侮辱した際に重傷を負わされているではありませんか。怒りの沸点が低いことの証左では?」
「第二に、彼が怒る条件だけど至極単純。彼は自分よりも、自分と親しい人へ危害を加えようとする相手を決して許さない。聞けばアホ、じゃなくてアフオ大臣をぶん殴ったのも、彼の妻を侮辱されたかららしいよ?」
「その程度のことで暴力に訴えるのですか、カジカワヒカルという者は」
「そうだよ? というより、私がなにを言いたいのかまだ分からないのか?」
「……?」
察しの悪い姫に呆れるのを通り越して、もう笑うしかないと言いたげに笑みを浮かべながら、グラマスが言葉を続けた。
「君の提案はね、『彼と敵対するっていうほぼありえない事態のために、彼と敵対するリスクのある対策をとる』っていうものすごーくバカげたことを言っているんだよ」
「っ……私は国と民を守るために、必要なことであると―――」
「第三に、その国と民が復興作業をしながら営みを続けられているのは、彼の功績あってのことだって分かってる?」
「魔王を討伐するのに大きな助力があったことは認めます。しかし、それとこれとは話が別です」
「分かってねぇよ。彼は人類のため、というか周りの人たちを守るために、何度も命がけの戦いに臨んできた人間、……人間? なんだ。その危険性よりも、まずは彼の功績に目をやるべきじゃないの?」
いやー、それほどでもー。
……ちょっと待てなんで疑問形で人間? って言ったのこの人。
「強大な力を持っていることそのものが危険だって言うなら、この勇者ちゃんも相当危険だってことになるよね? なんでそっちは放っておくのさ。この子もその気になればこの王都くらいなら一日で壊滅できるくらい強いよ?」
「それは……」
「そんなことしねぇし、梶川さんなら一分くらいで更地にできるだろうけどな」
ネオラ君、話がこじれるから余計なこと言うのやめろ。
俺だってやらねぇよそんなこと。できるけど。
「ああ、それと、万が一梶川さんがこの国と敵対することになったらオレもアンタ方への支援を打ち切りますんで」
「な、そ、それは困ります! まだ資材の運搬ルートが組み上がっていないところも多々あるので、ファストトラベルによる助力がなければ……!」
「落ち着いて。アンタ方が梶川さんに余計なちょっかい出さなきゃ、オレも無責任に逃げ出すようなマネしないって言ってるんです」
ネオラ君の言葉に対して、復興担当っぽい姫様が悲鳴を上げるように反応した。
ナイスアシスト、ネオラ君。あとでメシを奢って差し上げよう。
「ま、要するにカジカワ君に関しては過剰に反応しないことが一番の安全策だってことだよ。分かってくれたかな?」
「っ……」
「つーかさぁ、国王サマ。アンタ、自分の娘の教育くらいもっときっちりやっときなさいよ。国の各分野のトップに早い段階から姫サマたちを置いて経験を積ませるのはいいとして、その結果が国の腐敗じゃ笑えないでしょ」
「な、ぐ、グランドマスター! 国王様に対し、なんという暴言を!」
「いくらあなたと言えども、許されることではありませんぞ!」
国王の近衛兵と思しき兵士たちが、グラマスの言葉に怒りをあらわにしている。
自分たちの仕える王を軽視されたような態度をとられたから、怒って当然だろう。
「黙れや」
「ひっ……!?」
それを、ひと睨みで黙らせた。
口から漏れた低い声からは、近衛兵たちのそれとは比べ物にならないほどの怒気が含まれているのが分かる。
「国を守るために~とかなんとか言ってるけど、こちとら人類守るために働いてんだ。ホントならこんなクソ会議一分一秒でも早く切り上げてさっさと業務に戻らなきゃならんのに、無駄なことに時間使わせやがって」
グラマスが立ち上がって、国王様と第一王女を睨みながら口を開く。
「国の運営が上手くいかないことへの支援なら充分やった。スタンピード発生を止められなかったなんて汚れ役を買ってでも国の膿を絞り出してやったし、別にそれに対しては今更どうこう言うつもりはない。でもな」
パァンッ! となにかが弾かれる音とともに第一王女の顔、のすぐ横に、なにかが突き刺さった。
「うっ……!?」
グラマスが粉々になった席の破片を、第一王女に向かって蹴り飛ばしたんだ。
「下手にアレを刺激するような真似はやめろ。アレの妻は今妊娠してる。万が一、万万が一にお前らが余計なことをした結果、流産したなんてことになってみろ。怒りのあまりなにをするのか、まるで予測がつかないんだぞ!」
これまでの静かな怒りではなく、明確に激昂した様子で怒鳴っている。怖ひ。
アルマが妊娠してることも既に知ってるのか。情報網すごいな。
「なあ、お前は自分のバカな提案のせいでカジカワっていう特大の爆弾を爆発させるところだったっていうことが分かってるのか!! なあ! なあ!!」
「あ……ぁっ……!!」
ぐ、グラマス落ち着け! 殿中でござる! ここ一応王城の一部だから! 殿中でござる!
いや、俺、梶川だけども。まさかこのネタ使う機会があるとは思わなかったわ。
とかなんとか言ってる場合じゃない。グラマスがキレて第一王女様、涙目で死にそうになってるんですけど。
「も、申しわけ、あり、ませ……っ」
「……はぁ。分かったら、今後はこういう場じゃよく考えてからモノを言え。自分の功績を作りたいからって、短絡的にバカなこと言う前に優先するべきことはなにかを考えろ」
ひとしきり怒鳴って落ち着いたのか、静かに諭しながらグラマスが席に座った。
怒りも静まったのか、顔の険も和らいで元の優し気な表情に戻っていく。
「あと、言っとくけどカジカワ君の怖さは単純な強さだけじゃないよ。コネだったり、妙な道具だったり、ネオラちゃんの扱うメニュー機能だったり。色々な要素が彼の脅威度の高さを引き上げてるんだ。案外、この会議の内容も、どこかで聞いているかもよ?」
「いや、さすがにそりゃ……ないとは言い切れねぇな。もしかしたらこの会場のどこかにいたりしてな」
「い、いえ、それはありえません。死角のない監視体制であらゆる侵入者もこの会場には入れませんし、仮に転移魔法などで転移してきたとしても、すぐに発見されるはずです」
ふむ、天狗の隠れ蓑を被っていたのは正解だったみたいだな。
んー、これ以上は俺に関する話題も上がらないっぽいし、もう帰ってもいいかな。
なんかあったとしても、ネオラ君に聞けばいいし。
じゃあ、帰るか。
「いえ、居ますよー」
「「「っっ!!?」」」
第一王女への牽制(とイタズラ)も兼ねて、一言だけ残してファストトラベルで帰宅した。
最後にクッソ驚いた顔で全員が席を立ったのはちょっと、いやかなり面白かったな。ワロス。
ちなみに、梶川光流の『梶川』の部分の元ネタというか由来は殿中でござるの人だったり。
ネオラ君の『大石』や吉良さんも忠臣蔵由来。とくに深い意味はないけど。
『光流』や『忍』部分の元ネタは全く関係ない作品ですが、分かる人いるかな……?




