緊急会議 判決に懐疑
9/5から、BKブックス様より拙作が書籍化販売されます!
ここまでこれたのも、ひとえにここまでお読みくださった方々の御助力あってのことであるとひしひしと感じております!
皆様に心よりの感謝を。ありがとうございます!
Amazon様をはじめ、様々な書店にてご購入できますので、ご興味が御有りでしたら是非。
あと、店舗ごとに特典のSSが付く模様。全部で5話分。目指せコンプ。いややっぱ目指さなくていい。お金かかるし。
え、とっくに書籍化するって知ってた? アイエエエ!? ナンデ!?
獄中生活5日目の朝。
今日も朝から元気に威圧しながら朝食のベーコンエッグを作っていると、看守さんから声をかけられた。
「囚人番号・特2番、出ろ。王国の大会議に貴様も出席するように指示が……なにをしている……?」
「朝食を作っているところですがなにか」
「見れば分かるわ! その調理器具と食材はどこから持ってきた!?」
「ポケットの中から出しました」
「囚人服にポケットなぞないわ! というかあったとしても入るわけないだろうが!」
これらはアイテム画面から取り出した物を使って調理しているんだが、説明するのが面倒なので適当に誤魔化すいつものやつ。
看守さんともすっかり顔が知れた仲になり、こうして芸人顔負けのツッコミを入れてくれるようになった。
まあ今日でお別れなんですけどね。別に名残惜しくもないし。
「お、焼けた。食べるまでちょっと待ってもらってもいいですか?」
「さっさと出ろ!!」
むぅ、仕方ない。食パンに乗せて歩きながら食うか。いわゆるラ〇ュタスタイル。
手錠で繋がれてるから魔力操作で持ち上げながら食べよう。もっしゃもっしゃ。
「では、お元気で」
「ええ、そちらもお達者で」
対面側の牢にいる元宰相ことギルザレアンさんと、軽く会釈しながら別れの挨拶を告げつつ牢から出ていく。
はたから見ていれば、この数日間だけでも話し相手として仲良くなった相手と、ごく普通に別れただけのように見えるだろう。
この人には既に唾を付けておいた。
会議が終わって、教え子たちの修業が一段落ついたらまた会うとしよう。
「会議というと、例の大臣を殴った件でしょうか?」
「それもあるかもしれんが、かなり大規模な会議のようでな。詳しいことは分からんが、国の重鎮たちがほぼ全員出席するらしい。国王様も、病み上がりながら席に着かれるそうだ」
「国王様まで? もっとごゆっくり静養なされてほしいものですが」
「まったくだな。……頼むからその威圧感を国王様に向けるのは止めてくれよ。また体調を崩されかねん」
「もちろんそんなことしませんよ。 」
「なにか言ったか?」
「イエイエナニモー」
さーて、こうして呼び出されたってことは、あのアホ大臣をはじめとした国の膿を綺麗に排除する準備は整ったのかね。
もしもなにも証拠を掴めませんでしたなんてこと言ったら、指名手配覚悟で脱走してやるぞグラマス。
なんて考えていたのを、会議が終わってから深く反省することになるのを、この時の俺は知らない。
案内された先は、円卓のような法廷のような、テレビで見る国会中継の会場のレイアウトに似た会場だった。
既に会場には国王様と思しきナイスミドルだけど少しやつれた男性と姫様方をはじめとした国の重鎮たち、対面側の席には偉そうなオッサンやオバハン、そしてグラマスが席に着いている。
つーか、いきなり呼ばれてきたはいいけどこの会議の議題はなんだ? 主催者は? とか思いながらグラマスへ視線を向けると笑顔でウィンクしてきおった。
……どうやら準備は万端みたいだな。お疲れ様っすー。
案内された先の席には見慣れた顔が何人か座っていて、その中からネオラ君が声をかけてきた。
「おっす、梶川さん。質素なくさいメシはもう食い飽きたのか?」
「トイレは仕切ってあったから別にくさくなかったけどな。自分で調理したもん食ってたから別に質素でもないし」
「普通に獄中で料理してたのかよ、自由すぎるやろ……」
いやいや、不自由で退屈極まりない生活だったぞ。
なんせ寝具は薄い布みたいな毛布一枚だったし(持参した布団で寝てたけど)、沙汰が決まるまで外出禁止だし(ファストトラベルで頻繁に脱獄してたけど)。
とか適当に駄弁っていると、壇上に国王様が立ち、その威容を会場全体に惜しみなく晒した。
「お、そろそろ始まるっぽいな」
「国王様、まだ病み上がりなんだから座ったままでもいいだろうに」
「そこはルールなんだから仕方ないと思ってるんじゃね? まあ会議に出席できるくらいには回復してるっぽいし、黙って聞いとこうぜ」
国王様が壇上に上がり、拡声魔具の前で口を開いた。
『皆の衆、忙しい中での参集、御苦労。これより王国緊急会議を開催する』
やつれた顔から放たれた声は少し弱々しく、しかし確かな重みと威厳を感じさせた。
伊達に国王として倒れるまで修羅場潜ってないってことが、その目と声だけでよく分かる。
『議題に入る前に、まずはここ数日の間、心身の管理を怠り床に臥せて公務を滞らせてしまったことを詫びよう』
軽く、本当に軽くだが、確かに集まった者たちに向かって国王様が頭を下げた。
それに対して、目を見開いて驚いている人たちと、優越感が隠しきれていない笑みを浮かべている者たちと分かれているのが分かった。
……前者は正しい反応だが、後者は絶対にしちゃダメな反応だろ。
仮にも一国の王が自身の非を詫びて頭を下げている状況で、笑ったりするなんて不敬もいいところだ。
暗君相手にこの場で糾弾して国王の座から引きずり降ろして、次代の王を立てる準備ができている、みたいな状況なら話は別だが。
なお、これから引き摺り降ろされるのは笑っていた連中な模様。
『さて、長々と話をして時間を無駄にすることも惜しい状況なので、まずは簡潔に結論だけ伝えるとしよう。これより、名を呼ばれた者たちは声を上げ応じたうえで席を立つがよい』
『外務大臣補佐ウィフレ・ジェナンダー、経済産業大臣アガリア・ルレヌギア、警備長官ジュナス……』
手に持っている書類に目を通しながら、一人、また一人と名前を呼び、それに応じて返事をしながら席を立っていく。
名前を呼ばれた者たちは、どいつもこいつもさっきの詫びの言葉に対して笑みを浮かべていた奴らだった。
『軍務大臣アフオ・キラモニ』
「はいっ」
そしてその中には、例のアホ大臣こと軍務大臣も含まれていた。
……つーか、軍務大臣ってなんだ? 日本でいうところの防衛大臣みたいなもんなのかな。
一通り名前を呼び終えたところで、国王様が高々と手を挙げて―――
『以上12名を、重罪人として投獄するものとする。なお現職は剥奪し、しかるべき者へその任を与えるものとする』
「なっ……!!?」
手を振り降ろすのと同時に、どこからともなく黒メガネをかけて黒いコートを着込んだ連中が現れて、名前を呼ばれた者たちの両腕を掴んで拘束した。
いや、なんだあの黒服。確保か? 確保なのか? 1050年地下行きにでもするつもりか?
「お、お待ちくだされ! なぜ我らが重罪人などと!?」
「説明してください! いきなりこのような、いくら国王様と言えど許されませぬぞ!」
『黙れ』
「ひっ……!!」
拘束されながら大声でギャーギャー騒ぐ汚職大臣どもを、静かで低い声一つで黙らせた。
その顔に表情はない。怒りも失望もなく、ただゴミでも見るかのように冷ややかな目で睨んでいる。
『これより貴様らの罪状を読み上げる。その証拠となる書類や参考人による証言もともに開示しよう。その内容に対して異議がある者は遠慮せず申し立てるがよい。ただし、鑑定師の【真偽判定】によりその異議が虚偽であると発覚した場合は虚偽申告の罪が加えられるので、心して言葉を紡ぐことだな』
あ、よく見たら国王様の近くの席にフィルスダイムのじい様がおるやん。
忙しいだろうに、こんな別の大陸くんだりまで出張とは。お疲れ様です。ホントに。
『では、まずはウィフレ。貴様は違法な人身販売組織と関わりを持ち、その運営の援助をする見返りとして、自らの奴隷として年齢が一桁の少女を含んだ何人もの女性を―――』
次々と罪状を読み上げていき、自分の罪が読み上げられた者は顔を青くして項垂れたり、力なく崩れ落ちたり、中には身の破滅を悟ってか気を失うものまで出る始末。
自業自得だ。インガオホー。
どうにか誤魔化そうにも、グラマスの手によってだろうか、ガチガチに証拠を掴まれていて反論の余地がない詰み状態。
それでも悪足掻きに嘘八百を並べ立てようもんなら、フィルスダイムのじい様に見抜かれて罪が加算される。
つまりものっすごい周到に準備を進めて会議を開催した結果、裁判無しで老害どもを次々とブタ箱へぶち込む手続きをとるだけの場と化してしまった模様。
無慈悲。こいつらに慈悲なんか要らんだろうけど。
『さて、最後に元軍務大臣のアフオだが、貴様の罪状は軍事費の着服及び軍人たちへのハラスメント、さらに参加する必要のないスタンピードへの参加強要。そしてスタンピードを撃退した者への誹謗中傷及び暴行といった、他の者と比べて比較的軽い罪ではある、が放置するには余りある罪のようだが、ここまででなにか異議はあるか?』
「お、お待ちください! 確かに私はその者に非難をしましたが、元はと言えばそやつが領分を侵して我が軍が担当する範囲まで討伐をおこなったことが原因です! それに、その際に反撃を受けております! 戦闘職の冒険者が、生産職の私にですぞ!?」
スゲーなコイツ、この期に及んでまだ自分が正しいと主張してきてるやん。
もうアホ通り越して感心するわ。キングオブアホだ。
「一歩間違えば死んでおりました! その冒険者の痴れ者こそ、裁かれるべき罪人に他なりませぬ!!」
『……貴様は本当に愚かだな。参加する必要のない戦いに出向かわせたのは、貴様の勝手な思惑あってのことであろう。だが、非難に対し制裁として暴行を受けたことに対しては、件の冒険者カジカワヒカル氏を無罪にする代わりに誹謗中傷及び暴行の罪を相殺する形で処理しよう』
「は、ははっ! 寛大なご判断、誠に感謝いたします!」
……ちっ、他の連中の罪に比べて横領とパワハラ程度じゃ大した罪にはなりそうにないな。
まあ大臣の任を解かれただけでも上出来か。ちとモヤモヤするが。
……てか、今俺に『氏』って敬称付けなかった? 普通に呼び捨てでいいでしょうに。
『さて、ここまでの罪に対する異議はそれだけのようだな。では、最後に今までの罪に国家転覆未遂の罪を加え、貴様には終身刑を言い渡す』
「……は……?」
勝ち誇ったようなアホ大臣の顔が、間抜けな表情のまま固まった。
え、国家転覆未遂って、え?
……なにやらかしたんだ、このアホ大臣。
「ど、どういうことですか!? 私は国家の転覆など、身に覚えがありませぬ!!」
『いいや、貴様はこの場の誰よりも深刻な罪を犯している。私個人としては今すぐ貴様の首を刎ね飛ばしてやりたいところだが、下手に死刑の前例を作ると今後の対応が面倒になりそうなので一刑減じて終身刑に留めておくものとする』
「わ、私がなにをしたというのです! 説明願いたい!!」
『貴様が余計なことをしたせいで、下手をすれば今回の件でカジカワヒカル氏が我が国と敵対するところだった。それは国家転覆、いや滅亡を意味する』
「な……!?」
……えー。
いや、しないよ? しないよそんなこと?
そりゃちょっとこの数日間、王都が機能不全に陥るレベルで威圧かましたりしてたけど、さすがに滅ぼしたりするつもりはないんですがそれは。
「あの国王のオッサン、すごく的確な判断力だな。伊達に王様やってないってか」
おいネオラ君そりゃいったいどういう意味だコラ。
キャラのラフ絵なんかはまた後日、ツイッターや本文で一部公開しようかと思います。
こうして絵にしてみると、アルマがデカい。ボンキュッボン。
でもアルマママのラフ絵を公開するかはまだ決めてない。梶川とアルマは公開予定。




