閑話③勇者、召喚
(あの、過去の勇者ってまだ生きてるんですか?)
地球出身の人間が一人だけ、あっちの世界に居ると聞いて質問してみる。
まだ勇者が生きてるなら、オレを召喚する必要ないはずなのに、どういうことだ?
《いえ、先代勇者はもう天寿を全うしています。今、こちらの世界にいる地球人は、勇者ではなく、事故に近い形で転移した人なのです》
(事故?)
《…はい。気の毒なことにスキルを何一つ持つことができず、職業も得られず、初期ステータスの恩恵は全くない状態で、魔獣のテリトリーにその身一つで日本から放り込まれてしまった人がいるのです》
(う、うわぁ。もう気の毒とかそんなレベルじゃないような…。それでまだ生きているんですか?)
《はい、奇跡的に様々な偶然が重なった結果、彼は今も生きて普通に、…普通? に生活していらっしゃいます》
(なんですかその疑問符は!?)
《いえ、色々非常識なことをやらかしていると言いますか、下手したら魔王よりこの人の方が将来的に危険なような………幸いあの技術を世に広める気は無いようですが、もしも広まったりしたらリソースが足りなく……ってすみません、これ以上詳しくは話せない事情がありまして、ま、まぁ決して悪人ではありませんし、むしろ困っている人々を助けたりしているようなので、会っても敵対したりはしないと思いますよ》
(え、なに? 技術チートとか内政チートとかセルフで持ってる人だったりするんですか?)
《いいえ、そういうわけでは…。すみません、この件についてはこれ以上はどうしても話せないのです。こちらにも事情がありまして…》
(そ、そうですか)
なんかややこしい事情を抱えてる人みたいだな。同胞よ、いったいなにをやらかした。
…悪人だから気を付けろって言われた方が、まだ逆に分かりやすくて安心できる気がする。正直不気味ですらある。
《さて、そろそろ時間ですが、他には?》
(じゃあ、最後に二つ。オレってどういった所に召喚されるんですか? まさかその人みたいに魔獣のテリトリーに落とされたりは…)
《いえ、王国によって管理されている召喚用の祭壇に送り届ける予定ですので、ご安心を》
(そうですか、良かった。……もう一つは、今更ですが、オレなんかを勇者にして良かったんですか? オレ、ただのフリーターで、なんの取り柄も無いんですけど…)
《いいえ、だからこそ良いのですよ。なんの取り柄もない、とおっしゃっていましたが、逆に言えば変に技術が偏っていない、ともとれるので、様々なスキルを使いこなす必要がある勇者には、それは短所ではなく長所なのです。貴方は、充分に勇者にふさわしい人間ですよ》
(そう、ですか。……オレなんかを、選んでくれて、……ありがとうございますっ………!)
《お礼には及びませんよ、泣かないで》
身体があったら、多分涙を流して泣いて喜んでいただろう。
何もできない、何もしたくない、そんなどうしようもないオレのことを、認めてくれてる。
産まれて初めて、人に認められた気がする。いや産まれるのはこれからなんだけど。
ベタとかテンプレとか割と失礼なこと考えておいて白々しいかもしれないけど、神様には、感謝しかない。
ありがとう。オレ、期待に沿えるように、絶対に魔王を倒します。
《魔王を倒したら、その時点で使命からは解放されて、蘇ることもできなくなりますが、それからはどうか、自由に、幸せな人生を歩むことを願っていますよ。では》
真っ白だった空間に、黄金色の光が満ちていく。
《ようこそ、こちらの世界、【パラレシア】へ》
そう聞こえた後に、神様の存在を感じとれなくなった。
光が段々と薄れていって、何も見えなくなったと思った時に、ふと、自分の足が地に着いているのが分かった。
オレの身体が、ある。当たり前のことなのに妙な安心感。
…あれ、ちょっとだけ縮んでる?ああ、そういえば15歳の状態で召喚されるって言ってたっけ。
祭壇には人影はなく、地面には魔法陣のような文様、正面には大きな姿見があった。
おお、ホントに若くなって……って誰だこのイケメンは!? オレこんな金髪青眼のサラサラヘアーじゃないぞ!?
ってかあまりに中性的なイケメンで、一瞬ホントに男か疑うレベルなんですけど。イケメンと言うかイケショタだなこりゃ。
…まさかホントに性転換してないだろうな。あ、ある。良かった。服の下からでもあるのが分かる。
≪神様から、ハーレムを作りやすいような容姿になるように調整されたようですねー。カッコかわいいですよ≫
…なんだこのメニュー画面に書かれた軽くてふざけた文章は。
あれか、これがサポート用のメニュー機能ってやつか? なんか思ってたんと違うんですけど。てか人格あるのかよ。
≪あ、初めまして。メニュー機能に搭載されている疑似人格です。気軽にメニューとお呼びください。なんならちゃん付けでもいいですよ?≫
「ヨロシクオネガイシマスメニューサン。早速ですがちょっと黙っててもらえませんかね。鬱陶しいので」
≪酷いです! そんなこと言うと泣きますよ! 泣き声で前が見えなくなるぐらい視界一面に画面を表示し続けますよ!?≫
「うぜぇなおい!? やめろマジで! てかサポートどころかこっちの妨害しようとしてんじゃねぇか!」
何なのコイツ!? この機能、話に聞く限りじゃすごく便利そうだったのに余計な人格搭載されてるせいで台無しなんだけど!
≪最初は一人寂しく一人旅でしょうからねー。デフォルトのメニュー機能じゃ必要最低限の受け答えしかしませんし、味気ないでしょうからっていう神様なりの気遣いですよきっと≫
「いらねえぇぇぇ!!」
くっそ! 話がうますぎると思った! この分だとステータスも碌なもんじゃないんじゃないか!?
≪あ、ステータス見たいですか? どうぞどうぞ。早速役に立ってますねワタシ。ふふふ褒めてもいいんですよ?≫
「いちいちうるせぇよ! さっさと表示してくれ!」
ああもう、自分のステ確認だけでなんでこんなに疲れなきゃならんのか。
あ、でもちゃんと確認できるみたいだな。どれどれ。
名前無し(入力してください)
Lv1
年齢:15
種族:人間
職業:勇者
状態:正常
【能力値】
HP(生命力) :150/150
MP(魔力) :80/80
SP(スタミナ):70/70
STR(筋力) :120
ATK(攻撃力):120
DEF(防御力):115
AGI(素早さ):117
INT(知能) :119
DEX(器用さ):102
PER(感知) :100
RES(抵抗値):98
LUK(幸運値):50
【スキル】
剣術Lv1 槍術Lv1 斧術Lv1 棍術Lv1 弓術Lv1 盾術Lv1 体術Lv1 投擲Lv1 拳法Lv1 隠密Lv1 攻撃魔法Lv1 補助魔法Lv1 回復魔法Lv1 他、任意で表示
EXP(トータル経験値) :0
NEXT(次のレベルに必要な値):10
…とりあえずスキルの数が多いのは分かるが、能力値の方は、これ強いのか?
≪大体、並みの戦闘職基準だとLv10手前くらいの能力値ですね。うわ、スキル多っ。ちょっとサービスしすぎじゃないですか神様。任意で表示って、他にもいっぱいありますねードン引きですよー≫
…今の時点でも結構強いみたいだな。
レベルアップすれば、もっと強く、色んなスキルも使えるようになるだろう。
…やばい、なんか、かつてないほどワクワクしてきた。ニヤニヤが収まらん。
≪うわ、なんかニヤニヤし始めました。怖いです。衛兵さんこっちです≫
「…こいつさえいなけりゃ完璧なんだがなぁ……」
まあ、そのうち慣れるだろ、多分。きっと。
名前が無しになってるな。どうせなら、新しい名前にしてみるか。
新しい人生、いや、本当の、真の人生だから
「名前は、ネオライフに決定だ」
≪安直ですねー。略したらネオラちゃんですか。なんか女の子みたいな響きですねアイタタ! 画面を引っ張らないでください! ていうかこの画面触れるんですか!?≫
ああもうこいつ今すぐ叩き割りてぇ! くそったれ!
気分台無しだよ!
~~~神様視点~~~
…無事に、送り届けることができたようですね。
メニューの搭載人格は余計だったでしょうか…? ま、まぁ寂しい想いはせずに済むでしょう、うん。
…しかし、我ながら酷いマッチポンプですね。
魔王も、勇者も、世界を維持するために必要な存在という意味では同じだというのに。
魔王は、人口が増えすぎて資源や食料の枯渇が起こるのを防ぐために人々を殺すために創られる、いわば調停者。
そして、それを倒すためにという名目でこちらの世界に召喚されるのが勇者。召喚の際に、その身に宿る地球の膨大なリソースをこちらの世界にもたらすための、いわば運び屋。
このことを正直に話すと、まるで人々の命を弄んでいるように思われてしまうから、…いえ、実際そうなのでしょうね。ありきたりな理由を隠れ蓑に本音を隠して召喚している、というのが先程までの流れです。
…人々にも、勇者に選ばれた彼にも申し訳ない気持ちですが、世界を管理する、というあまりに大きな仕事をするにはどうしても綺麗事ばかりでは回らないのです。
真実を知ったのなら、きっと私のことを見損なうのでしょうね…。
地球側の神は、世界のバランスをとることを放棄したようです。
リソースは膨大にあるというのに、肝心の物理的な資源や食料の枯渇はもう目の前に迫っているようですが、それでも手を打つ気は無いようで。
と言っても、別に人々に無関心というわけではなく、むしろその逆。おぞましいほどの愛を彼は人々に向けている。
毎日、70億人を超える人々の人生を一つ一つ、国境貴賤老若男女問わず観察している。
悪人も中庸も善人も天才も凡才も無能も健常者も狂人も、彼にとっては愛すべき子であると、誰一人見逃すことなく観察して、笑い、泣き、悲しみ、和み、怒り、悦んでいる。
このままではいずれ必ず訪れる世界の滅びすら、人々のとった選択の果てに訪れた結末なら是とする、破綻した思想。
…リソースの提供が無ければ絶対に関わりたくない相手ですね。
でも、私にはそれが間違っているとも言い切れません。なにせ、私も世界を維持するために魔王を使って、人口を減らすためだけに罪のない人々を殺しているのですから。
いったい、どちらが、正しい選択なのでしょうか。神様が聞いて呆れるでしょう。
私は、自分の選択にすら、自信が持てないのですから。
お読み頂きありがとうございます。
次回より本編に戻ります。




