弱点だらけの怪物
お久しぶりです。
やーっと作業のほうが一段落ついたので、投降を再開いたします。お待たせして申し訳ない(;´Д`)
HP・MP・SPが死ぬほど強化された、俺をコピーしたドッペルゲンガー。
俺の軽く十倍以上高い値で、まともに相手しようにも歯が立たん。
『さて、こっからは小細工抜きの全力でブチ殺します。果たして何分持つかな?』
「ちっ……!」
気力強化を発動したらしく、能力値が500万近くにまで上昇したのを確認。
あんだけ強化したら、俺なら一分も持たない。ポーションや魔力変換で延長しようにも2~3分が限度だろう。
『死にやがれぇぇぇえええっ!!』
「うるせぇ! テメェが死ねっ!!」
こちらも負けじと気力強化し、ちょっと節約して300万程度まで能力値を強化!
殴りかかってきたドッペルゲンガーの拳に向かって、こちらも拳で―――
「メニュー、ファストトラベルでアイツを大海原のド真ん中あたりへ飛ばせ」
≪了解≫
『え、ちょ、おまっ―――』
応じない。
拳では、応じない。
目の前からドッペルゲンガーの姿が消えた。
マーキングしてあるし、一緒にファストトラベルで転移したこともあるからコイツだけ転移させることも一応できる。
万が一攻撃が当たったら怖いので、念のため強化はしておいたがな。
ふはははは! バカめ、まともにぶつかり合うわけねーだろ!
そっちがスタンピードのボスとしての反則技を使うなら、こっちもメニューさんというチート全開でズルしまくったるわバーカバーカ!
さーて、これであの野郎を一時的に足止めすることはできる。
つっても、あの状態で魔力飛行を使えば一分足らずでどっかの大陸へ上陸することぐらいはできるだろうが、陸へ近付くたびにファストトラベルで海上へ逆戻りさせれば俺の魔力が持つ限り延々と足止め可能だ。
時間を稼いでいるうちに、奴を仕留める算段を立てなきゃならん。
……俺がコピーされるという状況は、正直言って想定内ではあった。
でも、あらかじめ対策を考えておくと、俺をコピーしたドッペルゲンガーもその対策の内容を知ってしまうから、あえて考えないようにしていたんだよなー。
つまり、その、最悪の事態を予想しておきながらなんの対策も考えてないという最悪な無能ムーブである。我ながらゴミ過ぎる。
俺一人でドッペルゲンガーを倒そうとしても無理。こっちが先に息切れして終了だ。
策を巡らそうにも、俺の思いつきそうなことは向こうも予想がつくだろうから無意味。
というか、下手に小細工したところで力ずくでブチ壊されるのが目に見えている。クソ脳筋め。……俺のことだけど。
マップ画面に表示されているドッペルゲンガーの位置を確認しつつ、俺もファストトラベルで移動。
移動先は、担当区域の撃退を済ませて休憩しているアルマとヒヨ子のいる、王都の南側。
『ピ!』
「! ヒカル、戻ってきたの?」
急に転移してきた俺の姿を見て、アルマとヒヨ子が驚いた顔をしながら声をかけてきた。
「ああ。少しまずいことになってな、俺一人じゃどうにもならんから力を貸してほしい」
「……スタンピードのボス、やっぱりヒカルに化けたの?」
「うん。……しかも、俺よりずっと生命力も魔力もスタミナも多くなっちまってな。まともにサシでやり合ったらこっちが先にバテちまう」
俺とまったく互角のままなら、一応勝ち目はあるにはあった。
でもあそこまで強化されたら、一人で倒すのはとてもじゃないが無理だ。
一人なら、な。
というわけで、ドッペル対策として仲間たちに手助けしてもらいます。
要するに全力で他力本願。クズゥー。
「アレを倒すには、ちと準備が必要だな。いつまでもファストトラベルで海上へ拘束しておこうにも限界がある」
「その魔獣が力尽きるまで放置したりはできないの?」
「死ぬほど持久力が高いし、現実的じゃないな。それに、詳しくは省略するけどさっさと倒さないとこの世界に悪影響が出ちまうらしい」
あの魔獣がこの世界の余剰リソースをバカ食いしたせいで、これから生まれてくる生物にリソースが割けなくなってしまう危険性があるらしい。
具体的に言うと、今日中にでも討伐しないと死産で産まれる生物が大量発生してしまうという非常事態。というわけで、はよ、討伐はよ。
「言っていることがよく分からないけれど……それじゃあ、どうするの?」
「まず、王都へ侵攻してきた魔獣たちを一旦全滅させる。その後に魔力と気力の直接操作ができる人たちを集めよう」
魔王戦でもやった手だが、魔力をありったけ分けてもらったうえで気力強化してもらう。
さらに仕込みをしておいて、超短期決戦でブチ殺すゴリ押しを超えたなにか戦法である。
割といつも通りの戦法な気がするが、ドッペルゲンガーが強すぎて下手に共闘なんかしたら死者が出かねないので止むを得ん。
十分後、王都へ侵攻してきた魔獣たちをどうにか殲滅できた。
前線で暴れまわってるジュウロウさんやヒューラさんを巻き込まないようにするのが地味に難しかったな。
「……まだ暴れ足りねぇんだが」
「緊急事態ですので我慢してください」
「まあいいけどよ、騒ぎが済んだら後で喧嘩しようぜ。なんだかんだでお前さんとはまだやり合ってねぇしな」
「……喧嘩相手なら戦っててもっと楽しい人、……人? を紹介するので勘弁してください」
「へぇ、そりゃ楽しみだ。……疑問形なのが引っかかるが」
不満タラタラなジュウロウさんを宥めつつ、スタンピード撃退に集結した人たちに協力を要請。
紹介する相手は察しろ。案外意気投合しそうな気もするが、喧嘩の際に周りへの被害がデカそうで怖いな……。
準備を進めている間にも、マップ画面に表示されているドッペルの反応は陸を目指して高速移動していた。
マッハいくらだコレ? 100? 200? ……普通なら空気との摩擦で燃え尽きそうなもんだが、HPが一ミリも減ってねぇ。
陸へ近付くたびに何度もファストトラベルで逆戻りさせているが、地味に魔力消費が激しいからやめてほしい。
とか思っていたら、いつの間にか海上に留まったまま停止していた。
どうしたのかと状態を確認してみたが、ずっと気力強化したままだったから、SPが2~3割ほど削れている。
どうやらいたずらにスタミナを消費するよりも、今は待機しておいたほうが得策だと判断したみたいだ。
って、あれ? なんか、SPがジワジワ回復してね?
本当にわずかずつだけど、しかし確実にドッペルのスタミナが回復している。
おいおい、まさか自動回復能力まであるのか? ホントチートだなー。
となれば、やっぱり消耗戦は無理だな。速攻で殺そう。
準備も済んだし、ファストトラベルで再び第3大陸へ転移。
周りの景色が王都の華やかな街並みから、人の手が入っていない山岳地帯へと変わった。
そして俺の目の前には同じくファストトラベルで転移させたドッペルがいるわけだが……。
「……なにやってんだ?」
『モグモグ……んお!? またどっかに飛んだのか? って、俺いるし。モガモガ、もう準備は済んだのか?』
なんか、座りながらデッカいサンマみたいな魔獣をムシャっていた。
どうやら海上で魔獣を仕留めて、丸焼きにして食べていたようだ。
……スタミナがジワジワ回復していた理由はこれかよ! 普通に飯食ってんじゃねーよ!
「さて、第二ラウンド開始だ。準備はいいか?」
『モグモグ、待って、まだ食べてるから。あと十分くらい待ってくれモシャモシャ』
「却下。没収します」
『あ゛ー! せ、せっかくいい具合に焼けたのに……』
ムシャっていた焼き魚をアイテム画面へ収納して、食事を強制的に中断させた。
これは後でヒヨ子にでも食わせてやるとしよう。
魔獣とはいえ食事の邪魔をするのは申し訳ない気もするが、さっさとしないとこっちがすぐにバテるから仕方ない。
では、やるか。
レイナとヒヨ子、バレドとラスフィーンやアイザワ君たちに分けてもらった力を使って、膂力を高めて突進!
「ふっ!」
『おっと、いきなりか。だがこっちのほうがエネルギー量がある分……ゴホァッ!!?』
ドッペルも瞬間的に能力値を500万近くにまで強化したようだが、それすら超える能力値で殴りかかってやった。
そう、今の俺は、能力値が700万にまで上昇している。
『ぐっ……!? な、なんだ今の速さ!?』
「なーに、ちょっと反則技を使っててな。というわけで死ね」
『いや、どういうわけだよ!?』
互いに魔力操作と大槌を駆使しつつの殴り合いが始まった。
パイルバンカーに火力特化パイル、魔刃改に魔力ドリル、魔力とりもちに電撃ビリビリアタックなどなど、使える手はなんでも使って打ち合っている。
そして、俺の方の技が全てにおいて上回っている。
『くそっ、なんで……!?』
「遅ぇっ!!」
『ぐぉあっ!?』
使う技が同じとはいえ、地力が強い方が有利なのは当たり前だ。
向こうの攻撃はほとんど当たらず、こちらは何度もまともに攻撃をブチ当てることに成功している。
なぜ、俺の能力値がここまで上がっているのか。
そしてなぜ、俺よりも遥かにエネルギーの貯蔵があるはずのドッペルの能力値は500万止まりのままなのか。
答えは簡単。基礎能力値が高ければ高いほど、気力強化の上限も上がる。
ドッペルの能力値はステータスとプロフィールを合わせて約5万。
俺は、その5万に加えてさらに補助魔法をネオラ君にかけてもらっており、合計約7万にまで上がっている。
その補助魔法の効果を魔力操作によって強化し、さらに気力強化を重ねているのが今の俺の状態だ。
俺の弱点は割と多い。例えば俺一人でなにかしようとしても大抵上手くいくことはない、とかな。
だから仲間を頼る。たったそれだけのことが、俺とドッペルの決定的な差となっている。
『く、くそ! お前、ズルいぞ! サシの勝負に手助けなんかしてもらいやがって!』
「やかましいわ! テリトリーのコア破壊して吸収しまくったお前に言われたくねぇわボケ!」
『ですよねー。……って、あ、やべッ!?』
互いに憎まれ口を叩き合いながら攻防を続けているところで、ドッペルが罠にかかった。
超硬度に固めた魔力をドッペルの手足に纏わせて拘束。
こっちの攻撃を捌くのに必死で、ほんの少しずつ纏わせておいた魔力に気付かなかったようだ。
「さぁて、覚悟はいいな?」
『よくない! ヤメロー! 死にたくなーい!』
「くたばれぁっ!!」
大槌の柄に魔力の鎖を繋いでハンマー投げの要領で振り回し、さらに槌頭の爆発機関を何度も爆発させた。
ダメ押しに、ドッペルにぶち当てる直前に槌頭に使われている謎の黒い箱に魔力を大量に注ぎ込み、重量を数十トンにまで増加させてやった。
さすがにこれが当たれば、膨大な生命力を持つドッペルでもただでは済まないだろう。
『ぬぉぉぉおおおおっ!!』
とてつもない量の魔力を分厚く展開し、まるでミルフィーユのように硬い魔力と柔らかい魔力を交互に重ねて、少しでも衝撃を吸収して威力を減退させようとしている。
しかしその魔力の障壁すら、大槌は薄紙を破るように貫通し、ドッペルの身体にブチ当たった。
『おぐぉっはぁあぁっ!!?』
あれほど圧倒的な量の生命力を貯蔵していたというのに、一気に0にまでHPが減り、口から血を吐いている。
どんだけ強い威力だったのか、最早計り知れない。……なんかRPGのダメージチャレンジでもしてる気分だ。
ステータスもプロフィールの分も生命力はゼロにまで減らしたが、まだ死んでいない。
どうやら『俺の身体』の分の生命力が、辛うじてだがその命を繋いでいるようだ。
『ぐあ……あ……!!』
苦しそうに血を吐きながら呻き声を上げている姿を見ていると、自分の顔でも憐れに見えてくる。
可哀想だし、さっさとトドメを刺して楽にしてやろう。
「はぁぁぁぁぁああっ!!」
右手に気力を集中し、ドッペルへ向かって突進し、思いっきり殴りかかった。
「あああああ………っ!!?」
その顔面に拳が命中する寸前、ドッペルがその姿を変えた。
『……ヒカル……』
見覚えのある黒髪の少女の顔が、そこにはあった。
スタンピードの際に本物の姿を見ていたのか、ドッペルが、アルマに化けやがったんだ。
目の前のアルマはドッペルゲンガーだ。
このまま殴り殺せば、それで終わる。
なのに、俺の拳は顔に触れる前に止まってしまっていた。
今になって、躊躇しちまった。
『ごめん、死んで』
申し訳なさそうな顔でそう言いながら、俺に向かってドッペルが剣を振りかぶって斬りかかってきて――――
「あなたが死んで」
『……えっ……!?』
その首が、身体と泣き別れになったのが見えた。
呆然とした顔を、地面へ落としたドッペルの傍には、そのドッペルと同じ顔をした少女、本物のアルマが立っていた。
「いやー……やっぱ、ダメだったわ。ごめん、アルマ」
「気にしなくていい。これも、ヒカルは予想していたんだし」
俺の弱点は多い。
例えば、ニセモノだろうがアルマの姿をした相手だと、攻撃するのを躊躇してしまう、とかな。
20階層の固有魔獣戦で、それは痛いほど自覚している。それを利用しない手はないだろうと思っていたが、案の定だったな。
だからこそ、アルマには近くで待機してもらっていた。
アルマに化けたドッペルを俺が攻撃できなかった時に、アルマに助けてもらえるようにな。
今思うと、弱点だらけの俺なんかに化けた時点で、ドッペルの負けは必然だったのかもしれない。
≪スタンピードのボス『★ドッペルゲンガー』の討伐を確認。第一大陸王都周辺のテリトリー魔獣山脈アルアシウカのスタンピード討伐を完了≫
ヨシ。なんとか討伐は成功したようだ。
終わってみれば割とあっさりだったが、自分自身との戦いがここまで苦戦するとは思わなかったなー……。
「それじゃあ帰ろうか、アルマ」
「うん。……ところで、ここって第3大陸みたいだけど、随分と荒れちゃったね……」
……うん。あの野郎がテリトリーのコアを吸収するために滅茶苦茶しやがったからな。
死人こそ出ていないが、地形そのものが変わってしまった地域もある。被害甚大である。
でも海上で戦ったりしたら津波が発生する危険性があったし、ここで戦う以外に選択肢がなかったんですよー……。
え、なんで遅れたのかって?
来月になれば弁明させていただけるかと思いますが、今は言えませぬ。スミマセン。
あ、気になるからってこの小説のタイトルでググったりとかはやめ(ry




