『最悪』の上塗り
スミマセン、ちょっと続きの執筆よりも優先しなければならない作業がありまして、次回更新はちょっと遅れる見込みです。
残業だろうが休日出勤だろうがこれまで更新してきましたが、作業の内容上こちらを更新するのは問題があるので。申し訳ありません(;´Д`)
まだ作業の途中なのに今回の話を投稿するのも結構問題あると思うんですけどね……。
考え得る限り最悪の事態。
それは俺がドッペルゲンガーの視界に入り、存在をコピーされること。
俺はあくまでただの人間だ。
それにステータスだのプロフィールだの、異世界の力が外付けされただけの話。
だが、徒にその力を振るえば甚大な被害をもたらしかねない。
もちろん俺は人類相手に牙を剥くつもりはないし、せいぜい喧嘩を売ってくるアホをデコピンで黙らせるくらいだろう。
『さて、とりま王都潰しとくか。それが嫌ならせいぜい盾にでもなりな』
「っ!? ちっ!」
やにわに『ドラゴン・バスター』を大砲へと変形させ、王都に向かってブッパしようと構える俺。
それを見て遠隔魔力パイルで大砲を弾き、砲撃の軌道を上空へとズラした。
空へ放たれた砲撃は上空で弾け、空を覆っていた暗雲すら吹き飛ばし雲一つない晴天を晒させた。
あんな威力の魔力弾が王都に着弾していたら、いったい何人死んでいたかすら分からない。
「……テメェ、王都にはまだ避難してねぇ人たちが大勢いるんだぞ」
『あっそ、そりゃ大変。でもなぁ、俺も一応スタンピードのボスだし? 可哀想だとは思うけど、立場上テリトリーを広げるために動かないわけにはいかんのよ』
「人殺しをしてでもか。お前は俺をコピーしたんじゃないのかよ」
『あのなぁ、お前だってさっき魔獣を何千体も殺してただろうが。魔獣の俺からしてみりゃお前のほうが大量殺戮者だっての』
ごもっともで。
……少し話してみて分かったが、こいつは確かに『俺』だ。
ただ、立場が違うだけ。俺は人類でこいつは魔獣。
その唯一にして決定的な違いが、俺とこいつを敵対させている。
俺とこいつが本気でやり合えば、王都を巻き込むどころかこの大陸がどうなるかすら分からない。
仕方ない、ファストトラベルで21階層の適当な崩壊世界にでも一緒に飛んで、そこでこいつをぶちのめすとするか。
≪容認できない。現在、この魔獣は『梶川光流』を再現しており、それにはこの世界のリソースを大量に消費しているため、パラレシアでの討伐が必須≫
え、どゆこと?
≪……『梶川光流』は地球人であり、その身に宿しているリソースはパラレシア全体のエネルギーのおよそ5~6割相当。さらにステータスとプロフィールのエネルギーも規格外に大きく、それらを再現するために現在パラレシアの余剰リソースをほぼ使い切ってしまっている≫
≪仮に異世界にてドッペルゲンガーを討伐した場合、その分のリソースがパラレシアから消失してしまい、パラレシアはリソースエネルギーの運用に著しく支障をきたすことになる≫
……えーと、よく分からんけど、支障をきたすとどうなるの?
≪現在はわずかに余剰リソースが残っているが、時が経てば近いうちに枯渇する。そうなった場合、これからこの世界で産まれるはずの生物全てがリソースのない状態で産まれる。つまり、全て死産となってしまう≫
アカン。
アカン。
それはアカン!
いつもなら俺の提案を否定する時は『非推奨』と言うのに、今回は『容認できない』と強く拒否していたがその理由がそれか。
そんなことになったらいずれ世界滅亡待ったなしですやん、どうすんだよ。
≪この世界、パラレシアでドッペルゲンガーを討伐すればその分の余剰リソースが再補給される。よって、この世界において最も人類への被害が少ない場所へ移動したうえでの討伐を推奨する≫
そっすかー。要は俺が負ければ世界が滅ぶってか。
……これから俺とアルマの子供も産まれるんだし、そんな最悪の事態を通り越した絶望しかない状況はなんとしても阻止しなきゃならん。
くそ、なんでこんな勇者の役目みたいな責任押し付けられなきゃならんのだ。
≪……あるいは梶川光流本人が死亡すれば、その身に宿したリソースが余剰分に回されるため、どちらが死亡しても結果として世界滅亡は回避される。なお本物の梶川光流が死亡した場合、ドッペルゲンガーにより王都はほぼ確実に滅ぶと推測≫
却下だバカヤロウ! 拙者まだ死にたくないでござる!
よーし、なら話は早い。速攻でブチ殺して被害を最小限に抑えるのが最適解だな! 要はいつも通りである。
『なんかボーっとしてたが、メニューと会話でもしてたのか?』
「ああ。俺とお前、今すぐどちらかが死ななきゃ世界が滅ぶってよ」
『なにそれこわい』
「同感だ。というわけではよ死ね」
『御免こうむる。拙者まだ死にたくないでござる』
やかましいわ。
目の前で自分と同じ顔をした野郎が自分と同じノリでくっちゃべってるのを見てると、なんだか奇妙な不快さを覚えるな。
……ま、この状況も一応想定内ではあるんだけどな。
アイテム画面から大槌を取り出し、気力を全て膂力強化にまわし、SP回復ポーションをがぶ飲み。
そして急接近し、殴りつける!
ニセモノは咄嗟に大槌を構えて防いだ。……狙い通りに。
『おおっと、いきなりかい! ……!』
「……この大陸なら、今は人がほとんどいない。魔獣のテリトリーを開拓するのも今日は控えるように伝達しておいたしな」
『……我ながら用意周到なことで』
殴りつけ接触した瞬間、ファストトラベルを発動。
転移した先は、魔族によってほぼ壊滅し、今はほぼ魔獣たちのテリトリーと化してしまっている、第3大陸。
現状、少しずつテリトリーを開拓して、人類の生活圏を取り戻している最中だが今日は念のために開拓はお休みしてもらっている。
だから、いくら暴れても人的被害は出ない。
ここでなら気兼ねなくやり合える。
『ひっどいなお前。確かにここでなら人に被害は出ないだろうけど、ここで生きてる魔獣たちには遠慮なしかよ』
「まあ、可哀そうだとは思うけどな。けれど、俺も一応人類側の人間だし、人と魔獣を秤にかけたらこうするしかないんだよな」
『ひどいわー外道がおるわー死ねばいいのにー』
「お前がさっさと死ねば被害は最小限で済むぞ」
『ハハハ、嫌でござるっつってんだろ!』
ヘラヘラした態度から一変、今度はニセモノが俺に殴りかかってきた。
しかもよく感じとってみると、周囲に魔力の塊をいくつも展開させている。
『でりゃあっ!!』
「おらぁっ!!」
大槌同士が衝突するのと同時に、奴の展開した魔力が杭状に突き出し、襲いかかってきた。
遠隔パイルか。……接触するのはヤバそうだ。
俺も魔力を放出し、その一つ一つにパイルをブチ当て相殺する
その間にも、ニセモノは俺に殴りかかる手を止めずに攻撃し続けている。
『うぉらぁぁあああああっ!!!』
「がぁぁぁああああああっ!!!」
拳や大槌が接触するたびに地殻が抉れ、大気が揺れ、衝撃波が周囲の木々を弾き飛ばしていく。
ぶっ飛ばし、ぶっ飛ばされる途中で何度か魔獣と接触しそうになったが、触れるまでもなく全てミンチになって撒き散らされていく。もったいない。
『せいやぁっ!!』
「おぐぁっ!?」
モロに顔面へ拳が突き刺さり、派手にぶっ飛ばされた。
「くっそ、ミスった……ん?」
飛ばされた先にルビーのような赤い塊が浮いていた、それに俺がぶち当たると破壊されてしまった。
その直後、大量の魔力や生命力、そして気力エネルギーがあたりに放出されたのが分かった。
……この赤い宝石みたいなの、なに?
≪魔獣のテリトリーの『核』であり、破壊されたことでこの周囲は魔獣のテリトリーから人類の生活圏へと変わる準備が整った模様≫
へぇ、テリトリーの核ってこんな形してるのか。
ニセモノが王都を滅ぼしたらアイツもこんなふうになるのかね。
少し遅れてニセモノが飛んできたが、俺のそばで壊れている『核』を見ると、怒ったような顔で怒鳴ってきた。
『ああー! よくも『核』を破壊しやがったなー! 許さん! 絶対に許さんぞ! じわじわと嬲り殺しにしてくれる!』
「やかましいわ! どこの悪の帝王だテメェ! てかテメェが殴り飛ばしたからだろうが!」
『ごめんなみんなー、ちゃんと仇はとってやるから力を借りるぞー』
「は? ……げっ!?」
壊された『核』から放出されたエネルギーが、ニセモノに吸収されていくのが感じられる。
ちょ、おま、そんなことできるのお前!?
『ふぅぅ……馴染む、実に馴染むぞ……!』
「そりゃまた別の帝王やろ。てかなにしてんだお前。俺、自分以外の周りの魔力とかを吸収することなんかできないんだけど」
『お前はそうかもしれないが、俺は魔獣だからな。魔獣のテリトリーの核は魔獣のHP・MP・SPを回復できるらしいぜ? 俺も今知ったわ』
「うーわ、ホントに全回復してやがる。……え、うわ、マジか……?」
思わず頭を抱えそうになった。
この野郎、HP・MP・SPの最大値が激増してやがる。
ちなみに比較してみるとこんな感じ。
俺の現在
HP(生命力) :9784/11630
MP(魔力) :7012/7415
SP(スタミナ):5122/5540
★ドッペルゲンガー
HP(生命力) :22150/22150
MP(魔力) :18325/18325
SP(スタミナ):12701/12701
やべぇ、倍以上にまで増えてるんですけど。
プロフィールの値までは増えてないみたいだが、エネルギーの貯蓄が増えてるのは普通に面倒だ。
こっちもアイテム画面の中にポーションをいくつか収納してあるけど、果たして足りるか……?
『破壊した核のエネルギーには、さらに最大値を増やす効果まであるみたいだな。さてどうする、俺はもうお前よりも強くなっちまったぞ』
「バカかお前。メニュー画面のこと忘れてんのか」
『そんぐらい頭に入ってるって、の!』
「ぐぉがっ!?」
瞬きほどの間に、気が付いたら殴り飛ばされていた。
あっぶねぇ! 瞬間的に気力強化してなかったら今ので死んでた!
今の攻撃で大陸の端から端までぶっ飛ばされたんだけど、どんだけ強化してやがんだあの野郎。
しかも飛ばされている途中で、またいくつもテリトリーの核を壊しちまったみたいだが、アイツもしかしてわざとやってねぇか?
……待て。
わざと、やってる……?
『うわー! ごめんなみんなー! またいくつも壊しちまったー! というわけでその力をお借りします。マジごめん』
「ちょ、テメェ!? お、おいおいおい……!!」
マジかコイツ!?
途中で壊した核のエネルギーをさらに吸収してやがる!
やっぱこいつわざとやってるだろ! 最悪じゃねーか! 性格悪っ! 俺だけど!
さらにいくつもの核を吸収した結果、とんでもない数値がメニューに表示されていた。
★ドッペルゲンガー
HP(生命力) :128351/128351
MP(魔力) :108472/108472
SP(スタミナ):93897/93897
いやいや、いやいやいや、どうすんだよコレ。
もう誰の手にも追えないくらい最大値が伸びちまってんだけど。
筋力とかの基礎能力値こそそのまんまだが、この三つの項目がここまで強化されるとさすがにこちらが不利だ。ポーションのストックが足りない。
おそらく鬼先生ですら今のコイツには勝てないだろう。
ステータスのスタミナが9万超えてるってことは、おそらく能力値500万まで強化した状態で約10~20分近く暴れられる。
ちなみに俺は2~3分が限度。ポーションでのドーピング込みで。
どーすっかなーコレ……。




