最悪の事態
魔獣山脈で発生したスタンピードだが、今回のボスは『★ドッペルゲンガー』という固有魔獣だった。
この魔獣の能力はとてもシンプル、かつ非常に厄介。
その能力は、一目見た対象を完璧にコピーできるというものだ。
容姿も、記憶も、思考能力も、ステータスも、装備も、なにもかも。
例外としてメニュー機能は使えないようだが、それでも極めて危険な相手だ。
なにせ魔力や気力の直接操作すら扱えるというのだから、強さだけなら魔王をも遥かに上回る。
ネオラ君をコピーした現状のステータスはこんな具合だ。
魔獣:★ドッペルゲンガー
Lv■■■
状態:コピー:ネオライフ(勇天融合)
【能力値】
HP(生命力) :18151/18151
MP(魔力) :12230/12330
SP(スタミナ):9031/9052
STR(筋力) :17634
ATK(攻撃力):17634
DEF(防御力):17065
AGI(素早さ):17252
INT(知能) :17423
DEX(器用さ):16891
PER(感知) :17415
RES(抵抗値):12468
LUK(幸運値):2475
【ユニークスキル】
私は貴方で貴様は何方?
【スキル】
【マスタースキル】
【ブレイブスキル】
【ギフトスキル】
【装備】
対象をコピー
レヴィアリアとオリヴィエールがネオラ君と融合した状態のステータスを寸分違わず再現している。
これに気力操作や魔力操作が加わったら、想像を絶する強さを発揮することだろう。
コイツへの正しい対応は実力の近い複数人がかりで戦うのがベスト。
単騎で挑むのは愚策だ。
勇天融合なんてもってのほか。止められるのが俺とアルマぐらいになっちまう。
『死にな』
ネオラ君に化けたスタンピードのボスが、刀を突き出しながらもう突進してくる。
やばい、ステータスだけじゃ対処できねぇ! 仕方ない、『プロフィール』を有効化する!
『っ!』
「どぉりゃぁぁあああっ!!!」
突進してきたドッペルゲンガーを魔力のクッションで覆い、地面に叩きつけた。
プロフィールを有効化した俺の能力値は合計約5万。たとえ融合状態のネオラ君だろうが対処可能だ。
『ぐっ……!! 喰らえぇっ!!』
「おっと!」
叩きつけた直後に、攻撃魔法による特大の火球を放ってきた。
気力強化しつつ受け身をとって、すぐさま反撃に転じてくるとはな。
魔獣らしからぬ、いや並の人間でもここまでスムーズに反撃することは難しいだろう。
ネオラ君を抱え、魔力飛行で回避しつつ距離をとった。
飛行しながら、ネオラ君の事情聴取を開始。
「……で、どういうことかな? なんで融合してるの? ソレ駄目だって死ぬほどしつこくメニューさんたちから言われてたでしょ?」
「し、仕方なかったんだっての! ……オレに化けたあの野郎が、隙を突いてオリヴィエを刺しやがって、すぐにでも融合しなきゃそのまま死ぬところだったんだ……!」
「あー、融合すればダメージをある程度軽減できるんだっけ? え、ならなんで回復魔法使わなかったんだ?」
「回復魔法じゃ間に合わないくらいダメージがデカかったんだよ! 迷ってる暇はなかった!」
で、仕方なく融合してそのままサシでやり合うことになったと。
んー、まあそれはしゃーないな。俺が同じ立場だったとしても同じ選択をしただろう。
「事情は分かった。でも、それなら互角の戦いになるはずだろ? なんでアイツはピンピンしてて、ネオラ君はそんなボロボロなんだ?」
「え、ええと、その……」
? なんか気まずそうに目を逸らしてるけど、なにがあったんだ?
「おい、包み隠さず正直に答えろ。なにがあった」
「……アイツ、っていうか、融合状態のオレって、自分で言うのもなんだけど、美人だよな?」
「ん、んん? まあ、そうだが……おいおい、まさか外見が可愛いからって躊躇したってのか?」
「いや、それだけならなにも躊躇うことなかったんだけど、アイツ、オレの隙を作るためにとんでもないことしてきやがって……!」
「え?」
少し歯軋りしてから、悔しそうな顔でネオラ君が口を開いた。
「……あの野郎、いきなり服の前を開いて、その、胸を丸出しにしてきやがって、それに目をとられてる隙にぶっ飛ばされました……」
「ア ホ か お 前 は」
しょーもないにもほどがあんだろうが! なにやってんだ!
「いや無理だってあんなの無理だって顔だけでも超美少女なのにあんなもん見せられたら誰だって固まるってだってすっごいボリュームなうえに滅茶苦茶綺麗な形と色艶だっt―――」
「もう黙っとれ! はよ下がって回復してろボケ!」
「スンマセンデシタ」
これ以上聞く気はない。アルマ以外の女性のボディの感想なんかどうでもいいわ。いやネオラ君を女性と言っていいのかは別として。
にしても、まさか魔獣がそんなハニトラまで仕掛けてくるとは。ホント魔獣とは思えないくらい狡猾だな。
「って、おいおいおい! 後ろ! 後ろきてるぞ!」
「気付いてるっての!」
後ろから急接近してきたドッペルゲンガーが、遠当てと攻撃魔法を乱射してきた。
一発一発が魔力操作によって強化されているらしく、最終形態の魔王に匹敵するほどの攻撃力を秘めているのが分かる。
ま、今の俺からすればたかが魔王程度ってほどだが。
「はい、返品します!」
『っ!?』
厚手の魔力クッションで全て受けきり、全ての攻撃を束ねてドッペルゲンガーに投げ返した。
ただそのまま返すわけじゃない。収束したうえさらに俺の魔力をブレンドして強化した魔力攻撃だ。
融合状態のネオラ君でも、これを喰らえばただじゃ済まないほどの威力がある。
『ぐっ! ……!?』
「逃がさん」
ギリギリで回避したが、それはただの攻撃魔法なんかじゃない。俺の魔力弾だ。
攻撃の軌道も、弾の形状も自由に変えられる。故に、どこまでも追いかけて確実に命中させられる!
「くたばれ」
『……』
「…………っ!!?」
着弾し、爆炎と煙幕があたりに立ち込めた。
ネオラ君が今のを喰らっていたら、たとえ気力強化していようが戦闘不能に陥るほどの威力だったはずだ。
だが、着弾寸前、アイツは……!
「や、やったのか……? ………え……え、ええぇっ……!!?」
「……クソが」
煙幕の中から、人影が見えた。
その姿を目の当たりにして、ネオラ君が呆然としながら驚き、俺は悪態を吐いた。
『クソはお前だろ。あー、マジ死んだかと思ったわー。許せんわーマジ許せんわー』
死ぬほど聞き覚えのある声と、軽い口調。
少しボサッとした黒髪に中背中肉の体格で、手には見覚えのある大槌を構えている。
≪……★ドッペルゲンガーが『梶川光流』へと変身したのを確認。『ステータス』のみならず『プロフィール』のエネルギーまで忠実に再現している模様。装備している『ドラゴン・バスター』もオリジナルと同等の性能を有している≫
≪警告:討伐の際に、周囲に甚大な被害が生じる危険性あり。王都から速やかに離れることを推奨≫
……考え得る限り最悪の事態じゃねーか。
どうしてこうなった。
『さぁて、こっからが本番だ。精々気張れよカジカワ君』
「うるせぇ、はよ死ね」
もしもコイツが周りへの被害を度外視して暴れまわったらこの大陸が、いや津波なんかを考慮したら世界中に損害が出ることになる。
……どーすっかなーコレ。
というか俺を再現してるならユニークスキルが使えるのはおかしいやろ!
なにサラッと変身しとんねん!
固有魔獣がどいつもこいつもコピーばっか使ってくる件。




