結局タイマン やはりタイマン、タイマンは全てを解決する。
スタンピードのボスは、人型のスケルトンだった。
体格も人間と同じくらいで、外見だけならば貧弱極まる。
ただし通常のスケルトンとは雲泥の差だ。
膂力はまるで竜の如く強大で、戦術も魔獣とは思えないほど洗練されている。
おそらくLv80以上だろうか。レベリングの際に戦ったLv70台の魔獣よりもさらに強大な力を振るっている。
「くそ……! この骨野郎、なんて強さだ……!」
「ひ、退けぇ! まともに打ち合っても勝ち目がない! 遠距離から ぐぉぁあっ!!?」
また一人、骨の拳に殴り飛ばされて戦闘不能に陥った。
スタンピードのボスはそのテリトリーに生息する魔獣たちより強力だと聞いていたが、ここまで強いとはな。
ボスの討伐に回された人員は俺を含めて7人ほどで、全員が上級職の手練れだ。
しかし、レベルが二回りも上の相手を討伐するのは骨が折れる。……いや、相手がスケルトンだからこんな表現をしたわけではない。
事実、既に7人中3人が戦闘不能に陥り、後方で治療を受けている。
残った4人も俺以外は浅くない傷を負っていて、十全に力を発揮できないでいる。
……俺が無事なのは、なぜだ?
このボスは教官たちと比べたら弱い。
しかし、俺からすれば勝ち目の薄い怪物だ。
恐竜より弱いからといって、獅子を侮るバカはいないだろう。
教官たちの鍛錬は常識外れに厳しいものだったし、それに耐え続けたことで強くなったことは確かだ。
ジュリアンから与えられた義足が、戦闘能力を底上げしていることも無視できない。
だが、これほど格上の相手とほぼ無傷で戦い続けることができている理由は、それだけじゃないはずだ。
『……はァァアっ!』
「っ……!」
スケルトンが魔拳・遠当てを放つのと同時にクイックステップで距離を詰め、さらに高速で連発蹴りを放つ拳法技能『魔連脚』を放ってきた。
魔連脚を防ぐのに手一杯なところを遠当てが命中し、体勢が崩れたところに『爆砕拳』でトドメを刺そうとしてくる。
という戦法だ。手に取るように次の動きが分かる。
……なぜ、分かるんだ?
「ふっ!」
『!』
クイックステップに合わせて縮地を使い、さらに例の『ターンピック』とかいう機能で移動距離を抑制。
攻撃のテンプがズレたせいでうまく連携できなくなったところに槍で殴り飛ばしてやった。
「ま、マジか……? あの義足野郎、ボスとタイマンでやり合ってやがるぞ!?」
「チャンスだ! アイツが押さえている間に、やられた奴らを回復させろ! まだ助かる!」
「動きを完全に見切ってやがる……まさか、アイツ特級職なのか!?」
違う、俺は見切ってなんかいない。
こいつの動きはとてもじゃないが見てから反応できるような速さじゃない。
いくら強くなったからといっても、レベルが二回りも上の魔獣と真正面からタイマンなんてできるわけがない。
なのに、なぜ、こいつの動きが読める……!?
『しィッ!!』
「くっ!」
『魔震脚』で相手を跳ね上げ、無防備なところに乱打を叩きこもうとしているのを『天駆』で回避。
『おラぁッ!!』
「こ、のっ……!!」
避けた先に遠当てを放ってきたが、それもなぜか読めた。
義足からホールドワイヤーを飛ばし、スケルトンの背骨を掴んで引き寄せた。
『うオぉおァ!?』
「はぁああっ!!」
『甘ェぞっ!!』
引き寄せたスケルトンを槍で叩き割ろうとしたが、受け流された。
回避も防御も困難な、絶妙なタイミングだったはずだが、こんなものは慣れていると言わんばかりの正確さで。
この、円を描くような受け流しかたを、俺は知っている。
『アイツ』の十八番。俺との喧嘩の際に見飽きるほど使っていた技だ。
「……お前、まさかっ……!?」
『ひゃハハハははははっ!! どうしたよ『メイル』ぅ! テメェの腕はそんなモンかよォっ!!』
耳を疑いそうになった。
『メイル』と、確かに目の前のスケルトンは俺の愛称を口にした。
教官たちも同僚の囚人たちも、ボスの討伐に向かった仲間も俺のことはフルネームで呼んでいたはずなのに。
かつての相棒のように、俺を呼ぶ声を聞いて確信した。
固有魔獣の中には、討伐履歴や記憶の中から特定の人物を再現するモノもいるとカジカワ教官は言っていた。
故人ですら、その例外ではないと。
もしもこのスケルトンが、俺の記憶を基に故人を再現しているとすれば、ありえない話じゃない。
『なァにボサッとしてんだァっ!! いつものようニやり合おうぜェメイルぅ!!』
表情などないはずの髑髏が、笑っているように見えた。
それを見て、俺も口の端がつり上がっていくのが分かった。
「……はっ、相変わらずうるさいな! 『ヴェルト』ォっ!!」
骨の拳と槍の先がかち合い、衝撃破があたりに広がっていく。
その余波で、ボス討伐に同行していた仲間が必死に踏ん張っているのが見えたが、まるで気にならなかった。
『ぶはははハっ! ハハハッ! ぎゃはははハハっ!!』
「くくっ、くははっ、あっははははははっ!!」
「な、なにを笑ってやがんだアイツ……?」
「……イカれてやがる」
かつてのように、拳と槍が何度も何度も交差し、かち合い、突き刺さる。
ほんの一瞬でも隙を見せたら殺される。
死と隣り合わせの命のやりとりだというのに、笑うのが抑えられない。
ああ、そうだ。
あの闘技場に叩き込まれる前は、毎日のようにこうやって馬鹿笑いしながら喧嘩していたな。
こんなに楽しい時間を、俺はなぜ忘れていたんだろうか。
それからどれだけ打ち合っただろうか。
数時間経ったかのように長く感じたような、あるいはほんの数秒ほどしか経っていないようにも思えた。
ただ分かることは、今が楽しくてしょうがないということと、それも終わりが近いということだ。
『オラァァァァアっ!!』
「がぁぁぁぁあああっ!!」
一際大振りの拳を腹に受けた。
口の中に血の味が広がっていく。
『トドメ、だぁぁぁああっ!!』
俺の頭に、骨の拳が迫る。
あれが当たれば、まず間違いなく死ぬ。
腹を殴られた衝撃で身体が硬直している。避けようにもギリギリ間に合わない。
仲間たちは割って入ることもできないほど離れている。
ああ、死ぬのか。
……まあ、いいか。
最後にこれだけ楽しく、それもアイツと喧嘩できたんだから、それでもいいか。
『っっ!!?』
「っ!?」
俺に拳が当たる寸前、音もなく大気と地面が大きく揺れた。
何事かと思って警戒したのか、スケルトンの動きがわずかに鈍った。
その瞬間、反射的に義足からホールドワイヤーを飛ばし、骨の身体を掴んだ。
その影響で拳の軌道が逸れて、辛うじて回避できた。
ホールドワイヤーを繋げたまま義足のスイッチをONにすると、スケルトンの身体に稲妻が走った。
『ぐおおおおオオおおっ!!?』
「ああああぁぁぁああああっ!!」
電撃で麻痺している間に残った全ての力を振り絞り、髑髏に向かって力任せに槍を振り降ろした。
槍が命中した髑髏は上半分が砕け、その直後スケルトンの身体がバラバラと地面に崩れていった。
……どうやら急所だったようだな。
こいつの膂力は凄まじかったが、頭部が打たれ弱いという弱点があったようだ。
『はっ……今日ハオレの負けみてぇだな……』
「……ヴェルト、済まない。俺が、あの時、右足をやられなければ……お前が庇って死んだりしなかったかもしれないのに……」
『ああ? んなこまけぇこと気にしてんじゃねぇよ、アホくせぇ。まさかそんなことで今まで辛気臭ぇ面してたのか? バカかテメェ』
サラサラと塵になって消えていく髑髏が、呆れたような口調で喋っている。
「そんなことって、お前……」
『それより、テメェ次は負けねぇからな! もしもそん時にまだ腑抜けた面してたらマジでぶっ飛ばすぞコラ! わかったなオイ!』
「……分かった分かった。いつになるかは知らないが、またいくらでも付き合ってやる」
『おう、それでいいんだよ。ったく、ホントは頭悪ぃくせにクールぶってウジウジ悩みやがって』
「お前のほうがバカだろうが」
『うるせぇわ! あー、やべ、そろそろ時間みてぇだわ。そんじゃあな、メイル』
髑髏の口がもうあと数秒ほどで消える。
最後に、一言だけ告げて、スケルトンは消えていった。
『あとその変な義足は次にやり合う時にゃ外せ。なんだそれキモいわ』
……同感だが、最期の言葉くらいはもっとこう、ちゃんとしたことを言ってほしかった……。
スタンピードのボスを討伐したことで、テヴァルラへの侵攻は食い止めることに成功したとみていいだろう。
……まさか、故人の人格を投影する魔獣と戦うことになるとは思わなかったが。
他のスタンピードのボスも、こんな具合に特殊なモノなのだろうか。
それにしても、アイツにトドメを刺されそうになった時の、あの震動はいったい……?
今も大地が断続的に揺れているが、地震ではないようだ。
震動に身を揺られていると、なぜかカジカワ教官の顔が頭に浮かんできたが、まさか……?
今更ですが、本当に今更ですが、カジカワやアルマのキャラグラって版権キャラに例えると誰みたいなイメージでしょうか。
筆者的にカジカワは『出禁のモグラ』の百暗、アルマは『森田さんは無口。』の森田さんみたいなイメージですが。
あ、深い意味はないです。ホントホント。
ホントに深い意味はないです。ええ。




