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それぞれの頑張る予定



 小難しい話をする前に、まずあばら家の住人全員を集めて夜食会を開くことにした。

 テーブルすらないので、床にシートを敷いて並べていく。




「すごいごちそうだー……!」


「こ、これ食べてもいいものなの? お、お金払わないといけないんじゃ……」


「作りすぎて余ったもんだから好きなだけ食え。食わなきゃ生ゴミになっちまうぞー」


「捨てるの!? 全然腐ってない食べものなのに!?」


「お前らが食べなきゃな。さぁどうする?」


「食べる! もったいない!」



 ベンスおじさんとやらがいなくなって、ここにはもう子供たちが5人ほど住んでいるだけのようだ。

 時折住むところや職を失くした大人が住み着くこともあるらしいが、腐ってもスキルをもった大人だからかすぐに働く場所を見つけて出ていくそうな。

 芸は身を助けるというが、こっちの世界の人は自分の才能をスキルという明確な形で把握できるから、就職も比較的しやすいんだろうな。



「んんー! おいしいー!」


「あち、あちち! この白いのや赤いの、すごく熱くて食べられないんだけど!」


「グラタンやシチューは熱いもんだっての。スプーンに乗せてからフーフーって冷ましてから食え。……てかそんなこと言わなくても分かるだろ」


「普段は冷めた残飯や野草ばっか食ってるからな。ここのガキたちはあったかいメシなんてほとんど食ったことがないんだよ」



 不憫な。ただでさえ食える量が少ないうえに、冷や飯ばっかじゃまともに消化吸収もできやしないだろう。

 せめて煮たり焼いたりして温め直すだけでもできれば違うんだろうが、無理そうだ。



「自炊は……できないみたいだな。料理スキルを持ってる子がいないし」


「うん、誰もできない。ベンスおじさんも料理できなかった」


「あいつは『シーフ』だったからな。戦闘職で料理なんかできる奴ぁ、教官たちみたいにギフトを持ってなきゃ無理だっての」



 シーフ、いわゆる盗賊ってやつか。

 ジルドには窃盗系のスキルは確認できなかったが、もしも捕まらずに盗みを続けていたらコイツもそういったシーフ系の職業にジョブチェンジしていたのかもな。



「……あれ? そういえば教官って戦闘職なのに『鑑定』と『料理』両方のスキルが使えるのか? まさか、ギフトを二つも持ってる? そんな奴がいるのか?」


「いや、俺はちょっと特殊でな。まあ興味があったらそのうち教えてやるよ」


「?」




 地球人としての可能性(リソース)を扱えるなら、戦闘職でも生産系の仕事ができる。

 それに該当するのは俺とレイナとネオラ君だけ。ネオラ君はステータスと肉体が連動してるから、ダメージを受ければ普通に傷を負うけど。


 ギフトを二つ持てる人間もいるにはいる。

 ギフトスキルってのはLv50に達した戦闘職に与えられるボーナスだが、さらにLv100に達した者にはもう一つギフトが与えられる。

 それも二つ目は上位派生のスキルを含めて選ぶことができるというお得っぷり。剣王が上級魔法を獲得することも大魔導師が天剣術を扱うことも可能だ。使いこなせるかは別だけど。

 そもそもそこまで到達できる人は数えるほどしかいないが。


 俺はスキル取得できないから例外として、Lv100以上の人間はネオラ君、レヴィアリア、オリヴィエール、アルマ、スパディアさんくらいか。……あれ、案外多い?

 ほとんどの子が二つ目のギフトを決めあぐねているらしい。スパディアのじい様はスキルで変装している魔族を見分けるために『鑑定』のスキルを選んだらしいが、最近はほとんど役に立っていないとか。



「このクッキー、あまい! おいしい! サクサク!」


「甘いお菓子なんて、初めて食べた……!」


「いっぱい作ったから、遠慮しないで好きなだけ食べていい」



 小さな子たち相手とはいえ、アルマも自分の作ったお菓子を褒められてご満悦の様子。無表情で分かりにくいが。

 俺も一枚食ってみたが、バターの味がしつこくない程度に引き立っていて甘さもほどよく好みの味だった。



「ヒカルもいっぱい食べて。まだまだあるから」


「お、おう。……何枚くらい焼いたんだ?」


「百枚」



 ……そりゃ一時間かかるわ。なんかえらく枚数多いなぁとは思ってたが百枚って、君ね、

 フェリアンナさん宅のデカいオーブン二つを丸々占領していた時にあれ? とは思ってたが。

 ここの子たちにお裾分けするから多めに作っておいてほしいとは言っておいたけど、ちょっと多いですよ奥さん。




「う、うう、食べ過ぎて苦しい……でも幸せ……」


「おなかいっぱい……おいしかった……」


「そりゃよかった。でももっとよく噛んで落ち着いて食え。ジルド、お前の真似してるからあんな流し込むような食いかたしてるんじゃないのか?」


「そうかもな……でも、早く食わねぇといつ誰にメシを奪われるかも分からねぇ環境で生きてきてたんだ。早食いの癖はそうそう簡単に直らねぇよ」



 それでも咀嚼はきちんとさせとけ。普段冷えた飯ばっか食ってるのにますます消化不良になりやすくなるぞ。

 ……それでも食えないよりはマシだっていうのは分かるが。




「サクサクサク、さて、今後の予定ボリボリのお話をモグモグしようか」


「クッキー食いながら喋んな。さっきまで行儀よく食えとか言ってたくせになにやってんだ」


「ゴックン、ソーリー。で、まずこの子たちは一時的に知り合いの孤児院で預かってもらうのがいいと思うが、どうだ?」


「孤児院?」


「ああ。あそこは来るもの拒まず去る者追わず、そして働かざる者食うべからずな場所でな。きちんと働けば衣食住は保障される」



 レイナも世話になっていた、ヘーキミート院長の運営する『ワットラーン孤児院』。

 あそこも元々は経営難でかなり苦しい生活だったようだが、例のポテチ販売によるビンボー脱出以来は順調に経営を進めているようだ。


 あそこに預ける理由だが、単にこの子たちをぬるま湯へ浸からせようとしているわけではない。

 この子たちみたいな身寄りのない子を見かけるたびにあの孤児院へ預けていたら、また経営が火の車になっちまうしな。


 最近、あの孤児院では新たな事業を始めているらしい。

 というのも、あのポテチ販売は大きく儲かったが、あくまで一時的な収入に過ぎないからだ。


 それだけに頼っていては、いずれポテチを飽きられた時に売り上げが下がっていき、また貧乏へ逆戻りになってしまうから、恒久的な収入が見込めてなおかつ子供たちの将来を見据えたシステムが必要だと院長は言っていた。

 そのための試みが、子供たちのスキルに応じて成人前から簡単な仕事を斡旋するアルバイト事業だ。



 料理スキルがあるなら調理前の仕込みや簡単な調理の手伝いを。

 清掃スキルがあるなら、窓ふきやドブさらいなんかの、簡単ながら負担の大きい仕事を。

 書記スキルがあるなら写本を作る手伝いなど、主に補助関係の仕事に携わり、こなせるようになってきたらより難しい仕事にチャレンジしていくというものだ。


 口で言うだけなら簡単だが、相当真剣に仕事を覚えないと難しいだろう。

 無理そうなら孤児院でポテチ作りや販売の雑用に回されるが、それだけでも自活力やコミュ力を高めるきっかけくらいにはなるだろう。




「いい機会だ、そこでしばらく鍛えてもらえ。そうすりゃ日雇いの簡単な仕事くらいはできるようになるだろ」


「お、おいおい。オレが仕送りすればこいつらだってまともな生活ができるようになるだろ?」


「その仕送り、いつまで続ける気だ? 一年か? 二年か? それともこの子たちが成人するまでか? 成人したころにはいったい何億溜まってるだろうな? そんな余裕がある状態で、まともに働く気になると思うか? ないない、絶対『こんなにお金があるんだから働きたくないでござる』ってなるのが目に見えてるだろ」


「うっ……」


「これまで苦労した分、この子たちにいい生活させてやりたいのは分かる。でも自分たちの手で金を稼いで生活できるようになったほうが、この子たちの今後のためだと思うがな」


「……分かってるよ。ガキども、どうする?」


「はたらくのがんばったら、さっきみたいにおいしいごはんがたべられるようになるの?」


「おう、毎日でも食えるようになるさ」


「なら、がんばる!」


「いっぱいおかねをかせいでやる!」


「はたらきたいでござる!」


「……そっか。なら、頑張りな。……あと、ござるって言うのやめろ。教官のマネなんかしてたら変な目で見られるぞ」



 失敬な。人を変人みたいに言わないでほしいでござる。

 さて、子供たちの今後についてはそんなところだが、次はスタンピードへの対応の話だ。



「結論から言うと、この街を襲おうとしてるスタンピードはお前らに対応してもらう」


「え、教官たちは?」


「悪いが、丁度同じ日に他の場所でスタンピードが起こるみたいでな、そっちへの対応で手いっぱいになりそうなんだ」


「いや、せめて一人くらいこっちにいてくれてもいいだろ? この近くのテリトリーって確か魔獣の平均レベルが30~40くらいで、強いヤツだとLv70近いのがいるらしいし、テリトリーの広さから見て最低でも千匹くらいは襲ってくるんじゃねぇか? 補助なしのオレたちだけじゃきついと思うんだが……」


「ちなみに俺たちが対応する別のスタンピードは、複数のテリトリーからSランク魔獣たちが一万匹くらい侵攻してくる見込みらしいんだが、こっちにかまってる余裕あると思うか?」


「……そっちのほうがずっとヤバそうじゃねぇか。どこで起きるんだよ、そんな大侵攻」


「第一大陸王都近くのテリトリーだってさ。魔族への対応や戦後の復興に力を入れすぎた結果、その隙に魔獣たちが増殖しすぎちまったらしい」



 増殖した魔獣がすぐにSランクになんかなるか? とも思ったが、どうにもそのテリトリーはスタンピードの条件を満たした時点で魔獣たちのレベルが急激に上がっていく特殊なテリトリーだとか。

 だから絶対にスタンピードを起こさないように何百年も魔獣狩りは欠かさなかったらしいが、今回はどうしても人手が足りずに氾濫してしまったようだ。

 まあ、ネオラ君たちが歴代最強の勇者っぽいからって当てにしていた節もあるみたいだが。



「まあ、他の教官たちの下で鍛えてもらってる戦闘職たちや囚人たちもテヴァルラの対応に回ってもらえるだろうから、そこまで絶望的な戦いにはならないだろ」


「どうだかなぁ……心配だよオレぁ」


「大丈夫大丈夫、スタンピードの前にソレ用の訓練もするからまず死ぬようなことにはならんさ。むしろ訓練のほうが本番よりも危険だから安心しろ」


「アンタの『安心しろ』は不安しかねぇんだよ!! 本番より危険だから安心しろってなんだよ!?」



 一応大丈夫だとは思うが、テヴァルラのスタンピードは決して楽な戦いにはならないだろう。


 特にボス戦は、おそらくLv80台のバケモンとの戦いになる。

 死闘は避けられない。死ぬ気で戦わないと生き残れないほど厳しい。



 だからこそ、メイバールにはボスを担当してもらおうと思ってる。

 いや、死んだような目してるからホントに死んでもらおうというわけではなくてね?


 アイツ、俺の気のせいじゃなかったら、死にそうになるたびに活き活きしてるみたいなんですよ。

 ……ショック療法に近いが、もしも本当に死ぬような目に遭えばあるいは……。

 いや死ぬ前に助けるつもりだけどね? 魂が半分くらい出たあたりで。


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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
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