表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

457/584

閑話 21階層・探索者Bの逃走

 すみません、GW中は毎日更新したかったけどちょっと今日は更新できるか怪しい状況です。

 よって別の小説名義でストックしてた21階層の様子を1話分だけ投稿します。


 本編とはほぼ関わりのないお話ですので読み飛ばしていただいても大丈夫です。


 あーあーうー、どこを開いてもわけ分かんない扉ばっかりなんですけどー。

 もーこれで何十回開いたか分かんないけど、いまだに日本への扉は確認できず。

 ……いや、なんか燃えてるお寺で五十代くらいのオッサンが『金柑頭死ね』とか喚いてたり、今にも死にそうな爺さんが腹を押さえながら鯛の天ぷらがどうとか言ってたりする昔の日本っぽいところはあったけど、そうじゃない。そういうのじゃないんですよー。


 早く帰って寝たい。ビールあおりながらドカ食いしたい。■■な動画でも見ながら≪自主規制≫したい。

 そういった欲を発散できそうなところもあったけれど、我が家の安心感に勝るものなし。はよ帰りたい。



 にしても、ここってどういう場所なんだろ。

 扉の先がどう考えてもおかしいっつーか、全く別の世界に繋がってるみたいだ。


 最初はドッキリかなんかかと思っていたけれど、扉の先はガチ目にヤベー場所ばっかだった。

 バスケットボールほどの大きさで口だけが生えている謎の生き物が追いかけてくる体育館みたいな場所とか、こっちの影を掴んで動きを封じて捕まえようとしてくるよく分からないオバケがうようよしてる洋館みたいな場所とか。


 あるいは全身が植物に覆われている人型のバケモノが、こっちの頭に向かって種付けしてこようとする場所なんかもあった。

 即行で逃げてなんとか事なきを得たけれど、あれはマジで危なかったなぁ……。


 まだあたしが死んでないのは、多分奇跡的に危機をまぐれで回避し続けることができているだけだと思う。

 どこもかしこも一歩間違えれば死ぬような場所ばかりだったし、できることならどの扉も触ることすらしたくない。


 でも、日本へ戻れる可能性があるのはこの扉の先だけだということもなんとなく分かる。

 どれだけこの扉だらけの通路を歩いていっても、行き止まりなんて見当たらなかったし。


 とにかく、今のあたしにできることといったらちょっとでも安全そうな扉を選んで探索することだ。

 水や食料なんかの物資を手に入れて、日本への扉を見つけるまで飢え死にしないように努めなければならない。腹が減ってはなんとやら。

 あと、脅威に対する対抗手段の確保とか。扉の先にはバケモンとかいることが多いし。


 扉の前に絵や文字が書かれている扉もあるけど、読めなかったりなにを示しているのか分からないものも多い。

 『DANGER』とか『死ぬ 入るな』とか書いてあるところは明らかにやばそうだから避けてるけど。



 ……さて、勇気を振り絞って次へ進んでみますか。



 ボタン式の自動ドアをプッシュして、その先へと足を運んだ。

 近代的なドアだし、危険は比較的少ないと思う。多分。

 ……別の自動ドアの先には、浮いた生首が包丁を振り回してくるバーガーショップとかもあったから、決して油断はできないけど。

 アレはマジでなんだったんだろう。こわ。


 自動ドアの先はやはり近代的な建物の中で、内装も現代の先進国っぽい。

 しばらく進んでみたけれど、かなり文明的なソレだ。

 おお、これはもしかしたら日本へ帰ってこれたんじゃないのか!? やったぜ!



 ドパパパパパパ

 ドカーン

 バンッ バンッ バンッ



 あ、ヤバい。ここアカンやつや。

 発砲音やら爆発音やら、現代日本で聞こえちゃいけないような物騒な音が外から鳴り響いてるわ。

 よし、戻ろう。さっさと脱出しないと巻き込まれちまう。

 ……どっちからきたんだっけ。やばい、やらかした。帰り道にマーキングしとくの忘れてた!


 本気で焦りながら半泣きで元きた道を探していると、どこからか足音が迫ってきているのが聞こえた。

 まずい、小さな足音が複数。それもとんでもなく速い。

 しかも逃げ込んだ先が行き止まりだし。……詰んだ。




「フリーズッ!! 動くんじゃあない!」


「おかしな真似をすれば即発砲する!」



 あーダメだ、見つかった。

 行き止まりの壁を眺めながら呆然と立ち尽くしているあたしの背後から、妙に甲高い怒鳴り声が聞こえてきた。



「貴様、どこの軍のものだ!」


「手を上げながらこちらを向け!」



 とりあえず、すぐに射殺するつもりはないようなので大人しく指示通りに手を上げながら振り向いた。

 振り向いた先に見えたのは―――



 ……え゜?


 その姿を見た瞬間、ブフッ と鼻から笑いの籠った吐息が漏れた。

 笑ったらヤバい状況なのに耐えられなかった。



 そこにいたのは、特殊部隊が身に着けるような迷彩服を全身に着込んでいるネコたちだった。

 全部で五匹ばかしいて、ネコ用にサイズ調整された銃を器用に前足で構えながらあたしを睨んでいる。



 だ、ダメだ、コレはダメだ。こんなん笑うわ。 

 どう見ても『ニャめんなよ』とか書いてありそうなネタ画像のそれじゃないですか。

 いや、あれはこんな特殊部隊みたいな恰好じゃなくてヤンキーのコスプレ(?)だったけど。



「貴様、なにを笑っている!」


「なにが可笑しい!」



 その可愛らしくて甲高い声で怒鳴ってくるのやめろ。こちとら必死に笑いを堪えようとしてるってのに。

 腹筋に力を入れて耐えようとするも、どうしても表情が緩んで笑い声が漏れてしまう。

 それをバカにされているとでも思ったのか、牙を剥きながら引き金に指もとい肉球を当てた。

 え、あ、ちょちょちょ、待って待って!



「ニヤニヤしおって! 自分の状況が分かっているのか!」


「コイツ……! どうやら痛い目に遭いたいらしいな!」


「構え! 撃てぇぇえっ!!」



 ドパパパパ とネコたちの構えている機関銃が発射音を鳴り響かせた。

 よく見るとマズルフラッシュが肉球の形をしている。どういう技術だ。

 てか、そんなことどうでもいい! 死ぬ! 死んでしまう!

 だ、だめだ、避けられない……!


 ああ、もう終わった、あたしはここで死ぬんだぁ…………あら?



 機関銃から放たれた弾があたしの身体に着弾していくけど、ちょっと痛いくらいで済んでいる。

 まるでモデルガンから発射されたBB弾、いや豆鉄砲だ。


 着弾した後に地面へ転がっていく弾をよく見ると、それがネコ用の加工餌、いわゆるカリカリだということに気付いた。



「た、隊長! まるで効いていません!」


「むぅ、やはり弾がカリカリでは無理があったか」



 あたりめーだろ! なにがしたいんだよお前らは!

 いてて、いくらカリカリとはいえここまで撃ち込まれるとやっぱ地味に痛いわー……。



 弾が効かないとみるや、ネコたちが銃を降ろしてなにか話している。

 あたしのほうを訝し気に、しかしどこか穏やかな顔で眺めながら。



「それにしても、こいつは何者だ? いったいどこから現れた?」


「ううむ、私の下僕だったやつによく似ている気もするな。頭以外に毛がないあたりとか」


「オレの奴隷もこんな感じだったなぁ、鈍臭くていちいち呼んでやらないとメシも運べない無能だった」


「僕の手下はそこそこ有能だったけどね。マッサージが上手かった」


「あー分かる。ノドとか耳の裏とか妙にツボをおさえてるよなアイツら」


「もう今はどいつもいないがな。……ふむ、こいつを新たな奴隷として捕獲するか?」


「そりゃいいな。同志とのグルーミングも悪くないが、そろそろ奴隷のブラッシングも恋しくなってきたところだ」


「じゃあ、コイツ連れてく?」


「賛成」


「異議ナシ」



 異議あり! すこぶる異議あり! 

 なんだ奴隷って!? こっちの意見を無視して勝手に話を進めんな!


 まずい、このままだとコイツらの下働きとして生きていくことになりかねん。

 ……まあ、毎日ネコまみれになって割と充実した日々を送れるかもしれないけど、こちとらさっさと帰宅したいだけなのでそういうのはノーセンキュー。

 なんとか隙を見て逃げ出さないと……。



 と、逃亡の機をうかがっているところに、大きな爆発音が鳴り響いた。




「っ! 総員、警戒!!」




 大きな振動の後にガラガラと壁が崩れて、建物の外が丸見えの状態になってしまった。

 ネコたちが一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐさま銃を構えて臨戦態勢に入った。


 な、なにが起きたっての?

 ……っ!!?





『マァァぇう…………ウェあァぇァォぁア……』




 穴の開いた壁から外を見ると、そこには見慣れない『なにか』が跋扈する光景が広がっていた。

 体高およそ10mくらいのガラスボトルに頭と手足を取り付けたような奇怪なオブジェ、に見えるなにかが、うめき声とも悲鳴ともつかない鳴き声を漏らしながら徘徊している。

 それも一体や二体じゃない。ここから見える範囲全てに、隙間なくビッシリと蠢いている。


 そのバケモノたちの胴体にある、ボトル部分に白いなにかが溜まっている。

 なにかと思ってよく見てみると……凝視してしまったことを後悔した。



 ガラスボトルの中には、人骨がひしめいていた。



 ガラスの壁を骨だけの手で何度も叩いて『開けてくれ』と懇願しているように見える。

 カタカタと音を立てて軋ませながら、どうやって繋がっているのかも分からない骨だけの身体で、蠢いている。


 ……あれで、あんな状態で、まだ生きてるっていうの……!?



『わぁァアンドぉウ……』



 げ、こっちに気付いたみたいだ! めっちゃこっち見てる!

 その巨体からは想像できないほど速く俊敏な動きで、ガシャガシャと腹の中の人骨を鳴らしながら接近してきた。



「総員、構えぇえ!!」


「撃てぇぇぇぇぇぇぇえええっっ!!!」



 ネコたちがガラスボトルのバケモノに向かって銃を構え、斉射した。

 肉球の形をしたマズルフラッシュが瞬くたびに銃から弾が放たれて……いやだからそれカリカリだろ! 効くわけねーだろ!



『ぉ、お、オごゴゥ……!!』


「怯んでいるぞ! 弾を絶やすなー!!」



 カリカリがガラスボトルのバケモノに命中するたびに、痛そうに身体を揺らして悲鳴を上げている。

 あれ、なんか効いてるっぽい? 嘘ぉ。

 ま、まああんなんでも当たれば地味に痛いし、まったく効果なしってわけでもないのか……?



「おい奴隷! 我々が抑えている間に貴様はさっさと奥へ逃げろ!」


「お前まで奴に喰われるな!」


「これを持て! 気休めにはなるだろう! 行け!!」



 誰が奴隷だ! と言い返す余裕もなく、恐怖でいっぱいになった頭のまま駆け出した。

 ネコたちがバッグと銃を渡してきたけど、こんなものじゃ足止めが精一杯だ。戦おうなんて気にはまるでならなかった。


 奥へ、奥へ、もと来た道へ! 捕まったらきっとあたしも喰われてあの骨たちの仲間入りだ!

 逃げろ、逃げろ! 足を動かせ!



「このバケモノめ! これ以上貴様に喰わせてたまるものかっ!」 


「我々の、私の下僕を返せぇえっ!!」



 ネコたちが甲高い声を上げながらバケモノに立ち向かっているのを尻目に、半狂乱になりながらひたすら走った。

 躓いて擦り傷や青痣ができたことなんかまるで気にならない。ただただ、逃げることしか考えられなかった。





 しばらく逃げて、逃げ続けて、気が付いた時にはまたあの扉だらけの通路に戻っていた。

 走り続けて乳酸漬けになっている肺が痛む。息がまともにできやしない。苦しい、しんどい。喉が渇く。


 それでも、あたしはまた生き延びた。あのバケモノをネコたちが引きつけてくれたおかげで。

 ネコたちは、あの後どうなったんだろうか。

 ……戻って確認するほどの勇気も余裕も、今のあたしにはなかった。



 今回の扉もハズレ。

 くっそ、扉を開くたびにこんな目に遭ってたら、いつか本当に死んじまう。

 帰りたい! 早くあったかいベッドで2~3日ばかし爆睡したい!



 だけど、今回は収穫があっただけまだいいか。

 あのネコたちに持たされたカリカリ銃と、物資が入っていると思われるバッグ。

 ないよりマシ程度の収穫だけど、こんな状況じゃこれだけでもありがたい。


 バッグの中には飲料水と弾薬(カリカリ)、あとネコ缶がいくつか入っていた。

 ……うん、予想はしてた。そりゃネコが持ってたもんだから食料もネコ用ですよねー……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[良い点] こちら側の指摘を受け、真剣に考えていただき、本当にありがたいと感じています。 また「守るため」という形であるならば、確かに監獄という場所はそれに向いており、精神病院が存在しない異世界におい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ